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中国の著作権法改正について

今年の4月30日、中国全国人民代表大会常務委員会は、著作権法の改正案草案(以下「本草」)を公布し、同年6月30日までの2か月間に亘る公衆からの意見募集を開始しました。中国の著作権法は1991年6月に施行されて以降、2001年、2010年と、約10年おきに改正がなされており、今回も同様10年ぶりの改正がなされるものと見込まれています。

本草案おいては、かなり多岐に亘る改正がなされていますが、今回はその中でも比較的重要と思われるポイントを紹介しようと思います。

1 「視聴覚作品」という概念の導入

現行の著作権法(以下「現行法」)においては、著作権法上の保護を受ける対象となる作品の1つとして、「映画作品及び映画の撮影製作に類する方法により創作された作品」(以下「映画等作品」)が掲げられていますが(現行法第3条第6号)、本草案では、これを「視聴覚作品」(中国語は「视听作品」)という表記に改めました。

本草案においては、「視聴覚作品」の定義を特段定めていないものの、文字通り、視聴覚を通じて感得することができる連続的画面、を指すという理解されます。近時、例えばTik Tok等に代表されるアプリによって作成されるショートムービーや、ユーザーによるゲーム画面の中継等が広く普及し、一般的なものとなりましたが、これらが映画等作品に属するのかといえば、微妙なものもあり、このような作品をどのような属性の作品と理解して保護するか、あるいはそもそも保護される作品なのかについては判断が分かれていました。

上記のようなショートムービーについて、映画に類する方法により創作された作品と認定した近時の裁判例もあるものの、今後「視聴覚作品」という概念が導入されることにより、こういった動画等も、無理なく作品として保護されるということができると思われます。

他方、本草案上は、視聴覚作品のほかに、現行法上も存在する「撮影による作品」も引き続き作品として残しており、そうすると撮影作品と視聴覚作品をどのように線引きするかのは検討事項として残るといえそうです。

2 放送権の権利内容の変更

本草案では、著作権の支分権である「放送権」(中国語は「广播权」)の定義が以下のように変更されました。

現行法

本草

無線方式によって作品を公開で放送又は伝達し、有線伝達又は中継方法によって公衆に放送の作品を伝達し、及び拡声器又はその他の信号・音声・画像を伝送する類似の手段を通じて公衆に放送の作品を伝達する権利

有線方式又は無線方式によって作品を公開で放送又は中継し、及び拡声器又はその他の信号・音声・画像を伝送する類似の手段を通じて公衆に放送の作品を伝達する権利

現行法上、放送権により保護されるのは、①無線方式による作品の公開放送又は伝達、②有線伝達又は中継方法による放送作品の伝達、③拡声器又はその他の信号・音声・画像を伝送する類似の手段を通じた、包装作品の公衆への伝達の3つの行為です。

この定義からは、作品の放送行為については、無線によるものしか保護されず、また、放送作品の中継による伝達は有線方式によるものしか保護されてないことになります。しかし、現行法の放送権の定義は伝統的な無線放送を念頭に置いたものであり、近時のインターネットの発展や、トリプルプレイは想定されておらず[6]、そのため、近時では主流となっているネットワークを通じたコンテンツの放送(例えば、インターネット上でのテレビ番組の放送)については、現行法の定義上は放送権の保護の対象とならないことになります。

有線又は無線ネットワークを通じた作品の提供に関しては、別途情報ネットワーク伝達権(中国語は「信息网络传播权」)が保護していますが、これはあくまで公衆が自ら選ぶ時間と地点において、作品にアクセスすることを可能とする権利であり、動画配信サイトにおける作品の提供・視聴などが想定されているので、有線での作品や番組の(一方的な)放送行為はやはり保護の対象外となります。

このような時代と技術の変遷に伴い、放送権の内容を見直す必要が生じたことに鑑み、本草案では放送権の定義を変更しました。本草案の定義によれば、有線方式又は無線方式による作品の公開放送又は中継が全て放送権の保護対象に含まれたことになります。

また、本草案における放送権の定義の変更により、ネットワークを通じた作品の提供という点で類似する情報ネットワーク伝達権とは、一方的な作品の放送か、(ユーザーによるアクセスを要する)双方向的な作品の放送か、という点で区別されることになると考えられます。

3 共同作品に係る権利行使について

現行法上、共同作品の権利行使については、「二人以上の者が共同で創作した作品の著作権は、共同著作者によって共有される」と規定されるのみで(本草案第13条第1項)、下位法令である著作権法実施条例において「共同作品が分割して使用できない場合、その著作権は各共同作者が共有し、協議の合意により行使する;協議で合意できず、かつ正当な理由がない場合は、いずれの当事者も、他の当事者が譲渡以外のその他の権利を行使することを妨げてはならない」と若干具体化した規定が置かれているにとどまります(著作権法実施条例第9条本文)。

