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中国民法典の解説その①~契約編総論~

1 はじめに

2020年5月28日、第13期全人代大会第3回会議において、中国民法典が可決、公布され、2021年1月1日より施行されることになりました。

同法典は、従前中国において個別に制定されていた民法総則(民法总则)、物権法(物权法)、担保法(担保法)、契約法(合同法)、不法行為法(侵权责任法)、婚姻法(婚姻法)、相続法(继承法)の7つの民事法を一つの法律として統合、再編したもので、計1260条に渉る超ボリューミーな法律となりました。

上記7つの個別法のうち、民法総則は、それよりも以前に制定されていた民法通則(民法通则)に代わる法律として2017年3月に公布され、同年10月に施行された比較的新しいものであったのに対し、そのほかのものは物権法が2007年10月、担保法が1995年10月、契約法が1999年10月、不法行為法が2010年7月、婚姻法が2001年4月(直近の改正)、相続法が1985年10月にそれぞれ施行されたもので、いずれも既に施行されてから10年程度経過しているにもかかわらず、この間法改正はされておりません。しかし、この10年の間にも実務は次々と新たな変化を見せており、法律の内容が実務運用に追い付いていないという状況が続いていました。

この度、上記の各民事法が民法典として統合され、また、その内容についても最新の改正が加えられたことにより、全体として現在の中国における実務に対応ができるものになったと期待されます。

上記のとおり、民法典は1000条を超える大型の法律であり、これを全て解説、ご紹介することは難しいので、今回の民法典の制定において、修正、変更、追加されたような内容、中国ビジネス上知っておいた方が良いと思われる内容を中心として、複数回にわたって解説、ご紹介していきたいと思います。

初回の今回は、中国ビジネスをするにあたって、一番接点が多いと思われる民法典契約編、その中でも総論に関してです。

2 契約編総論

民法典は全7編で構成されていますが、その中の第三編が「契約」で、その第一分編が「通則」、第二分編が「典型契約」、第三分編が「準契約」となっています。

今回のエントリーでは、このうちの第一分編「通則」におけるポイントを解説していきます。

2-1 一般的規定

2-1-1 通則性の明確化

まず、契約編における規定は、民事関係の契約について適用されますが、従前の契約法上は、婚姻、養子縁組、監護等の身分に関する契約については、その他の法律の規定を適用する、と定めていました(契約法第2条第2項)。

これに対し、民法典においては、上記のような身分に関する契約については原則として身分関係に関する法律を適用するとしつつ、規定がない場合には、民法典契約編の規定を参照することができることを明記しました(民法典第464条第2項)。

これにより、民法典の契約関連規定が、一般民事関係だけでなく、身分法関係においても一定の参照性を持つことが明らかにされたといえます。

2-1-2 契約文言不一致の場合の解釈

契約が二つ以上の言語により作成され、且つ双方が同等の効力を持つと定められている場合に、文言が一致しないものがある場合の解釈について、契約法上は契約の目的をもって解釈すると規定していましたが(契約法第125条第2項)、民法典においては、契約の目的のほか、関連する条項、性質、信義誠実の原則等をもって解釈すると定め、契約解釈にあたっての考慮要素をより詳細にしました(民法典第466条第2項)。これらの考慮要素は、実際の契約解釈実務でも通常考えるべきものといえ、その意味で、契約実務に則した規定になったものといえます。

2-2 契約の成立

2-2-1 契約の形式

書面形式による契約について、契約法は、契約書、書簡及びデータ電文(電報、ファックス、電子データ交換及び電子メールを含む)等、有形的にその記載内容を表示可能な形式をいうと定めていました(契約法第11条)。これに対し民法典は、契約書、書簡、電報、ファックス等、有形的にその記載内容を表示可能な形式をいうとして、データ電文を書面形式からは除外すると同時に、電子データ交換、電子メール等、有形的にその記載内容を表示可能で、且つ、随時収集して使用可能なデータ電文は、書面形式と見なすとしました(民法典第469条)。もともとデータ電文を書面形式ととらえることに多少無理があったことから、データ電文については、書面と同等のものと扱うことを新たに確認し、尚且つ、そのようなデータ電文の要件として更に随時収集して使用可能であることを付け加えました。

