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中国民法典の解説その③~契約編典型契約Ⅱ~

以前のエントリーにて、典型契約のうち売買契約金銭消費貸借契約保証契約の3つについて解説しました。 

chinalaw.hatenablog.com

今回はこれに引き続き、賃貸借契約ファイナンス・リース契約ファクタリング契約の3つの典型契約について、民法典での改正点を解説します。

1 賃貸借契約

1-1 賃貸借契約の期間

賃貸借契約の期間については20年までという上限が定められています(民法典第705条第1項)。賃貸借契約を更新する場合も、20年を超える期間の更新をすることはできません(民法典第705条第2項)。

また、6か月以上の賃貸借契約を締結する場合には、書面による契約を締結しなければならないとされており、書面によらずに契約をした場合には、期限の定めのない賃貸借契約を締結したものとみなされます(民法典第707条)。民法典では、書面による契約でも期限を特定することができない場合も、期限の定めのない契約を締結したものとみなす旨が新たに追加されています。

1-2 賃貸借契約の届出

法律、行政法規によって賃貸借契約の届出が要求されている場合でも、当該届出がなされたか否かは、契約の効力を左右しないという規定が新たに追加されました(民法典第706条)。

例えば、商品建物賃貸借管理弁法(商品房屋租赁管理办法)においては、建物の賃貸借契約が締結された場合、契約が締結されてから30日以内に、賃貸借契約の当事者において、対象建物の所在する地の人民政府建設主管部門において賃貸借契約の登記届出をしなければならないとされています(同弁法第14条第1項)。もっとも、当該規定の存在にかかわらず、実務上は賃貸借契約の届出は必ずしもなされていないことが多いといえます。そのため、届出がなされていない賃貸借契約については有効なのか否かという論点があったのですが、民法典の規定によりこの点の問題は解決されたといえます。

1-3 転貸借

民法典においては、転貸借に関連した新たな規定が追加され、充実化されました。

まず、転貸借自体は、賃借人が賃貸人の同意を得ることによって行うことができるという原則は、契約法において既に規定されています(契約法第224条、民法典716条)。

1-3-1 転貸借期間

転貸借の期間が、賃貸借契約の賃貸期間を超える場合、当該超過の期間に係る合意は、原則として賃貸人に対して拘束力を持たないとされています(民法典第717条)。賃貸人と賃借人が別途合意をしている場合にはその限りではないということになっていますが、転貸借契約は、その主契約である賃貸借契約の従たる契約に過ぎませんので、ある意味当然の法理ではありますが、契約期間に関するルールが明文化されたといえます。

1-3-2 転貸借への黙示の同意

前述のとおり、転貸借をするには、賃貸人の同意を得る必要がありますが、賃貸人において転貸借を知り、又は知り得たにもかかわらず、6か月以内に異議を述べない場合、転貸借に同意したと見なされる旨が明記されました(民法典第718条)。

1-3-3 賃料の支払い

賃借人が賃料の不払いをした場合、転借人は原則として賃借人に代わって未払賃料及び違約金を支払うことができる旨が明記されました(民法典第719条第1項)。そして、転借人が賃借人に代わって賃料、違約金を支払った場合、転借人が賃借人(転貸人)に対して支払う賃料に充当することができ、もしも、実際に支払った金額が賃借人に対する賃料を超過する場合には、超過部分について求償することができる旨も合わせて規定されました(民法典第719条第2項)。

賃借人が賃料の支払いを怠った場合には、賃貸借契約が解除され、その結果転貸借契約を維持できなくなってしまう可能性があるところ、転借人が賃借人に代わって賃料を支払うことによってそのようなリスクを回避することができるといえます。

1-4 賃借人からの契約解除

民法典では、新たに賃借人からの契約解除権が新たに規定されました(民法典第724条)。具体的には、以下のいずれかの事由が生じ、賃借人の原因によらずに物件を使用することができなくなった場合、賃借人から賃貸借契約を解除することができるとされました。

  1. 賃貸物件が司法機関又は行政機関により差し押さえされた場合
  2. 賃貸物件の物権の帰属につき紛争がある場合
  3. 賃貸物件の使用条件に関する、法律、行政法規の強制法規に違反した場合

1-5 競売における優先購買権等

賃貸物件が競売にかけられる場合、賃貸人は原則として競売にかけられる前の合理的な期間内に賃借人に対して通知をしなければならず、賃借人は同等の条件での優先購買権を有することとされています。この点は、契約法においても定めがあったものですが(契約法第230条、民法典第726条第1項)、民法典ではこの点について、若干規定の補充がなされました。

