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個人情報保護法について(1)

これまで直近で2度にわたり、全人代常務委員会にて個人情報保護法草案が公表されましたが、今般2021年8月20日に中国個人情報保護法(个人信息保护法、以下「本法」といいます。)が正式に公布され、11月1日より施行されることとなりました。

chinalaw.hatenablog.com

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中国においてこれまで十数年来、度々個人情報保護法の制定が試みられては暗礁に乗り上げてきた経緯もあり、ようやく成立したものといえますが、近時当局が大手配車プラットフォーム滴滴(DiDi)に対して、個人情報を違法に収集したことを理由としてアプリストアからAppの削除を求めたことも法律の制定が間近であったことが背景にあったのかもしれません。

第二次審議稿は附則含め全8章全73条によって構成されていましたが、本法は最終的に全8章全74条で構成される形となりました。第二次審議稿から変更されている個所も少なからずありますので、今回から3回に分け、第二次審議稿からの変更点にも着目しながら、本法を全体的に概観したいと思います。 

1 本法における核心的概念と基本原則等

1-1 核心的概念

まず、個人情報保護法における基本的な概念について、整理すると以下のとおりです。

概念

定義

個人情報(个人信息)

電子的又はその他の方式により記録される、既に識別され又は識別が可能な自然人に関連する各種情報であり、匿名化処理後の情報を含まない(本法第4条第1項)

個人情報の処理(处理个人信息)

個人情報の収集、保存、使用、加工、移転、提供、公開、削除等の活動を含む(本法第4条第2項)

センシティブ個人情報(敏感个人信息)

一旦漏えい又は違法に使用すると、容易に自然人の人格尊厳が侵害され、又は人身、財産の安全に危害が生じる個人情報をいい、生物識別、宗教・信仰、特定身分、医療健康、金融口座、行動軌跡等の情報及び14歳未満の未成年に係る個人情報をいう(本法第28条第1項)

個人情報処理者(个人信息处理者)

個人情報の処理活動において自ら処理の目的、処理方式を決定する組織、個人をいう(本法第73条第1号)

自動意思決定(自动化决策)

コンピュータープログラムにより、個人の行為・習慣、関心・嗜好又は経済、健康、信用の状況等について自動的な分析、評価をし、意思決定を行う活動をいう(本法第73条第2号)

非識別化(去标识化)

個人情報を処理することで、更なる情報がなければ特定の自然人を識別することができないようにするプロセスをいう(本法第73条第3号)

匿名化(匿名化)

個人情報を処理することにより、特定の自然人を識別できず、復元できなくするプロセスをいう(本法第73条第4号)

1-1-1 個人情報

個人情報の定義について、サイバーセキュリティ法、民法典、個人情報安全規範(个人信息安全规范)といった各法令においてそれぞれ以下のように定義されていました。

サイバーセキュリティ法

電子的又はその他の方法によって記録され、単独で又はその他の情報と結びついて、自然人個人の身分を識別することができる各種情報をいう(サイバーセキュリティ法第76条第5号)

民法

電子的又はその他の方法によって記録され、単独で又はその他の情報と組み合わせて、特定の自然人を識別することができる各種情報(民法典第1034条第1項)

個人情報安全規範

電子的又はその他の方法によって記録され、単独で又はその他の情報と結びついて特定の自然人の身分を識別することができる情報、又は特定の自然人の活動状況を反映する情報(個人情報安全規範3.1)

これに対して、本法では「電子的又はその他の方式により記録される、既に識別され又は識別が可能な自然人に関連する各種情報」と定義し、同時に匿名化処理をした情報については個人情報に含まれないことを明確にしました。

この個人情報の定義は、GDPR第4条第1号に定める「個人データ」の定義を意識したものになっていると思われ、サイバーセキュリティ法等において定められていた個人情報の定義に比べても、個人情報は広く理解できるものと考えられます。

1-1-2 個人情報の処理活動

本法の適用対象となる「個人情報の処理活動」の内容として、個人情報の削除が第二次審議稿から新たに追加されています。

1-1-3 センシティブ個人情報

中でもセンシティブ個人情報については第二次審議稿から若干定義が変更されています。具体的には、以下のとおりです。

第二次審議稿

一旦漏えい又は違法に使用すると、個人が差別を受けるか、人身、財産の安全に重大な危害を被る可能性のある個人情報をいい、種族、民族、宗教・信仰、個人の生体的特徴、医療健康、金融口座、個人の行動歴等の情報を含む。

本法

一旦漏えい又は違法に使用すると、容易に自然人の人格尊厳が侵害され、又は人身、財産の安全に危害が生じる個人情報をいい、生物識別、宗教・信仰、特定身分、医療健康、金融口座、行動軌跡等及び14歳未満の未成年に係る個人情報を含む。

なお、個人情報安全規範においては、センシティブ個人情報について「一旦漏えい、違法提供、又は濫用すると、容易に自然人の人格尊厳が侵害され、又は人身、財産の安全に損害又は差別的待遇等が生じる個人情報」と定義されており、本法の定義はこれに近いものではありますが、やはり若干異なっています。

また、第二次審議稿まではセンシティブ個人情報とは別枠で保護の対象となっていた14歳未満の未成年に係る個人情報もセンシティブ個人情報として扱われることとなり、厚い保護を受ける対象となっているのに対して、第二次審議稿までセンシティブ個人情報として掲げられていた「種族民族」はその対象から除外されている点も興味深いです。

1-2 本法の適用対象

本法の適用対象については、従前から特段大きな変更はなく、原則として中国国内で自然人の個人情報を処理する活動に対して適用されるとしつつ、以下の場合には、中国国内の自然人の個人情報を中国国外で処理する活動に対しても適用されます(本法第3条第1項、第2項)。

  1. 中国国内の自然人に商品又はサービスを提供することを目的とする場合
  2. 中国国内の自然人の行為を分析、評価する場合
  3. 法律、行政法規に定めるその他の場合

このように中国国外における個人情報処理活動に対しても本法の適用があり得ることは注意する必要があります。どのような判断要素をもって商品又はサービスを提供する目的があるといえるかについて本法は特段規定を置いていませんが、今後、その判断要素に関するガイドラインや指針が制定される可能性はあります。

なお、中国国外の個人情報処理者は、中国国内に専門機関又は指定代表を置き、個人情報保護に関する事務処理を行わせなければならないとされていますが(本法第53条)、これもGDPR第27条の規定を参照しているものと思われます。

1-3 個人情報の処理にあたっての基本原則等

個人情報の処理にあたって遵守すべき基本原則、遵守事項については、以下のとおり定められています。

信義誠実の原則 個人情報の処理にあたっては、適法性、正当性、必要性及び信義誠実の原則を遵守しなければならず、誤導、詐欺、脅迫等の方式によって個人情報を処理してはならない(本法第5条)
最小範囲の原則 個人情報の処理には明確で合理的な目的があり、且つ、処理の目的と直接の関連があり、個人の権益への影響を最小とする方式を採用しなければならない。
個人情報の収集は、処理の目的が実現できる最小範囲に限定しなければならず、過度な個人情報の収集をしてはならない(本法第6条)
公開透明の原則 個人情報を処理するにあたっては公開、透明性の原則を遵守し、個人情報の処理規則を公開し、処理の目的、方式及び範囲を明示しなければならない(本法第7条)
個人情報の正確性 個人情報を処理するにあたっては、個人情報の質を保証し、個人情報が不正確、不完全となることによって個人の権益に不利な影響を及ぼすことは避けなければならない(本法第8条)
セキュリティ保障 個人情報処理者は、その個人情報処理活動に責任を負い、必要な措置を講じて処理する個人情報の安全を保障しなければならない(本法第9条)

個人情報処理にあたっての各原則のうち、特に最小範囲の原則については、第二次審議稿から、「処理の目的に直接の関連性」がある方法を採用すべきことが要件として追加されています。

個人情報安全規範においては、「直接の関連性」があることについて、当該個人情報の参与がなければ、商品又はサービスの効能を実現することが不可能であること、と定義されていますが(個人情報安全規範5.2)、本法における「直接の関連性」について、同様に理解して良いかは明確ではありません。

2 個人情報の処理に係るルール

2-1 個人情報の処理が可能な場合

個人情報処理者が個人情報の処理をすることができるのは、以下のいずれかに該当する場合です(本法第13条)。

  1. 個人の同意を得た場合
  2. 個人を一方の当事者とする契約の締結又は履行に必要な場合、又は法に基づき制定された労働規則及び法により手結された集団契約に基づき、人力資源管理を実施するために必要な場合
  3. 法定の職責又は法定の義務の履行に必要な場合
  4. 突発的公衆衛生事件への対処又は緊急事態下における自然人の生命・健康や財産の安全の保護に必要な場合
  5. 公共の利益のための報道、世論監督等の行為をするために合理的な範囲内で個人情報を処理する場合
  6. 本法の規定に基づき合理的な範囲内で、個人が自ら公開し又はその他適法に公開された個人情報を処理する場合
  7. 法律、行政法規に定めるその他の場合

サイバーセキュリティ法では、個人情報の収集、使用をするにあたっては、同意を得ることを必要条件としていたところ(サイバーセキュリティ法第41条第1項)、民法典では、同意を得ることを原則としつつも、法律、行政法規が別途の定めを置く場合は除くことを定めており、一定の場合には同意が不要となり得ることを示唆していました(民法典第1035条第1項第1号)。

個人情報安全規範では、同意が不要な場合について定めていたものの(個人情報安全規範5.6)、本法は法律レベルにおいて個人の同意が不要な場合を明確にしたことになります。

特に第2項については、従前の草案にはなかった、会社の内部規定又は集団契約*1に基づいて人力資源管理を行う場合にも同意が不要という旨が新たに定められました。これは、会社の内部規定、集団契約に基づく人事管理上の個人情報の処理ということで、当該処理について同意に代わる適法性の根拠が存在するということが念頭に置かれているものと考えられます。これによって、使用者が従業員の個人情報の処理をするにあたっての同意取得の負担が軽減されることが期待されます。

但し、中国子会社から中国国外の本社に従業員の情報を越境提供するような場合には、別途個別の同意を取得することが必要であるという点には留意が必要です。

このほか、個人が自ら公開し、又はその他の既に適法に公開された個人情報を処理する場合にも同意が不要であることが本法において新たに追記されています。

2-2 個人からの同意の取得

個人の同意に基づき個人情報を処理するにあたっては、以下の要件の充足が必要です。

  1. 個人が十分に事情を知っている前提のもとで、自由意思且つ明確に行われること(本法第14条第1項)
  2. 個人情報の処理に対して同意をした個人にはその同意を撤回する権利があり、個人情報処理者は、同意を容易に撤回することができる手段を提供すること(本法第15条第1項)
  3. 個人情報の処理が製品又はサービスの提供に必須となる場合を除き、個人情報処理者は、個人がその個人情報の処理に同意していないこと、同意を撤回したことを理由に、製品又はサービスの提供を拒否してはならないこと(本法第16条)
  4. もしも取り扱う個人情報が14歳未満の未成年のものに係る場合には更に未成年者の父母又は監護者の同意も得ること(本法第31条第1項)
2-2‐1 個別の同意

個人情報の処理における同意に係る要件は上記のとおりですが、法律又は行政法規が、個人の個別同意又は書面による同意の取得義務を課している場合には、当該規定に従わなければならない旨が定められています(本法第14条第1項)。

本法においては以下の各場合について個別の同意が必要と定められています。

  • 個人情報処理者からその他の個人情報処理者への個人情報の提供(本法第23条)
  • 個人情報処理者による個人情報の公開(本法第25条)
  • 個人情報処理者が公共場所に設置される画像収集設備、又は個人身分識別設
    備を通じて収集されるものを公共安全以外の目的に使用する場合(本法第26条)
  • 個人情報処理者がセンシティブ個人情報を取り扱う場合(本法第29条)
  • 個人情報処理者による個人情報の越境移転(本法第39条)

個別の同意の取得方法について本法は明確に定めておらず、実際にどのような形式で個別の同意を取得するのかについては議論の余地があります。ただ、理解としては、個人に対して十分な注意喚起をしたうえでの同意を取得することが必要と考えられます。

なお、書面による同意に関して本法は更なる規定は置いておらず、個別の法令において書面の取得義務が課されている場合に、それに従うことになります。

2-2-2 同意の再取得

また、以下の各場合には、個人から再度の同意を取得することが必要です。

  • 個人情報処理の目的、処理方式及び処理する個人情報の種類に変更が生じた場合(本法第14条第2項)
  • 合併、分割、解散、破産宣告等の原因により個人情報の移転が必要な場合で、個人情報の受領者が当初の処理目的及び処理方法を変更する場合(本法第22条)
  • 個人情報処理者が、自ら取り扱った個人情報を他の個人情報処理者に提供する
    場合で、個人情報の受領者が当初の処理目的又は処理方法を変更する場合(本法第23条)

2-3 個人情報処理者による告知義務

個人情報処理者は、個人情報を処理する前に、目立つ方式により、明確で分かりやすい文言で、真実、正確、完全に以下の事項を個人に告知することが求められています(本法第17条第1項)。なお、真実、正確、完全な告知という要求は、草案段階ではなく、本法において追加された要件です。

  1. 個人情報処理者の名称又は氏名及び連絡先情報
  2. 個人情報処理の目的、処理方式、処理する個人情報の種類、保存期限
  3. 個人が本法に規定する権利を行使する方法及びプロセス
  4. 法律、行政法規にて告知すべきと定められたその他の事項
  5. (個人情報処理者の合併、分割等が生じた場合)個人情報の受領者の名称又は氏名、連絡方法(本法第22条)

  6. (他の個人情報処理者に提供する場合)受領者の名称又は氏名、連絡先情報、処理の目的、処理方式及び個人情報の種類(本法第23条)

  7. (センシティブ個人情報を処理する場合)センシティブ個人情報を取り扱う必要性及び個人権益への影響(本法第30条)

  8. (越境提供がある場合)中国国外の情報受領者の名称、連絡方法、処理目的、処理方法、個人情報の種類及び個人が国外の情報受領者に対して本法に定める権利を行使する方法とプロセス等の事項(本法第39条)

公開透明の原則と総合的に考えると、個人情報の処理規則、処理の目的、方式及び範囲と共に、上記の各事項を明確に個人に対して告知することが必要といえます。「真実、正確、完全」性が要求することも相まって、個人情報処理者がプライバシーポリシーや個人情報処理に関連する規則を作成するにあたっては、「~など」や「~その他一切の」といった不明確、不完全な文言を使用することは避けた方が良いということになりそうです。

なお、以下の場合には例外として告知が不要となります。

  1. 個人情報処理者が個人情報を処理するにあたり、秘密を保持すべきこと又は告知が不要であることが法律、行政法規で規定されている場合(本法第18条第1項)
  2. 緊急事態下において自然人の生命・健康及び財産の安全を保護するために速やかに個人に告知することができない場合、緊急事態が収まった後速やかに告知しなければならない(本法第18条第2項)

2-4 個人情報の保存期間

法律、行政法規に別段の規定がある場合を除き、個人情報の保存期間は、処理の目的を実現するために必要な最短期間とする必要があります(本法第19条)。

これを受け、個人情報処理者においては、個人情報の処理の目的が実現、実現不能、不要となった場合や、商品やサービスの提供を停止したような場合には、自主的に個人情報の削除を行わなければならないこととされています(本法第47条第1項第1号、第2号)。

2-5 個人情報の共同処理と委託処理

本法においては、個人情報処理者が、他の個人情報処理者と共同で個人情報の処理をする場合と、他の個人情報処理者に個人情報の処理を委託する場合とを分けて、以下のとおり個別に定めを置いています。

2-5-1 共同での個人情報処理

2 以上の個人情報処理者が共同で個人情報の処理の目的や処理方式を決定する場合、各自の権利及び義務について合意することが必要で、個人情報処理者が共同で個人情報を処理したことによって、個人情報の権益に損害をもたらした場合、当該個人との関係では連帯責任を負うこととなります(本法第20条)。

2-5-2 個人情報の委託処理

個人情報処理者が個人情報の処理を第三者に委託する場合には、以下の要件を満たすことが必要です。

  • 受託者と委託にかかる処理の目的、期限、処理方式、個人情報の種類、保護措置、双方の権利及び義務等について合意すること
  • 受託者の個人情報処理活動を監督すること

そして、受託者は合意された処理目的、処理方法等を超えて個人情報の処理をすることはできませんし(本法第21条第1項、第2項)、個人情報の処理を再委託する場合にも個人からの同意が必要です(本法第21条第3項)。

GDPRにおいては、個人情報の委託処理について、EUによる標準契約条項により合意することが定められていますが(GDPR第28条第6項)、本法においては、委託者と受託者間で上記各事項の合意をすべきことが要求されているにとどまり、標準契約の締結についてまでは言及されていません。

なお、個人情報の委託処理を行う場合には、個人情報処理者は事前に個人情報保護への影響評価の実施と、処理状況の記録をすることが必要とされているほか(本法第55条第3号)、受託者においては、法令の定めに基づいて必要な措置を講じて、個人情報のセキュリティを保障し、且つ、個人情報処理者が本法に定める義務を履行することに協力することが必要とされています(本法第59条)。

2-5-3 その他の個人情報処理者への提供

上記の各場合のほか、個人情報処理者が、その他の個人情報処理者にその処理する個人情報を提供する場合には以下の要件を満たすことが必要です(本法第23条)。

  • 個人に受領者の名称又は氏名、連絡先情報、処理の目的、処理方式及び個人情報の種類を告知すること
  • 個人から単独の同意を取得すること

この場合にも、個人情報処理者は事前の個人情報保護への影響評価及び処理状況の記録をすることが必要となっています(本法第55条第3号)。

2-6 自動意思決定

個人情報処理者が個人情報を利用して自動意思決定を行う場合、意思決定の透明性並びに処理結果の公平性及び公正性を確保し、個人の取引価格等の取引条件において差別的な待遇をしてはならないことが明確にされました(本法第24条第1項)。このような取引条件における差別的待遇の禁止は、第二次審議稿の時点では規定されていませんでしたが、本法においてこれが追記された形となります。

これは近時、ECサイトなどで古いユーザーの方が新規ユーザーよりも不当な取引条件を付けられるといった現象(中国語で「大数据杀熟」)が広く見られ、ユーザーの特性、属性に応じて、このような取引条件の変更がなされることが問題視されたことを受け、このような社会的な要請に応じたものといえます。

また、自動意思決定の方法を通じてビジネスマーケティング又はプッシュ型情報配信を行うときは、当該個人の特徴を対象としない旨の選択肢を同時に提供し、もしくは個人に対して簡便に拒絶の方法を提供することが必要です(本法第24条第2項)。