2-2-2 申込みの誘引

申し込みの誘引の方法について、契約法は価格表の送付、競売広告、入札募集広告、株式目論見書(招股说明书)、商業広告等を例示していましたが(契約法第15条第1項)、民法典では、これらに加え債券募集要項、ファンド募集説明書、商業用の宣伝もこれに含めました(民法典第473条第1項)。

2-2-3 申込みの取消し

申込みの取り消しについて、契約法は、申込受領者が承諾の通知を発出する前に当該取消の通知が到達しなければならないとしていました(契約法第18条)。これに対し、民法典では、申込取消の意思表示が対話方式でなされた場合、当該意思表示の内容は申込受領者が承諾をする前に知っていなければならず、申込取消の意思表示が非対話方式でなされた場合、当該意思表示は申込受領者が承諾をする前に到達しなければならないとしました(民法典第477条)。

上記の民法典の規定からすると、まず申込取消が意思表示の一つであることが明確にされたといえます。そして、申込取消については、意思表示が対話形式でなされたか非対話形式でなされたかでその方法に違いが設けられ、対話にて取消をする場合には、必ずしも申込取消の通知までする必要はないこととなりました。他方で、申込取消(の通知)は、申込受領者が申し込みの「承諾」をする前に知っている(到達している)ことが必要であり、必ずしも「承諾通知の発出」をする前にしなければならないわけではないことになります。

その意味で、申込みの取り消しをするにも、そのタイミングが契約法に比べて前倒しにされたものといえますが、他方で、承諾をする前に申込取消を知っていた/到達していたことをどのように立証するのか、というのは考えてみるとやや困難があるようにも思われます。

2-2-4 契約の成立時点

契約法上、(申し込みに対する)承諾が効力を生じた時に契約が成立することとされていましたが(契約法第25条)、民法典上は、その例外として、法律に別途の定めがある場合又は当事者に別途の合意がある場合を追加しました(民法典第483条)。実際、契約の効力発生時期については、契約において当事者間が合意によって定めていることが多く、ある意味実務上は当然と考えられる内容ですが、これが法律上明確にされたものといえます。

2-2-5 新たな申込み

申込受領者が承諾期限を超過して発出した承諾について、契約法は、申込者が申込受領者に対して直ちに当該承諾が有効である旨を通知する場合を除き、新たな申込みと見なすとしています(契約法第28条)。他方、民法典については、申込受領者が承諾期限を超過して発出した承諾以外に、承諾期間内に発出した承諾が、通常の状況において直ちに申込者に到達しなかった場合も、新たな申込みと見なすこととしています(民法典第486条)。なお、申込者が申込受領者に対して直ちに当該承諾が有効である旨を通知する場合は除外している点は契約法と同様です。

2-2-6 確認書による契約成立

書簡、データ電文による契約締結をする場合、契約法上、契約成立前に確認書の締結を要求することができ、確認書を締結した時に契約が成立するという規定が置かれていました(契約法第33条)。これに対し民法典では、書簡、データ電文による契約締結をする場合に、当事者が確認書の締結を要求した場合には、確認書の締結をした際に契約が成立する、という内容に改めています(民法典第491条第1項)。内容自体に大きな変更があるわけではありませんが、あくまで当事者が確認書の締結を要求した場合には、確認書の締結により契約が成立する、という論理関係が明確にされたといえます。

