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中国の国家機関その3(国務院)

前回は全人代全人代常務委員会について簡単にご紹介しましたが、今回は全人代に続き、中国の行政権を担う国務院について紹介したいと思います。

 1 国務院の構成、組織構成

1-1 国務院の構成

総論でもご紹介したとおり、国務院は、中央人民政府とも呼ばれ、国家最高権力機関たる全人代全人代常務委員会の執行機関であり、最高の国家行政機関として位置付けられています。 

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日本でいえば、内閣にあたるわけですが、そんな国務院は、以下のような構成になっています(憲法第86条第1項)。

  • (国務院)総理 1名
  • (国務院)副総理若干名
  • 国務委員若干名
  • 各部部長
  • 各委員会主任
  • 会計検査長
  • 秘書長

上記のうち、総理については国家主席の指名に基づき、その余の者については総理の指名に基づいて全人代により決定されます(憲法第62条第5号)。

現在の国務院の構成メンバーについてはこちらから。

1-1-1 総理

総理は、国務院の活動を指導する立場にあり、国務院のトップに位置付けられます。

国務院は総理責任制が採用されていますが(憲法第86条第2項)、この総理責任制とは、総理が、その主管する業務の一切に対して全ての責任を負い、同時にそれらの業務に対して完全な決定権を有することをいい、以下のようにその内容を整理されることもあるようです*1

  • 総理は国務院の業務を指揮し、総理は国務院を代表して全人代及び全人代常務委員会に対して責任を負うこと
  • 副総理、国務委員は総理の業務を補助し、秘書長、各部部長、各委員会主任、会計検査長は総理に対して責任を負うこと
  • 国務院の業務の重要な問題については、総理が最終決定権を有すること。
  • 総理は全人代全人代閉会中は全人代常務委員会)に対して、副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、会計検査長、秘書長の人選を提案する権利を有すること。
  • 国務院の公布する決定、命令、行政法規、全人代及び全人代常務委員会に対して提出する議案、行政人員の任免は総理が署名することによって、法的効力を生じること。 
1-1-2 副総理・国務委員

副総理、国務委員は、いずれも総理の活動を補佐する役割を負っている点、いずれも国務院常務会議を構成する点(憲法第88条第1項、第2項)、また、総理の委託を受け業務・任務の責務を負い、国務院を代表して対外的な活動を行うことができる点(国務院業務規則(国务院工作规则)第7条)で共通しています。

その中で、副総理は、総理が中国を不在とする間、総理の委託を受けて、複数名いる副総理の中で常務業務を受け持っている副総理が総理の職務を代行する責務を負っており(国務院業務規則第9条)、この点において国務委員と異なる役割を与えられているといえます。

なお、現時点における副総理と国務委員の人数は、それぞれ4名、5名となっています。

1-1-3 部長・委員会主任

後述する国務院の各部及び各委員会のトップとして、その部門活動に対して責任を負い、部務会議、委員会会議もしくは委務会議を招集、主宰し、国務院に対して報告が必要な、重要な伺い、報告と、下位に伝達する命令、指示に署名をする役割を負う者になります(憲法第90条第1項、国務院組織法(国务院组织法、以下「組織法」)第9条)。

1-1-4 会計検査長

会計検査長(中国語は「审计长」)は、会計検査署(中国語は「审计署」)のトップで、会計検査署の業務に責任を負う者です。

なお、会計検査署とは、国務院各部門、地方各級政府の財政収支、国の財政金融機関、企業、事業組織の財務収支の監督を行う機関で(憲法第91条)、日本でいえば会計検査院に似たような組織ですね。

1-1-5 秘書長

国務院秘書長は、総理の指揮の下で国務院の日常業務の処理に責任を負い、国務院弁公庁を指揮する者です(組織法第7条第1項、第3項)。

1-2 会議体

国務院の会議体は、国務院全体会議国務院常務会議の2つに分けられています。

国務院全体会議は、国務院のメンバー全員により構成され、国務院常務会議は、総理、副総理、国務院、秘書長によって構成されています。

国務院の重大な問題については、国務院常務会議又は国務院全体会議における議論を踏まえた上で決定することとされています(以上、憲法第88条第2項、第3項、組織法第4条、国務院業務規則第6条)。

国務院全体会議では、一般的に重大な問題又は多部門にわたる重大な事項について討論され、他方国務院常務会議では、国務院における業務の中の重大な事項、全人代常務委員会に対して提案する議案、国務院が公布する準備をしている行政法規、各部門、各地方が国務院に対して提案している重大事項等について討論されます。

1-3 国務院の組織構成

国務院については、「国務院の機関設置に関する通知」(国务院关于机构设置的通知)と「国務院の部と委員会が管理する国家局の設置に関する通知」(国务院关于部委管理的国家局设置的通知)に基づき、以下のような組織構造になっています(最新は2018年3月に公布・施行)。 