自動意思決定が個人の権益に重大な影響を及ぼす場合、個人は個人情報処理者に説明を要求することができ、かつ、個人情報処理者の自動意思決定の方法のみを通じた決定の実施を拒絶することができるとして、個人による説明要求と拒絶権限が定められています(本法第24条第3項)。

なお、個人情報を利用して自動意思決定を行う場合、個人情報処理者は事前の個人情報保護への影響評価及び処理状況の記録をすることが必要です(本法第55条第2号)。

2-7 個人情報の公開

個人情報処理者がその処理する個人情報を公開する場合には、個人から個別の同意を得る必要があります(本法第25条)。

前述のとおり、本法の規定に基づき合理的な範囲内で、個人が自ら公開し又はその他適法に公開された個人情報を処理する場合には個人からの同意を得る必要はありませんが(本法第13条第1項第6号、第27条)、処理する個人情報を公開する場合には別途同意を得ることが必要ということになります。また、個人が自ら公開等した個人情報を処理する場合であっても、これが個人の権益に対して重大な影響を与える場合には同意が必要となる点は留意が必要です(本法第27条)。

なお、個人情報を公開する場合も、事前の個人情報保護への影響評価及び処理状況の記録をすることが必要です(本法第55条第3号)。

2-8 センシティブ個人情報の保護と処理規則

センシティブ個人情報については、以下のとおり通常の個人情報処理に加えて、以下の特則が設けられています。

  • 個人情報の処理にあたっては、特定の目的と十分な必要性を有し、且つ厳格な保護措置を講じていること(本法第28条第2項)
  • 個人情報の処理にあたっては、原則として個別の同意を取得すること(本法第29条)
  • 個人情報の処理にかかる告知事項として、さらにセンシティブ個人情報を取り扱う必要性及び個人の権益への影響を追加すること(本法第30条)

また、センシティブ個人情報のうち14歳未満の未成年者の個人情報を取り扱う場合には、更に以下の要件を満たす必要があります(本法第31条)。

  • 未成年者の父母その他の監護者の同意を得ること
  • 個人情報の処理に関する特別な規定を設けること

なお、現時点では、センシティブ個人情報に属する各個人情報の処理について法令は特段定められていない状況です。ただ、2021年7月28日に公布された「表情識別技術を使用して個人情報を処理することに関する民事案件審理に適用する法律適用の若干問題に関する規定」(关于审理使用人脸识别技术处理个人信息相关民事案件使用法律若干问题的规定)においては、個人の表情情報は、民法典にいう個人識別情報に該当することが定められており(同規程第1条第3項)、表情情報の処理に起因する民事紛争、民事責任に関して一定の解釈基準を示しています。

*1:集団契約とは、会社と労働組合との間で締結される、従業員全体の労働条件について合意し、締結される契約をいいます。

反外国制裁法について

近時、香港問題や新疆ウイグル自治区問題等を理由、契機として欧米諸国から中国企業又は中国企業と取引のある外国企業に対して不利益な制裁を課されるという例が増えています。特にアメリカのトランプ元大統領時代から顕著になった米中貿易戦争を背景として、中国においては諸外国による中国の個人や組織に対する不利益な制裁に対抗するために、これまで「外国法律と措置の不当な域外適用阻止弁法」(阻断外国法律与措施不当域外适用办法、以下「本弁法」)や「信頼不能実態リスト規定」(不可靠实体清单规定、以下「本規定」)といった規定を制定してきましたが、これらが制定された後も米国による対中制裁措置等は特段落ち着く様子はなく推移してきました。

このような背景の下、2021年6月10日全人代常務委員会は「反外国制裁法」(中国語も「反外国制裁法」、以下「本法」)を制定しました。本弁法や本規定は、商務部が制定した部門規章レベルの規定でしたが、本法は法律レベルでの規定となり、国として諸外国による制裁措置に対して対抗するより一層明確な意思が表明されたものといえます。

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今回は、全16条というシンプルな条文により構成される本法についてその概略を説明していきたいと思います。

1 本法の適用対象

1‐1 適用対象行為

本法は第3条第1項において「中国は覇権主義と強権政治に反対し、如何なる国家による如何なる理由による、如何なる方法による中国内政への干渉に反対する」と、他国による中国への内政干渉に反対する姿勢を前置きしつつ、以下のような行為に対して本法を適用して、これに対して対抗措置(中国語は「反制措施」)を講じることができるとしています(本法第3条第2項)。

  • 外国国家が国際法と国際関係の基本準則に違反し、
  • 各種の理由又はその国の法律に基づき中国に対して抑制、抑圧して中国の国民、組織に対して差別的制限措置を講じ、
  • 国家への内政に干渉すること

上記の定義からもわかる通り、本法は、諸外国による中国への内政干渉に対する対抗することを主眼としたものであるといえます。この観点は、本弁法、本規定でも理念として掲げられていましたが(本弁法第3条、本規定第3条)、本法ではこの点がより一層明確にされているといえます。

もっとも、本法適用対象行為の定義は非常に抽象的であり、具体的にどのような行為が本法の適用対象となるのかはかなり不明です。

また、上記のほか、以下の要件を満たす場合も本法に基づく対抗措置発動の対象となります(本法第15条)。

  • 外国国家、組織又は個人が中国の主権、安全、発展利益に危害を加える行為を実施し、協力し、支持し、
  • 対抗措置を講じる必要がある場合

上記は、信頼不能実体リスト制度の適用対象となる外国実体による行為と同一の視点に立っているものといえます(本規定第2条第2項)。

ただ、こちらについても非常に抽象的な規定が置かれているにとどまるといえます。

1‐2 適用対象主体

対抗措置の適用対象となる主体について、本法は以下のとおり定めています(本法第4条)。

  • 国務院の関連部門は、
  • 本法第3条に定める差別的制限措置の制定、決定、実施に直接又は間接的に参与した個人又は組織を
  • 対抗措置リスト(中国語は「反制清单」)に加えることを決定できる

上記からは、本法の適用対象となる主体は、前述した差別的制限措置の制定、決定、実施に直接、間接に参与した個人、組織であることが分かると共に、国務院の関連部門が本法に基づいて対抗措置リストにこれらの者を加えることができることとされていることが分かります。

対抗措置リストに掲げられた者に対しては、後述するような対抗措置を講ずることが可能ということになりますが、この構造は本規定に基づき信頼不能実体リストに掲げられた主体に対して一定の措置を講じることができるというものと同じであり、対抗措置リストと信頼不能実体リストが今後実務上どのように区別されて運用されるのかという点は着目していく必要があるように思われます。

更に、上記の者に加えて以下の者についても対抗措置が加えられる可能性があります(本法第第5条)。

  • 対抗措置リストに加えられた個人の配偶者及び直系親族
  • 対抗措置リストに加えられた組織の高級管理人員又は実質的支配者
  • 対抗措置リストに加えられた個人が高級管理人員に就任している組織
  • 対抗措置リストに加えられた個人及び組織が実質的に支配し、又は設立、運営に参与する組織

対抗措置リストに加えられた個人、組織から更に一歩踏み込んで本法を適用して対抗措置を講じることができることになりますが、これは本弁法や本規定では見られなかった内容といえます。なお、上記に該当するか否かは、これも国務院の関連部門による権限として定められています。 

2 対抗措置の内容等

2-1 対抗措置の内容

国務院の関連部門は、上記の本法適用対象主体に対して、以下のいずれか又は全部の対抗措置を講じることができます(本法第6条)。

  • ビザの不発行、入国禁止、ビザの取消、あるいは国外追放
  • 中国国内にある動産、不動産やその他各種財産の差し押さえ、押収、凍結
  • 中国国内の組織、個人との関連取引、提携等の活動の禁止又は制限
  • その他の必要な措置

 なお、信頼不能実体リストに加えられた者に対する措置は以下のようになっています。

  • 中国と関係のある輸出入活動の制限又は禁止
  • 中国国内への投資の制限又は禁止
  • その関連人員、交通運輸ツールの入国の制限又は禁止
  • 関連人員の中国国内における就業許可、滞留又は居留資格の制限又は取り消し
  • 情状に応じた過料
  • その他必要な措置

これと比べると、本弁法に基づく対抗措置については、中国国内にある資産への差押等が可能とされている点はより強力になっているといえます。

国務院によりなされた対抗措置の決定は、最終決定として扱われる一方(本法第7条)、状況の変化に基づき、国務院は対抗措置の暫定的停止、変更又は取消をすることができるとされています(本法第8条)。

本規定では、信頼不能実体リストに加えられた者について、工作機関が状況の変化に基づいて当該リストから当該主体を抹消することができるとされているのに対し(本規定第13条第1項)、本法においては、対抗措置リストから主体を抹消できる旨の規定は定められておらず、少なくとも規定上はあくまで対抗措置の停止等がされるにとどまっています。

また、外国国家、組織又は個人が中国の主権、安全、発展利益に危害を加える行為に対する対抗措置については、本法以外にも法律、行政法規、部門規章に基づいて、その他の対抗措置を定めることができるともされており(本法第13条)、今後、更に対抗措置が拡充されていくことも想定されます。

2-2 対抗措置の効果

対抗措置が講じられた場合、中国国内の組織及び個人は、国務院の関連部門による対抗措置を執行しなければならず、これに違反した場合には同部門により処理され、関連活動への従事を制限又は禁止されるとされています(本法第11条)。

これにより、国務院が例えば対抗措置としてビザの不発行や抹消を決定した場合には、外交部や公安部門等がこれに対応しなければならないということになるでしょうし、取引等が制限された場合には、取引を行う主体において取引等を実施してはならないということになるでしょう。

3 救済措置

本法は、如何なる組織、個人も外国が中国に対して行う差別的制限措置の執行、協力をしてはならないとし、同時にこれに違反して中国国民、組織の合法検疫を侵害した場合、中国国民、組織は裁判所に対して訴訟を提起して侵害の停止、損害の賠償を求めることができると規定されています(本法第12条)。

このような司法上の救済規定は、本規定でも似たような規定が置かれていますが(本規定)、当該規定に基づいて具体的にどのような者に対して訴えを提起することができるのか(国外に所在する個人や組織を相手にすることができるのか等)、訴訟を提起する場合の具体的な手続といった、具体的な内容については定められておらず、これらを具体化する立法がない中では、実践での運用は困難と思われます。

4 おわりに

以上、本法について概観してきました。先に施行されている本規定、本弁法と同様、かなり抽象的な規定が定められているにとどまり、どちらかといえば実際に執行することよりも諸外国に対するけん制をすることに主眼が置かれた立法なのではないかと想像されるところです。

信頼不能実体リストについても、依然として具体的なリストの公表もされておらず、どのような企業がリストに載せられるのかというのは注目され続けているところです。本法を更に具体化される下位法令が今後制定されていくと思われますが、これも今後のアメリカを含めた諸外国との対立状況の推移を見守りながらということになるのではないでしょうか。

いずれにしても、世界でビジネスを行う企業からすると、コンプライアンス上の対応として何をしたらよいのかという予測可能性を持つことができないので、その点でやりにくさというものがどうしても残ってしまうように思われます。

インターネット法院について

中国における裁判所(中国語は「法院」)については、以前も簡単に紹介をしましたが、今回はその中でも近時中国でも活発に利用されているインターネット法院(互联网法院)について少しご紹介したいと思います。

1 インターネット法院とは

日本の裁判所は、まだまだIT化にほど遠い中、中国では2017年に巨大IT企業アリババの所在する杭州にて最初のインターネット法院が設立されました。その後2018年に北京と広州でも設立され、現在中国全国で3か所にインターネット法院が設置されていることになります。

インターネット法院は、案件の受理、送達、和解、証拠交換、期日前準備、法廷審理、判決等の訴訟プロセスを全てオンラインで完結させる審理方法を採用する裁判所です(インターネット裁判所の案件審理に関する若干問題の規定(关于互联网法院审理案件若干问题的规定、以下「本規定」)第1条第1項)。訴訟プロセスの殆どをオンラインで行うことができるということになります。現在日本の裁判所もようやくIT化に向けて重い腰を上げ始めたところですが、既に2周遅れ、3周遅れくらいしているような感覚です。

もっとも、あらゆる紛争がインターネット法院で審理されるわけではなく、以下の紛争に係る、基層人民法院が受理すべき第一審について管轄するものとされています(本規定第2条)。

  • 電子商取引プラットフォームを通じて締結され、又は履行されるインターネットショッピング契約に関連して生じた紛争
  • 契約の締結、履行のいずれもインターネット上で完結するネットワークサービス契約に関する紛争
  • 契約の締結、履行のいずれもインターネット上で完結するローン契約、少額ローン契約に関する紛争
  • インターネット上で最初に公表された作品の著作権又は隣接権の帰属に関する紛争
  • インターネット上における、オンラインで公表又は公衆送信されている作品の著作権又は隣接権の侵害に関する紛争
  • インターネットドメインの帰属、侵害及び契約に関する紛争
  • インターネット上での他人の人身権、財産権等の民事権益に関する紛争
  • 電子商取引プラットフォームを通じて購入した商品に瑕疵があったことにより、他人の人身、財産権益を侵害する製造物責任に関する紛争
  • 検察機関が定期するインターネット公益訴訟案件
  • 行政機関によるインターネット情報サービス管理、インターネット商品取引及びサービス管理等の行政行為により生じた行政紛争
  • 上級人民法院が管轄を指定したその他のインターネット関連の民事、行政案件

上記のとおりインターネット法院で審理される案件はいずれもインターネットに関連する民事又は行政事件の第一審に限定されており、刑事事件は対象となっていません。

当事者はインターネット法院を合意管轄裁判所として定めることもできますが、インターネット法院が紛争と実際の連結点を有することが必要です(本規定第3条)。ここにいう連結点とは、通常は当事者の住所、契約締結地、契約履行地等が含まれますが(民事訴訟法第34条参照)、インターネットの特性に鑑み、侵害行為のなされているサーバー、エンドデバイス等の所在地も連結点に含まれると考えられています(インターネット法院の案件審理司法解釈の理解と適用(互联网法院审理案件司法解释的理解与适用、以下「本解釈」​)第四)。

2 インターネット法院での裁判手続の流れ

インターネット法院での各種手続は、各インターネット法院の設ける訴訟プラットフォーム上においてなされます。

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北京インターネット法院のプラットフォーム

大まかなプロセスとしては、

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という流れです(裁判所ごとに若干流れが異なることがあり得ますが概ねこのような流れとご理解ください)。

2-1 提訴

原告は、訴訟提起をするにあたってプラットフォームでの登録をすることになります。

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原告登録画面

プラットフォーム上での原告登録が完了すると、訴状、委任状等の基本的な訴訟資料をデータでアップロードすることになります。

2-2 受理

原告のアップロードした訴状等の資料を踏まえ、インターネット法院がこれに対して、受理、不受理、返却(中国語は「退回」)の処理をすることになります。不受理というのは、訴訟条件を満たさない訴えに対してなされる処理で(杭州インターネット法院訴訟プラットフォーム操作規程(杭州互联网法院网上诉讼平台操作规程、以下「杭州操作規程」)第10条)、返却というのは、訴えがインターネット法院の受理範囲に属さない場合になされる処理になります(同第11条)。

訴えが受理され、案件として立案がされると、オンラインにて訴訟費用の納付をすることになります。

2-3 応訴

案件が立案されると、携帯電話(SMS)、ファックス、Eメール、メッセンジャーアプリ等を通じて被告に対して事件の通知がなされ、被告はこれを基にプラットフォーム上で身元確認と事件との関連付けをすることになります。

応訴にあたっては、訴状に対して答弁書の提出、さらには反訴の提起をすることになります。

2-4 送達

文書の送達は、原則として電子送達によってなされます。プラットフォームに登録されたアカウントへの送付、そしてこれに紐づいたメールアドレス、We Chat等のSNSにプッシュ通知がなされることで送達されたこととされます(杭州操作規程第22条第1項)。また、法的には受領の回答をした場合のほか、システム上通知が既読となったことでも送達が完了したものとみなされます(本規定第17条第2項)。

他方、当事者の所在が不明となっていたり、プラットフォーム上の方法では送達ができないような場合には、公示送達となりますが(民事訴訟法第92条、杭州操作規程第24条)、公示送達についてもプラットフォーム上でなされます。

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プラットフォーム上での公示送達

2‐5 証拠、証拠意見の提出

当事者は自らの主張を立証するために証拠を提出することになります(中国語で「举证」)が、いずれもプラットフォーム上での提出となります(本規定第9条)。

証拠はオンライン上の証拠とオフライン上の証拠のいずれも提出可能です。ここにいう「オンライン上の証拠」には例えばECプラットフォームの保有する取引関連記録(当事者の身分情報、取引時間、購入品等)も含まれると理解されています(本解釈6(2))。他方、「オフライン上の証拠」というのは、オフラインで存在する物証や書証等が考えられ、これらを写真、スキャン、録音録画等したうえでプラットフォームに提出することになります。

2-5-1 電子データの真実性

当事者は相手方の提出する電子データの真実性(日本でいえば「真正」)について異議を述べることができますが、真実性に異議が述べられた場合には、裁判所は、データの生成されるプラットフォーム、保存媒体、保管方法、データ取り出しの主体、データ移転プロセス等を検証し、データの生成、収集、保管、移転の各プロセスにおける真実性を検討するものとされています(本規定第11条第1項)。

当事者が電子署名、タイムスタンプ、ハッシュ算法、ブロックチェーン等のデータ改ざん防止手段もしくは証拠保全プラットフォームを利用した証拠の固定、保存、収集等により、電子データの真実性を証明することができる場合には、裁判所はその内容を確認すべきものとされており(本規定第11条第2項)、これらの技術の利用によって電子証拠の証拠の効力が高められるといえます。

2-5‐2 証拠の提出等

当事者が証拠を提出することができる期間については、通常の訴訟と同様に15日を下回ってはならないと理解されます(民事訴訟法の適用に関する解釈(关于适用〈中华人民共和国民事诉讼法〉的解释)第99条第2項、杭州操作規程第25条第1項)。

そして、証拠の真実性、適法性、関連性に関する意見表明(中国語で「质证」)についても、開廷前に事前にオンラインで行うことができます(杭州操作規程第26条)。

2-6 審理

法廷審理は、原物の確認が必要など、確かにオフラインでの審理が必要なプロセスを除き、原則としてオンラインのビデオ会議システムを通じて行われます(本規定第12条)。この場合、状況に応じて簡易審理手続を採用することができるとされています。すなわち、