賃貸人が通知義務を履行した後、賃借人が15日以内に購買権の意思表示をしなかった場合、賃借人は優先購買権を放棄したものとみなされる旨が新たに規定されました(民法典第726条第2項)。

また、賃貸人が競売人に対して賃貸物件競売の委託をした場合、競売の5日前までに賃借人に通知をしなければならず、賃借人が競売に参加しなかった場合には優先購買権を放棄したものと見なされることとなりました(民法典第727条)。もしも、賃貸人が賃借人に対して通知をせず、又は賃借人による優先購買権行使を妨げた場合には、賃借人は賃貸人に対して損害賠償請求できるとされました(民法典第728条)。

2 ファイナンス・リース契約

ファイナンス・リース契約は、日本の民法では特に典型契約として定められているものではありませんので、民法典での改正点に限らず、全体的に掘り下げて解説したいと思います。

2-1 中国民法典におけるファイナンス・リース契約

ファイナンス・リース契約とは、

賃貸人が、販売者、リース物件に関する賃借人の選択に基づき、販売者に対してはリース物件を購入し、賃借人に対しては当該物件の使用を提供し、賃借人はこれに対して賃料を支払うことを内容とする契約

をいいます(契約法第237条、民法典第735条)。

ファイナンス・リース契約においては、リース物件、数量、規格、技術性能、検収方法、リース期間、賃料構成及びその支払期限と方法、貨幣、リース期間満了後のリース物件の権利帰属等について、書面によって定めるべきことが要求されており(契約法第238条、民法典第736条)、口頭での合意をすることはできないことになります。

ファイナンス・リース契約の対象となる物件の種類については特段制限はされておりませんが、バーチャルで実体のない物件(虚构租赁物)については契約の対象から明確に除外され、そのような物件を対象とする契約については無効とすることが明記されています(民法典第737条)。この点について、実体のない物件に係るファイナンス・リース契約を無効とする明確な解釈があったわけではありませんが、民法典はファイナンス・リース契約の対象に、明確に実体性を要求したといえます。他方で、実体のない物件の範囲については明確ではありません。

なお、ファイナンス・リース事業を行うには、許認可を取得することが必要とされていますが(例えば、金融リース企業管理弁法(金融租赁公司管理办法)第2条)、賃貸人において許認可を取得していなかったとしても、ファイナンス・リース契約の効力自体には影響を及ぼさない旨も新たに規定されています(民法典第738条)。

2-2 賃借人の権利

民法典においては、賃借人の販売者、賃貸人に対する権利が契約法に比べて充実し、総じていえば賃借人保護が強化されていると理解されます。

2-2-1 賃借人と販売者

賃貸人が、販売者、リース物件に係る賃借人の選択に基づいて売買契約を締結した場合、販売者はその約定に従って賃借人に対して物件を引き渡さなければならず、また、賃借人は物件の受領に関する買主の権利を有するとされています(民法典第739条)。

もしも、販売者がに対する引き渡し義務に違反し、以下のいずれかの事由がある場合には、賃借人は販売者からの引き渡しを拒絶することができます(民法典第740条)。

  1. 目的物が約定内容と著しく齟齬する場合
  2. 約定に従わずに目的物を引き渡さず、賃借人又は賃貸人が催告をした後、合理的な期間内に依然として引き渡さない場合。
2-2-2 賃借人と賃貸人

賃貸人、賃借人、販売者との間で、販売者が売買契約の義務を履行しなかった場合に、賃借人から販売者に対して損害賠償請求の合意をすることができ、この場合賃貸人はそれに協力しなければなりません(契約法第240条、民法典第741条)。

これに関連して、賃借人が販売者に対して損害賠償請求をしたとしても、原則としてそれ自体は賃借人の賃料支払い義務を左右するものではないとしつつ、リース物件の選択が賃貸人の技能や技術による場合には賃料の減額を請求することができるというルールが明確にされました(民法典第742条)。

また、リース物件に明確な瑕疵があるにもかかわらず賃貸人が賃借人にこれを告知しなかったことや、賃借人の販売者に対する損害賠償請求への不協力があったことにより、賃借人が販売者に対する損害賠償請求の行使に失敗した場合には、賃借人は賃貸人に対して相応の責任を負うと共に、賃貸人しか販売者に対して損害賠償請求することができないのにこれを怠ったことで賃借人が損害を被った場合にも、賃貸人は賃借人に対して責任を負うことが明確にされています(民法典第743条)。

