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中国民法典の解説その②~契約編典型契約Ⅰ~

前回は、中国民法典の中でも契約編の総論箇所についてざっと解説をしました。

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今回はこれに続き、契約編の中で典型契約について概観してみたいと思います。

民法典においては、典型契約として以下の類型の19種類の契約について定めが置かれています。

1

売買契約

11

運輸契約

2

電気、水道、ガス、熱供給契約

12

技術契約

3

贈与契約

13

寄託契約

4

金銭消費貸借契約

14

倉庫保管契約

5

保証契約

15

委任契約

6

賃貸借契約

16

物業サービス契約

7

ファイナンス・リース契約

17

取次契約

8

ファクタリング契約

18

仲介契約

9

請負契約

19

パートナー契約

10

建設工事契約

 

 

上記の典型契約のうち、保証契約は元々担保法に、パートナー契約については民法通則において定められていたのが、民法典では契約編の中に組み込まれました。そのほか、ファクタリング契約物業サービス契約は、今回民法典で新たに追加された典型契約となります。

そこで、上記の各典型契約のうち、実務上重要と思われる典型契約について、その改正点やポイントについて何回かに分けて解説したいと思います。今回は売買契約金銭消費貸借契約保証契約です。

1 売買契約

1-1 他人物売買に関する規定の新設

現行の契約法上、売買の目的物については、売主が所有し、又は権利を有するものでなければならないという規定が置かれていますが(契約法第132条第1項)、これに反した売買契約に係る効力については特段定められていませんでした。

この点、民法典では売主が処分権を取得することができなかったことを理由として目的物の所有権を移転することができない場合、買主は契約の解除並びに売主に対して違約責任を追及することができる旨明記されました(民法典第597条第1項)。

1-2 危険負担

運送人を利用した、売買目的物の移転、引き渡しに伴う危険の移転について、契約法上は、引き渡し場所が不明確である場合に、売主が目的物を第一運送人に引き渡した時点で、目的物に係る危険は買主に移転することが規定されている一方、引き渡し場所が明確になっている場合についての規定は定められていませんでした(契約法第145条)。

この点、民法典では、売主が買主の指定する地点に目的物を輸送し且つ運送人に引き渡した後に、目的物の危険が買主に移転することとされています(民法典第607条第1項)。目的物が、指定された目的地に運送されたことも危険移転の要件に含まれているといえます。

1-3 瑕疵担保責任

売買契約の目的物が品質に係る要求に合致しない場合には、買主は売主に対して違約責任を追及することができますが(契約法第155条、民法典第617条)、瑕疵担保責任の減免に関して契約で合意されることもあります。

この点、契約法上、瑕疵担保責任の減免に関して正面から定めた規定は置かれていませんでしたが、民法典では、上記のような責任の減免を内容とした合意をすることは可能であることを前提としたうえで、売主が故意又は重大な過失により目的物の瑕疵について買主に対して告知をしなかった場合、売主は瑕疵担保責任の減免を主張することができない旨が明記されました(民法典第618条)。

1-4 検収に関する規定の追加

1-4-1 検収の期限

売買目的物の検収について、契約法上は、以下のような規定を置いています(契約法第158条第1項、第2項)。

検収の期限に係る約定の有無

目的物の数量、品質の不適合に関する売主への通知

約定がある場合

検査期間内に、目的物の数量又は品質が契約の定めに合致しない状況を売主に対して通知しなければならない。

約定がない場合

目的物の数量又は品質が契約の定めに適合しないことを発見し、又は発見すべき合理的な期間内に、売主に通知しなければならない。

 

上記の契約法の規定に加え、民法典は検収に関して以下の規定を新たに定めました。

検収の期限に係る約定の有無

目的物の数量、品質の不適合に関する売主への通知

約定がある場合で、約定された期限が短すぎる場合(民法典第622条第1項)

目的物の性質と取引習慣に基づき、買主が検査期間内に全面的な検査を行うことが困難な場合、約定された期限は、買主の目的物の外観の瑕疵に対する異議を述べる期間と見なす。

約定がない場合(民法第623条)