  • 開廷前に本人確認、権利義務告知、法廷の規律を既に告げている場合には開廷時に再度繰り返さない
  • 当事者が既にオンラインで証拠交換をしており、争いのない証拠については、裁判官による説明後、再度の挙証、証拠意見の提示は不要
  • 当事者の同意を得たうえで、当事者の陳述、法廷調査、法廷弁論等のプロセスを合わせて行う

ことができます(本規定第13条)。もっとも、この簡易手続を採るか否かは裁判所の判断によることになり、通常の手続を採ることも可能となっています。なお、公示送達のなされた案件で、且つ事実関係、権利義務関係が明確な簡易な民事事件についても簡易手続を採ることが可能とされています(本規定第18条)。

審理における各プロセスについては、自動反訳システムにより作成される電子調書によって記録され、また、裁判所における訴訟記録もいずれも電子データにより作成され、保管されることとされています(本規定第20条、第21条)。これらの点も非常に先進的であると思います。

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法廷の中継

なお、法廷の様子はプラットフォーム上で公開、中継されており、またバックナンバーを見ることもできます。

3 執行、上訴

第一審が終結し、原告が勝訴をした場合には強制執行の申し立てをすることになり、また当事者のいずれかが判決に対して不服がある場合には上訴の申し立てをすることになります。強制執行の申し立て、上訴の申し立てのいずれについてもプラットフォーム上で行うことができます。

なお、上訴がなされた場合には、上訴審も原則としてオンラインでの審理を行うものとされています(本規定第22条)。

データセキュリティ法(第二次審議稿)について

前回は個人情報保護法の第二次審議稿について紹介しましたが、同法の第二次審議稿と合わせて、こちらも以前紹介したデータセキュリティ法についても第二次審議稿(数据安全法(草案二次审议稿))が公表されました。

chinalaw.hatenablog.com

そこで、今回も前回の個人情報保護法第二次審議稿と同様、草案と第二次審議稿における条文を新旧対象する形式で、データセキュリティ法第二次審議稿について概観してみたいと思います。

1 総則

草案 第二次審議稿
第1条
データの安全を保障し、データの開発利用を促進し、公民、組織の合法的な権益を保護し、国の主権、安全と発展の利益を守るために、本法を制定する。
第1条
データ処理活動を規範し、データの安全を保障し、データの開発利用を促進し、公民、組織の合法的な権益を保護し、国の主権、安全と発展の利益を守るために、本法を制定する。
第2条
中国国内において展開するデータ活動につき、本法を適用する。
中国国外の組織、個人がデータ活動を展開し、中国の国の安全、公共の利益または公民、組織の合法的な権益に損害を与えた場合、法律に基づいて責任を追及する。
第2条
中国国内において展開するデータ処理活動及びその安全監督管理につき、本法を適用する。
中国国外でデータ処理活動を展開し、中国の国の安全、公共の利益または公民、組織の合法的な権益に損害を与えた場合、法律に基づいて責任を追及する。

第3条
本法でいうデータとは、電子的形式または非電子的形式のいずれかで情報が記録されたものをいう。

データ活動とは、データの収集、保存、加工、使用、提供、取引、公開などの行為をいう。

データセキュリティとは、必要な措置を講じることで、データが効果的に保護され、合法的に利用され、継続的に安全な状態が維持される能力をいう。

第3条
本法でいうデータとは、電子的形式または非電子的形式のいずれかで情報が記録されたものをいう。

データ処理とは、データの収集、保存、加工、使用、提供、伝達、公開などの行為をいう。

データセキュリティとは、必要な措置を講じることで、データが効果的に保護され、合法的に利用される状態を確保し、そして安全な状態の維持を保障する能力をいう。

第7条
各地区、各部門は本地区、本部門の業務中に発生し、とりまとめ、加工したデータ及びデータセキュリティに対して主体的責任を負う。
工業、電信、自然資源、衛生健康、教育、国防科学技術工業、金融業などの業界主管部門はそれぞれの業界、領域のデータセキュリティの監督管理の職責を担う。
公安機関、国家安全機関などは本法及び関連法律、行政法規の規定により、各自の職責の範囲内においてデータセキュリティの監督管理につき職責を担う。
国のインターネット情報部門は本法と関連法律、行政法規の規定に基づいて、ネットワークデータセキュリティと関連監督・管理業務の統一的な協調を担う。
第7条
各地区、各部門は本地区、本部門の業務中に発生し、とりまとめ、加工したデータ及びデータセキュリティに対して主体的責任を負う。
工業、電信、交通、金融、自然資源、衛生健康、教育、科学技術などの業界主管部門はそれぞれの業界、領域のデータセキュリティの監督管理の職責を担う。
公安機関、国家安全機関などは本法及び関連法律、行政法規の規定により、各自の職責の範囲内においてデータセキュリティの監督管理につき職責を担う。
国のインターネット情報部門は本法と関連法律、行政法規の規定に基づいて、ネットワークデータセキュリティと関連監督・管理業務の統一的な協調を担う。
  第10条(新設)
関連する業界は、定款に基づき、データセキュリティ行為規範を制定し、業界の自律を強化し、データセキュリティ保護の強化につき会員を指導し、データセキュリティ保護レベルを向上し、業界の健全な発展を促進する。

第二次審議稿においては、草案では「データ活動」とされていた用語を「データ処理(活動)」という用語に置き換えました。そして、草案ではデータセキュリティ法の適用対象をデータ活動のみとしていたのに対して、第二次審議稿はデータ処理活動のほかその安全監督管理も含めました。また、データセキュリティの定義についても若干修正が加えられています。

また、各主管部門によるデータセキュリティの監督管理に係る職責が規定されているところ第二次審議稿では「交通」部門が追加されていますが、これは近時の自動化運転やスマートカー、コネクティッドカー等の出現を反映したものと理解されます。

そのほか、業界における行為規範の制定やデータセキュリティ保護レベルの向上といった事項が業界の責務として新たに規定され、業界ごとの取り組みをすることが求められているといえます

2 データセキュリティと発展

草案 第二次審議稿
第13条
国はビッグデータ戦略を実施し、データインフラの建設を推進し、各業界、各分野におけるデータの革新的な応用を奨励、支援し、デジタル経済の発展を促進する。省レベル以上の人民政府はデジタル経済発展計画を制定し、当該レベル国民経済と社会発展計画に組み
入れなければならない。
第14条
国はビッグデータ戦略を実施し、データインフラの建設を推進し、各業界、各分野におけるデータの革新的な応用を奨励、支援し、デジタル経済の発展を促進する。
県レベル以上の人民政府はデジタル経済発展計画を当該レベル国民経済と社会発展計画に組み入れ、且つ必要に応じてデジタル経済発展計画を制定する。
第14条
国はデータ開発利用技術の基礎研究を強化し、データの開発利用と安全などの分野における技術の普及とビジネスイノベーションをサポートし、データの開発利用とデータセキュリティ製品及び産業体系を育成、発展させる。
第15条
国はデータ開発利用技術とデータセキュリティの技術研究をサポートし、データの開発利用と安全などの分野における技術の普及とビジネスイノベーション奨励し、データの開発利用とデータセキュリティ製品及び産業体系を育成、発展させる。
第15条
国はデータ開発利用技術とデータ安全標準体系の構築を推進する。国務院標準化行政主管部門と国務院関連部門は各自の職責に基づき、データ開発利用技術、製品及びデータの安全に関連する標準を制定し、適時改訂する。国は企業、研究機関、大学・大学院、関連業界組織などが基準の制定に参与するようサポートする。
第16条
国はデータ開発利用技術とデータ安全標準体系の構築を推進する。国務院標準化行政主管部門と国務院関連部門は各自の職責に基づき、データ開発利用技術、製品及びデータの安全に関連する標準を制定し、適時改訂する。国は企業、社会団体、教育・科学研究機関などが基準の制定に参与するようサポートする。
第18条
国は大学・大学院、職業学校と企業などがデータの開発利用技術と安全に係る教育と研修を展開することをサポートし、様々な方式を採用してデータ開発利用技術と安全に係る専門人材を養成し、人材の交流を促進する。
第19条
国は大学・大学院、職業学校、科学研究機関と企業などがデータの開発利用技術と安全に係る教育と研修を展開することをサポートし、様々な方式を採用してデータ開発利用技術と安全に係る専門人材を養成し、人材の交流を促進する。

3 データセキュリティ制度

草案 第二次審議稿
第19条
国はデータが経済社会発展中の重要度によって、またはいったん改ざん、破壊、漏洩もしくは不法取得、不法利用された場合、国の安全、公共の利益もしくは公民、組織の合法的な権益への危害の程度によって、データに対してランク付け、分類し保護する。
各地区、各部門は、国の関連規定に基づいて、本地区、本部門、本業界の重要データ保護リストを確定し、リストに登録されたデータを重点的に保護する。
第20条
国はデータの分類、ランク別の保護制度を構築し、データが経済社会発展中の重要度によって、またはいったん改ざん、破壊、漏洩もしくは不法取得、不法利用された場合、国の安全、公共の利益もしくは公民、組織の合法的な権益への危害の程度によって、データに対してランク付け、分類し保護するものとし、且つ、重要データリストを確定して重要データの保護を強化する。
各地区、各部門は、国の関連規定に基づいて、本地区、本部門及び関連業界、領域の重要データ保護リストを確定し、リストに登録されたデータを重点的に保護する。
第23条
国は、国際的義務の履行や国の安全の維持に関連する規制対象品目に該当するデータについて、法律に基づいて輸出規制を実施する。
第24条
国は、国の安全と利益の維持、国際的義務の履行の維持に関連する規制対象品目に該当するデータについて、法律に基づいて輸出規制を実施する。
第24条
いかなる国あるいは地域も、データ及びデータの開発利用技術などに係る投資、貿易面において中国に対して差別的な禁止、制限又はその他の類似する措置を講じた場合、中国は、実情に応じて、当該国あるいは地域に対して相応した措置を講ずることができる。
第25条
いかなる国あるいは地域も、データ及びデータの開発利用技術などに係る投資、貿易面において中国に対して差別的な禁止、制限又はその他の類似する措置を講じた場合、中国は、実情に応じて、当該国あるいは地域に対して同等の措置を講ずることができる。

草案では各地区、各部門の職責とされていた重要データの保護強化について、地区ごとでの保護レベルに差異が生じることを避けるため、国レベルでもその職責として構成されています。なお、「重要データ」は2016年に施行されたサイバーセキュリティ法でも既に現れている用語であるものの、法令上はまだ明確な定義が置かれていませんが、情報のランク別、そして類型別にリスト化して重点保護をするということは明確にされています。

また、外国によるデータ開発技術等における差別的措置がなされた場合について、草案では、「相応した措置」を講じることができるとされていたのが「同等の措置」を講じることができるとして報復措置はあくまで同等の措置であるということが明確にされています。

4 データセキュリティ保護義務

草案

第二次審議稿

第25条
データ活動を展開する際は、法律、行政法規の規定と国家基準の強制的要求に従い、健全な全プロセスのデータセキュリティ管理制度を構築し、データセキュリティ教育研修を実施し、関連技術措置及びその他の必要な措置を取り、データの安全を保障しなければならない。
重要データの処理者は、データセキュリティの責任者と管理機関を設け、データの安全保護の責任を実行するものとする。

第26条
データ活動を展開する際は、法律、法規の規定に従い、サイバーセキュリティ等級保護制度の基において、健全な全プロセスのデータセキュリティ管理制度を構築し、データセキュリティ教育研修を実施し、関連技術措置及びその他の必要な措置を取り、データの安全を保障しなければならない。
重要データの処理者は、データセキュリティの責任者と管理機関を明確にし、データの安全保護の責任を実行するものとする。

第27条
データ活動を展開する際は、リスクモニタリングを強化し、データセキュリティの欠陥やセキュリティホールなどのリスクが発見された場合は、直ちに是正措置を講じるものとする。データセキュリティに係る事件が発生した場合は、規定に基づいて、速やかに使用者に通知し、同時に関連主管部門に送付・報告するものとする。

第28条
データ活動を展開する際は、リスクモニタリングを強化し、データセキュリティの欠陥やセキュリティホールなどのリスクが発見された場合は、直ちに是正措置を講じるものとする。データセキュリティに係る事件が発生した場合は、速やかに処置、措置を講じ、規定に基づいて、速やかに使用者に通知し、同時に関連主管部門に送付・報告するものとする。

第28条
重要データの処理者は、規定に基づいて、データ活動について定期的にリスク評価を実施し、関連主管部門にリスク評価レポートを送付・報告しなければならない。
リスク評価レポートには、当該組織が把握している重要データの種類・数量、データの収集、保存、加工、使用状況、データセキュリティリスクとその対処方法などが含まれるものとする。

第29条
重要データの処理者は、規定に基づいて、データ活動について定期的にリスク評価を実施し、関連主管部門にリスク評価レポートを送付・報告しなければならない。リスク評価レポートには、処理する重要データの種類・数量、データ処理活動の展開状況、データセキュリティリスクとその対処方法などが含まれるものとする。

 

第30条(新設)
重要情報インフラの運営者が中国国内での運営において収集、発生した重要データのセキュリティ管理については、サイバーセキュリティ法の規定を適用する。その他のデータ処理者が中国での運営において収集、発生した重要データの越境セキュリティ安全管理弁法は、国家インターネット情報部門が国務院の関連部門と共に制定する。

第29条

いかなる組織や個人もデータを収集する際は、合法的かつ正当な手段を使わなければならず、窃盗など不法な方法でデータを取得してはならない。法律、行政法規が、データの収集、利用の目的、範囲について規定している場合は、法律、行政法規の規定範囲内で、データを収集し、利用しなければならず、必要な限度を超えてはならない。

第31条

いかなる組織や個人もデータを収集する際は、合法的かつ正当な手段を使わなければならず、窃盗など不法な方法でデータを取得してはならない。法律、行政法規が、データの収集、利用の目的、範囲について規定している場合は、法律、行政法規の規定範囲内で、データを収集し、利用しなければならない。

第31条

オンラインデータ処理等のサービスを提供する事業者は、法に基づいて経営許可の取得も しくは届出をしなければならない。具体的な方法は国務院の電信主管部門が関連部署と共同で制定する。

32条

法律、行政法規がデータ処理関連サービスの提供をするにあたり行政許可の所得を規定している場合、サービス提供者は許可を取得するものとする。

第33条
国外の法執行機関が、中国国内に保存されたデータの取り寄せを要求する場合は、関連組織や個人が関連主管機関に報告し、許可を得た後、提供しなければならない。中国が締結または参加している国際条約、協定で、国外の法執行機関によるデータ取寄せについて規定がある場合は、その規定に従わなければならない。

第35条
中国国外の司法又は執行機関が中国国内で保存されているデータの取り寄せを要求する場合、中国主管部門の認可を経ずに提供してはならない。中国の締結又は参加する国際的な条約・協定に規定がある場合、当該規定によることができる。

データ活動に従事するにあたってはサイバーセキュリティ等級保護制度を構築したうえでの、データセキュリティ管理制度を構築することが必要とされました。サイバーセキュリティ等級保護基本要求(网络安全等级保护基本要求)やサイバーセキュリティ等級保護観測評価要求(网络安全等级保护测评要求)などを参照することになろうかと思います。

また重要情報インフラの運営者による重要データのセキュリティ管理は、サイバーセキュリティ法の規定を適用することが改めて確認されたのに加え、重要データの越境セキュリティ安全管理に関する規定は国家インターネット情報部門が国務院の関連部門と共に制定するとして、今後更なる規定が制定されることをうかがわせる規定が新たに置かれました。

5 政務データセキュリティと開放

草案 第二次審議稿
第37条
国の機関が第三者に、政務関連データの保存、加工を依頼し、あるいは第三者にデータを提供する場合は、厳格な承認プロセスを経て、かつ受取側が適切なデータの安全に係る保護義務を果たすことを、監督するものとする。
第39条
国の機関が第三者に、電子政務システムの構築・メンテナンス、政務関連データの保存、加工を依頼し、あるいは第三者にデータを提供する場合は、厳格な承認プロセスを経て、かつ受託者、データの受取側が適切なデータの安全に係る保護義務を果たすことを、監督するものとする。
第40条
公共事務の管理機能を持つ組織が、公共事務の管理機能を履行するためにデータ活動を展開する場合は、本章の規定を適用する。
第42条
法律、法規の授権により公共事務の管理機能を持つ組織が、法定の職責を履行するためにデータ処理活動を展開する場合は、本章の規定を適用する。

6 法律責任

草案 第二次審議稿
第42条
データ活動を展開する組織、個人が本法第25条、第27条、第28条、第29条にて定められたデータセキュリティに係る保護義務を履行していない、あるいは必要な安全措置を講じていない場合には、関係主管部門が是正を命じ、警告を与え、且つ1万元以上 10万元以下の過料を併科でき、また直接責任を負う主管者に対し5,000元以上5万元以下の過料を科すことができる。是正を拒否し、又は大量のデータ漏洩などの重大な結果をもたらした場合には、10万元以上100万元以下の過料を科し、直接責任を負う主管者とその他の直接責任のある者に対して 1 万元以上 10万元以下の過料を科す。
第44条
データ活動を展開する組織、個人が本法第26条、第28条、第29条、第30条にて定められたデータセキュリティに係る保護義務を履行していない、あるいは必要な安全措置を講じていない場合には、関係主管部門が是正を命じ、警告を与え、且つ5万元以上50万元以下の過料を併科でき、また直接責任を負う主管者及びその他の直接責任者に対し1万元以上10万元以下の過料を科すことができる。是正を拒否し、又は大量のデータ漏洩などの重大な結果をもたらした場合には、50万元以上500万元以下の過料を科し、関連業務の一時停止、企業の整頓、関連業務許可証又は営業許可証の取消しを合わせて命ずることができ、直接責任を負う主管者とその他の直接責任者に対して5万元以上50万元以下の過料を科す。
第43条
データ取引仲介機構が本法第30条に定める義務を履行しなかったことにより、不法な方式で取得したデータによる取引につながった場合には、関連主管部門が是正を命じ、違法所得を没収し、違法所得の1倍以上10倍以下の過料を科す。違法所得がない場合には、10万元以上 100万元以下の過料を科し、且つ関係主管部門が関連業務許可証、又は営業許可証の取消しを命ずることができる。直接責任を負う主管者とその他の直接責任のある者に対して 1万元以上 10万元以下の過料を科す。
第45条
データ取引仲介サービスに従事する機関本法第32条に定める義務を履行しなかったことにより、不法な方式で取得したデータによる取引につながった場合には、関連主管部門が是正を命じ、違法所得を没収し、違法所得の1倍以上10倍以下の過料を科す。違法所得がない場合又は違法所得が10万元に満たない場合には、10万元以上 100万元以下の過料を科し、且つ関連業務の一時停止、企業の整頓、関連業務許可証又は営業許可証の取消しを命ずることができる。直接の責任を負う主管者とその他の直接責任者に対して 1万元以上 10万元以下の過料を科す。
第44条
許可又は届出を取得せず、無断で本法第31条にて定める業務に従事した場合には、関連主管部門は是正を命じ又は取締り、違法所得を没収し、違法所得1倍以上10倍以下の罰金を科す。違法所得がない場合には、10万元以上 100万元以下の罰金を科す。直接の責任を負う主管者とその他の直接責任のある者に対して 1万元以上 10万元以下の罰金を科す。
第46条
本法第34条の規定に反してデータの取り寄せを拒絶し、協力しなかった場合、関連主管部門は是正を命じ、警告を与え、5万元以上50万元以下の過料を併科することができ、直接責任を追う主管者とその他の直接責任者に対して1万元以上10万元以下の過料を科す。本法第35条の規定に反して主管機関の認可を経ずに国外の司法又は法執行機関にデータを提供した場合、関連主管部門は是正を命じ、警告を与え、10万元以上100万元以下の過料を併科することができる。直接責任を追う主管者とその他の直接責任者に対し2万元以上20万元以下の過料を科す。
第47条
データ活動によって国の安全、公共利益に危害を与える、又は公民、組織の合法的な権益に損害をもたらした場合、関連法律、行政法規に基づいて処罰する。
第49条
データ処理活動を展開したことによって国の安全、公共利益に危害を与え、競争を排除、制限し、又は個人、組織の合法的な権益に損害をもたらした場合、関連法律、行政法規に基づいて処罰する。

