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インターネットライブマーケティング管理弁法(試行)について

2021年4月24日、7つの政府部門連名による「インターネットライブマーケティング管理弁法(試行)」(中国語は「网络直播营销管理办法(试行)」、以下「本弁法」といいます。)が公布され、2021年5月25日に施行されることが発表されました。

中国では、Tao Liveや京東Liveなど、「網紅」と呼ばれるいわゆるインフルエンサーのライブによる商品紹介、販売というビジネスモデルが構築されて久しいものの、実はこれまでこのビジネスモデルに対する直接的な法令というものは定められておらず、既存の法令を適用するにも曖昧、グレーとなっている部分が少なからずありました。

今回、本弁法はサイバーセキュリティ法、電子商取引法、広告法、反不正競争法、ネットワーク情報コンテンツ生態ガバナンス規定(网络信息内容生态治理规定)に基づく部門規定として、インターネットにおけるライブマーケティング行為に関して具体的な規定を定め、インターネットライブマーケティングにおける各当事者の遵守事項等がかなりクリアになったといえます。今回は、本弁法についてその概要をかいつまんで紹介していきたいと思います。

1 構成

本弁法は、全30か条、全5章で構成された部門規定になります。章立てとしては、①総則、②ライブ販売プラットフォームに関する規定、③ライブスペース運営者及びライブマーケティング人員に関する規定、④監督管理・法的責任、⑤附則となっています。

2 概念

さて、まずは本弁法が適用される対象となる行為及び対象者について説明します。

2‐1 適用対象行為

本弁法が適用される対象となる行為は、

中国国内において、インターネットウェブサイト、アプリケーション、マイクロプログラム等を通じ、ビデオライブ、オーディオライブ、ライブテキスト、その他各種のライブと結合した形式によりマーケティングを展開する商業活動

と定義されています(本弁法第2条第1項)。

2‐2 適用対象者

続いて、本弁法が適用される対象となる者としては、

  1. ライブマーケティングプラットフォーム(直播营销平台)
  2. ライブスペース運営者(直播间运营者)
  3. ライブマーケティング人員(直播营销人员)
  4. ライブマーケティング人員サービス機関(直播营销人员服务机构)

が列挙されています(本弁法第2条第2項ないし第5項)。

また、インターネットライブマーケティング活動に従事し、電子商取引法における電子商取引プラットフォーム事業者又はプラットフォーム内事業者に該当する者についても、本弁法に基づく責任と義務を負うものとされています(本弁法第2条第6項)。

これらの本弁法適用対象者については、それぞれ以下のとおり定義されています。

2‐2‐1 ライブマーケティングプラットフォーム

インターネットライブマーケティングにおいて、ライブサービスを提供するプラットフォームをいう(インターネットライブサービスプラットフォーム、インターネットオーディオビジュアルサービスプラットフォーム、電子商取引プラットフォーム等を含む)

具体的には、Taobao、京東、Tik Tok等、ライブマーケティングの場を提供するプラットフォームがこれに該当するといえます。

2‐2‐2 ライブスペース運営者

ライブマーケティングプラットフォームにおいてアカウントを登録し、又は自ら設置したウェブサイト等その他のネットワークサービスにおいて、ライブスペースを開設し、ネットワークライブマーケティングに従事する個人、法人その他の組織をいう

ライブマーケティングプラットフォーム上には、数多くのライブスペースが開設されており、そこでインフルエンサーが商品紹介等を行っているわけですが、そのようなスペースの開設、運営者がこれに該当するといえます。

2‐2‐3 ライブマーケティング人員

インターネットライブマーケティングにおいて、直接社会公衆に対してマーケティングを行う個人をいう

いわゆる「網紅」と呼ばれるインフルエンサーがこれに該当するといえます。

2‐2‐4 ライブマーケティング人員サービス機関

ライブマーケティング人員がライブマーケティング活動に従事するために、企画、仲介、研修等を提供する専門機関をいう

インフルエンサーを管理するマネジメント企業(いわゆるMCN)等がこれに該当すると思われます。

3 ライブマーケティングプラットフォームの責任義務

本弁法は、ライブマーケティングプラットフォーム(以下、単に「プラットフォーム」といいます。)の負うべき責任義務について詳細な規定を置いていますが、その中で総則的な規定として、まず以下の定めが置かれています。