買主が既に受領し署名した出荷票、確認票に目的物の数量、型番、規格等が記載されている場合、原則として、買主は数量、外観の瑕疵に対して検査を行ったものと推定する。

1-4-2 検収基準の齟齬

売主が買主の指示に基づき第三者に目的物を引き渡した場合で、売主と買主との間で約定された検査基準と、買主と第三者との間で約定された検査基準が一致しない場合、売主と買主との間で合意された検査基準を基準とすることが新たに定められました(民法典第624条)。

1-5 分割による代金支払い

契約法上、売買代金の分割支払いの合意がされている場合で、未払となっている代金が代金総額の5分の1に達した場合には、売主は買主に対して代金全額の支払い又は契約解除の請求をすることができると定められています(契約法第167条第1項)。この点について、民法典は、売主から買主に対して代金全額の支払い又は契約解除の請求をするための要件として、買主に対する催告と、催告後合理的な期間内において既に期限の到来している支払いがなされていないことも付け加えた(民法典第634条第1項)。

1-6 所有権留保

1-6-1 第三者に対する対抗

契約法上、売買の当事者間において所有権留保の合意をすることができるという旨の規定が置かれているものの(契約法第134条)、当該所有権留保の合意を第三者に対抗することができるかという点につき法律上は明確にされていませんでした。

この点、民法典は目的物に対する売主の所有権留保は、登記をしなければ善意の第三者に対抗することができない旨が明記されました(契約法第641条第2項)。特に不動産については、従前の実務を明文化したものと理解することができます。他方で、動産に係る所有権留保については、特に登記の要求されない動産に係る所有権留保は、相手方が所有権留保の事実を知らない限りは善意取得され、対抗できないという帰結になるものと考えられます。

1-6-2 所有権留保物件による売主への損害

当事者間で所有権留保の合意をした場合で、目的物の所有権が移転する前の時点において、買主に以下のいずれかの事由があり売主に対して損害を与えたときは、売主は目的物を取り返すことができる旨が新たに規定されました(民法典第642条第1項)。

  1. 合意に基づいた代金の支払いがなされず、催告を経た後合理的な期間内に依然として支払いがなされない場合
  2. 合意に基づく特定の条件が完成していない場合
  3. 目的物の販売、質入れ又はその他不当に処分した場合

もっとも、上記に基づいて売主が目的物を取り返した後であっても、買主が、売主との合意又は売主の指定する合理的な買戻し期間内に、売主による取り戻し原因事由を除去した場合には、目的物の買い戻しを請求することが可能とされています(民法典第643条第1項)。もしも、買主が買戻し期間内に目的物の買い戻しをしない場合、売主は合理的な価格により目的物を第三者に販売することができ、販売価格から買主において未払いとなっている代金及び必要な費用を控除した残りの部分を買主に返還し、もし第三者への販売価格が買主への販売価格に満たない場合は、その差額の部分につき買主は引き続き支払い義務を負うことも合わせて規定されました(民法典第643条第2項)。

2 金銭消費貸借契約

2-1 利息に関する制限

民法典においては、明文により高利貸しを禁止し、金銭消費貸借契約における利息は国家の関連規定に違反してはならない旨が明記されました(民法典第680条第1項)。利息に関する国家の関連規定としては現在、「民間における金銭消費貸借事案の法律適用の若干問題に関する規定」(最高人民法院关于审理民间借贷案件适用法律若干问题的规定)が定めを置いています。

上記規定は従前、年間24%を超えない範囲における利息の合意は有効とする一方、年間36%を超える部分の利息については合意自体が無効としていました。また、遅延損害金についても24%を超えない範囲で定めることができるとされていました。

もっとも、年間24%の利息は高すぎるといった指摘もされていたこともあり、最高人民法院は、2020年8月20日に、上記規定を改正、施行しました。

改正後は契約成立時「1年期貸金市場最優遇貸出利率」(中国語は「一年期贷款市场报价利率」)の4倍を超えない範囲において定めることができるとされました(改正後規定第26条第1項)。

上記にいう「1年期貸金市場最優遇貸出利率」とは、中国人民銀行の授権する全国銀行間貸付センターが2019年8月20日から公布している1年期貸金市場最優遇貸出利率(LPR、ローンプライムレート)のことをいうと定義されています(改正後規定第26条第2項)。

2020年7月20日に公布された上記利率は3.85%であり、これを基に計算すると、年15.4%の利率ということになり、従前認められていた利率と比較してもかなり利率は引き下げられたといえます。