国務院弁公庁(国务院办公厅)

国務院組成部門

(国务院组成部门)

外交部 民政部 農業農村部
国防部 司法部 商務部
国家発展改革委員会 財政部 文化と旅行部
教育部 人力資源と社会保障部自然資源部 国家衛生健康委員会
科学技術部 生態環境部 退役軍人事務部
工業と情報化部 住居と城郷建設部 応急管理部
国家民族事務委員会 交通運輸部 中国人民銀行
公安部 水利部 会計監査署
国家安全部    
国務院直属特設機関(国务院直属特设机构) 国務院国有資産監督管理委員会
国務院直属機関(国务院直属机构) 税関総署 国家ラジオテレビ総局 国家医療保障局
国家税務総局 国家スポーツ総局国家統計局 国務院参事室
国家市場監督管理局総局 国家国際発展合作署 国家機関事務管理
国務院弁事機関(国务院办事机构) 国務院香港マカオ事務弁公室
国務院研究室
国務院直属事業単位(国务院直属事业单位) 新華通訊社 中国工程院 中央気象局
中国科学院 国務院発展研究センター 中国銀行保険監督管理委員会
中国社会科学院 中央ラジオテレビ総台 中央証券監督管理委員会

国務院部及び委員会が管理する国家局(国务院部委管理的国家局)

なお、カッコ内は所轄部門

国家信訪局(国務院弁公庁) 国家文物局(文化と旅行部) 国家鉄道局(交通運輸部)
国家エネルギー局(国家発展改革委員会) 国家炭鉱安全監察局(応急管理部) 国家郵政局(交通運輸部)
国家煙草専売局(工業と情報化部) 国家薬品監督管理局(国家市場監督管理局) 国家中医薬管理局(国家衛生健康委員会)
国家林業と草原局(自然エネルギー部) 国家食糧と物資備蓄局(国家発展改革委員会) 国家外貨管理局(中国人民銀行
中国民用航空局(交通運輸部) 国家国防鍵工業局(工業と情報化部) 国家知的財産権局(国家市場監督管理総局)
  国家移民管理局(公安部)  
1-3-1 国務院弁公庁

国務院弁公庁は、秘書長が指揮する機関で、主に国務院の幹部(中国語は「领导」)を補助し、国務院の日常業務を行う役割を担っており(国務院行政機関の設置と編成管理条例(国务院行政机构设置和编制管理条例、以下「設置編成管理条例」)第6条第2項)、具体的には、以下のような職責を担っています(国務院弁公庁の主要な職責内における機関設置と人員編成規定を発行することに関する通知(国务院办公厅关于印发国务院办公厅主要职责内设机构和人员编制规定的通知)第2条)。

  • 国務院会議の準備を行い、国務院の幹部に協力して会議決定事項の実施を組織すること
  • 国務院の幹部に協力して、国務院、国務院弁公庁名義で発布する公文を作成又は審査すること
  • 国務院の各部門と各省、自治区直轄市人民政府が国務院に対して伺い立てする事項について県級市、審査意見を提出し、国務院幹部に報告し認可を得ること
  • 国務院の決定事項及び国務院幹部国務院の各部門と地方人民政府の指示に対し、国務院の各部門と地方人民政府がこれを徹底して実行しているかについて監督及び検査をし、速やかに国務院の幹部に対して報告をすること
  • 国務院の当直業務に協力し、速やかに重要な状況を報告し、国務院幹部の指示の実行を伝達、監督すること
  • 国務院の組織として処理する必要のある突発的な事案への応急処置業務について、国務院の幹部に協力すること
  • 全国政府情報の公開業務を指導、監督すること
  • 国務院と国務院幹部により指示を受けたその他の事項を行うこと
1-3-2 国務院組成部門

国務院組成部門は、法による分類に基づいて、国務院の基本的な行政管理職能を履行する部門で、部、委員会、中国人民銀行及び会計検査署を含むものとされています(設置編成管理条例第6条第3項)。

たとえば、日本で中国の外交関連の報道を見る際は、よく「外交部」で開かれている会見が放送されていますね。その他、たとえば外国弁護士が中国において当該外国法律事務所代表処代表となるにあたっては、「司法部」による認可が必要だったりします。日本でところの「○○省」に近いイメージの機関といえるかと思います。

国務院組成部門の改変については、国務院機関編成管理機関によりその方案の提出を受け、国務院常務会にて討論をした後、総理が全人代又は全人代常務委員会による決定を受けて実行され(設置編成管理条例第7条第2項)、直近では、2018年3月に大幅な組織再編が行われました。

なお、組成部門の中には、「部」と「委員会」が含まれています。法令上、これらの2つについての明確な区別というものはされていません。委員会は、その所掌事務範囲が比較的広く、総合的なものとして扱われているようです。