第二次審議稿では、データ処理活動に従事する者の責任等を含む法的責任が草案に比べてかなり加重されており、データ保護義務に違反した場合でも営業許可証の取消等があり得ることとなっています。その意味では、今後データ処理活動に従事する者のデータ処理、管理等についてはコンプライアンス上の整備、体系の構築をしておかないと重大な処罰リスクを負う可能性が高まるといえそうです。

個人情報保護法(第二次審議稿)について

以前の記事で、2020年11月に公開された中国個人情報保護法(个人信息保护法)の草案について概略をご紹介しました。 

chinalaw.hatenablog.com

今般、全人代常務委員会で個人情報保護法の第二次審議稿の審議がされ、改めてパブリックコメントの募集がなされ、審議稿の内容も公表されました(パブリックコメントの募集期限は2021年5月28日まで)。草案は全8章、70か条で構成されていたのに対し、第二次審議稿は全8章、73か条で構成され、若干条文数が増えると共に、条文についても草案段階から若干のアップデートがなされています。

今回は、昨年公表された草案から比較的重要な変更のされた箇所を中心とし、新旧条文対比の形式で第二次審議稿を紹介したいと思います。なお、用語の定義については草案から特に変更されていませんので、用語の定義については上記の草案に関する記事を参照してください。

1 総則

草案 第二次審議稿
第6条
個人情報の処理には、明確で合理的な目的がなければならず、且つ、処理目的の実現に必要最小範囲にとどめ、処理目的と関係のない個人情報を処理してはならない。
第6条
個人情報の処理には、明確で合理的な目的がなければならず、且つ、処理目的の実現に必要最小範囲にとどめ、個人権益への影響を最小限とする方法を採用し、処理目的と関係のない個人情報を処理してはならない。
第7条
個人情報の処理にあたっては、公開、透明の原則を遵守し、個人情報処理規則を明示するものとする。
第7条
個人情報の処理にあたっては、公開、透明の原則を遵守し、個人情報処理規則を公開し、処理目的、方法及び範囲を明示するものとする。
第8条
処理の目的を実現するため、処理する個人情報は正確なものとし、遅滞なく更新されなければならない。
第8条
個人情報の処理にあたっては、個人情報の品質を保証するものとし、個人情報の不正確さ、不完全さにより個人権益に不利な影響が生じることを避けるものとする。

 個人情報処理にあたっての最小範囲の原則、公開透明の原則、個人情報の正確性に関する規定がそれぞれ修正され、特に第8条は全面的に修正されています。

2 個人情報処理規則

2-1 一般規定

草案 第二次審議稿
第13条
以下のいずれかの事由がある場合、個人情報処理者は個人情報の処理をすることができる。
  1. 個人の同意を得た場合
  2. 個人を一方の当事者とする契約の締結又は履行に必要な場合
  3. 法定の職責又は法定の義務の履行に必要な場合
  4. 突発的公衆衛生事件への対処又は緊急事態下における自然人の生命・健康や財産の安全の保護に必要な場合
  5. 公共の利益のための報道、世論監督等の行為をするために合理的な範囲内で個人情報を処理する場合
  6. 法律、行政法規に定めるその他の場合

第13条

以下のいずれかの事由がある場合、個人情報処理者は個人情報の処理をすることができる。

  1. 個人の同意を得た場合
  2. 個人を一方の当事者とする契約の締結又は履行に必要な場合
  3. 法定の職責又は法定の義務の履行に必要な場合
  4. 突発的公衆衛生事件への対処又は緊急事態下における自然人の生命・健康や財産の安全の保護に必要な場合
  5. 本法の規定に基づき合理的な範囲内で既に公開されている個人情報を処理する場合
  6. 公共の利益のための報道、世論監督等の行為をするために合理的な範囲内で個人情報を処理する場合
  7. 法律、行政法規に定めるその他の場合

本法のその他の関連規定において個人情報の処理にあたって個人の同意を取得するものとされているものの、前項2号ないし第7号の事由に該当する場合には、個人の同意を取得する必要がない。

第15条
個人情報処理者が処理する個人情報が14歳未満の未成年に係るものであることを知り又は知り得た場合、その未成年者の監護者の同意を得るものとする。
第15条
個人情報処理者が処理する個人情報が14歳未満の未成年に係るものである場合、その未成年者の父母又は監護者の同意を得るものとする。
第16条
個人の同意に基づく個人情報処理活動について、個人はその同意を撤回することができる。
第16条

個人の同意に基づく個人情報処理活動について、個人はその同意を撤回することができる。個人情報処理者は、容易な同意撤回方法を提供するものとする。

個人が同意を撤回したことは、同意の撤回前に同意に基づいてなされた個人情報処理活動の効力に影響を与えないものとする。

第22条
個人情報処理者が個人情報の処理を委託した場合、受託者との間で処理目的、処理方法、個人情報の種類、保護措置及び双方の権利義務等を合意し、且つ受託者による個人情報処理活動を監督する。

受託者は合意に基づき個人情報の処理を行い、合意された処理目的、処理方法等を超えて個人情報の処理をしてはならず、且つ、契約の履行完了又は委託関係の解除後には個人情報を個人情報処理者に返還し又は削除しなければならない。

受託者は、個人情報処理者の同意を経ずに、個人情報の処理を他人に再委託してはならない。

第22条

個人情報処理者が個人情報の処理を委託した場合、受託者との間で処理目的、期限、処理方法、個人情報の種類、保護措置及び双方の権利義務等を合意し、且つ受託者による個人情報処理活動を監督する。

受託者は合意に基づき個人情報の処理を行い、合意された処理目的、処理方法等を超えて個人情報の処理をしてはならない。委託契約が発効しなかった場合、無効となった場合、撤回又は終了された場合、受託者は、個人情報を個人情報処理者に返還し又は削除し、留保してはならない。

受託者は、個人情報処理者の同意を経ずに、個人情報の処理を他人に再委託してはならない。

第24条
個人情報取扱者は、自らが処理した個人情報を第三者に提供するときは、当該第三者の身分、連絡先、処理目的、処理方法及び個人情報の種類を当該個人に告知し、かつ、当該個人の単独の同意を取得しなければならない。個人情報を受領する第三者は、上述の処理目的、処理方法、個人情報の種類などの範囲において個人情報を処理しなければならない。第三者は、当初の処理目的又は処理方法を変更する場合、本法の定に従い、改めて個人に告知を行い、かつ、当該個人の同意を取得しなければならない。

個人情報取扱者が匿名化した情報を第三者に提供する場合、当該第三者は、技術等の手段を用いて個人の身分を改めて認識する行為に及んではならない。

第24条
個人情報取扱者は、自らが処理した個人情報を他人に提供するときは、受領者の身分、連絡先、処理目的、処理方法及び個人情報の種類を当該個人に告知し、かつ、当該個人の単独の同意を取得しなければならない。受領者は、上述の処理目的、処理方法、個人情報の種類などの範囲において個人情報を処理しなければならない。受領者は、当初の処理目的又は処理方法を変更する場合、本法の定に従い、改めて当該個人の同意を取得しなければならない。

第25条
個人情報を利用して自動意思決定を行うときは、意思決定の透明性並びに取扱結果の公平性及び合理性を確保しなければならない。個人は、自動意思決定が自らの権益に重大な影響を及ぼすものと考えたときは、個人情報取扱者に説明を要求することができ、かつ、個人情報取扱者の自動意思決定の方法のみを通じた決定の実施を拒絶することができる。

自動意思決定の方法を通じてビジネスマーケティング又はプッシュ型情報配信を行うときは、当該個人の特徴を対象としない旨の選択肢を同時に提供しなければならない。

第25条

個人情報を利用して自動意思決定を行うときは、意思決定の透明性並びに取扱結果の公平性及び合理性を確保しなければならない。自動意思決定の方法を通じてビジネスマーケティング又はプッシュ型情報配信を行うときは、当該個人の特徴を対象としない旨の選択肢を同時に提供し、もしくは個人に対して拒絶の方法を提供するものとする。

自動意思決定が個人の権益に重大な影響を及ぼす場合、個人は個人情報取扱者に説明を要求することができ、かつ、個人情報取扱者の自動意思決定の方法のみを通じた決定の実施を拒絶することができる。

第26条
個人情報取扱者は、自らが処理する個人情報を公開してはならない。ただし、個人の単独の同意を取得し、又は法律若しくは行政法規に別段の規定がある場合は除く。
第26条
個人情報取扱者は、自らが処理する個人情報を公開してはならない。ただし、個人の単独の同意を取得した場合は除く。
第27条
公共の場所に画像収集又は個人身分認識設備を設置するときは、公共の安全確保のために必須でなければならず、国の関連規定を遵守し、かつ、顕著な箇所に注意喚起の標識を設置しなければならない。収集した個人の画像又は身分の特徴の情報は、公共の安全確保の目的にのみ使用し、これを開示し、又は他者に提供してはならない。ただし、個人の単独の同意を取得し、又は法律若しくは行政法規に別段の定めのある場合は除く。
第27条
公共の場所に画像収集又は個人身分認識設備を設置するときは、公共の安全確保のために必須でなければならず、国の関連規定を遵守し、かつ、顕著な箇所に注意喚起の標識を設置しなければならない。収集した個人の画像又は身分の特徴の情報は、公共の安全確保の目的にのみ使用し、これを開示し、又は他者に提供してはならない。ただし、個人の単独の同意を取得した場合は除く。

第28条
個人情報取扱者の既に公開されている個人情報処理は、当該個人情報の公開時の用途と一致していなければならず、当該用途に係る合理的な範囲を超える場合、本法の規定に従って個人に告知し、かつ、当該個人の同意を取得しなければならない。

個人情報の公開時の用途が不明確なときは、個人情報取扱者は、合理的かつ慎重に既に公開されている個人情報を取り扱わなければならない。既に公開されている個人情報を利用し、個人に重大な影響を及ぼす行為に従事するときは、本法の規定に従って個人に告知し、かつ、当該個人の同意を取得しなければならない。

第28条
個人情報取扱者が既に公開されている個人情報を処理する場合、当該個人情報の公開時の用途と一致していなければならず、当該用途に係る合理的な範囲を超える場合、本法の規定に従って当該個人の同意を取得しなければならない。

個人情報の公開時の用途が不明確なときは、個人情報取扱者は、合理的かつ慎重に既に公開されている個人情報を取り扱わなければならない。既に公開されている個人情報を利用し、個人に重大な影響を及ぼす行為に従事するときは、本法の規定に従って当該個人の同意を取得しなければならない。

第13条の規定に若干の文言が追加され、個人の同意なく個人情報処理ができる場合を拡大すると共に、該当する事由のある場合には同意が不要である旨がより明確にされています。14歳未満の未成年者の個人情報を処理する場合には、個人情報処理者の主観にかかわらず、監護権者の同意又は父母の同意を得ることが必要とされました。

なお、未成年者の父母は法律上当然に監護権者とされています(民法典第27条第1項)。そのため、父母の同意と監護権者の同意を分けたのは、父母がいる場合には父母の同意を取得し、それ以外の場合には父母以外の監護権者の同意を取得することでも足りるという趣旨と思われます。

2‐2 センシティブ個人情報の処理規則

草案 第二次審議稿
32条
法律又は行政法規にセンシティブ個人情報の取扱時における関連の行政許可の取得義務が規定されており、又は更に厳格な制限が規定されているときは、当該規定に準ずる。
32条
法律又は行政法規にセンシティブ個人情報の取扱時における関連の行政許可の取得義務が規定されており、又はその他の制限が規定されているときは、当該規定に準ずる。
第36条
国家機関は、自らが取り扱う個人情報を公開し、又は他者に提供してはならない。ただし、法律又は行政法規に別段の規定があり、又は当該個人の同意を取得しているときは、この限りでない。
削除
  第37条(新設)
法律、法規の授権により公共事務の管理権限を有する組織が、法定の職責を履行するために個人情報を処理する場合、本法の国家期間による個人情報処理に関する規定を適用する。

3 個人情報の越境提供規則

草案 第二次審議稿
第38条
個人情報取扱者は、業務等の必要性により、中国国外に向けて個人情報を提供する必要性が確かにあるときは、少なくとも次の各号に掲げるいずれかの条件を満たさなければならない。
  1. 本法第40条の規定に従って国家インターネット情報部門が手配するセキュリティ評価を通過したこと
  2. 国家インターネット情報部門の規定に従い、専門的な機構を経て個人情報保護認証を取得したこと
  3. 中国国外の受領者と契約を締結し、双方の当事者の権利・義務を取り決め、かつ、その個人情報取扱行為の本法の定める個人情報保護基準への適合を監督したこと
  4. 法律、行政法規又は国家インターネット情報部門の定めるその他の条件
第38条
個人情報取扱者は、業務等の必要性により、中国国外に向けて個人情報を提供する必要性が確かにあるときは、少なくとも次の各号に掲げるいずれかの条件を満たさなければならない。
  1. 本法第40条の規定に従って国家インターネット情報部門が手配するセキュリティ評価を通過したこと
  2. 国家インターネット情報部門の規定に従い、専門的な機構を経て個人情報保護認証を取得したこと
  3. 国家インターネット情報部門の定める標準契約に基づいて中国国外の受領者と契約を締結し、双方の当事者の権利・義務を取り決め、かつ、その個人情報取扱行為の本法の定める個人情報保護基準への適合を監督したこと
  4. 法律、行政法規又は国家インターネット情報部門の定めるその他の条件
第41条
国際司法上の協力又は行政法執行上の協力に起因して中国国外に個人情報を提供する必要のある場合、法により関連の主管部門の認可を申請しなければならない。中国の締結又は参加する国際的な条約・協定が中国国外への個人情報の提供を規定している場合、当該規定に準ずる。
第41条
中国国外の司法又は執行機関が中国国内で保存されている個人情報の提供を要求する場合、中国主管部門の認可を経ずに提供してはならない。中国の締結又は参加する国際的な条約・協定に規定がある場合、当該規定によることができる。

個人情報の越境提供ができるための条件の一つとして草案では中国国外の受領者と契約を締結したことが定められていましたが、第二次審議稿では当該契約が国家インターネット情報部門の定める標準契約に準拠したものであることを要求しました。契約に基づいて越境提供をするにあたっても、当該契約内容に一定の規制、統率がなされたといえ、妥当な修正と思われます。

4 個人情報処理活動における個人の権利

草案 第二次審議稿
第47条
以下のいずれかの事由がある場合、個人情報処理者は自発的に又は個人の請求に基づき、個人情報を削除しなければならない。
  1. 約定した保存期間が既に満了しており、又は取扱目的が既に実現した場合
  2. 個人情報処理者が商品又はサービスの提供を停止した場合
  3. 個人が同意を撤回した場合
  4. 個人情報処理者が法律、行政法規に違反し又は約定に違反して個人情報を取り扱った場合
  5. 法律又は行政法規の規定するその他の場合
法律、行政法規が規定する保存期間が満了していない場合又は個人情報の削除が技術上実現困難な場合、個人情報処理者は個人情報の処理を停止しなければならない。
第47条
以下のいずれかの事由がある場合、個人情報処理者は自発的に個人情報を削除しなければならない。個人情報処理者が削除していない場合、個人は削除を請求することができる。
  1. 処理目的が既に実現し、又は目的の実現に不要となった場合
  2. 個人情報処理者が商品又はサービスの提供を停止した場合、もしくは保存期間が満了した場合
  3. 個人が同意を撤回した場合
  4. 個人情報処理者が法律、行政法規に違反し又は約定に違反して個人情報を取り扱った場合
  5. 法律又は行政法規の規定するその他の場合
法律、行政法規が規定する保存期間が満了していない場合又は個人情報の削除が技術上実現困難な場合、個人情報処理者は保存及び必要な安全保護措置以外の個人情報の処理を停止しなければならない。
  第49条(新設)
自然人が死亡した場合、本章の定める、個人情報処理活動における個人の権利は、その親族が行使する。

個人が死亡した場合にも、個人情報処理に対する各種権利については、親族が行使することができる旨の規定が新たに追加されました。

5 個人情報処理者の義務

草案 第二次審議稿
第53条
個人情報処理者は、定期的にその個人情報処理活動及び講じる保護措置等が法律、行政法規の規定に適合するかを監査するものとする。個人情報保護職責履行部門は個人情報処理者に対し専門機構に委託して監査をするよう指示する権限を有する。
第54条
個人情報処理者は、定期的にその個人情報処理活動及び講じる保護措置等が法律、行政法規の規定に適合するかを監査するものとする。
  第57条(新設)
基本的インターネットプラットフォームサービス、巨大なユーザー数、業務類型が複雑な個人情報処理者は、以下の義務を履行するものとする。
  1. 主に部外者により構成される独立機関を設立し、個人情報処理活動に対して監督を行うこと
  2. 法律、行政法規に重大な違反をして個人情報の処理をするプラットフォーム内の商品、サービス提供者に対して、サービスの提供を停止すること
  3. 個人情報保護社会責任レポートを定期的に発布し、社会の監督を受けること
  第58条(新設)
個人情報処理の委託を受けた受託者は、本章の規定の定める義務を履行し、必要な措置を講じて、処理する一切の個人情報のセキュリティを保障するものとする。

