中国の法体系その2
前回の記事では、中国における法体系というテーマのもと、憲法以下、法律、行政法規、地方性法規、自治条例、単行条例、規則についてご紹介しましたが、中国における法体系を理解する上では、更にもう一つ、司法解釈と呼ばれる法源も知っておく必要があります。
本稿では、司法解釈について、その概要をご説明したいと思います。
司法解釈とは
司法解釈とは通常、法律の適用の過程における問題、論点に対して、最高司法機関が行った解釈をいうと理解されています。
もう少し具体的に言えば、法律の規定の解釈や適用上の問題につき、他に参考になる規定や下位法令などがない場合や、法律の適用について異なる複数の解釈が可能であり、裁判所間で見解が分かれているような場合に、統一的で権威のある法解釈として、最高司法機関が示す解釈と理解して概ね差し支えないかと思います。
「最高司法機関」の示す解釈、ということですが、ここにいう「最高司法機関」は、最高人民法院(最高裁判所に相当)だけではなく、最高人民検察院(最高検察院に相当)も含まれます。
最高人民法院の示す司法解釈を審判解釈(审判解释)、最高人民検察院の示す司法解釈を検察解釈(检察解释)と呼ぶこともありますが、呼び方についてはあまり区別する大きな実益はないように思います(が、以下では便宜上こちらの呼称を使用して説明します。)。
審判解釈
最高人民法院による司法解釈制定権限は、「最高人民法院の法解釈業務に関する規定」(以下「法院規定」といいます。中国語は“最高人民法院关于司法解释工作的规定”)に求めることができます。
法院規定によると、審判解釈はその性質に応じて、「解釈」(解释)、「規定」(规定)、「批復」(批复)、「決定」(决定)の4つの形式があるとされています(法院規定第6条第1項)。
- 解釈
裁判所の審判業務において、如何に具体的に法律を応用的に適用するのか、又は、とある類型の案件、問題対し如何に法律を応用的に適用するのか、という点に対して制定する司法解釈 - 規定
立法精神に基づいて、審判業務の過程において制定する必要のある規範、意見等に関する司法解釈 - 批復
高級人民法院、人民解放軍軍事法院からの審判業務の過程における、法律の適用問題に関する伺いに対して制定する司法解釈 - 決定
司法解釈の修正又は廃止に関する司法解釈
上記の各形式の中でも、「批復」については、下位の裁判所から特定の法律問題に関する伺いを受けた場合に、これに対して最高人民法院として行う回答としての司法解釈があるというのは、日本の感覚からするとちょっと面白い点かと思います(日本の高等裁判所が最高裁判所に対して、特定の論点、問題に関する法解釈、法適用についてお伺いをたてるということは、裁判所の独立という観点からなかなか想像しにくいところです)。
審判解釈については最高人民法院のウェブサイト上でずらりと並んでいますので気になる方は以下のリンクから見てみてください。
http://www.court.gov.cn/fabu-gengduo-16.html
検察解釈
他方、最高人民検察院による司法解釈制定権限は、「最高人民検察院の法解釈業務に関する規定」(以下「検察院規定」といいます。中国語は“最高人民检察院司法解释工作规定”)に求めることができます。
検察院規定によると、検察解釈はその性質に応じて、「解釈」(解释)、「規則」(规则)、「規定」(规定)、「批復」(批复)、「決定」(决定)などの形式があるとされており(検察院規定第6条第1項)、審判解釈の4形式に加えて「規則」という形式が加わっています。
- 解釈、規則
検察業務において、如何に具体的に法律を応用的に適用するのか、又は、とある類型の案件、問題対し如何に法律を応用的に適用するのか、という点に対して制定する司法解釈 - 規定
検察業務の過程において制定する必要のある案件処理規範、意見等に関する司法解釈 - 批復
省級人民検察院(人民解放軍軍事検察院、新疆生産建設兵団人民検察院を含む)の検察業務の過程における、法律の適用問題に関する伺いに対して制定する司法解釈 - 決定
司法解釈の修正又は廃止に関する司法解釈
基本的には審判解釈とパラレルですね。
検察解釈は性質上刑事法、刑事訴訟法に関連するものが多いですが、行政事件関係のものなども多数存在しています。
検察解釈も最高人民検察院のウェブサイトから閲覧可能ですので、以下のリンクから見てみてください。
共同による司法解釈
司法解釈は、最高人民法院が単独で制定するもの、最高人民検察院が単独で制定するもののほか、両者が共同で制定するものもあります。主には、検察業務と審判業務の双方にかかわる法適用の問題について共同による制定をすることになるものと理解されます(検察院規定第7条第1項)。
司法解釈の効力
法院規定上、最高人民法院の公布する司法解釈は法律としての効力がある旨明記されており(法院規定第5条)、その意味で、審判解釈については法律に準じる法源として扱われるものといえます。
他方、検察院規定上、最高人民検察院による司法解釈業務は全人代及び全人代常務委員会による監督を受けること、全人代及び全人代常務委員会が、当該司法解釈が法律の規定に違反すると認定する場合には最高人民検察院は速やかにこれを修正又は廃止しなければならないとされていますが(検察院規定第4条第1項、第2項)、上記の法院規定上の定めは見当たりません。
前回の記事でもご紹介しているとおり、少なくとも立法法上法律の解釈権限は全人代及び全人代常務委員会に帰属するという原則が定められているところ、検察院規定の定めは、その原則に沿うものといえます。他方で、審判解釈については、立法法上の原則に対する例外を認めている、と考えることもできそうです。
日本の最高裁判所の判決も、法解釈に関しては基本的には先例性を有し、一定の最高裁判決が出た後は、同一の法解釈については原則としてその判決に拘束されることになりますので、その点では一定の法規範性があるといえます。しかし、中国の司法解釈は、法律と同様に条文の形で制定されるので、法規範性の所在をより一層明快に認めることができます。
まとめ
冒頭にも記載したとおり、司法解釈には、法律上具体的な定めがない事項について詳細な規定を定めるものも少なからず存在しますので、中国法務を扱うにあたっては、法律、その下位法令と並んで、司法解釈をチェックすることも非常に重要な意味を有しています。