2-3 第三者との関係

賃貸人、賃借人、販売者以外の第三者との関係について、民法典では、賃貸人は登記をしなければリース物件に係る所有権を善意の第三者に対抗することができないという規定を新たに設けました(民法典第745条)。

リース物件に係る登記については、2020年5月に施行された「ファイナンス・リース会社監督管理暫定弁法」(融资租赁公司监督管理暂行办法)が規定をしており、具体的には、当該リース物件に係る権利が登記必要なものについてはファイナンス・リース会社(すなわち賃貸人)は登記をしなければならず、逆にリース物件が登記の必要なものでない分類のものである場合、ファイナンス・リース会社はリース物件の合法権益を保障する有効な措置を講じなければならない、とされています(同弁法第15条)。

不動産については登記をすることが物権の発生や移転の効力発生要件となっているので、登記をすることがその性質上必要といえるのであまり問題は大きくありませんが、他方動産については、登記による物権の公示が困難であり、善意の第三者による善意取得との衝突が生じやすいといえます。ファイナンス・リースに関しては、中国人民銀行の運営するファイナンス・リース登記公示システム(融资租赁登记公示系统)と商務部の運営する全国ファイナンス・リース企業管理情報システム(全国融资租赁企业管理信息系统)の二つの公示システムがあります。

いずれのシステムでも動産リース物件に関する登記をすることが可能ということですが、相互が独立したシステムであり、また、システム相互で登記主体が異なる、登記の要求、審査要求が違うなど、統一的な権利保護がなされているわけではないようです。

そのため、民法典の規定が新設されたとしても、現状のファイナンス・リース物件登記システムの現状に照らすと、特に動産のリース物件に関する権利保護が十分とはいえないとする見方もあるところです。

2-4 契約の解除

賃借人が賃貸人の同意を得ずにリース物件を譲渡、担保設定、現物出資その他の方法により処分した場合、賃貸人は契約を解除することができます(民法典第753条)。

また、以下のいずれかの事由がある場合には、いずれの当事者についても契約を解除することができます(民法典第754条)。

  1. 賃貸人と販売者との間の売買契約が解除された場合、無効とされた場合、または取り消された場合で、且つ新たに売買契約を締結することができない場合
  2. リース物件が当事者の責めによらずに毀損、滅失し、且つ修復不能又は代替物を確定することが不能な場合
  3. 販売者の原因により契約の目的の実現が不能となった場合

2-5 リース物件の帰属

リース期間の満了後のリース物件の所有権の帰属については、当事者間の合意により定めることができますが、合意の内容が不明なために権利の帰属先を確定させることができない場合には賃貸人に所有権が帰属するものとされました(民法典757条)。

他方、リース期間満了後のリース物件の所有権につき賃借人に帰属することが合意されている場合で、賃借人がリース料の大部分を支払ったものの、残りの部分を支払うことができないことによって契約が解除され、賃貸人がリース物件を回収するという事態が生じた場合には、当該リース物件の価値が未払いとなっているリース料等の価値を超えるようであれば、賃借人は賃貸人に対して相応の返還を請求することができるとされています(民法典第758条第1項)。

これに加え、民法典では新たにリース期間終了後のリース物件の所有権が賃貸人に帰属するという合意がなされている場合で、リース物件が損傷もしくは滅失し、又はその他の物と付合、混和したことによってリース物件を返還することができなくなった場合には賃貸人は賃借人に対して合理的な補償を請求することができる、という規定が定められています(民法典第758条第2項)。

また、ファイナンス・リース契約においては、期間満了時に一定の金額を支払うことによって、残りのリース料に充当し、リース物件の所有権を賃借人に帰属させるのも、一つの契約終了時の処理として行われていましたが、この点は従前の契約法では特段規定が定められていませんでした。民法典ではこのような実務上の運用を新たに明文化しました(民法典第759条)。

3 ファクタリング契約

 ファクタリング契約(中国語は「保理合同」)は、契約法では関連規定が定められおらず、民法典において新たな典型契約として追加されました。

中国におけるファクタリングは2010年代以降、銀行実務上発展してきましたが、法律レベルでの統一的な規定は制定されず、行政法規以下の各法令で散発的に規定が置かれていたにとどまるため、統一的な解釈、運用がなされていませんでした。今般、民法典ではファクタリング契約について9か条新たな規定が設けられ、統一的な実務運用という観点からは大きな意義があると理解されています。