しかし、どのような作品が分割使用の可能なものなのか、という点の判断は必ずしも容易ではなく、協議による共同作品の著作権行使をすることの前提として、作品の分割不能を要求すること自体が適切ではないという考え方が根強く存在していました。

これを受け、本草案では、上記著作権法実施条例の規定の文言を若干修正し、以下のような規定を置きました。

著作権法実施条例

本草

共同作品が分割して使用できない場合、その著作権は各共同作者が共有し、協議の合意により行使する;協議で合意できず、かつ正当な理由がない場合は、いずれの当事者も、他の当事者が譲渡以外のその他の権利を行使することを妨げてはならない

二人以上の者が共同で創作した著作物の著作権は、共同著作者によって共有され協議をして合意の上で行使される。協議をしても合意できず、かつ、正当な理由がないときは、いずれの当事者も他の当事者が譲渡、他人に対する専用利用の許諾、質権設定以外の権利を行使することを妨げてはならない

これにより、作品の分割の可否にかかわらず、共同作品にかかる権利行使は、原則として当事者間の協議によることが明確にされたといえます。

4 美術等作品の譲渡と公表権

現行法上、「美術等」の作品の原本にかかる所有権の移転は、著作権の移転とはみなさないが、「美術」作品の原本にかかる展示権は、原本の所有者が保有すると規定されています(現行法第18条)。これに対して、本草案では、この規定について、作品の原本にかかる所有権の譲渡は、著作権の帰属を変更しないが、「美術及び撮影」の作品の原本にかかる展示権は、原本の所有者が享有する、という規定に改められました。

所有権の譲渡により著作権の帰属が左右されない対象について、「美術等」作品から、作品一般に拡張されたほか、原本、現物所有者が展示権を保有する対象となる作品が美術作品に加え、撮影作品が追加されたといえます。

さらに、作者が、未発表の「美術及び撮影」の作品の原本の所有権を他人に譲渡し、譲受人が当該原本を展示する場合、作者の公表権を侵害しないという規定が新たに追加され(本草案第18条第2項)、未発表の美術、撮影作品の譲受人がこれを展示することについて、展示権だけでなく公表権も侵害しないことが明確にされたといえます。

5 懲罰的損害賠償責任等

5-1 損害額の算定

著作権著作隣接権が侵害された場合、侵害者は損害賠償責任を負いますが、損害額を算定することが困難な場合、現行法上は権利侵害者の不法所得に応じて損害賠償をすることができ、損害額の算定及び権利侵害者の不法所得の確定をすることができない場合には、裁判所が情状に応じて50万元以下の賠償額を決めることができるとされています(現行法第49条第1項、第2項)。この点について本草案は以下のような変更を加えている(本草案第53条第1項、第2項)。

変更点①

損害額、権利侵害者の不法所得の算出が困難であるときは、当該権利許諾使用料の倍数に応じて損害賠償を行うことも可能。

変更点②

損害額、権利侵害者の不法所得、権利許諾使用料の算出が困難な場合、裁判所が情状に応じて500万元以下の損害賠償額を決めることが可能。

損害額、不法所得のいずれの算定も困難な場合、現行法上は裁判所が50万元以下の賠償額を決めることになりますが、本草案では、侵害されている権利のライセンス料を基準にした損害額の算定をすることも認めた形となります。

このようなライセンス料を基準にした損害算定規定は、特許法や商標法にも置かれており(特許法第65徐う第1項、商標法第63条第1項)、本草案もこれらに合わせたものといえます。そして、ライセンス料を基準にしても損害額の算定が困難な場合には、裁判所が情状に応じて500万元以下の賠償額を決めることが可能となり、現行法に比べて損害額の上限が10倍に引き上げられました。

5-2 懲罰的損害賠償

本草案では、著作権又は著作隣接権を故意に侵害し、情状が重大な場合、確定された金額(権利侵害者の不法所得、ライセンス料を基準にして算出された金額)の1倍以上5倍以下の損害賠償を行うことができる、として懲罰的損害賠償制度を規定しています(本草案第53条第1項)。懲罰的損害賠償は、商標法や不正競争防止法においても導入されているところ(商標法第63条第1項、不正競争防止法第17条第3項)、著作権法にもこれが導入されるものといえます。

なお、商標法、不正競争防止法においては、侵害者の「悪意」(≒害意)による営業秘密侵害行為や商標権侵害行為が必要とされているのに対し、本草案では、侵害者の「故意」のみを要件としている点も注目されます。

 

 

以上、中国著作権法改正案の草案について簡単にご紹介しました。

今後、正式に施行される内容は、草案の内容から多少の変動があるかと思われますので、公布・施行されたものについては、別途ご紹介したいと思います。