  1. プラットフォームは届出手続き及びセキュリティ評価を実施すること(本弁法第5条第1項)
  2. プラットフォームは、健全なアカウント及びライブマーケティング機能の登録・抹消、情報セキュリティ管理、マーケティング行為規範、未成年者保護、消費者権益保護、個人情報保護、ネットワークとデータセキュリティ管理等のメカニズム、措置を講じること(本弁法第6条第1項)

まず、届出手続きについてですが、「インターネットライブサービス企業届出業務に関する通知」(关于开展互联网直播服务企业备案工作的通知)によれば、インターネットライブサービス企業に従事する企業による届出の実施を要求しており、これを反映した規定と思われます。

セキュリティ評価の実施について言及されていますが、本弁法では他の箇所でもいくつかセキュリティ評価について言及されておりますので、この点は後述します。

その他、未成年者保護、消費者権益保護といった観点からのメカニズム等構築もプラットフォームの義務とされています。

3‐1 事前の措置

本弁法は、事前、事中、事後のそれぞれの段階におけるプラットフォームの責任義務を規定しており、以下、簡単に整理してみたいと思います。

3‐1‐1 新技術、アプリケーション機能の実装、使用管理の強化

プラットフォームは、AI、3D、VR音声合成等の技術を利用してバーチャルでの展示を行うインターネットライブマーケティングに対しては、セキュリティ評価を行い、明示的な方法で標識を行うこと(本弁法第13条)。

3-1-2 ライブスペースのランク別管理

プラットフォームは、ライブスペース運営者のアカウントのコンプライアンス遵守状況、フォロー数・アクセス数、取引数量・金額その他の指標に基づいてランク別の管理を行い、ランクに応じてサービス範囲及び機能を確定し、重点ライブスペース運営者に対してはリアルタイムでのモニタリング、ライブコンテンツの保管期間の延長等の措置を採るものとされています(本弁法14条第1項)。

なお、インターネット取引監督管理弁法(网络交易监督管理办法)によると、インターネットライブサービス提供者は、インターネット取引活動に係るライブ動画を、ライブ終了日から3年以上保管しなければならないと規定していますが(インターネット取引監督管理弁法第20条第2項)、本弁法はライブスペース運営者のランクに応じてこれを超える期間の保存を要求するものと思われますが、今の時点ではどのような期間の保存が必要となるのか不明です。

3‐1‐3 未成年者保護メカニズムの構築

プラットフォームは、未成年者保護メカニズムの構築を行い、未成年者の心身の健康保護に留意し、もしもインターネットライブマーケティングにおいて、未成年者の心身の健康に影響を与える可能性のあるコンテンツが含まれる場合には、プラットフォームは、情報の提示をする前に明確な方法で注意喚起をすること(本弁法第12条)。

なお、上記は主に消費者となる未成年者保護の観点からの規定と理解されますが、ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員は16歳以上でなければならず、16歳以上の未成年(なお、中国の成年年齢は18歳です)がこれらに従事する場合には、保護者の同意が必要とされ(本弁法第17条)、情報発信サイドでの未成年者保護規定も置かれています。

3‐2 事中の措置

3‐2-1 身分情報の照合措置等

プラットフォームはライブスペース運営者、ライブマーケティング人員の身分証や統一社会信用コード(営業許可証上で会社ごとに割り振られた会社番号コード)に基づいて、身分情報の照合を行い、更にライブマーケティング人員については身分情報の変動に対する照合メカニズムを構築すること(本弁法第8条第1項、第2項)。