3‐1 ファクタリング契約とは

3‐1‐1 概要

ファクタリング契約について、民法典は以下のとおり定義を定めました(民法典第761条)。

ファクタリング契約とは、売掛金に係る債権者が、既存の又は将来的に発生する売掛金債権をファクタリング業者(中国語は「保利人」)に譲渡し、ファクタリング業者は資金融通、売掛金管理又は催促回収(中国語は「催收」)を提供し、売掛金債務者の支払い担保等のサービスを提供する契約をいう。

このように、民法典上のファクタリングは、単なる債権回収代行のみにとどまらない総合的なサービスとして位置付けられています。

3‐1‐2 契約の内容等

まず、ファクタリング契約の当事者は、債権者とファクタリング業者(通常はサービサーや銀行)となります。

そして、ファクタリング契約は書面により締結しなければならず、契約の内容として、業務類型、サービス範囲、サービス提供期間、基礎取引状況、売掛金情報、ファクタリング融資額又はサービス報酬及びその支払い方法等を含むものとされています(民法典第762条)。

なお、ファクタリングも債権譲渡としての側面を有するところ、債権譲渡に関して債務者への通知が必要となります。この点、ファクタリング業者から債務者に対して通知を行う場合には、ファクタリング業者の身分を表明し、かつ、必要な証憑を添付しなければならないとされています(民法典第764条)。

3‐2 ファクタリングに関する規定

3‐2‐1 虚偽の売掛債権

債権者と債務者が、売掛債権を捏造したうえでこれを譲渡の目的とし、債権者とファクタリング業者が契約を締結した場合、ファクタリング業者が債権捏造の事実を明らかに知っていた場合を除き、当該債務者は売掛債権の不存在を理由としてファクタリング業者に対抗することはできません(民法典第763条)。

債権には公示性がないことに鑑み、ファクタリング業者を保護するための規定です。

3‐2‐2 基礎取引契約の終了

債務者が債権譲渡の通知を受けた後には、債権者及び債務者は正当な理由なく、基礎取引契約(債権が発生する原因となる契約)の変更又は終了に合意し、債権買取人に不利な影響を与えた場合、ファクタリング業者に対しては効力を有しないとされています(民法典第765条)。これもやはりファクタリング業者を保護するための規定といえます。

3‐2‐3 償還請求権付ファクタリング/償還請求権のないファクタリング

民法典では、償還請求権の有無に基づき、それぞれの場合の権利関係を区別して定めています。償還請求権とは、債務者が倒産するなどすることにより、ファクタリング業者が債権を回収できなくなった場合に、売掛債権の債権者に対して損害の補償を求めることができる権利のことを指します。償還請求権が合意されている場合には、ファクタリング業者のリスクは低く、他方償還請求権がない場合にはファクタリング業者のリスクが高くなるといえます。

当事者が償還請求権のあるファクタリングを合意した場合、ファクタリング業者は売掛金の債権者にファクタリング融資の元利を返還するか、債権買い戻しを請求でき、また、売掛金の債務者に対して債権の主張をすることもできるとされています(民法典第766条)。ファクタリング業者が、債務者に対しての売掛債権を主張し、ファクタリング融資および関連費用の元本および利息を差し引いた後に余剰が生じた場合、残りの部分は債権者に返還しなければなりません。

他方、当事者が償還請求権のないファクタリングを合意した場合、ファクタリング業者は債務者に対して債権を主張しなければならず、ファクタリング業者はファクタリング融資の元本及び利息以上を超えて取得する部分について債権者に返還する必要はありません(民法典第767条)。

3-2-4 弁済の順位

債権者が同一の売掛金に関して複数のファクタリング契約を締結し、複数のファクタリング業者が権利を主張する場合の優先順位については以下のとおり規定されています。

  1. 登記済みの者>未登記の者
  2. (登記済みの者同士の場合)登記の前後関係
  3. (未登記の者同士の場合)債務者への譲渡通知到達の前後関係
  4. (登記も通知もない場合)ファクタリング融資額又はサービス報酬の割合に応じて売掛債権を取得

このように、民法典はファクタリング登記を一つの明確な優劣関係判断の基準として定め、今後ファクタリング登記を行うことが促進されていくものと思われます。