インターネットプラットフォームサービス提供者等、一定の個人情報処理者について独立機関を設けるなどして個人情報処理活動に対する監査、監督を実施することが義務付けられています。もっとも、その対象となる個人情報処理者の要件については文言上は曖昧であり、下位法令等によってその範囲が特定されることが予想されます。また、個人情報処理の受託者に対しても、個人情報セキュリティの保障義務が追加されています。

6 個人情報保護職責を履行する部門

草案 第二次審議稿
第58条
国家インターネット情報部門及び国務院関係部門は、職責権限に基づき、個人情報保護に関するルール、基準の制定を組織し、個人情報保護社会化サービス体系の構築を推進し、関連機関が個人情報保護評価、認証サービスを展開することを支持する。
第61条
国家インターネット情報部門は、関連部門が以下の個人情報保護業務を推進することを統率する。
  1. 個人情報保護の具体的な規則、基準の制定
  2. センシティブ個人情報及び顔認証、AI等の新技術、アプリケーションに対する、専門的な個人情報保護規則、基準の制定
  3. 安全、便利な電子身分認証技術の研究開発の支持
  4. 個人情報保護社会化サービス体系の構築を推進し、関連機関が個人情報保護評価、認証サービスを展開することを支持する
第59条
個人情報保護職責履行部門は個人情報保護職責を履行するにあたり以下の措置を講じることができる。
  1. 関係当事者に対し質問し、個人情報処理活動に関する状況を調査すること
  2. 当事者及び個人情報処理活動に関する契約、記録、帳簿及びその他の関係資料を閲覧、複製すること
  3. 現場検査を実施し、違法な個人情報処理活動が疑われる場合について調査を行うこと
  4. 個人情報処理活動と関係する設備、物品を調査すること。違法な個人情報処理活動の設備、物品であると証明する証拠があるものにつき、封鎖又は差押えをすることができる
個人情報保護職責履行部門が法に基づき職責を履行する場合、当事者は協力し、従わなければならず、拒絶又は妨害してはならない。
第62条
個人情報保護職責履行部門は個人情報保護職責を履行するにあたり以下の措置を講じることができる。
  1. 関係当事者に対し質問し、個人情報処理活動に関する状況を調査すること
  2. 当事者及び個人情報処理活動に関する契約、記録、帳簿及びその他の関係資料を閲覧、複製すること
  3. 現場検査を実施し、違法な個人情報処理活動が疑われる場合について調査を行うこと
  4. 個人情報処理活動と関係する設備、物品を調査すること。違法な個人情報処理活動の設備、物品であると証明する証拠があるものにつき、本部門の主要責任者に対して書面で報告し、且つ認可を経て、封鎖又は差し押さえをすることができる
個人情報保護職責履行部門が法に基づき職責を履行する場合、当事者は協力し、従わなければならず、拒絶又は妨害してはならない。
第60条
個人情報保護職責履行部門が職責を履行する中で、個人情報取扱活動に比較的大きなリスクが存在すること又は個人情報セキュリティインシデントが発生したことを発見した場合、規定に基づく権限及び手続に従い当該個人情報処理者の法定代表者又は主要責任者に対し、面談を行うことができる。個人情報取扱者は、要求に基づき措置を講じ、改善を行い、問題を除去しなければならない。
第63条
個人情報保護職責履行部門が職責を履行する中で、個人情報取扱活動に比較的大きなリスクが存在すること又は個人情報セキュリティインシデントが発生したことを発見した場合、規定に基づく権限及び手続に従い当該個人情報処理者の法定代表者又は主要責任者に対し、面談を行い、又は個人情報処理者に、個人情報処理活動のコンプライアンスに係る監査を専門業者に委託することを要求することができる。個人情報取扱者は、要求に基づき措置を講じ、改善を行い、問題を除去しなければならない。

関連部門による個人情報保護関連業務の内容が草案に比べてより詳細に規定されました。その内容からも、今後更に詳細なガイドラインや国家基準が制定されていくことが想定されます。

7 法律責任

草案 第二次審議稿
第65条
個人情報処理活動により個人情報に関する権益を侵害した場合、個人がそのため受けた損失又は個人情報処理扱者がそのため得た利益に基づき賠償責任を負う。個人がそのために受けた損失及び個人情報処理者がそのため得た利益を確定することが困難であれば、人民法院が実際の状況に基づき賠償額を確定する。個人情報処理者が自らに過失がないと証明できる場合、責任を減軽又は免除することができる。
第68条
個人情報に関する権益が個人情報処理活動により侵害された場合、個人情報処理者が自らの過失がないことを証明できない場合、損害賠償等の権利侵害責任を負う。
前項に定める損害賠償責任は、個人がそのため受けた損失又は個人情報処理扱者がそのため得た利益に基づき確定する。個人がそのために受けた損失及び個人情報処理者がそのため得た利益を確定することが困難であれば、人民法院が実際の状況に基づき賠償額を確定する。

個人情報処理者の個人に対する損害賠償責任の証明責任が明文で個人情報処理者に転嫁されています。また、無過失による責任の減免規定も削除され、これにより個人情報処理者の責任が草案に比べて加重されているといえます。

インターネットライブマーケティング管理弁法(試行)について

2021年4月24日、7つの政府部門連名による「インターネットライブマーケティング管理弁法(試行)」(中国語は「网络直播营销管理办法(试行)」、以下「本弁法」といいます。)が公布され、2021年5月25日に施行されることが発表されました。

中国では、Tao Liveや京東Liveなど、「網紅」と呼ばれるいわゆるインフルエンサーのライブによる商品紹介、販売というビジネスモデルが構築されて久しいものの、実はこれまでこのビジネスモデルに対する直接的な法令というものは定められておらず、既存の法令を適用するにも曖昧、グレーとなっている部分が少なからずありました。

今回、本弁法はサイバーセキュリティ法、電子商取引法、広告法、反不正競争法、ネットワーク情報コンテンツ生態ガバナンス規定(网络信息内容生态治理规定)に基づく部門規定として、インターネットにおけるライブマーケティング行為に関して具体的な規定を定め、インターネットライブマーケティングにおける各当事者の遵守事項等がかなりクリアになったといえます。今回は、本弁法についてその概要をかいつまんで紹介していきたいと思います。

1 構成

本弁法は、全30か条、全5章で構成された部門規定になります。章立てとしては、①総則、②ライブ販売プラットフォームに関する規定、③ライブスペース運営者及びライブマーケティング人員に関する規定、④監督管理・法的責任、⑤附則となっています。

2 概念

さて、まずは本弁法が適用される対象となる行為及び対象者について説明します。

2‐1 適用対象行為

本弁法が適用される対象となる行為は、

中国国内において、インターネットウェブサイト、アプリケーション、マイクロプログラム等を通じ、ビデオライブ、オーディオライブ、ライブテキスト、その他各種のライブと結合した形式によりマーケティングを展開する商業活動

と定義されています(本弁法第2条第1項)。

2‐2 適用対象者

続いて、本弁法が適用される対象となる者としては、

  1. ライブマーケティングプラットフォーム(直播营销平台)
  2. ライブスペース運営者(直播间运营者)
  3. ライブマーケティング人員(直播营销人员)
  4. ライブマーケティング人員サービス機関(直播营销人员服务机构)

が列挙されています(本弁法第2条第2項ないし第5項)。

また、インターネットライブマーケティング活動に従事し、電子商取引法における電子商取引プラットフォーム事業者又はプラットフォーム内事業者に該当する者についても、本弁法に基づく責任と義務を負うものとされています(本弁法第2条第6項)。

これらの本弁法適用対象者については、それぞれ以下のとおり定義されています。

2‐2‐1 ライブマーケティングプラットフォーム

インターネットライブマーケティングにおいて、ライブサービスを提供するプラットフォームをいう(インターネットライブサービスプラットフォーム、インターネットオーディオビジュアルサービスプラットフォーム、電子商取引プラットフォーム等を含む)

具体的には、Taobao、京東、Tik Tok等、ライブマーケティングの場を提供するプラットフォームがこれに該当するといえます。

2‐2‐2 ライブスペース運営者

ライブマーケティングプラットフォームにおいてアカウントを登録し、又は自ら設置したウェブサイト等その他のネットワークサービスにおいて、ライブスペースを開設し、ネットワークライブマーケティングに従事する個人、法人その他の組織をいう

ライブマーケティングプラットフォーム上には、数多くのライブスペースが開設されており、そこでインフルエンサーが商品紹介等を行っているわけですが、そのようなスペースの開設、運営者がこれに該当するといえます。

2‐2‐3 ライブマーケティング人員

インターネットライブマーケティングにおいて、直接社会公衆に対してマーケティングを行う個人をいう

いわゆる「網紅」と呼ばれるインフルエンサーがこれに該当するといえます。

2‐2‐4 ライブマーケティング人員サービス機関

ライブマーケティング人員がライブマーケティング活動に従事するために、企画、仲介、研修等を提供する専門機関をいう

インフルエンサーを管理するマネジメント企業(いわゆるMCN)等がこれに該当すると思われます。

3 ライブマーケティングプラットフォームの責任義務

本弁法は、ライブマーケティングプラットフォーム(以下、単に「プラットフォーム」といいます。)の負うべき責任義務について詳細な規定を置いていますが、その中で総則的な規定として、まず以下の定めが置かれています。

  1. プラットフォームは届出手続き及びセキュリティ評価を実施すること(本弁法第5条第1項)
  2. プラットフォームは、健全なアカウント及びライブマーケティング機能の登録・抹消、情報セキュリティ管理、マーケティング行為規範、未成年者保護、消費者権益保護、個人情報保護、ネットワークとデータセキュリティ管理等のメカニズム、措置を講じること(本弁法第6条第1項)

まず、届出手続きについてですが、「インターネットライブサービス企業届出業務に関する通知」(关于开展互联网直播服务企业备案工作的通知)によれば、インターネットライブサービス企業に従事する企業による届出の実施を要求しており、これを反映した規定と思われます。

セキュリティ評価の実施について言及されていますが、本弁法では他の箇所でもいくつかセキュリティ評価について言及されておりますので、この点は後述します。

その他、未成年者保護、消費者権益保護といった観点からのメカニズム等構築もプラットフォームの義務とされています。

3‐1 事前の措置

本弁法は、事前、事中、事後のそれぞれの段階におけるプラットフォームの責任義務を規定しており、以下、簡単に整理してみたいと思います。

3‐1‐1 新技術、アプリケーション機能の実装、使用管理の強化

プラットフォームは、AI、3D、VR音声合成等の技術を利用してバーチャルでの展示を行うインターネットライブマーケティングに対しては、セキュリティ評価を行い、明示的な方法で標識を行うこと(本弁法第13条)。

3-1-2 ライブスペースのランク別管理

プラットフォームは、ライブスペース運営者のアカウントのコンプライアンス遵守状況、フォロー数・アクセス数、取引数量・金額その他の指標に基づいてランク別の管理を行い、ランクに応じてサービス範囲及び機能を確定し、重点ライブスペース運営者に対してはリアルタイムでのモニタリング、ライブコンテンツの保管期間の延長等の措置を採るものとされています(本弁法14条第1項)。

なお、インターネット取引監督管理弁法(网络交易监督管理办法)によると、インターネットライブサービス提供者は、インターネット取引活動に係るライブ動画を、ライブ終了日から3年以上保管しなければならないと規定していますが(インターネット取引監督管理弁法第20条第2項)、本弁法はライブスペース運営者のランクに応じてこれを超える期間の保存を要求するものと思われますが、今の時点ではどのような期間の保存が必要となるのか不明です。

3‐1‐3 未成年者保護メカニズムの構築

プラットフォームは、未成年者保護メカニズムの構築を行い、未成年者の心身の健康保護に留意し、もしもインターネットライブマーケティングにおいて、未成年者の心身の健康に影響を与える可能性のあるコンテンツが含まれる場合には、プラットフォームは、情報の提示をする前に明確な方法で注意喚起をすること(本弁法第12条)。

なお、上記は主に消費者となる未成年者保護の観点からの規定と理解されますが、ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員は16歳以上でなければならず、16歳以上の未成年(なお、中国の成年年齢は18歳です)がこれらに従事する場合には、保護者の同意が必要とされ(本弁法第17条)、情報発信サイドでの未成年者保護規定も置かれています。

3‐2 事中の措置

3‐2-1 身分情報の照合措置等

プラットフォームはライブスペース運営者、ライブマーケティング人員の身分証や統一社会信用コード(営業許可証上で会社ごとに割り振られた会社番号コード)に基づいて、身分情報の照合を行い、更にライブマーケティング人員については身分情報の変動に対する照合メカニズムを構築すること(本弁法第8条第1項、第2項)。

ライブの実施前には一切のライブマーケティング人員の身分情報を照合し、もしも身分情報に齟齬がある場合、法令上インターネットライブ配信に従事することができない場合には、インターネットライブ配信を停止するものとされています(本弁法第8条第2項)。

3-2-2 コンテンツ管理

プラットフォームは、インターネットライブマーケティングのコンテンツ管理を強化し、情報配信の審査、リアルタイムパトロールを行い、違法、不良情報を発見した場合には、速やかに措置を講じること(本弁法第9条第1項)。

3‐2‐3 リスク識別モデルの構築

プラットフォームは健全なリスク識別モデルを構築し、違法、違反のある高リスクマーケティング行為に対してはポップアップによるリスク喚起、警告、トラフィックの制限、ライブの一時停止等の措置を講じること(本弁法第10条)。

3‐3 事後的な措置

3‐3‐1 アカウント閉鎖等の措置

違法な、又はサービス契約に反したライブスペース運営者のアカウントに対しては、警告提示、機能制限、配信停止、アカウント抹消、再登録の禁止等の措置を講じること(本弁法第14条第2項)。

3‐3‐2 ブラックリストへの追加

重大な違法行為を行ったライブマーケティング人員及び違法行為に基づき劣悪な社会的影響をもたらした者はブラックリストに追加をすること(本弁法第14条第3項)。

アカウント停止等の措置がライブスペース運営者に対する措置であるのに対して、ブラックリスト制度はライブマーケティング人員に対する措置として定められています。

そして、事後的な管理として、プラットフォームに対して、違法行為に応じたライブ阻止、アカウント閉鎖、ブラックリストへの追加等といった措置を講じることが求められています。

3‐4 セキュリティ評価及び情報セキュリティ管理

本弁法は、プラットフォームが行うべきセキュリティ評価、情報セキュリティ管理について、以下のようにいくつか規定を置いています。

  1. プラットフォームは安全評価を実施しなければならない(本弁法第5条第1項)
  2. プラットフォームはライブスペース内のリンク、QRコード等、ページ移転サービスにおける情報セキュリティ管理の強化し、情報セキュリティリスクを防止しなければならない(本弁法第9条第2項)
  3. プラットフォームは、AI、3D、VR音声合成等の技術を利用してバーチャルでの展示を行うインターネットライブマーケティングに対しては、セキュリティ評価を行い、明示的な方法で標識を行うこと(本弁法第13条、前述3‐1‐1)

このうち、1、2はネットワークのセキュリティ能力、プラットフォームの個人情報収集、保管能力等という観点からのセキュリティを指しているものと考えられます。他方、3については先端技術に起因するネットワークセキュリティ、例えばAIの利用によるプライバシー保護という観点からのセキュリティを指しているものと考えられます。

情報セキュリティに関するガイドラインや国家基準は数多く制定されていますが、インターネットライブマーケティングに関するものがこれから新たに制定されるのか、既存のものに依拠すべきなのかは今の時点では不明です。

3‐5 広告配信者又は広告経営者としての責任

本弁法は、広告法の観点からの一定の規定を定めました。すなわち、プラットフォームが支払導線等サービスを提供するにあたり、インターネットライブマーケティングに対して宣伝、プロモーションを行い、これが商業広告に該当する場合には、広告発布者(広告主又は広告主の委託する広告経営者のために広告を発布する主体)又は広告経営者(委託を受けて広告の設計、制作、代理サービスを提供する主体)としての責任と義務を負わなければならないと規定されています(本弁法第11条第1項)。

そもそもプラットフォームによる行為が「商業広告に該当する」ことが前提となった規定であり、広告該当性という点の認定も当然問題となりますが、もしもこの点がクリアされた場合には本弁法だけでなく広告法の定めに基づく責任も負う可能性があるといえます。

なお、これと関連してプラットフォームは、ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員のために、虚偽の、又は誤解を招く商業広告の提供に協力したり、便宜を与えてはならないという規定も置かれました(本弁法第11条第2項)。

4 ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員の責任義務

さて、次にライブスペース運営者、ライブマーケティング人員の責任義務に関して見ていきたいと思います。

4-1 広告法に基づく責任

まず、ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員の配信するライブコンテンツが、商業広告に該当する場合にもやはり広告発布者、広告経営者又は広告代言者(広告主以外に、広告において自己の名義又はイメージにより商品、サービスについて推薦、照明を行う主体)としての責任を負うことが明記されました(本弁法第19条)。

実務上は、これまでプラットフォーム、ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員に該当する主体が広告法上の責任を負うべきであるという解釈と運用こそありましたが、明文の規定はなかったことから、この点の明文化がされたことは意義としては大きいと思われます。

4‐2 禁止事項

ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員によるインターネットライブマーケティングにおいては、法令を遵守することはもちろん、公序良俗を遵守し、真実・正確・全面的な商品・サービス情報を配信しなければならないこと、そして以下の行為を禁止することが定められています(本弁法第18条)。

禁止される行為

  1. インターネット情報コンテンツ生態ガバナンス規定第6条、第7条に反する行為
  2. 虚偽又は誤解を与える情報を発布し、ユーザーを欺罔、誤導すること
  3. 海賊版知的財産権侵害品、人身・財産安全要求に適合しない商品のマーケティング
  4. 取引、フォロー数、閲覧数、好評価数等のデータの改ざんをすること
  5. 他人の違法行為、高リスク行為の存在を知り、又は知り得たにもかかわらず、引き続きそのためにプロモーション、誘導をすること
  6. 他人にハラスメント、誹謗中傷、脅迫を加えることで、他人の合法利益を侵害すること
  7. ねずみ講、詐欺、賭博、法禁物販売
  8. その他法令に違反する行為

上記1にいうインターネット情報コンテンツ生態ガバナンス規定第6条、第7条に反する行為は、多岐にわたりますので詳細に紹介することは省きますが、国家統一を破壊するような内容のコンテンツ作成や性的・暴力的内容を含むコンテンツの作成等がこれに該当します。

