中国法ブログ

中国法務の基礎的な事項から最新の情報まで解説するブログ

中国ビジネス関連書籍

はじめに

さて、中国ビジネスに携わるにあたり、中国語が読めなければ中国の法令も判例も読むことができません。高校や大学で中国語を第二外国語として履修していた、あるいは専攻していたような方でなければ、中国語はそれなりに高いハードルです。そのため、英語ならなんとか、という方の中にも中国語はお手上げ、それゆえ中国法にも手を付けられないという方は少なからずいるのではないかと思います。

しかし、実は中国法に関する日本語で書かれた書籍は、それなりに数多く世に出回っており、これらに目を通すことで、中国法の基本的な部分、概要はある程度学習することができます。

今回は、個人的な独断と偏見で、数ある参考書(のうち自分が使用したことのあるもの)についてご紹介したいと思います。

現代中国法入門(有斐閣)|おすすめ度★★★☆☆ 

4名の学者によって執筆されている中国法入門書籍。

中国という国の成り立ち、歴史的な背景事情を踏まえながら、中国の法制度を説明したバイブル的な書籍。初版は1998年出版とこの本自身かなりの歴史があり、最新の第8版は2019年12月に出版されたもの。

憲法、民事法、刑事法など、各分野ごとに広く浅く概要が説明されており、概要を理解する上では十分な情報量。もっとも、実務書ではなく、あくまで中国法の概説に徹した書籍のため、中国ビジネス用の参考書としては物足りない。

 

中国経済六法(日本国際貿易促進協会)|おすすめ度★★★★★

森・濱田松本法律事務所の中国プラクティスグループの翻訳による、中国法版六法全書。日本の六法全書に匹敵する分厚さの中国の数ある法令を、MHMの中国チームが日本語に翻訳した大作。

毎年改定しており(全面改訂版と、最新法令の増補版を隔年で出版)、MHMチームには敬服。中文で書かれた中国の法令を日本語に翻訳したものとして、恐らく中国法に携わっている弁護士にとっては必携の書。中国法令の法文を日本語でクライアントに見せることができるという点でもスグレモノ。

一冊22000円と、日本の六法全書に比べても2倍弱ほどあるが、これが手元にあるとないとでは、かなり違う。 

中国経済六法 (2020年版)

中国経済六法 (2020年版)

  • 発売日: 2020/04/01
  • メディア: 単行本
 

 

中国ビジネス法体系(日本評論社)|おすすめ度★★★★★

 現在、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業に所属されている藤本豪先生(出版当時は西村あさひ法律事務所)が出版した中国ビジネス法務に特化した専門書。

ビジネスの場面ごとに章分けされ、その場面ごとに適用される法令、生じる論点について、非常に簡潔に、かつ必要十分に根拠法令を引用しながら解説している超良書。特に、根拠法令の中文表記もあるため、実際に法令をネットで検索するにも非常に便利。但し、初学者が読んでもさっぱりイメージが沸かない可能性が高く、ある程度中国法務に携わり、多少の経験がある人向けかも。

惜しいのは、2017年に出版されて以降、改版がされておらず、既に内容が大きく変わってしまっている内容もそれなりに出てきてしまっていること。

中国ビジネス法体系 第2版

中国ビジネス法体系 第2版

  • 作者:藤本 豪
  • 発売日: 2017/02/20
  • メディア: 単行本
 

 

 図解入門ビジネス最新中国ビジネス法務の基本と実務がわかる本(秀和システム)|おすすめ度★★★★★

 BLJ法律事務所の遠藤誠先生と、元森・濱田松本法律事務所に所属され、現在は中国大手事務所の中倫法律事務所に所属されている孫彦先生の共著による、秀和システムの出版シリーズから出版された中国ビジネス法務の基本書。

シリーズの特徴である図表を多く使った解説がなされ、ビジュアル的に理解しやすくなっているだけでなく、2019年9月に出版された書籍だけに比較的新しい法令までカバーしており、情報の鮮度としても高い。

カバーしている分野や対象は、中国ビジネス法体系に比べると狭いものの、それでも中国ビジネス法の基礎を学ぶという観点からは十分。欲をいえば、中国ビジネス法体系のように、参照法令の中文表記も入れてほしいところであるものの、おそらく書籍の性質やシリーズのコンセプトからはそれが省略されているのかも。

ただ、この情報量で2000円強という点でコスパは多分最強。 

 

中国法実務教本-進出から撤退まで(商事法務)│おすすめ度★☆☆☆☆

日系法律事務所の中では最も早く中国に進出した大江橋法律事務所による中国法務に関する書籍。トピックごとにQA形式で説明されており、説明の内容はそこそこ分かりやすい。

もっとも、如何せん2014年に出版されたもので、内容については今となっては使えないところがそれなりにたくさんある上、引用されている法令の検索性が悪い。現在、恐らく既に絶版となっており、市中では入手困難かも。 

