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立法にあたっての意見募集

前回までご紹介した中国の法体系に関する説明とは若干毛色が異なりますが、今回の記事では、特に、中国の法律、行政法規、規定(规章)の起草にあたっての意見聴取、特にパブリックコメントの募集について、簡単にご紹介したいと思います。

法律、行政法規の立法にあたっての意見募集

中国のイメージからすると、もしかすると想像しにくい(?)かもしれませんが、中国における立法プロセスでは、実は社会公衆からの意見聴取というものが広く行われています。法律、行政法規については、立法法に根拠があります。

法律の草案に対する意見募集

立法法第37条

全人代)常務委員会会議に上程された法律案については、常務委員会会議の後に法律草案及びその起草、改正の説明等を社会に公表し、意見募集を行なわなければならない。但し、委員長会議で非公表決定したものを除く。社会に公表し、意見募集を行う期間は一般に30日を下回らない。意見募集の状況は社会に向けて通知しなければならない。

意外かもしれませんが(くどい)、法律の制定過程において、法律の草案だけでなく、その起草、改正に関する背景事情の説明などを公表し、意見を募集することで、民意を反映した立法を行うことを、立法法が実は担保しているのです。

逆に日本では、「パブリックコメントとは、国の行政機関が政令や省令などの案をあらかじめ公表し、広く国民の皆様から意見や情報を募集する手続です。」と説明されているように*1パブリックコメントの募集は、行政機関によって行われ、立法機関である国会によるパブリックコメントの募集というものはありません。

これは、立法機関である国会は、国民を代表する国会議員によって組織されていることから(憲法第43条第1項)、国会で行われる立法自体に民意が反映されているという理論的な帰結かと思います。

これに対して、行政機関の行う行政立法については、国会議員が行うわけではなく、そこに必ずしも民意が反映されているわけでもありませんので、パブリックコメントを募集する必要があり、そのことが行政手続法により定められているわけですね(行政手続法第39条)。

若干話が脱線しましたが、2020年1月に施行された、中国でビジネスを行う外資企業にとっては大変重要な「外商投資法」なども、これまで草案レベルで繰り返しパブリックコメントの募集が行われていました*2

行政法規の草案に対する意見募集

 立法法第67条

  1. 行政法規は、国務院関連部門又は国務院法制機構が具体的起草について責任を負い、重要な行政管理の法律、行政法規の草案は国務院法制機構が起草する。行政法規の起草過程においては、関係機関、組織、人民代表大会代表及び社会公衆の意見を広汎に聴取しなければならない。意見聴取は座談会、論証会、聴取会等、多種の形式を採用することができる。
  2. 行政法規の草案は、社会に向けて公表し、意見徴求を行う。但し、国務院が不公表を決定した場合を除く。 

以前の記事でもご紹介したとおり、行政法規は中国の法体系中で法律に次ぐ法源であり、国民(中国では公民という。)、法人、その他組織の権利義務に対して、大きな影響を与えることから、行政立法の過程においても公衆の意見を反映させ、行政立法にも民意を反映させようというのが、趣旨です。行政法規の起草の段階、そして、草案ができあがった段階のそれぞれで、意見を聴取することが予定されています。

上記で例に挙げた「外商投資法」との絡みでいえば、行政法規である「外商投資法実施条例」についても、パブリックコメントの募集が行われていました*3

規定の立法にあたっての意見募集

法律、行政法規のほか、規定(地方政府規定、部門規定)についても、その立法過程においては、パブリックコメントの募集が行われていますが。その根拠は、立法法ではなく、規定制定プロセス条例(规章制定程序条例)にあります。

規定制定プロセス条例第15条

  1. 規定を起草するにあたっては、入念な調査研究を行い、実践経験を総括し、関連期間、組織、公民の意見を広汎に聴取しなければならない。意見聴取は書面、座談会、論証会、聴取会等、多種の形式を採用することができる。
  2. 規定を起草するにあたっては、法により機密を保持しなければならない場合を除き、規定草案及びその説明等を社会に対して公布し、意見聴取しなければならない。社会に対して公布して意見聴取する期間は、一般は30日を下回らない。

「外商投資法」との絡みでいえば、部門規定として施行されている「外商投資情報報告弁法」(外商投资信息报告办法)についても、パブリックコメントの募集が行われていました*4

パブリックコメントの募集方法

現在、法律、行政法規、規定のうち部門規定については、「中国政府法制情報ネット」(中国政府法制信息网)においてパブリックコメントの募集がなされています。

このようなパブリックコメントの募集方法についてもきちんと根拠が定められており、法律・行政法については「法律・行政法規草案公開意見募集暫定弁法」(国务院法制办公室法律法规草案公开征求意见暂行办法)、部門規定については「部門規定の草案を「中国政府法制情報ネット」で公開しパブリックコメントを募集することに関する通知」(关于部门规章草案在“中国政府法制信息网”公开征求意见有关事项的通知)がそれぞれ根拠となっています。

他方、規定のうち、地方政府規定については、中国政府法制情報ネット上でパブリックコメントの募集を行うべきことが法令上定められておらず、地方政府ごとに個別にパブリックコメントの募集が行われています。例えば、上海市であれば、上海市人民政府のウェブサイト上パブリックコメントの募集がされています。

なお、パブリックコメントの募集期間は原則として30日を下回らないこととされています(立法法第37条、法律・行政法規草案公開意見募集暫定弁法第6条第2項、規定制定プロセス条例第15条第2項)。

まとめ

以上、かなりマニアックなトピックとなりましたが、中国の立法におけるパブリックコメントについて、簡単にご紹介しました。

特に中国ビジネス上重要な法令の草案は、その後の新制度や法改正の概要を掴む上で非常に有益な情報源になりますので、今後重要法令の草案が出された際には、是非これらに目を通してみてください。