これに加え、民法典は、当事者の一方がインターネットなどの情報ネットワークにて発布した商品又はサービスの情報が申込の条件を満たす場合、相手方が当該商品又はサービスを選択し、且つ、発注の提出が成功した場合、当事者間で別途の合意がある場合を除き、その時点で契約が成立することを規定しました(民法典第491条第2項)。この点は、近時EC取引が極めて活発になっている中、インターネット上での取引契約の成立時点に関して明確なルールを置くことを趣旨としたものであり、電子商取引法(电子商务法)第49条第1項の規定を踏襲し、民法レベルでの規範に引き上げたものといえます。

2-2-7 契約成立地点

契約法上、書面による契約締結をする場合には、双方当事者が署名又は押印をした地点が契約成立地点とされていました(契約法第35条)。民法典はこの点を更に詳細化し、最後に署名、押印又は指印を押した場所をもって原則として契約成立地点とする旨規定しました(民法典第493条)。契約法の規定では、各当事者が異なる場所で署名押印をした場合に契約成立地点がどこになるのかが不明であったところ、民法典では、そのような場合でも最後に署名押印等がなされた場所が契約成立地点となることが明確になったといえます。

なお、契約において当事者が合意管轄裁判所を定める場合、契約締結地を管轄する裁判所も管轄裁判所とすることが認められており(民事訴訟法第34条)、この点において、契約締結地を確定する意義があったりします。

2-2-8 国家計画による契約

契約法上、国家が必要に応じて指令的任務又は国家発注任務を命令した場合、関連する法人、その他の組織の間で、関連する法律、行政法規の規定による権利、義務に基づき契約を締結しなければならないとされていました(契約法第38条)。これに対し、民事法は、国家が救急措置、流行病防止又はその他の必要に応じて国家発注任務、指令的任務を命令した場合には、民事主体間で関連する法律、行政法規の規定による権利、義務に基づき契約を締結しなければならないとしました(民法典第494条第1項)。

上記は、今回の新型コロナウイルス流行に伴うマスクや防護服の買い上げなどが想定されていると思われ、将来も類似の流行病が発生した場合や、地震や洪水などといった自然災害が発生したような場合にも、本条に基づいた強制的な契約締結が発動されるものと想定されます。

民法典は、本条の趣旨を徹底する観点から更に、法律、行政法規の定める、申し込みを発出する義務を負う当事者は速やかに合理的な申込みを発出しなければならず、他方、承諾の義務を負う者については相手方の合理的な契約締結の要求を拒絶してはならない旨規定しました(民法典第494条第2項、第3項)。

2-2-9 フォーム約款

契約法上、フォーム約款(当事者が反復して使用するために予め制定し、かつ契約締結時に相手方と協議していない条項)を使用した契約締結について、合理的な方法により相手方に自己の責任を免除又は限定する条項について注意喚起しなければならないほか、相手方の要求に応じて当該条項について説明をしなければならないとされていました(契約法第39条第1項)。これに対し、民法典は自己の責任を免除又は軽減する等、相手方に重大な利害関係を有する条項について、提示をしなければならない、として注意喚起すべき条項の範囲を「相手方に重大な利害関係を有する条項」に拡大する一方、注意喚起ではなく提示をすれば足りるという形でバランスを調整しています(民法典第496条第2項)。

更に、フォーム約款を提供する当事者が、提示又は説明義務を履行しないことにより、相手方が、当該重大な利害関係を有する条項について意識又は理解することができなかった場合、相手方は当該条項が契約内容を構成しない旨主張することができる、という点も規定しました。特に消費者契約における消費者保護が期待されます。

2-3 契約の効力

2-3-1 無権代理による契約

無権代理人が、被代理人の名義で締結した契約で、被代理人が契約の義務を履行した場合又は関連する者の履行を受け入れた場合には、当該契約について追認したものと見なす旨の規定が民法典において新たに追加されました(民法典第503条)。