4-3 ライブスペースに対する重点管理

ライブスペースにおいては、以下の各段階、プロセスにおいて違法又は不良な情報を含んではならず、暗示等方法によりユーザーを誤導してはならない(本弁法第20条第2項)。

  1. ライブスペース運営者のアカウント名称、プロフィール写真、自己紹介
  2. ライブスペースのタイトル、表紙
  3. ライブスペースのセット、道具、商品ディスプレイ
  4. ライブマーケティング人員の衣装、イメージ
  5. その他のユーザーの関心を惹きやすい重要な段階、プロセス

4-4 サプライヤーに対する照合義務

ライブスペース運営者は、商品及びサービスのサプライヤーの身分、住所、連絡方法、許認可、信用状況等の情報について照合を行い、関連する情報をバックアップしなければならない(本弁法第22条)。

ライブスペース運営者はサプライヤーに関する情報等の調査をしないままで、商品やサービスを売り出してはならないということになります。

4-5 ライブマーケティング人員サービス機関との契約

ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員がライブマーケティング人員サービス機関との間で商業上の提携をするにあたっては、ライブマーケティング人員サービス機関との間で書面による契約を締結し、情報セキュリティ管理、商品品質審査、消費者権益保護等の義務を明確にし、その履行を督促しなければならない(本弁法第24条)。

4-6 肖像権等の保護

ライブスペース運営者、ライブマーケティング人員が他人の肖像を使用したバーチャルなキャラクターを利用してインターネットライブマーケティングに従事する場合には、当該肖像の本人の同意を得なければならず、情報技術手段を用いて偽造等の方法により他人の肖像権を侵害してはならない(本弁法第25条)。自然人の音声についても同様とする。

ライブマーケティングにおいては、キャラクターや固定音声等が使用されることがあり、他人のキャラクターや音声を冒用することによる消費者の誤導等を防ぐという不正競争行為を禁じる趣旨の規定と理解されます。

中国民法典の解説その③~契約編典型契約Ⅱ~

以前のエントリーにて、典型契約のうち売買契約金銭消費貸借契約保証契約の3つについて解説しました。 

chinalaw.hatenablog.com

今回はこれに引き続き、賃貸借契約ファイナンス・リース契約ファクタリング契約の3つの典型契約について、民法典での改正点を解説します。

1 賃貸借契約

1-1 賃貸借契約の期間

賃貸借契約の期間については20年までという上限が定められています(民法典第705条第1項)。賃貸借契約を更新する場合も、20年を超える期間の更新をすることはできません(民法典第705条第2項)。

また、6か月以上の賃貸借契約を締結する場合には、書面による契約を締結しなければならないとされており、書面によらずに契約をした場合には、期限の定めのない賃貸借契約を締結したものとみなされます(民法典第707条)。民法典では、書面による契約でも期限を特定することができない場合も、期限の定めのない契約を締結したものとみなす旨が新たに追加されています。

1-2 賃貸借契約の届出

法律、行政法規によって賃貸借契約の届出が要求されている場合でも、当該届出がなされたか否かは、契約の効力を左右しないという規定が新たに追加されました(民法典第706条)。

例えば、商品建物賃貸借管理弁法(商品房屋租赁管理办法)においては、建物の賃貸借契約が締結された場合、契約が締結されてから30日以内に、賃貸借契約の当事者において、対象建物の所在する地の人民政府建設主管部門において賃貸借契約の登記届出をしなければならないとされています(同弁法第14条第1項)。もっとも、当該規定の存在にかかわらず、実務上は賃貸借契約の届出は必ずしもなされていないことが多いといえます。そのため、届出がなされていない賃貸借契約については有効なのか否かという論点があったのですが、民法典の規定によりこの点の問題は解決されたといえます。

1-3 転貸借

民法典においては、転貸借に関連した新たな規定が追加され、充実化されました。

まず、転貸借自体は、賃借人が賃貸人の同意を得ることによって行うことができるという原則は、契約法において既に規定されています(契約法第224条、民法典716条)。

1-3-1 転貸借期間

転貸借の期間が、賃貸借契約の賃貸期間を超える場合、当該超過の期間に係る合意は、原則として賃貸人に対して拘束力を持たないとされています(民法典第717条)。賃貸人と賃借人が別途合意をしている場合にはその限りではないということになっていますが、転貸借契約は、その主契約である賃貸借契約の従たる契約に過ぎませんので、ある意味当然の法理ではありますが、契約期間に関するルールが明文化されたといえます。

1-3-2 転貸借への黙示の同意

前述のとおり、転貸借をするには、賃貸人の同意を得る必要がありますが、賃貸人において転貸借を知り、又は知り得たにもかかわらず、6か月以内に異議を述べない場合、転貸借に同意したと見なされる旨が明記されました(民法典第718条)。

1-3-3 賃料の支払い

賃借人が賃料の不払いをした場合、転借人は原則として賃借人に代わって未払賃料及び違約金を支払うことができる旨が明記されました(民法典第719条第1項)。そして、転借人が賃借人に代わって賃料、違約金を支払った場合、転借人が賃借人(転貸人)に対して支払う賃料に充当することができ、もしも、実際に支払った金額が賃借人に対する賃料を超過する場合には、超過部分について求償することができる旨も合わせて規定されました(民法典第719条第2項)。

賃借人が賃料の支払いを怠った場合には、賃貸借契約が解除され、その結果転貸借契約を維持できなくなってしまう可能性があるところ、転借人が賃借人に代わって賃料を支払うことによってそのようなリスクを回避することができるといえます。

1-4 賃借人からの契約解除

民法典では、新たに賃借人からの契約解除権が新たに規定されました(民法典第724条)。具体的には、以下のいずれかの事由が生じ、賃借人の原因によらずに物件を使用することができなくなった場合、賃借人から賃貸借契約を解除することができるとされました。

  1. 賃貸物件が司法機関又は行政機関により差し押さえされた場合
  2. 賃貸物件の物権の帰属につき紛争がある場合
  3. 賃貸物件の使用条件に関する、法律、行政法規の強制法規に違反した場合

1-5 競売における優先購買権等

賃貸物件が競売にかけられる場合、賃貸人は原則として競売にかけられる前の合理的な期間内に賃借人に対して通知をしなければならず、賃借人は同等の条件での優先購買権を有することとされています。この点は、契約法においても定めがあったものですが(契約法第230条、民法典第726条第1項)、民法典ではこの点について、若干規定の補充がなされました。

賃貸人が通知義務を履行した後、賃借人が15日以内に購買権の意思表示をしなかった場合、賃借人は優先購買権を放棄したものとみなされる旨が新たに規定されました(民法典第726条第2項)。

また、賃貸人が競売人に対して賃貸物件競売の委託をした場合、競売の5日前までに賃借人に通知をしなければならず、賃借人が競売に参加しなかった場合には優先購買権を放棄したものと見なされることとなりました(民法典第727条)。もしも、賃貸人が賃借人に対して通知をせず、又は賃借人による優先購買権行使を妨げた場合には、賃借人は賃貸人に対して損害賠償請求できるとされました(民法典第728条)。

2 ファイナンス・リース契約

ファイナンス・リース契約は、日本の民法では特に典型契約として定められているものではありませんので、民法典での改正点に限らず、全体的に掘り下げて解説したいと思います。

2-1 中国民法典におけるファイナンス・リース契約

ファイナンス・リース契約とは、

賃貸人が、販売者、リース物件に関する賃借人の選択に基づき、販売者に対してはリース物件を購入し、賃借人に対しては当該物件の使用を提供し、賃借人はこれに対して賃料を支払うことを内容とする契約

をいいます(契約法第237条、民法典第735条)。

ファイナンス・リース契約においては、リース物件、数量、規格、技術性能、検収方法、リース期間、賃料構成及びその支払期限と方法、貨幣、リース期間満了後のリース物件の権利帰属等について、書面によって定めるべきことが要求されており(契約法第238条、民法典第736条)、口頭での合意をすることはできないことになります。

ファイナンス・リース契約の対象となる物件の種類については特段制限はされておりませんが、バーチャルで実体のない物件(虚构租赁物)については契約の対象から明確に除外され、そのような物件を対象とする契約については無効とすることが明記されています(民法典第737条)。この点について、実体のない物件に係るファイナンス・リース契約を無効とする明確な解釈があったわけではありませんが、民法典はファイナンス・リース契約の対象に、明確に実体性を要求したといえます。他方で、実体のない物件の範囲については明確ではありません。

なお、ファイナンス・リース事業を行うには、許認可を取得することが必要とされていますが(例えば、金融リース企業管理弁法(金融租赁公司管理办法)第2条)、賃貸人において許認可を取得していなかったとしても、ファイナンス・リース契約の効力自体には影響を及ぼさない旨も新たに規定されています(民法典第738条)。

2-2 賃借人の権利

民法典においては、賃借人の販売者、賃貸人に対する権利が契約法に比べて充実し、総じていえば賃借人保護が強化されていると理解されます。

2-2-1 賃借人と販売者

賃貸人が、販売者、リース物件に係る賃借人の選択に基づいて売買契約を締結した場合、販売者はその約定に従って賃借人に対して物件を引き渡さなければならず、また、賃借人は物件の受領に関する買主の権利を有するとされています(民法典第739条)。

もしも、販売者がに対する引き渡し義務に違反し、以下のいずれかの事由がある場合には、賃借人は販売者からの引き渡しを拒絶することができます(民法典第740条)。

  1. 目的物が約定内容と著しく齟齬する場合
  2. 約定に従わずに目的物を引き渡さず、賃借人又は賃貸人が催告をした後、合理的な期間内に依然として引き渡さない場合。
2-2-2 賃借人と賃貸人

賃貸人、賃借人、販売者との間で、販売者が売買契約の義務を履行しなかった場合に、賃借人から販売者に対して損害賠償請求の合意をすることができ、この場合賃貸人はそれに協力しなければなりません(契約法第240条、民法典第741条)。

これに関連して、賃借人が販売者に対して損害賠償請求をしたとしても、原則としてそれ自体は賃借人の賃料支払い義務を左右するものではないとしつつ、リース物件の選択が賃貸人の技能や技術による場合には賃料の減額を請求することができるというルールが明確にされました(民法典第742条)。

また、リース物件に明確な瑕疵があるにもかかわらず賃貸人が賃借人にこれを告知しなかったことや、賃借人の販売者に対する損害賠償請求への不協力があったことにより、賃借人が販売者に対する損害賠償請求の行使に失敗した場合には、賃借人は賃貸人に対して相応の責任を負うと共に、賃貸人しか販売者に対して損害賠償請求することができないのにこれを怠ったことで賃借人が損害を被った場合にも、賃貸人は賃借人に対して責任を負うことが明確にされています(民法典第743条)。

2-3 第三者との関係

賃貸人、賃借人、販売者以外の第三者との関係について、民法典では、賃貸人は登記をしなければリース物件に係る所有権を善意の第三者に対抗することができないという規定を新たに設けました(民法典第745条)。

リース物件に係る登記については、2020年5月に施行された「ファイナンス・リース会社監督管理暫定弁法」(融资租赁公司监督管理暂行办法)が規定をしており、具体的には、当該リース物件に係る権利が登記必要なものについてはファイナンス・リース会社(すなわち賃貸人)は登記をしなければならず、逆にリース物件が登記の必要なものでない分類のものである場合、ファイナンス・リース会社はリース物件の合法権益を保障する有効な措置を講じなければならない、とされています(同弁法第15条)。

不動産については登記をすることが物権の発生や移転の効力発生要件となっているので、登記をすることがその性質上必要といえるのであまり問題は大きくありませんが、他方動産については、登記による物権の公示が困難であり、善意の第三者による善意取得との衝突が生じやすいといえます。ファイナンス・リースに関しては、中国人民銀行の運営するファイナンス・リース登記公示システム(融资租赁登记公示系统)と商務部の運営する全国ファイナンス・リース企業管理情報システム(全国融资租赁企业管理信息系统)の二つの公示システムがあります。

いずれのシステムでも動産リース物件に関する登記をすることが可能ということですが、相互が独立したシステムであり、また、システム相互で登記主体が異なる、登記の要求、審査要求が違うなど、統一的な権利保護がなされているわけではないようです。

そのため、民法典の規定が新設されたとしても、現状のファイナンス・リース物件登記システムの現状に照らすと、特に動産のリース物件に関する権利保護が十分とはいえないとする見方もあるところです。

2-4 契約の解除

賃借人が賃貸人の同意を得ずにリース物件を譲渡、担保設定、現物出資その他の方法により処分した場合、賃貸人は契約を解除することができます(民法典第753条)。

また、以下のいずれかの事由がある場合には、いずれの当事者についても契約を解除することができます(民法典第754条)。

  1. 賃貸人と販売者との間の売買契約が解除された場合、無効とされた場合、または取り消された場合で、且つ新たに売買契約を締結することができない場合
  2. リース物件が当事者の責めによらずに毀損、滅失し、且つ修復不能又は代替物を確定することが不能な場合
  3. 販売者の原因により契約の目的の実現が不能となった場合

2-5 リース物件の帰属

リース期間の満了後のリース物件の所有権の帰属については、当事者間の合意により定めることができますが、合意の内容が不明なために権利の帰属先を確定させることができない場合には賃貸人に所有権が帰属するものとされました(民法典757条)。

他方、リース期間満了後のリース物件の所有権につき賃借人に帰属することが合意されている場合で、賃借人がリース料の大部分を支払ったものの、残りの部分を支払うことができないことによって契約が解除され、賃貸人がリース物件を回収するという事態が生じた場合には、当該リース物件の価値が未払いとなっているリース料等の価値を超えるようであれば、賃借人は賃貸人に対して相応の返還を請求することができるとされています(民法典第758条第1項)。

これに加え、民法典では新たにリース期間終了後のリース物件の所有権が賃貸人に帰属するという合意がなされている場合で、リース物件が損傷もしくは滅失し、又はその他の物と付合、混和したことによってリース物件を返還することができなくなった場合には賃貸人は賃借人に対して合理的な補償を請求することができる、という規定が定められています(民法典第758条第2項)。

また、ファイナンス・リース契約においては、期間満了時に一定の金額を支払うことによって、残りのリース料に充当し、リース物件の所有権を賃借人に帰属させるのも、一つの契約終了時の処理として行われていましたが、この点は従前の契約法では特段規定が定められていませんでした。民法典ではこのような実務上の運用を新たに明文化しました(民法典第759条)。

3 ファクタリング契約

 ファクタリング契約(中国語は「保理合同」)は、契約法では関連規定が定められおらず、民法典において新たな典型契約として追加されました。

中国におけるファクタリングは2010年代以降、銀行実務上発展してきましたが、法律レベルでの統一的な規定は制定されず、行政法規以下の各法令で散発的に規定が置かれていたにとどまるため、統一的な解釈、運用がなされていませんでした。今般、民法典ではファクタリング契約について9か条新たな規定が設けられ、統一的な実務運用という観点からは大きな意義があると理解されています。

3‐1 ファクタリング契約とは

3‐1‐1 概要

ファクタリング契約について、民法典は以下のとおり定義を定めました(民法典第761条)。

ファクタリング契約とは、売掛金に係る債権者が、既存の又は将来的に発生する売掛金債権をファクタリング業者(中国語は「保利人」)に譲渡し、ファクタリング業者は資金融通、売掛金管理又は催促回収(中国語は「催收」)を提供し、売掛金債務者の支払い担保等のサービスを提供する契約をいう。

このように、民法典上のファクタリングは、単なる債権回収代行のみにとどまらない総合的なサービスとして位置付けられています。

3‐1‐2 契約の内容等

まず、ファクタリング契約の当事者は、債権者とファクタリング業者(通常はサービサーや銀行)となります。

そして、ファクタリング契約は書面により締結しなければならず、契約の内容として、業務類型、サービス範囲、サービス提供期間、基礎取引状況、売掛金情報、ファクタリング融資額又はサービス報酬及びその支払い方法等を含むものとされています(民法典第762条)。

なお、ファクタリングも債権譲渡としての側面を有するところ、債権譲渡に関して債務者への通知が必要となります。この点、ファクタリング業者から債務者に対して通知を行う場合には、ファクタリング業者の身分を表明し、かつ、必要な証憑を添付しなければならないとされています(民法典第764条)。

3‐2 ファクタリングに関する規定

3‐2‐1 虚偽の売掛債権

債権者と債務者が、売掛債権を捏造したうえでこれを譲渡の目的とし、債権者とファクタリング業者が契約を締結した場合、ファクタリング業者が債権捏造の事実を明らかに知っていた場合を除き、当該債務者は売掛債権の不存在を理由としてファクタリング業者に対抗することはできません(民法典第763条)。

債権には公示性がないことに鑑み、ファクタリング業者を保護するための規定です。

3‐2‐2 基礎取引契約の終了

債務者が債権譲渡の通知を受けた後には、債権者及び債務者は正当な理由なく、基礎取引契約(債権が発生する原因となる契約)の変更又は終了に合意し、債権買取人に不利な影響を与えた場合、ファクタリング業者に対しては効力を有しないとされています(民法典第765条)。これもやはりファクタリング業者を保護するための規定といえます。

3‐2‐3 償還請求権付ファクタリング/償還請求権のないファクタリング

民法典では、償還請求権の有無に基づき、それぞれの場合の権利関係を区別して定めています。償還請求権とは、債務者が倒産するなどすることにより、ファクタリング業者が債権を回収できなくなった場合に、売掛債権の債権者に対して損害の補償を求めることができる権利のことを指します。償還請求権が合意されている場合には、ファクタリング業者のリスクは低く、他方償還請求権がない場合にはファクタリング業者のリスクが高くなるといえます。

当事者が償還請求権のあるファクタリングを合意した場合、ファクタリング業者は売掛金の債権者にファクタリング融資の元利を返還するか、債権買い戻しを請求でき、また、売掛金の債務者に対して債権の主張をすることもできるとされています(民法典第766条)。ファクタリング業者が、債務者に対しての売掛債権を主張し、ファクタリング融資および関連費用の元本および利息を差し引いた後に余剰が生じた場合、残りの部分は債権者に返還しなければなりません。

他方、当事者が償還請求権のないファクタリングを合意した場合、ファクタリング業者は債務者に対して債権を主張しなければならず、ファクタリング業者はファクタリング融資の元本及び利息以上を超えて取得する部分について債権者に返還する必要はありません(民法典第767条)。