また、契約法においては、利息の定めが不明確な場合にも利息を支払わないものと見なすという規定を置いていましたが(契約法第211条)、民法典においては、利息の定めが不明確な場合で、当事者は補充的な合意に至らなかった場合、当該地域又は当事者の取引方法、取引習慣、市場利率等の要素を勘案し、利息を確定するという内容に変更されています(民法典第680条第3項)。

3 保証契約

冒頭でも触れたとおり、保証契約は従前は担保法において規定が置かれていましたが、民法典では典型契約の一類型として整理されました。

3-1 保証契約の定め

保証契約は、通常の保証と連帯保証の二つの種類に分けられ、保証契約がそのいずれとなるかは原則としては保証契約の定めによって定められます。この点、契約においていずれの保証とするか、定めがない場合又は定めが不明確である場合に、どちらの保証と解するかについて、担保法は連帯保証とする旨定めていたのに対し(担保法第19条)、民法典では通常の保証とする旨定められました(民法典第686条第2項)。

通常の保証人の場合、主債務者に対する債務の履行請求がまだなされていない場合には、原則として保証債務の履行を拒絶することが可能であるのに対し(民法典第687条第1項)、連帯保証人には、補充性がないためこのような拒絶権限は与えられていません(民法典第688条第2項)。

3-2 主債務の変更等

3-2-1 主債務の変更

契約法上、主債務に変更があり、保証人の書面による同意がない場合には、保証人は保証責任を負わないものとされていました(契約法第24条)。この規定によれば、主債務の範囲を縮減するような場合であっても、保証人が書面による同意をしなければ保証人はその責任を免れることができることになってしまい、債権者にとっては不利、不合理な規定であったといえます。

民法典ではこの点について以下のように変更されています(民法典第695条第1項)。

  • 主債務を縮減する変更⇒変更後の債務について保証責任を負う
  • 主債務を加重する変更⇒変更前の保証責任を引き続き負う

また、主債務の履行期間の変更については、保証人の書面による同意がない場合には、当初の保証期間においてのみ保証責任を負うこととされています(民法典第695条第2項)。

3-2-2 主債務の譲渡

契約法上、主債務の全部又は一部が譲渡された場合には、原則として元の保証契約に基づく保証の範囲で責任を負うとされていました(契約法第22条)。

これに対し民法典は、保証人に対して通知がなされていない債権譲渡は保証人との関係で効力を生じないとして、保証人に対する通知を債権譲渡の対抗要件としました(民法典第696条第1項)。また、保証人と債権者との間の保証契約において、債権譲渡禁止の特約を付していた場合に、保証人の書面による同意なく債権譲渡がなされた場合には、保証人は保証責任を負わないものとされました(民法典第696条第2項)。

上記の変更は、保証人の覚知しない債権譲渡から保証人の責任を解放したものとして、保証人保護を趣旨としたものと理解できます。

3-2-3 債務引受

契約法上、債権者が保証人の書面による同意を得ずに第三者への債務引受(中国語は「债务转移」、債務の転移という記載をします。)を許可した場合、保証人は保証責任を負わないものとされていました(契約法第23条)。

これに対し民法典は、債務引受の類型に応じて異なる取り扱いを定めました(民法典第697条)。

  • 三者が債務に加入する場合⇒保証責任は影響を受けない
  • 保証人の書面による同意を得ずに債務の全部又は一部が譲渡された場合⇒原則として保証責任を負わない

前者は、日本民法でいえば併存的債務引受に相当する場合といえますが、その場合は保証人の免責を特に認める必要はないといえます。他方、後者は、日本民法でいえばいわゆる免責的債務引受に相当する場合といえますが、保証人が覚知しないところで債務が移転した場合には、保証人をその責任から解放するべきという趣旨であると理解できます。

3-2-4 保証人の免責

民法典では、通常の保証人について、主債務の履行期間が満了した後に、債権者に対して債務者の執行可能な財産の状況を提供した場合で、債権者が権利行使を放棄又は怠ったことによって当該財産への執行が不能となった場合、保証人は提供した執行可能財産の価値の範囲において保証責任を免れるという規定が新たに追加されました(民法典第698条)。

これは、日本民法でいえば検索の抗弁に類似するものといえますが、日本と同様、これはあくまで通常の保証人についてのみ認められ、連帯保証人には認められていません。