2-3-2 経営範囲を超えて締結した契約の効力

当事者が経営範囲を超えて締結した契約については、民法典の関連する規定に基づいて確定され、経営範囲を超えたことをもって契約は無効とすることはできない旨の規定が新たに追加されています(民法典505条)。経営範囲を超えた契約の効力をどのように解するかという点はこれまで明確な規定がありませんでした。民法典の規定をもっても、どのような場合に有効/無効と認定されるかという明確なルールが定まっているとはいえませんが、少なくとも、経営範囲を超え、無効であるとして債務を免れることは必ずしもできないことが明確になったといえます。

2-4 契約の履行

2-4-1 目的物の引き渡し時期

インターネット等で締結された電子的契約に基づく目的物の引き渡しで、且つ、クーリエによるものは、受領者がサインして受領した時間をもって引き渡しがなされた時間とすること、また、上記の電子的契約に基づきサービスの提供がなされる場合には電子証憑又は実物の証憑上記載された時間をもってサービス提供時間とし、もしもこれらに記載がない場合又は記載と実際のサービス提供時間とに齟齬がある場合には実際のサービス提供時間を基準とすることが明記されました(民法典第512条第1項)。もっとも、これは原則であり、当事者間で別途の合意がある場合には、それにしたがうことになります(同第3項)。

本規定は、民法典において電子的契約に関する関連規定を整備、拡充されたことに付随して追加された規定といえ、この内容は、電子商取引法第51条の規定を踏襲しています。

2-4-2 金銭債務

金銭の支払いが債務となっている場合の貨幣については、別途法律又は当事者の合意がない限りは、債務者の実際の履行地の法定貨幣をもって請求することができるとされています(民法典第514条)。この規定は、主としてクロスボーダーでの取引契約に関して想定したものと理解されます。

2-4-3 連帯債権、連帯債務等に関する規定

民法典では、新たに連帯債権、連帯債務を含め、債権者/債務者が複数の場合の法律関係に関する規定を定めました。

まず、債権者が複数いる場合で、債権が可分な場合、債権者は割合に応じて債権を保有すること、他方、債務者が複数いる場合で債務が可分な場合、債務者は割合に応じて債務を負担すること、そしてこれらの割合を確定することが困難な場合は同等の割合に応じて債権を保有/債務を負担することが明記されました(民法典第517条)。

これを前提としたうえで、全部又は一部の債権者のいずれもが債務者に対して債務の履行を請求することができるものを連帯債権、債権者が全部又は一部の債務者に対して全部の債務の履行を請求することができるものを連帯債務と定義しました(民法典第518条第1項)。

連帯債権について、債権者間の債権割合を確定させることが困難な場合には、連帯債権者間では同等の割合に基づいて債権を有し、実際に債務の履行を受けた債権者は、債権割合に応じて他の債権者に対して履行を受けた債務を返還するべきこととされています(民法典第521条)。

他方、連帯債務について、債務者間の負担割合を確定させることが困難な場合には、負担割合は同等とすることとされ、負担割合を超えて債務を履行した債務者の一部は、当該超過部分について他の債務者に対して求償でき、また、相応する債権者の権利を享受することが明記されました(民法典第519条第1項、第2項)。もし、求償請求を受けた債務者が当該部分を履行することができない場合には、他の債務者が負担割合に応じてこれに応じることとされています(民法典第519条第3項)。

連帯債権、連帯債務について、概念自体は従前からあったものの、負担割合や求償に関して明確なルールが置かれたといえます。

2-4-4 事情変更による契約変更

契約が成立した後、契約の基本となる条件に、当事者が契約締結当時予見することができなかった、商業リスク以外の重大な変化が生じた場合で、継続して契約を履行することが当事者の一方にとって明らかに不公平な場合、不利な影響を受ける当事者は、相手方との間で改めて協議をすることができ、合理的な期間内に協議が成立しない場合には、当事者は裁判所又は仲裁機関に対し、契約の変更又は解除を求めることができることが新たに規定されました(民法典第533条第1項)。