3-2-4 弁済の順位

債権者が同一の売掛金に関して複数のファクタリング契約を締結し、複数のファクタリング業者が権利を主張する場合の優先順位については以下のとおり規定されています。

  1. 登記済みの者>未登記の者
  2. (登記済みの者同士の場合)登記の前後関係
  3. (未登記の者同士の場合)債務者への譲渡通知到達の前後関係
  4. (登記も通知もない場合)ファクタリング融資額又はサービス報酬の割合に応じて売掛債権を取得

このように、民法典はファクタリング登記を一つの明確な優劣関係判断の基準として定め、今後ファクタリング登記を行うことが促進されていくものと思われます。

プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドラインについて

2020年12月に中国の最大手ネット通販プラットフォーム企業であるアリババに対し、中国独占禁止法違反を理由とした過料が課され、また調査が開始されたことは日本でも大きく報道されました。

www.nikkei.com

上記の処罰は、アリババが銀泰商業(集団)有限公司の持分を取得したことが独占禁止法で定める経営者集中(日本でいう企業結合)に関する規定に違反したことを理由としてなされました。また、その後に開始された調査は、アリババによる事業者に対する「二者択一」(中国語は「二选一」)という行為が独禁法違反に該当するということが理由とされています。

アリババについては、傘下のアントグループの上海、香港両市場における上場が延期され、その背景としてアリババ創始者であるジャック・マー(馬雲)の金融当局に対する発言が問題視されたのではないかと推察されているなど、中国共産党や政府との関係性が注目されていますが、今回の調査や処罰もそのような関係性が一つの理由になっているのではないかと見られています。

その辺りの真偽は不明ですが、他方でアリババが中国国内の一強プラットフォーマーとなっていることによる不当な取引制限や優越的地位の濫用等といった独禁法上の問題とはなっていました。もっとも、ECプラットフォーム業界は、業界としても比較的新しく、特殊であるため、積極的な独禁法の適用による摘発等は行われてきませんでした。

しかし、アリババのような大型プラットフォーム企業による市場における役割や経済に与える影響が日々大きくなっていることに伴い、これらにも適正に独禁法を適用することが課題となっていたところ、2020年11月に「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン」(关于平台经济领域的反垄断指南、以下「本ガイドライン」といいます。)のパブリックコメント募集稿が公布され、意見募集期間を経て、2021年2月に正式に制定、施行されました。今回は、本ガイドラインについて、その概要を見てみたいと思います。

1 独占合意の禁止

独占合意とは、競争を排除もしくは制限する合意、決定又はその他の協調行為をいいます(独禁法第13条第2項、本ガイドライン第5条)。

プラットフォーム経済分野における独占合意について、合意や決定は書面や口頭等の形を含み、明確な合意や決定がない場合でも、データ、アルゴリズム、プラットフォーム規則等を利用することにより事実上の一致する行為がある場合には「その他の協調行為」と見なされます。但し、独立意思による価格フォロー等の平行行為はこの限りではないとされており、データ、アルゴリズム等による独占合意を形成するには、意思連絡、情報交換が必要とされています(本ガイドライン第5条)。

独占合意を構成するか否かを認定するにあたっては、プラットフォームの関連市場の競争状況、プラットフォーム経営者、プラットフォーム内の経営者の市場における力量、その他経営者が関連市場に参入するにあたっての障害の程度、イノベーションに対する影響等の要素を考慮することが列記されました(本ガイドライン第二章頭書)。

独占合意として、典型的には水平型独占合意(横向垄断协议)、垂直型独占合意(纵向垄断协议)がありますが、本ガイドラインでは、プラットフォーム経済分野における特殊な類型、ハブ・アンド・スポーク型独占合意(轴辐协议)という3つの類型が定められています。

1‐1 水平型独占合意

水平型独占合意とは、競争関係のあるプラットフォーム経済分野における事業者が、以下の方法によって価格(商品価格だけでなく、事業者のうけとるリベート、手数料、会員費、販促費等のサービス費用も含みます。)の固定、市場の分割、生産販売量の制限、新技術の制限、共同での取引ボイコット(联合抵制交易)等の独占合意をすることをいいます(本ガイドライン第6条第1項)。

  • プラットフォームを利用した価格、販売量、コストやユーザ等情報の収集・交換

  • 技術手段による意思連絡

  •  

    データ、アルゴリズム、プラットフォーム規則等を利用することによる協調行為の実現

1‐2 垂直型独占合意

垂直型独占合意とは、プラットフォーム経済分野における事業者が取引相手と、以下の方法によって再販価格の固定、最低再販価格の制限等の独占合意をすることをいいます(本ガイドライン第7条第1項)。

  • 技術手段による価格の自動的設定

  •  

    プラットフォーム規則による価格の統一

  •  

    データやアルゴリズムによる価格への直接または間接的制限

  • 技術手段、プラットフォーム規則、データ・アルゴリズム等の方法によりその他取引条件を限定し、市場競争を排除、制限すること

なお、プラットフォーム事業者が、プラットフォーム内での事業者に対して、商品価格や数量等の取引条件について、他のプラットフォームとの取引条件と同等かそれより優れた取引条件を提供することを要求する場合、独占合意だけでなく、支配的地位の濫用にも該当しうることが明確にされています(本ガイドライン第7条第2項)。

1‐3 ハブ・アンド・スポーク型独占合意

競争関係のあるプラットフォーム内の事業者が、他のプラットフォーム事業者との垂直的関係(プラットフォーム事業者が価格メカニズム、取引の仕組み、競争の規則等を設定)を利用し、又はプラットフォーム事業者が競争関係者に取引制限を形成させることにより、水平型独占合意と同じ効果のある合意をすることをいいます(本ガイドライン第8条)。

プラットフォームを車輪のハブ、プラットフォーム内の事業者を車輪のスポークと見立てた独占合意であり、水平型独占合意の一種と整理されていると理解されます。プラットフォーム内の事業者同士が直接的に独占合意をする必要はなく、プラットフォームを通じて間接的に独占合意に至る場合も独占合意として認定される可能性があります。

2 市場における支配的地位濫用の禁止

2‐1 支配的地位濫用の認定

ガイドラインでは、プラットフォーム経済の特徴を踏まえ、支配的地位の濫用行為の認定、推定にあたっての審査ポイントを具体的に示しています(本ガイドライン第11条)。

具体的には、

  1. 事業者の市場シェアと関連市場における競争状況
  2. 事業者が市場をコントロールする能力
  3. 事業者の資金力と技術力
  4. 他の事業者の当該事業者に対する取引依存度
  5. 他の事業者が関連市場への進出の難易度

といった観点からの認定、推定を行うものとされています。そして、各要素を認定するにあたっての個別の事由は以下のとおり具体的に列挙されています。

2‐1‐1 事業者の市場シェアと関連市場における競争状況

事業者の市場シェアを確定するために、取引金額、取引量、売上高、アクティブユーザー人数、クリックレート、サイトの利用時間その他の指標、及び当該市場シェアを維持する時間を勘案することが可能と明記されました。

また、関連市場における競争状況を分析するにあたっては、プラットフォーム市場の発展状況、既存競争者数とその市場シェア、プラットフォーム競争の特徴、プラットフォームの差異程度、規模の経済、潜在的競争者の状況及びイノベーションと技術変化等を勘案することが可能と明記されました。

2‐1‐2 事業者が市場をコントロールする能力
  • 川上市場・川下市場又はその他関連市場をコントロールする能力や、他の事業者の関連市場への進出を阻害し、又は影響を及ぼす能力

  •  

    関連プラットフォームのビジネスモデル、ネットワーク効果

  •  

    価格、クリックレート又はその他の取引条件を決定し、又は影響を及ぼす能力

2‐1‐3 事業者の資金力と技術力
  • 当該事業者の出資者状況、資産規模、資本金の出所、収益性、融資能力、技術のイノベーションと活用能力、知財保有状況、データ情報の活用能力

  •  

    事業者の資金力と技術力がいかに業務拡張もしくは市場地位の維持を促すか

2‐1‐4 他の事業者の当該事業者に対する取引依存度
  • 他の事業者が当該事業者との取引関係、取引量、取引の継続時間、ロックイン効果、ユーザ依存度
  • 他の事業者が他のプラットフォームへの切り替え可能性及び切り替えコスト
2‐1‐5 他の事業者による関連市場への参入の難易度
  • 市場アクセス、プラットフォームのスケール効果、資金の投入規模、技術の壁及びデータ取得の難易度

  •  

    ユーザが複数のプラットフォームの利用傾向、ユーザのプラットフォーム切り替えコスト、ユーザの習慣

2‐2 支配的地位の濫用の行為類型

ガイドラインでは、プラットフォーム経済における支配的地位の濫用行為について個別の行為類型を定め、各行為類型についてその認定、推定をするにあたっての考慮要素を個別に列挙しています。

2‐2‐1 不公平な価格行為

不公平な価格行為とは、プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、不公平な高価格で商品販売し、又は不公平な低価格で商品を購入する行為をいいます(本ガイドライン第12条)。

同一又は類似する市場条件のもとで不公平な高価格で販売、又は不公平な低価格で購入するのは、不公正な価格行為の一つとして挙げられており、同一又は類似する市場条件であるか否かは、プラットフォームの類型、取引プロセス、原価構成、取引に関する具体的な状況等を勘案して判断されます。

2‐2‐2 廉価販売

廉価販売とは、プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく原価よりも低い価格で商品を販売し、市場競争を排除、制限する行為をいいます(本ガイドライン第13条)。

2‐2‐3 取引の拒絶

取引の拒絶とは、プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく相手方との取引を拒絶し、市場競争を排除、制限する行為をいいます(本ガイドライン第14条)。

プラットフォーム経済分野における必須施設をコントロールする事業者が、取引先に対し合理的な条件での取引を拒絶するのは、取引拒絶の一つとして挙げられており、プラットフォームが必須施設であるか否かは、当該プラットフォームがデータを保有する状況、他のプラットフォームの代替可能性、取引先が当該プラットフォームへの依存度、潜在的利用可能なプラットフォームがあるか否か等を総合的に勘案して判断されるとされました。

2‐2‐4 取引の制限

取引の拒絶とは、プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく相手方との取引を制限し、市場競争を排除、制限する行為をいいます(本ガイドライン第15条)。これは、プラットフォーム事業者が取引先に対し他のプラットフォームでの販売を制限する「二者択一」という冒頭でも説明した行為が該当します。

取引を制限する行為としては、主として以下の二つの類型が想定されています。

  1. 店舗の遮蔽、検索の順位下げ、アクセス数の制限、技術による阻害、保証金の控除等の懲罰的な方法による取引制限。
  2. 割引、補助金、アクセスへの便宜を提供する等、取引先、消費者又は社会に一定のメリットを与えるものの、市場競争を排除、制限することが証明された場合には、取引制限となる。
2‐2‐5 商品の抱き合わせ販売、又は不合理な取引条件の付加

プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく商品の抱き合わせ販売を実施し、又は不合理な取引条件を不可する行為をいいます(本ガイドライン第16条)。

ポップアップ表示等取引相手が選択、変更又は拒絶することのできない方法による商品の抱き合わせ販売、又は必須ではないユーザ情報の強制的な収集等は禁止行為として挙げられています。

2‐2‐6 差別的待遇

プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく、取引条件が同等の相手方に対して差別的な待遇をする行為をいいます(本ガイドライン第17条)。これは、事業者が自ら保有するビッグデータ等に基づいて取引相手ごとに異なる取引条件を設定するような行為(例えば、とあるプラットフォームでの取引実績がある者と取引実績がない者との間で、同一の商品について異なる価格を設定する行為)を想定したものです。これは中国語で「大数据杀熟」といい、近年問題視されていた行為です。

ビッグデータアルゴリズムに基づき、取引相手の支払能力、消費傾向又は利用習慣などにより差別的価格、差別的基準・規則、差別的支払条件と取引方式を行うことが、本ガイドライン上差別待遇の一つとして挙げられています。

3 企業結合

ガイドラインは、プラットフォーム経済分野における企業結合の届出基準、国務院独占禁止執行機関による主動的審査、勘案要素及び救済措置について、詳細な規定を定めました。

3‐1 企業結合の届出基準

プラットフォーム経済分野における売上高の計算方式は、業界の習慣、支払い条件、ビジネスモデル、プラットフォームの事業者の役割等により異なることが明記されています。

単なる情報マッチングによる手数料等で稼いでいるプラットフォームの事業者に対しては、プラットフォームが受け取った手数料やその他の収入額により売上高を計算することができ、他方、プラットフォーム事業者がプラットフォーム側の市場競争へ参入し、若しくは主導的役割を果たした場合、プラットフォームで発生した取引金額を計算することもできるとされています(本ガイドライン第18条第1項)。

また、いわゆるVIEスキームによる事業者集中についても、事業者集中の審査対象になることが明記されました(本ガイドライン第18条第2項)。アリババに対して処罰がなされたのは、まさにこれに違反したということになります。VIEスキームについてはまた別の機会にご説明したいと思います。

3‐2 届出基準を満たさない企業結合

届出基準を満たさない企業結合への審査について、企業結合の当事会社にベンチャー企業があり、又は無料か低価格による売上高が低いものの、関連市場の集中度が高く、かつ競争者が少ない場合、届出基準を満たさないにもかかわらず、市場競争を排除又は制限する恐れがある場合、国務院独占禁止執行機関はそれを審査することができるとされました(本ガイドライン第19条第3項)。

したがって、この業界における事業者集中に関しては届出の要否を判断するにあたっては慎重になる必要があるといえます。

3‐3 救済措置

救済措置について、市場競争を排除又は制限する恐れのある企業結合に対し、国務院独占禁止執行機関は、以下の制限を付加することにより禁止しないことができるとされています(本ガイドライン第21条)。

  • 有形資産、知的財産、技術、データ等の無形資産、又は関連収益等を分割すること。
  • ネットワーク、データ又はプラットフォーム等インフラ施設をオープンし、キー技術を利用許諾し、排他協議を終了し、プラットフォーム規則又はアルゴリズムを修正し、互換性を承諾し、若しくは相互運用性を維持すること。
  • 上述2点を組み合わせて運用すること。

日本から中国への渡航、そして隔離(上海編)

昨年12月末に日本に帰国し、2ヶ月弱日本での滞在をした後、2月14日に中国に再帰国を果たしました。今回は、前回の大連ではなく上海へ直接の帰国となりました。

前回中国へ帰国した2020年9月時点と、2021年2月時点では中国への渡航に関する条件も若干変わっていますし、大連と上海とでも異なる部分も少なからずありますので、今回は日本から上海への渡航、及びその後の隔離状況についてアップデートしたいと思います。

上海へ駐在、出張でいらっしゃる方は依然少なからずいらっしゃいますので、今後上海へ渡航される方のご参考になれば幸いです。

(2020年9月東京→大連)
chinalaw.hatenablog.com

(2020年12月上海→東京)
chinalaw.hatenablog.com

1 成田空港→浦東空港

1-1 チェックイン

現在、東京⇔上海間の直行便は週4便飛んでいますが、チケットが購入可能だったのは、毎週日曜日に飛んでいる全日空春秋航空の2社のみでした。その中でも全日空はエコノミークラスでも片道20万円近くしてあまりに髙いので、多少でも安い春秋航空で帰ることにしました。それでも自分がチケットを購入した時には10万円近くしましたので、普段は数万円で往復できる春秋航空からすると、やはり超高額な価格といえます。

(日中間の航空便の状況はこちらにてご確認ください。)

(以下日本時間)17時00分 チェックイン

春秋航空は成田空港のターミナル3からの出発になります。

成田空港のターミナル3には初めて来たのですが、LCC専用ターミナルということもあり想定以上にプレハブ感があり、ターミナル1、2との格差に面食らってしまいました。

春秋航空は20時に出発予定でしたので、18時に到着しましたが、到着した頃には、チェックインカウンターには思いの外長い行列が出来ていました。

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聞こえてくる言葉は中国語ばかりで、搭乗客の大半は中国の方、日本の方はかなり少数だったのではないかと思います。日本の方はもしかしたら昼間に飛んでいる全日空の方に多く乗っているのかもしれません。

この日は、クレーマーがチェックインカウンターの一つを占領してスタッフと口論を続けていたこともあり、チェックインの行列はなかなか進みませんでした。何を揉めていたのかはわかりませんが、おそらく手荷物のチェックインで発生する追加料金に関してだったのではないかと思います。LCCは手荷物を預ける場合、追加料金が発生することが多いので要注意です。

結局、自分がチェックイン出来たのは18時50分頃と、かなり時間がかかってしまいました。なお、春秋航空の手荷物預けで追加料金が発生した場合、支払いは現金のみクレジットカードや銀聯カードを使用することはできません。チェックインカウンターの近くにはATMが設置されていますので、追加料金が発生し、手持ちの現金が足りない場合にはATMでお金を引き下ろす等する必要があります。この点も要注意です。

また、チェックインを完了するにあたっては、

  • 中国大使館から発行される「健康コード」(健康码)
  • 国税関への健康申告及び申告後に発行されるQRコード

の2つのQRコードを入手していることが必要になります(国税QRコードについてはこちら)。

1-1-1 健康コード

2020年12月1日以降、日本から中国へ直行便で渡航する場合にも、中国大使館の発行する健康コードを入手することが必要となりました(中国大使館のHPはこちら)。

健康コードを入手するには、搭乗2日以内に在日中国大使館の指定する医療機関、クリニックにおいてダブル陰性証明、すなわちPCR検査及び抗体検査での陰性を証明する書類を作成してもらうことが必要となっています。

私の場合は搭乗日が日曜日でしたので、金曜日にPCR検査、抗体検査を受けることとしました。大使館によって指定されている医療機関、クリニックはかなりたくさんあるので、基本的には最寄りの医療機関等で対応すれば良いといえます。

(東京中国大使館の指定先医療機関等リストはこちら

多くの医療機関等においては、1日~2日以内での証明書発行をしてくれますが、医療機関によっては、翌日の証明書発行が困難で、且つ翌々日は営業していない、というところもあります。どういうことかというと、

金曜日に検査に行った場合、翌日土曜日の証明書発行が間に合わず、且つ、(搭乗日である)日曜日は営業していないため、日曜日までに証明書の取得が間に合わない

というところもあります。これは、日曜日搭乗及び搭乗2日以内の証明書取得という時間的制約による不都合ではありますが、そのため、日曜日に搭乗する方は可能な限り、即日又は翌日に証明書の発行を確約してもらえる医療機関等を選択することをおすすめします。なお、私が検査を行ったクリニックでの検査費用は約4万円かかり、かなり高額な印象を受けました。他の医療機関やクリニックはわかりませんが、ここでも相応の出費をする覚悟をする必要があります。

