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中国の国家機関その1(総論)

はじめに

さて、新型コロナウイルスの流行に伴い、延期に延期となっていた今年の全人代が5月22日に開幕することになりました。

www.nikkei.com

世界各国が未だ新型コロナウイルスの猛威にさらされている中で、今回の疫病の発端となった中国で全人代を開催するというのは、ニュースでも報道されているとおり、体内的にも対外的にも、中国の正常化アピールという意味合いはもつのであろうと思います。

さて、その真意はともかくとして、そもそも全人代って一体どういった国家機関なのか、いや、そもそも中国の国家機関ってどんな構造になっているのか、といったところまで詳しくは知らない方も少なくないのではないかと思います。

そこで、今回から数回に分けて、中国の国家機関についてその概要をご紹介し、各国家機関の詳細については、次回以降に個別にご紹介しようと思います。

中国の主な国家機関の構造

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憲法上、全人代は「最高の国家権力機関である」と明確にしており(憲法第57条)、全ての国家機関はいずれの全人代の下位機関ということになります。日本でいう内閣に相当する国務院、最高裁判所に相当する最高人民法院全人代の下位機関です。そのため、憲法上、国務院も、中央軍事委員会も、監察委員会も、最高人民法院も、最高人民検察院も、もれなく全人代に対して責任を負うことが規定されています。

この点は、日本の憲法が、国会、内閣、裁判所がいずれも(建前上は)対等の国家機関とする三権分立を採用しているのとは、およそ異なっています。

全人代全人代常務委員会

全人代は、国の立法権を行使する機関とされていますが(憲法第58条)、上記のとおり国の最高機関であることから、国務院、中央軍事委員会、国家監察委員会、最高人民法院最高人民検察院のトップ選出権限も全て持っています(憲法第62条)。

全人代は1年に一回開催されるわけですが、全人代の閉会期間中は、全人代常務委員会が立法行為、各国家機関に対する監督権限の行使などをしています。

国家主席

国家主席とは、ニュースでもよく見かける語かもしれません。現在の国家主席はご存知、習近平です。

国家主席とは国家元首、国家の最高権力者とも表現されることがあります。憲法上、対外的には、中国を代表して国事行事を行い、外国使節を受け入れたり、全人代常務委員会の決定に基づいて他国との条約の批准・廃止を行うことなどがその権限として定められており(憲法第81条)、対内的には全人代全人代常務委員会の決定に基づいて法律を公布したり、国務院の総理・副総経理を任免すること、その他、国家の緊急状態宣言をすること、といった権限が定められています(憲法第80条)。

国家主席とは別に「総理」という役職も存在しており、現在は李克強がこの職に就いていますが、「総理」はあくまで行政機関である国務院のトップであるに過ぎず、国家主席とは異なるポジションですので、区別が必要です。

国務院

国務院は、別名として「中央人民政府」という呼称が使われています。憲法上、最高国家権力機関(すなわち全人代全人代常務委員会)の執行機関であり、最高の国家行政機関として位置づけられています(憲法第85条)。日本でいえば内閣に相当するといえます。

具体的には、憲法、法律に基づいて行政上の措置を定めること、行政法規を制定し、決定、命令を公布することのほか、全人代全人代常務委員会に議案を提出すること、などです(憲法第89条)。

国務院の活動は、いずれも全人代に対して責任を負っており、全人代が閉会期間中は全人代常務委員会に対して責任を負うこととなっています(憲法第92条)。

中央軍事委員会

憲法上、中央軍事委員会は「全国の武装力を指導する」機関として位置付けられています(憲法第93条第1項)。

その具体的な職権は、国防法において規定されており、軍事戦力と武装力の作戦方針を決定することや、人民解放軍の建設をリード、管理すること、憲法や法律に基づいて軍事法規を制定し、決定、命令を発布すること、などです(国防法第13条)。

ちなみに、「武装力」とは、人民解放軍現役部隊、予備役部隊、人民武装警察部隊及び民兵により構成されるものとされています(国防法第22条第1項)。

監察委員会

監察委員会は、2018年3月の中国憲法改正により、新しく憲法上設けられた新しい国家機関です。

憲法上、国家の最高の「監察機関」として位置付けられていますが(憲法第126条)、もう少し具体的にいえば、公職員(公権力を行使する者)に対して監察を行い、違法職務、職務犯罪の調査の実施、清廉政治建設と反腐敗業務の展開、そして、違法な職務を行った公職者に対する処分を課すことが、その主要な職務となっています(監察法第3条、第45条)。

習近平による、腐敗行為を徹底して根絶するという政策の一つの集大成として設けられた国家機関といえます。

人民法院人民検察院

人民法院は、日本でいう裁判所、人民検察院は日本でいう検察庁に相当します。

人民法院は国の裁判機関、人民検察院は国の法律監督機関としてそれぞれ位置付けられています(憲法第128条、第134条)。裁判所、検察庁と言ってしまえば、イメージは付きやすいかもしれません。ただ、日本だと検察庁というのはあくまで法律上定められた国家機関に過ぎないのに対して裁判所は憲法上定められた国家機関であるのに対し、中国では、人民検察院憲法上の国家機関ということで、憲法上の位置付けが少し違うといえます。

おわりに

以上、かなりざっくりと中国の主要な国家機関について紹介してきました。

次回以降、各国家機関について、もう少し掘り下げてご紹介したいと思います。