ライブの実施前には一切のライブマーケティング人員の身分情報を照合し、もしも身分情報に齟齬がある場合、法令上インターネットライブ配信に従事することができない場合には、インターネットライブ配信を停止するものとされています(本弁法第8条第2項)。

3-2-2 コンテンツ管理

プラットフォームは、インターネットライブマーケティングのコンテンツ管理を強化し、情報配信の審査、リアルタイムパトロールを行い、違法、不良情報を発見した場合には、速やかに措置を講じること(本弁法第9条第1項)。

3‐2‐3 リスク識別モデルの構築

プラットフォームは健全なリスク識別モデルを構築し、違法、違反のある高リスクマーケティング行為に対してはポップアップによるリスク喚起、警告、トラフィックの制限、ライブの一時停止等の措置を講じること(本弁法第10条)。

3‐3 事後的な措置

3‐3‐1 アカウント閉鎖等の措置

違法な、又はサービス契約に反したライブスペース運営者のアカウントに対しては、警告提示、機能制限、配信停止、アカウント抹消、再登録の禁止等の措置を講じること(本弁法第14条第2項)。

3‐3‐2 ブラックリストへの追加

重大な違法行為を行ったライブマーケティング人員及び違法行為に基づき劣悪な社会的影響をもたらした者はブラックリストに追加をすること(本弁法第14条第3項)。

アカウント停止等の措置がライブスペース運営者に対する措置であるのに対して、ブラックリスト制度はライブマーケティング人員に対する措置として定められています。

そして、事後的な管理として、プラットフォームに対して、違法行為に応じたライブ阻止、アカウント閉鎖、ブラックリストへの追加等といった措置を講じることが求められています。

3‐4 セキュリティ評価及び情報セキュリティ管理

本弁法は、プラットフォームが行うべきセキュリティ評価、情報セキュリティ管理について、以下のようにいくつか規定を置いています。

  1. プラットフォームは安全評価を実施しなければならない(本弁法第5条第1項)
  2. プラットフォームはライブスペース内のリンク、QRコード等、ページ移転サービスにおける情報セキュリティ管理の強化し、情報セキュリティリスクを防止しなければならない(本弁法第9条第2項)
  3. プラットフォームは、AI、3D、VR音声合成等の技術を利用してバーチャルでの展示を行うインターネットライブマーケティングに対しては、セキュリティ評価を行い、明示的な方法で標識を行うこと(本弁法第13条、前述3‐1‐1)

このうち、1、2はネットワークのセキュリティ能力、プラットフォームの個人情報収集、保管能力等という観点からのセキュリティを指しているものと考えられます。他方、3については先端技術に起因するネットワークセキュリティ、例えばAIの利用によるプライバシー保護という観点からのセキュリティを指しているものと考えられます。

情報セキュリティに関するガイドラインや国家基準は数多く制定されていますが、インターネットライブマーケティングに関するものがこれから新たに制定されるのか、既存のものに依拠すべきなのかは今の時点では不明です。

3‐5 広告配信者又は広告経営者としての責任

本弁法は、広告法の観点からの一定の規定を定めました。すなわち、プラットフォームが支払導線等サービスを提供するにあたり、インターネットライブマーケティングに対して宣伝、プロモーションを行い、これが商業広告に該当する場合には、広告発布者(広告主又は広告主の委託する広告経営者のために広告を発布する主体)又は広告経営者(委託を受けて広告の設計、制作、代理サービスを提供する主体)としての責任と義務を負わなければならないと規定されています(本弁法第11条第1項)。

そもそもプラットフォームによる行為が「商業広告に該当する」ことが前提となった規定であり、広告該当性という点の認定も当然問題となりますが、もしもこの点がクリアされた場合には本弁法だけでなく広告法の定めに基づく責任も負う可能性があるといえます。

なお、これと関連してプラットフォームは、ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員のために、虚偽の、又は誤解を招く商業広告の提供に協力したり、便宜を与えてはならないという規定も置かれました(本弁法第11条第2項)。