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ダブル陰性証明

ダブル陰性証明を入手した後、中国大使館上のHP上に掲載されているウェブサイトへアクセスし、健康コードの申請をします。

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健康コード申請画面

健康コードの申請においては、身分証(中国籍以外であればパスポート)及びダブル陰性証明の画像をアップロードすることが必要になります。なお、上記申請画面はスマートフォン及びPCのいずれからもアクセスできますが、私の場合スマートフォンでアクセスしたところ、上記の画像をアップロードすることができなかったため、やむなくPCからアクセスしました。

上記の申請をしたのは、土曜日で且つ春節期間中ではありましたが、3時間後くらいには申請は完了し、以下のような健康コードが発行されていました。

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健康コード
1-1-2 ビジネストラック、レジデンストラック

なお、2020年11月末日より実施されていた日中間のビジネストラック、レジデンストラックについては、日本の緊急事態宣言が発せられたことに伴い、2021年1月14日以降停止しており、利用不可となっています(詳細はこちら)。

1-2 搭乗

ターミナル3にはローソンがありますので、搭乗前に軽食や飲み物を購入したい場合にはここで購入しておくことをおすすめします。ちなみにフードコート、レストランは軒並み閉店していました。

19時30分 搭乗開始

ほぼ時間通りに搭乗開始となりました。

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搭乗率はどれくらいかはわかりませんが、私の座った3人がけの席は真ん中が空席になっており、全体的にも満席というほどではなく、8~9割くらいだったのではないかと思います。今回もやはり防護服、マスク、フェイスシールドのフル装備をした中国人の方を見かけました。意識高いですね。

春秋航空は過去に一度搭乗したことがあり、夜間飛行にもかかわらず、飛行中のアナウンスがかなりうるさかった印象がありますが、今回のフライトはほとんどアナウンスもなく、基本的に消灯されていましたので比較的穏やかに過ごせたように思います。ちなみに、LCCですので機内食等は出ません。

1-3 着陸後

(以下中国時間)22時30分~23時05分 着陸~降機

ほぼ予定到着時刻に到着しました。ただ、飛行機から降りられるまでは若干時間がかかり、30分強機内で待たされていました。

23時25分 健康申告

飛行場内に設けられたブースにて、税関職員に健康状態の申告をします。なお、大連の飛行場での申告の際は、日本語対応可能な職員もそれなりにいたような気がしますが、乗客の多くが中国の方ということもあってか、空港職員の日本語対応はほとんどなかったのではないかと思います。

日中の全日空便のラウンドはもしかすると異なるかもしれませんが、もし中国語に不安のある方は、予め通訳が可能な方と電話やチャットで対応できる連絡体制をとっておいた方が良いかもしれません(あるいは英語で話す)。

なお、この際に中国税関の健康申告QRコードが必要になります。

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健康申告ブース

23時35分 PCR検査

健康申告ブースでの申告を済ますとPCR検査です。

随分と長い導線を歩かされ、屋外のプレハブに設置されたブースでPCR検査を受けることになります。PCR検査は綿棒を鼻に突っ込むタイプのものを2回やられます。

大連ではPCR検査をする際に、それまで着けていたマスクを廃棄し、N95タイプのマスクを着けさせられましたが、ここではそのようなことは特にありませんでした。

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長い導線

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PCR検査ブース

23時43分 入国審査

PCR検査を受け終わると入国審査です。入国審査手続き自体は特段変わったことはありませんでした。入国を済ませると、荷物をピックアップし出口へ向かいます。

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0時02分 旅客情報登録

手荷物を受け取り外に出ると、今度は旅客情報登録をすることになります。

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掲げられているQRコードをスキャンして情報登録

これは健康コードや健康申告QRコードとはまた異なるもので、隔離先のホテルに移動する際に必要となるQRコードを入手するための情報入力になります。

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情報入力画面とQRコード

上記のQRコードを入手した後、今度は目的地となる区あるいは住居のある区ごとにブースが設置されており、そこでの登録を行うことになります。

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目的地ごとに設置されたブース

1時00分~1時40分 隔離先ホテルへ移動

上記のブースで登録を済ませた後、40分~50分待たされ、深夜1時頃に飛行場を出発することになりました。その間、全くやることがありませんし、体内時計は朝の2時ですのでかなり眠いです。その意味でも春秋航空での渡航はかなりしんどいです。お財布が許すあるいは会社持ちの場合には、日中の全日空に乗った方が良いと思います。

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移動のバス

同じ隔離先へ向かうのは自分を含め3名のみでしたが、大型バスに乗り込み、40分ほど移動しました。隔離先のホテルまで公安のパトカーが先導していたのですが、なかなか厳格だと思いました。

ホテルに到着し、バスから荷物を下ろすとまずは問答無用でトランクの消毒をされ、ホテルの入居手続きです。

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汚物は消毒!

2 集中隔離

2-1 入居

今回、私が隔離されたホテルは虹橋空港に近いSKY BIRD HOTEL(嘉虹酒店)というホテルでした。滞在費用は、三食込み14日間で5180元(滞在中の検査費用除く)です。

hotels.ctrip.com

ホテル自体は異様にスタイリッシュ感があり、キレイではあるのですが部屋は狭いです。

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そして何より辛いのは、

外がほとんど見えない

ということ。

窓こそ付いているものの、向かいの建物の壁しか見えず、なおかつ向かいも窓ですので、こちらのブラインドを上げればこちら側も向こうから丸見えということでブラインドを上げるに上げられないという難点があります。しかも、ブラインドの遮光性が極めて良いため、ブラインドを締め切って寝ると朝になっても日光が差し込まず、暗闇の中目を覚ますことになります。連日暗闇の中で目を覚ますのはなかなかにしんどいものがあります。

大連での隔離先ホテルからは、大きな窓から市街の町並みを見下ろすことが出来たのと比較すると、心理的圧迫感はそれなりのものです。

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ブラインドを開けてもそこは壁

大連での隔離先ホテルの滞在費用は7000元強で、値段だけでいえば今回のホテルより高いのですが、広さが2倍以上あった上に眺望が良かったことと比較すると今回のホテルの方が割高感はあります。

2-1-1 7+7政策

上海市では、他の都市と異なり7日間ホテルでの集中隔離を行い、その時点での異常がなければ残りの7日間は自宅で隔離をすることができるという政策が施行されています。

mp.weixin.qq.com

しかし、2020年11月以降、上海市内における市中感染と見られる例が見られ始めたことを受け、現在では上記の政策に基づく申請をしてもほとんど認められていないということです(上海日本総領事館の注意喚起はこちら)。

私自身も1週間で自宅に帰れることを期待して申請をしましたが、申請は認められず、結局2週間のホテル隔離を余儀なくされました。そのため、上海市内にご自宅がある方についても2週間のホテル隔離を想定した上で渡航することをおすすめします。

また、高齢者、妊婦、幼児がおり、ホテルでの集中隔離に適しない場合も、従前は初日のみホテル隔離を行い、その後自宅隔離をすることが認められていましたが、現在はこれについてもほとんど申請が認められていないということです。そのため、今後このような方、特に幼いお子様を連れての渡航を検討されている方は要注意です。

2-2 食事

食事は、1日3回朝の8時頃、昼の11時頃、夕方の17時頃にお弁当が配給されます。

食事の内容は、大連と同様

三食オール中華

です。

味は悪いとは言いませんが、喜んで食べられるような代物でもありませんし、やはり飽きます。

また、これはホテルによっても違いはありそうですが、今回のホテルについては食事の外売を頼むことができません(真空包装されているビスケット類、お菓子、カップ麺など、乾き物については良いそうです)。そのため、やはり食事対策という意味では渡航前に14日の隔離期間中の食料、飲料を持ち込むことをおすすめします。

ホテルは基本的にポットはあるものの、レンジはありませんので、食料を持ち込むにしてもお湯を沸かして食べられる麺類、スープ類が良いです。レンジで温める系統の食料は基本的に食べられません。

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とある日の三食

飲料は大連の時と同様、2週間分のペットボトル入り飲料水が、2週間分の日用品(洗顔料やシャンプー、トイレットペーパー等)と一緒に部屋に置かれています。酒類の外売もオーダー不可とされていますので、お酒好きな方は自らお酒を持ち込む等する必要があります。

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2週間分の水

2-3 検温等

入居の翌日には、ホテルに駐在している医療団と隔離対象者のWe Chatのグループチャットが作成され、そこで必要な連絡を取り合うことになります。

そして、毎日朝と昼間に自身で検温を行い、グループチャットの中で報告することになります。また、毎朝9時半~10時頃にスタッフが検温をしにきます。大連では検温の仕方がわからず、特段報告もしていませんでしたし、スタッフによる検温もありませんでしたが、その意味では今回はきちんと検温をしているといえます。

なお、大連では隔離期間中に抗体検査とPCR検査を行いましたが、今回は隔離終了前日の13日目にPCR検査のみを行うということです。費用は80元です。

3 終わりに

今回、隔離を開始したのが夜中の2時頃でしたが、隔離終了は隔離開始から14日ということなので、同じく真夜中ということになります。真夜中の帰宅が辛い場合には延泊してチェックアウトの時間をずらすことができるということではありますが、個人的には1秒でも早くホテルから出たいので、恐らく真夜中のチェックアウトをすることになるかと思います。

世界的なコロナ感染状況が昨年9月の時点よりも悪化しているということもあり、諸々制約が厳しくなっているように思いますが、今回の記事がこれから上海へ渡航することを予定している方のご参考になればと思います。

 

※2021年3月1日アップデート

2021年3月1日付けで在日中国大使館のHPにおいて、日本から中国への渡航に関する要求事項がアップデートされています。

www.china-embassy.or.jp

まず、これまで第三国から日本で乗り継ぎして中国へ渡航する場合の対応方法については明記されていませんでしたが、日本で乗り継ぎをする場合には、日本にて14日間の自主隔離をし、健康コードを取得した上で中国に渡航することが明記されました。

それに加えて、万が一コロナウイルスに感染してしまった場合の健康コードの申請方法が新たに追記されています。具体的には以下のとおりです。

  1. 居住地の病院で肺のCT検査またはX線検査を行い、診断証明書(肺に異常なしまたはコロナ感染が完治していると記載)及び、2回のPCR検査を行い(検査日時は24時間以上空けること)、陰性証明書を提出すること。
  2. 上記1の後、少なくとも14日間は自主隔離をし、健康状態に異常がないことをご確認の上、「自主隔離承諾書」にサインして提出すること。
  3. 搭乗2日前以内(検体採取日から起算)に中国駐日本大使館総領事館指定の検査機関で新型コロナウィルスPCR検査及び血清特異性IgM抗体検査を行い、ダブル陰性証明を取得して提出すること。

以上の次第で、健康コードの申請要件が格段に厳しくなっているうえ、渡航できるまでに必要な日数がかなり発生することになります(検査費用もかさみそうですね)。

そのほか、ワクチン接種によって抗体検査が陽性になった場合には、健康コードを申請する際に検査証明とワクチン接種証明書を提出することで救済される旨も記載されています。

※2021年3月30日アップデート

 2021年3月30日付けで在日中国大使館のHPにおいて、日本から中国への渡航に関する要求事項がアップデートされています。

www.china-embassy.or.jp

3月1日付での通知に比べ、中国渡航時に必要な書類がより詳細に記載されています。

外国法律と措置の不当な域外適用阻止弁法について

2021年1月に入って間もない2021年1月9日、中国商務部は「外国法律と措置の不当な域外適用阻止弁法」(阻断外国法律与措施不当域外适用办法、以下「本弁法」といいます。)を公布し、本弁法は同日付けで施行されました。本弁法は、米国政府がHuaweiに対する米国技術を使用した半導体の輸出禁止といった措置をはじめとした制裁措置を念頭に置いて定められたという見方がされていますが、この点について商務部門の記者会見においては、本弁法は特定の国家による制裁措置、特定の取引への制裁措置等への適用を念頭においたものではなく、あらゆる国家による制裁措置等への適用を想定しているとして明言は避けています。

本弁法の施行は、中国国外の主体と中国企業との間の取引関係に対して影響を与えていくことが想定されますが、今回は全16か条によって構成される本弁法の内容を解説してみたいと思います。

1 総論

1-1 法的根拠

本弁法は、国家安全法等の法律に基づいて商務部門により公布された部門規章であり、法源の中では法律、行政法規よりも下位のものになります(中国における法源はこちらをご参照ください)。本弁法の制定にあたり参照されたとされているEU連合のブロッキング法(European Union’s blocking statute(Council Regulation (EC) No 2271/96) )は、EU法上の最上位の法源である「法」(Regulation)であるのと比較すると、本弁法の中国法源における地位は低いといえます。

なお、以前も解説した信頼不能実体リスト規定や外商投資安全審査弁法も、国家安全法に紐づいた法令であり、本弁法と関連又はセットとして捉えることもできそうです。

 1-2 適用範囲

本弁法の適用対象については、以下のとおり定められています(本弁法第2条)。

  1. 国際法及び国際関係の基本準則に違反する外国法及び措置
  2. 中国公民、法人又はその他の組織(以下、総称して「中国公民等」といいます。)と、第三国(地域)及びその国民、法人又はその他の組織との正常な経済貿易、関連活動に対する不当な禁止、制限

1つ目の「国際法及び国際関係の基本準則に違反する外国法及び措置」については、それ以上の要件が定められておらず、要件としてはかなり抽象的なものであり、当局の裁量が広く認められている形になっています。ブロッキング法はAnnexにおいて適用対象となる外国法又は措置が具体的に列挙されているのとは異なっています。

なお、上記1及び2を以下では総称して、適用対象制限等といいます。

2 適用対象制限等に対する禁止令

本弁法に基づき、商務主管部門は適用対象制限等の承認、執行、遵守を禁止する禁止令(以下「禁止令」といいます。)を発出することができますが(本弁法第7条第1項)、本弁法で定められているそのプロセスは以下のとおりです。

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2-1 国務院商務主管部門への報告

本弁法上、中国公民等が適用対象制限等を受けた場合、30日以内に国務院商務主管部門へ報告をしなければならないとされています(本弁法第5条)。ただ、具体的な報告のプロセス等については今の時点では明確にされていません。

なお、ここにいう「中国公民等」は、前述のとおり中国の公民、法人その他組織を指しますが、例えば外国企業の中国子会社、あるいは海外にいる中国人、中国企業の海外拠点等も中国公民等に含まれるものと理解して良いかは文言からは一義的には明らかではなく、解釈の余地があるといえます。

2-2 主管部門による評価・確認

中国公民等からの報告がなされた場合、外国法と措置の不当な域外適用がなされているか否かの評価、確認が行われることになりますが、当該評価・確認にあたっては以下の要素を考慮するものとされています(本弁法第6条)。

  • 国際法と国際関係の基本準則に違反しているか否か
  • 中国の国家主権、安全、発展利益に対して与えうる影響
  • 中国公民等の合法権益に対して与えうる影響
  • その他考慮すべき要素

上記に掲げられた考慮要素も、抽象的、観念的な要件の域を出ず、当局に広範な裁量が残されているといえます。

2-3 禁止令の発布

2-2で記載した要素を総合判断し、外国法と措置に不当な域外適用がなされていると認定された場合には、商務主管部門は、禁止令を発布することができます。

また、一旦発布された禁止令は、実際の状況に基づいて中止又は撤回をすることができるものとされています(本弁法第7条第2項)。

2-4 禁止令の遵守免除

禁止令の遵守をすることにより、かえって困難や支障が生じることもありうることから、本弁法においては、中国公民等に、商務部門に対して禁止令の遵守免除を申請する余地を認めています(本弁法第8条第1項)。

禁止令の遵守免除を申請する場合、申請者は商務主管部門に対し、免除申請をする理由及び免除申請をする範囲等の内容を明記したうえで書面による申請を行い、商務主管部門は原則として申請を受理した日から30日以内に申請を認可するか否かの決定をしなければならないとされています(本弁法第8条第2項)。

3 救済措置

3-1 司法上の救済

禁止令の遵守免除が申請されている場合を除き、「当事者」が、禁止令の範囲内にある適用対象制限等を遵守した場合(すなわち禁止令に反して適用対象制限等を遵守した場合)で、これにより中国公民等の合法権益が侵害された場合、中国公民等は人民法院に対して訴訟を提起し、「当事者」に対して損害賠償請求をすることができるとされています(本弁法第9条第1項)。

また、禁止令の範囲内にある、外国法に基づく判決、裁決が中国公民等に対して損害を与えた場合、中国公民等は人民法院に対して、当該判決、裁決において利益を得た「当事者」に対して損害賠償請求することができるとされています(本弁法第9条第2項)。

適用対象制限等を遵守した当事者としては、あくまで外国法や措置を遵守したのであり、これによって中国公民等に損害を与えたとしても、正当な理由や不可抗力を理由として違約責任に対する抗弁をすることができると考えられます。そのような中で、本弁法の上記規定は、禁止令に違反して適用対象制限等を遵守した当事者に対してはそのような抗弁の主張を認めず、損害賠償責任を負わせるものとし、権利侵害を受けた当事者の救済を図ろうとしたものと理解されます。

但し、上記にいう「当事者」とは、中国国内にいる者に限るのか、あるいは中国国外にいる者も含むのかという点は明らかではありません。仮に中国国外にいる者を含むとした場合には、本弁法が域外適用可能ということになりますが、単なる部門規章に域外適用の効力を持たせることができるのか、実際に人民法院に対して訴訟を提起したとして国外でそれを執行することができるのか、といった点が問題点としては残るように思われます。

3-2 政府によるサポート

上記司法上の救済のほか、中国公民等が禁止令に基づき、外国法と措置を遵守せずこれにより重大な損失を被った場合、政府の関連部門は具体的な状況に応じて必要なサポートを行うものとされています(本弁法第11条)。

もっとも、具体的にどのようなサポートが行われるのかについては不明です。

3-3 政府による対抗措置

適用対象制限等に対して、中国政府は実際の状況と必要に応じて、必要な対抗措置を講じることができる旨定められています(本弁法第12条)。

具体的にどのような対抗措置を講じるかは中国政府の政治的判断ということになると思われますが、信頼不能実体リスト規定で定められている対抗措置が参照されることも想定されます。 

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4 おわりに

本弁法は総じて規定内容が抽象的なものにとどまるため、予測可能性が低く、また、実際に本弁法を適用した場合にそれが機能するのかという点は未知数です。

近時の日本と中国の場合、政治的な対立、摩擦は大きくは顕在化していないため、日本との関係では本弁法によるインパクトはさほど大きくないと思われるものの、米中間の対立という時代背景を反映した極めて政治的な法令として、その概要を把握しておくことも意義はあるかと思われます。