日本でいえば、いわゆる事情変更の法理に相当するものが法文化されたものといえます。上記規定の要件は抽象的なものであり、その適用対象は明確とはいえませんが、少なくとも事情変更による契約変更を要求する権利が認められたという点は、重要な意義を有しているといえます。

2-5 契約の保全

2-5-1 債権者代位権

契約法においては、債権者代位権行使の要件として、①債務者の債権の期限が到来していること、②債権を行使しないことにより、(債務者の)債権者に損害を与えること、③裁判所に対して請求をすること、が必要とされていました(契約法第73条第1項)。他方で、民法典では債権者代位権につき、「債務者がその債権又は当該債権の従たる権利の行使を怠り、債権者の既に期限の到来している債権の実現に影響する場合、債権者は裁判所に対して自己の名義で債務者の、関連する者に対する権利を行使することができる」として、債務者の債権の期限が到来していることは要求しておらず、他方で、債権者の既に期限が到来している債権の実現に影響を与えることを要件としています。また、債権者代位権行使の対象として、債務者の主たる債権のほか、従たる権利も含むことが明らかにされました(民法典第535条第1項)。その上で、関連する者は、債務者に対して有する抗弁を債権者に対して主張することができるという規定が新たに追記されました(同第3項)。

また、債権者の債権の期限が到来する前の時点において、債務者の債権又は当該債権の従たる権利の時効が間もなく満了するか、破産債権の速やかな届出がなされていない等の状況があり、債権者の債権の実現に影響する場合、債権者は関連する者に対し、債務者に履行するよう請求し、又は破産管財人に対して届出その他の必要な行為をすることができるとされています(同第4項)。この規定は、債権者の債権に係る期限が到来していることという債権者代位権行使の原則的要件の例外を認めたものといえます。

2-5-2 債権者取消権

契約法においては、債権者取消権について「債務者が自己の期限が到来した債権を放棄し、又は財産を無償で譲渡したことにより債権者に損害を与えた場合、債権者は、裁判所に対し、債務者の行為の取り消しを請求することができる。債務者が明らかに不合理な低価格で財産を譲渡し、債権者に損害を与え、且つ譲受人が当該状況を知っている場合も、債権者は人民法院に対し、債務者の行為の取り消しを請求することができる」として、詐害行為取消の対象となる行為について、①債権の放棄、②財産の無償譲渡、③明らかに不合理な低価格での財産譲渡の3つに限定し、また、③についてのみ債務者の相手方の悪意を要件としていました(契約法第74条第1項)。

これに対し民法典では、債権者取消権について、その類型を①「債権の放棄、債権担保の放棄、財産の無償譲渡等の方法で財産権益を無償で譲渡し、又は悪意で既に期限の到来している債権の期限を延長し、債権者の債権の実現に影響する」ものと、②「明らかに不合理な低価格で財産を譲渡し、明らかに不合理な価格で財産を譲り受け、又は他人の債務のために担保を提供する」もの、の大きく2種類に分類しています(民法典第538条、第539条)。いずれも、契約法に定める3つの詐害行為の類型を拡充、敷衍化しているものと考えられます。

②の類型については、債務者の相手方が詐害行為の事実について知り、又は知り得る場合に詐害行為取消の対象となっており、契約法に比べると、詐害行為の事実を「知り得る」場合にも取消の対象とされ、詐害行為取消の対象が拡大されたものといえます。

2-6 契約の変更、譲渡

2-6-1 譲渡禁止特約

契約法上、譲渡禁止特約に関する規定は特に置かれていません。これに対し、民法典ではこれに関する規定を置いています。具体的には、非金銭債権に係る譲渡禁止特約は善意の第三者に対抗することができないこと、金銭債権に係る譲渡禁止特約は第三者に対抗することができない、とされました(民法典第545条第2項)。