中国法実務教本―進出から撤退まで

中国法実務教本―進出から撤退まで

  • 発売日: 2014/03/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 Q&A 中国ビジネス法務の現場(全訂版)(商事法務)│おすすめ度★☆☆☆☆

三菱商事法務部による中国ビジネス解説書という意欲作。ただ、2012年出版のものであるため、上記「中国法実務教本」以上にもはや使い物にならない。今となってはコレクター向け書籍。

 

中国ビジネス投資Q&A 2017改訂版(チェイス・チャイナ)|おすすめ度★★★★★

 多分、日本人の個人として中国ビジネス関連の書籍を一番数多く出しているであろう水野真澄先生による、対中ビジネスの基本的な情報についてQA形式で紹介した良書。

これまで紹介してきた書籍がいずれも法律家によって執筆されたものであるのに対し、水野氏はあくまでコンサルタントの立場から執筆しており、法務に関する事項のほか、会計税務に関する事項もカバーしており、中国ビジネス法務というよりは、まさに中国ビジネスを概括的に理解する観点から読むのに適した本。

こちらも、非常に簡潔に淡々と、なおかつ実務的経験も踏まえた内容となっており、大変参考になる。こちらも2017年改訂版が最新のものとなっており、そろそろ改訂版が出ないかと期待しているところ。 

中国ビジネス投資Q&A 2017改訂版

中国ビジネス投資Q&A 2017改訂版

  • 作者:水野真澄
  • 発売日: 2017/09/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

中国・外貨管理マニュアルQ&A 2016改訂版|おすすめ度★★★★☆

引き続き水野先生執筆による書籍のうち、こちらは、中国法務の中でもとりわけ制度が分かりにくく、ごちゃごちゃしている外貨管理、外貨送金関連に特化したもの。本書もやはりQA形式で制度、論点を解説しており、また、記述も簡潔に分かりやすくなされている。

基本的なポイントは概ね書いてあるものの、逆に、記述が簡潔すぎて関連する事項を更に調べなければならない箇所もなくはない。特に外貨管理の部分は、個人的にも非常に苦手(というより、実際に外貨送金等をやってみないとイメージがつかない)なので、もう少し実際のビジュアルを使って解説してもらえるともっとありがたいなぁという印象。

中国・外貨管理マニュアルQ&A 2016改訂版

中国・外貨管理マニュアルQ&A 2016改訂版

  • 作者:水野真澄
  • 発売日: 2016/09/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

最新中国税務&ビジネス(中央経済社)|おすすめ度★★★★☆

本書は、公認会計士である近藤義雄先生の執筆による中国税務をメインに据えたビジネス書。 近藤先生も、個人として水野先生と同等かそれ以上の中国関連書籍を執筆されており(どっちが多いかまで比較していませんが…)、その中で出版された最新の書籍。

近藤先生の出版される書籍は税・会計に特化しており、弁護士である私が読んでも専門知識がなくよくわからないことが多いのですが、こちらの書籍では中国の税制について、近似のEC取引もカバーしながら、かなり分かりやすく解説されています。

税に関する基本書を超えて、それなりに専門的な内容も含まれていますが、平易に解説されているので、税に詳しくない人でも、読むに堪えるかと思われます。

最新 中国税務&ビジネス

最新 中国税務&ビジネス

  • 作者:近藤 義雄
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 単行本
 

 

詳細 新・中国増値税の実務(中央経済社)|おすすめ度★★☆☆☆

デロイトトーマツの税理士によって執筆された、増値税に特化した書籍。

増値税に関して満遍なく説明がされているものの、日頃増値税に疎い自分が読んでもとっつきにくく途中でギブアップ。税に明るい方が読むには非常にためになる書籍と思える一方、初学者が読むには結構厳しいかも。 

詳解 新・中国増値税の実務

詳解 新・中国増値税の実務

  • 作者:片岡 伴維
  • 発売日: 2017/05/17
  • メディア: 単行本
 

 

中国子会社の清算・持分譲渡の実務(税務経理協会)|おすすめ度★★★☆☆

税理士の森村元先生による、中国での清算、持分譲渡による事業撤退に特化した書籍。

撤退のプランニングから、具体的なアクションに向けたフロー、実際の手続きなどが比較的分かりやすく説明されている。特に清算に関するフローの概要を理解するには十分かと。

もっとも、清算手続は、会社の性質や状況、地域によって様々である故、書籍の中で一般論として記載できる範囲には限界があることは理解しつつも、もう少し突っ込んだ具体的な手続の詳細や、関連法令の引用などがあると尚良かったかなという印象。

いずれにしても、2016年に出版されたものであり、内容として既に現行法下では通用しない箇所も少なからずあるので、改訂版の出版を希望。 

 

まとめ

以上、数ある中国法関連の書籍の中から、実際に使ったことのある書籍について、完全に個人的な意見に基づいて評価、紹介させていただきました。

今後、中国法関連書籍を手に取る可能性のある方のご参考になれば幸いです。