4 ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員の責任義務

さて、次にライブスペース運営者、ライブマーケティング人員の責任義務に関して見ていきたいと思います。

4-1 広告法に基づく責任

まず、ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員の配信するライブコンテンツが、商業広告に該当する場合にもやはり広告発布者、広告経営者又は広告代言者(広告主以外に、広告において自己の名義又はイメージにより商品、サービスについて推薦、照明を行う主体)としての責任を負うことが明記されました(本弁法第19条)。

実務上は、これまでプラットフォーム、ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員に該当する主体が広告法上の責任を負うべきであるという解釈と運用こそありましたが、明文の規定はなかったことから、この点の明文化がされたことは意義としては大きいと思われます。

4‐2 禁止事項

ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員によるインターネットライブマーケティングにおいては、法令を遵守することはもちろん、公序良俗を遵守し、真実・正確・全面的な商品・サービス情報を配信しなければならないこと、そして以下の行為を禁止することが定められています(本弁法第18条)。

禁止される行為

  1. インターネット情報コンテンツ生態ガバナンス規定第6条、第7条に反する行為
  2. 虚偽又は誤解を与える情報を発布し、ユーザーを欺罔、誤導すること
  3. 海賊版知的財産権侵害品、人身・財産安全要求に適合しない商品のマーケティング
  4. 取引、フォロー数、閲覧数、好評価数等のデータの改ざんをすること
  5. 他人の違法行為、高リスク行為の存在を知り、又は知り得たにもかかわらず、引き続きそのためにプロモーション、誘導をすること
  6. 他人にハラスメント、誹謗中傷、脅迫を加えることで、他人の合法利益を侵害すること
  7. ねずみ講、詐欺、賭博、法禁物販売
  8. その他法令に違反する行為

上記1にいうインターネット情報コンテンツ生態ガバナンス規定第6条、第7条に反する行為は、多岐にわたりますので詳細に紹介することは省きますが、国家統一を破壊するような内容のコンテンツ作成や性的・暴力的内容を含むコンテンツの作成等がこれに該当します。

4-3 ライブスペースに対する重点管理

ライブスペースにおいては、以下の各段階、プロセスにおいて違法又は不良な情報を含んではならず、暗示等方法によりユーザーを誤導してはならない(本弁法第20条第2項)。

  1. ライブスペース運営者のアカウント名称、プロフィール写真、自己紹介
  2. ライブスペースのタイトル、表紙
  3. ライブスペースのセット、道具、商品ディスプレイ
  4. ライブマーケティング人員の衣装、イメージ
  5. その他のユーザーの関心を惹きやすい重要な段階、プロセス

4-4 サプライヤーに対する照合義務

ライブスペース運営者は、商品及びサービスのサプライヤーの身分、住所、連絡方法、許認可、信用状況等の情報について照合を行い、関連する情報をバックアップしなければならない(本弁法第22条)。

ライブスペース運営者はサプライヤーに関する情報等の調査をしないままで、商品やサービスを売り出してはならないということになります。

4-5 ライブマーケティング人員サービス機関との契約

ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員がライブマーケティング人員サービス機関との間で商業上の提携をするにあたっては、ライブマーケティング人員サービス機関との間で書面による契約を締結し、情報セキュリティ管理、商品品質審査、消費者権益保護等の義務を明確にし、その履行を督促しなければならない(本弁法第24条)。

4-6 肖像権等の保護

ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員が他人の肖像を使用したバーチャルなキャラクターを利用してインターネットライブマーケティングに従事する場合には、当該肖像の本人の同意を得なければならず、情報技術手段を用いて偽造等の方法により他人の肖像権を侵害してはならない(本弁法第25条)。自然人の音声についても同様とする。

ライブマーケティングにおいては、キャラクターや固定音声等が使用されることがあり、他人のキャラクターや音声を冒用することによる消費者の誤導等を防ぐという不正競争行為を禁じる趣旨の規定と理解されます。