2-6-2 債権譲渡と相殺

債権譲渡がなされた場合の相殺の抗弁について、契約法上においては、債務者が債権譲渡の通知を受けた時に、債務者が譲渡人に対して有していた債権で、且つ債務者の債権に係る弁済期が、譲渡された債権よりも先に、又は同時に到来する場合には、債務者は相殺を主張することができることが規定されています(契約法第83条)。民法典は、これに加えて、債務者の債権と譲渡された債権が同一の契約に基づいて生じたものである場合も、相殺の主張をすることができるものとしました(民法典第549条第2号)。

2-6-3 併存的債務引受

契約法においては、日本の民法でいう免責的債務引受、又は併存的債務引受という明確な区分は法律の規定上は特にされていない。民法典も特にこのような呼称を定めているわけではないが、いわゆる併存的債務引受に相当する規定が置かれました。

すなわち、第三者が債務者との間で債務に加入することを合意し、且つ債権者に通知した場合、又は第三者が債権者に対して債務に加入することを表示し、債権者が合理的な期間内において明確に拒絶しない限り、債権者は当該第三者が負担することに同意した範囲内において債務者と連帯債務を負うよう請求することができるとされています(民法典第552条)。 

なお、免責的債務引受に相当する内容の規定は特に置かれていません。

2-6-4 継続的取引における解除権

民法典においては、契約の法定解除事由として、新たに継続的取引に係る解除権に関する規定を定めました。すなわち、継続的な債務を内容とする不定期契約については、当事者はいつでも解除をすることができるものの、合理的な期間をもって相手方に事前に通知しなければならないものとされました(民法典第563条第2項)。

2-6-5 解除権の消滅時効

契約法上、契約の解除権の行使期間は法律の定め又は契約の定めによるというのが原則であり、当該期間内に解除権が行使されなかった場合には、解除権は消滅することとなります(契約法第95条第1項)。他方、法律、又は契約で解除権の期限について定めがなかった場合には、相手方が催告後合理的な期間内に解除権を行使しなかった場合には、消滅するとされています(同第2項)。

これに対し、民法典では、法律、契約で解除権の期限について定めがなかった場合について、解除権者が解除事由の存在を知り又は知り得た日から1年内に解除権を行使しなかった場合にも解除権は消滅する旨を新たに追加しました(民法典第564条第2項)。

2-6-6 解除の効力の発生時期

解除権を行使した場合に解除の効力が発生する時点について、契約法は原則として解除の通知が相手方に到達したとき、としています(契約法第96条第1項)。この点について、民法典はこれに加えて、通知において債務者が一定の期間内に債務を履行しなかった場合には自動的に解除される旨記載されており、債務者が当該期間内に債務を履行しなかった場合には、通知に記載された当該期間が満了した時点で解除の効力が生じる旨の規定を新たに追加しました(民法典第565条第1項)。

更に、当事者の一方が相手方に対して通知をせず、直接訴訟、仲裁を申し立てて契約の解除を主張し、裁判所や仲裁機関が解除に理由があると認める場合には、訴状又は仲裁申立書の副本が相手方に到達した時をもって解除の効力が生じる旨も追加しました(民法典第565条第2項)。

2-6-7 損害額の予定

契約法上、当事者は契約において違約金の約定又は手付金(中国語は「定金」)の合意をした場合、違約を受けた当事者は違約金又は手付金のいずれかを選択して損害賠償を請求することができるとされています(契約法第116条)。

これに対し、民法典は、上記の規定に加え、手付金が違約によって被った損害の回復に足りない場合には、手付金を超える部分についても損害賠償請求をすることができる旨を新たに追加しました(民法典第588条第2項)。手付金については、契約における主契約の目的金額の20%を超えてはならず、超過した部分については手付金は効力を生じないとされていることもあり、手付金だけでは損害の回復に足りないことが想定されます。今回の新規定は、そのような手付の損害回復機能を強化するものであると理解できます。