1-3-3 国務院直属特設機関、国務院直属機関

国務院は、業務上の必要と簡潔の原則に基づき、直属機関を若干設立し、各種専門業務を主管することができ、これらの直属機関は専門業務について独立して行政管理職能を有することとされています(組織法第11条、設置編成管理条例第6条第4項)。

中でも、特殊な事項の管理又は特殊な職能の履行が必要なものについて設置されたのが国務院直属特設機関であり、現在は国有資産監督管理委員会一つのみとなっています。

国務院直属特設機関、国務院直属機関の設置や改廃については、国務院に決定権限があります(設置編成管理条例第8条)。

1-3-4 国務院弁事機関

国務院弁事機関は、総理を補助して専門事項を行う、独立した行政管理職能を持たない機関です(組織法第11条、設置編成管理条例第6条第5項)。

現在は、主に香港・マカオ一国二制度の執行等を司る国務院香港マカオ事務弁公室と、主に社会経済の発展における重大な問題の調査、研究し、政策性のある提案や意見を提出することなどを司る国務院研究室の2つが設置されています。

1-3-5 国務院直属事業単位

直属事業単位とは、国家が社会公益の目的のため、国家機関が主宰する、又はその他の組織が国有資産を利用して主宰する、教育、科学技術、文化、衛生等の活動に従事する社会サービス組織をいい(事業単位登記管理暫定条例(事业单位登记管理暂行条例)第2条)、その中で国務院が直接管轄、指導するものをいいます。

直属事業単位は、行政機関ではありませんが、政府の行政職能を行使する事業単位については、国家公務員制度の適用対象となります(国家公務員制度実施方案(国家公务员制度实施方案)別紙第2条)。

政府系メディアである新華通訊社もこの国務院直属事業単位の一つです。政府系メディアと呼ばれる所以ですね。なお、英語や漢字以外の外来語を中国語表記にする際のピンインと漢字は、新華社が使用するものが基準とされているとか。

1-3-6 国務院部及び委員会が管理する国家局

国務院組成部門は特定業務を主観し、行政管理職能を行使する部門を組成することができるとされており(設置編成管理条例第6条第6項)、現在ある国家局の大部分は国務院組成部門が所掌しています。

もっとも、中には国家信訪局のように国務院弁公庁が所掌するもの、国家知的財産権局のように国務院直属機関である国家市場監督管理総局が所掌するものも設置されています(国家知的財産権局は2018年3月に共産党が公布・施行した「党と国家機関の改革を深化する方案」(深化党和国家机构改革方案)に基づき新設)。

中国法務に携わる中では、国家知的財産権局、国家外貨管理局あたりはよく目にします。

2 国務院の権限

憲法上、国務院の権限は、以下のとおり定められています(憲法第89条)。

1 憲法及び法律に基づいて、行政上の措置を定め行政法規を制定し、決定及び命令を公布すること
2 全人代又は全人代常務委員会に議案を提出すること
3 各部及び各委員会の任務及び職責を定め、各部及び各委員会の活動を統一的に指導し、かつ、各部及び各委員会に属さない全国的な行政活動を指導すること
4 全国の地方各級国家行政機関の活動を統一的に指導し、中央、省、自治区直轄市の国家行政機関の職権の具体的な区分を定めること
5 国民経済、社会発展計画及び国家予算を編成し、執行すること
6 経済活動並びに都市、農村建設及び生態文明建設を指導し、管理すること
7 教育、科学、文化、衛生、体育及び計画出産の各活動を指導し、管理すること
8 民政、公安、司法行政等の各活動を指導し、管理すること
9 対外事務を管理し、外国と条約、協定を締結すること
10 国防建設事業を指導し、管理すること
11 民族事務を指導し、管理すること。また、少数民族の平等の権利及び民族自治地方の自治権を保障すること
12 華僑の正当な権利及び利益を保護し、帰国華僑、国内に居住する華僑の親族の適法な権利利益を保護すること
13 各部及び各委員会の公布した不適当な命令、指示、規則を改め、これを取り消すこと
14 地方各級国家行政機関の不適当な決定、命令を改め、取り消すこと
15 省、自治区直轄市の行政区画を承認し、自治州、県、自治権、市の設置並びにその行政区画を承認すること
16 法律に基づき、省、自治区直轄市の範囲内の一部地区が緊急状態に入ることを決定すること
17 行政機関の編成を審議、決定し、法律により行政職員の任免、研修、評価、賞罰をすること
18 全人代及び全人代常務委員会の授権するその他の職責

また、各部、各委員会、人民銀行、会計検査署(すなわち国務院組成部門ですね)は、法律、行政法規、国務院の決定、命令に基づいて、その部門の職権の範囲内において規定(规章)を制定し、命令を公布することができることとなっています(憲法第90条第2項、国務院業務規則第10条)。

 

以上、国務院についてその概要をご紹介しました。次回は、監察委員会をご紹介します。