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プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドラインについて

2020年12月に中国の最大手ネット通販プラットフォーム企業であるアリババに対し、中国独占禁止法違反を理由とした過料が課され、また調査が開始されたことは日本でも大きく報道されました。

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上記の処罰は、アリババが銀泰商業(集団)有限公司の持分を取得したことが独占禁止法で定める経営者集中(日本でいう企業結合)に関する規定に違反したことを理由としてなされました。また、その後に開始された調査は、アリババによる事業者に対する「二者択一」(中国語は「二选一」)という行為が独禁法違反に該当するということが理由とされています。

アリババについては、傘下のアントグループの上海、香港両市場における上場が延期され、その背景としてアリババ創始者であるジャック・マー(馬雲)の金融当局に対する発言が問題視されたのではないかと推察されているなど、中国共産党や政府との関係性が注目されていますが、今回の調査や処罰もそのような関係性が一つの理由になっているのではないかと見られています。

その辺りの真偽は不明ですが、他方でアリババが中国国内の一強プラットフォーマーとなっていることによる不当な取引制限や優越的地位の濫用等といった独禁法上の問題とはなっていました。もっとも、ECプラットフォーム業界は、業界としても比較的新しく、特殊であるため、積極的な独禁法の適用による摘発等は行われてきませんでした。

しかし、アリババのような大型プラットフォーム企業による市場における役割や経済に与える影響が日々大きくなっていることに伴い、これらにも適正に独禁法を適用することが課題となっていたところ、2020年11月に「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン」(关于平台经济领域的反垄断指南、以下「本ガイドライン」といいます。)のパブリックコメント募集稿が公布され、意見募集期間を経て、2021年2月に正式に制定、施行されました。今回は、本ガイドラインについて、その概要を見てみたいと思います。

1 独占合意の禁止

独占合意とは、競争を排除もしくは制限する合意、決定又はその他の協調行為をいいます(独禁法第13条第2項、本ガイドライン第5条)。

プラットフォーム経済分野における独占合意について、合意や決定は書面や口頭等の形を含み、明確な合意や決定がない場合でも、データ、アルゴリズム、プラットフォーム規則等を利用することにより事実上の一致する行為がある場合には「その他の協調行為」と見なされます。但し、独立意思による価格フォロー等の平行行為はこの限りではないとされており、データ、アルゴリズム等による独占合意を形成するには、意思連絡、情報交換が必要とされています(本ガイドライン第5条)。

独占合意を構成するか否かを認定するにあたっては、プラットフォームの関連市場の競争状況、プラットフォーム経営者、プラットフォーム内の経営者の市場における力量、その他経営者が関連市場に参入するにあたっての障害の程度、イノベーションに対する影響等の要素を考慮することが列記されました(本ガイドライン第二章頭書)。

独占合意として、典型的には水平型独占合意(横向垄断协议)、垂直型独占合意(纵向垄断协议)がありますが、本ガイドラインでは、プラットフォーム経済分野における特殊な類型、ハブ・アンド・スポーク型独占合意(轴辐协议)という3つの類型が定められています。

1‐1 水平型独占合意

水平型独占合意とは、競争関係のあるプラットフォーム経済分野における事業者が、以下の方法によって価格(商品価格だけでなく、事業者のうけとるリベート、手数料、会員費、販促費等のサービス費用も含みます。)の固定、市場の分割、生産販売量の制限、新技術の制限、共同での取引ボイコット(联合抵制交易)等の独占合意をすることをいいます(本ガイドライン第6条第1項)。

  • プラットフォームを利用した価格、販売量、コストやユーザ等情報の収集・交換

  • 技術手段による意思連絡

  •  

    データ、アルゴリズム、プラットフォーム規則等を利用することによる協調行為の実現

1‐2 垂直型独占合意

垂直型独占合意とは、プラットフォーム経済分野における事業者が取引相手と、以下の方法によって再販価格の固定、最低再販価格の制限等の独占合意をすることをいいます(本ガイドライン第7条第1項)。

  • 技術手段による価格の自動的設定

  •  

    プラットフォーム規則による価格の統一

  •  

    データやアルゴリズムによる価格への直接または間接的制限

  • 技術手段、プラットフォーム規則、データ・アルゴリズム等の方法によりその他取引条件を限定し、市場競争を排除、制限すること

なお、プラットフォーム事業者が、プラットフォーム内での事業者に対して、商品価格や数量等の取引条件について、他のプラットフォームとの取引条件と同等かそれより優れた取引条件を提供することを要求する場合、独占合意だけでなく、支配的地位の濫用にも該当しうることが明確にされています(本ガイドライン第7条第2項)。

1‐3 ハブ・アンド・スポーク型独占合意

競争関係のあるプラットフォーム内の事業者が、他のプラットフォーム事業者との垂直的関係(プラットフォーム事業者が価格メカニズム、取引の仕組み、競争の規則等を設定)を利用し、又はプラットフォーム事業者が競争関係者に取引制限を形成させることにより、水平型独占合意と同じ効果のある合意をすることをいいます(本ガイドライン第8条)。

プラットフォームを車輪のハブ、プラットフォーム内の事業者を車輪のスポークと見立てた独占合意であり、水平型独占合意の一種と整理されていると理解されます。プラットフォーム内の事業者同士が直接的に独占合意をする必要はなく、プラットフォームを通じて間接的に独占合意に至る場合も独占合意として認定される可能性があります。

2 市場における支配的地位濫用の禁止

2‐1 支配的地位濫用の認定

ガイドラインでは、プラットフォーム経済の特徴を踏まえ、支配的地位の濫用行為の認定、推定にあたっての審査ポイントを具体的に示しています(本ガイドライン第11条)。

具体的には、

  1. 事業者の市場シェアと関連市場における競争状況
  2. 事業者が市場をコントロールする能力
  3. 事業者の資金力と技術力
  4. 他の事業者の当該事業者に対する取引依存度
  5. 他の事業者が関連市場への進出の難易度

といった観点からの認定、推定を行うものとされています。そして、各要素を認定するにあたっての個別の事由は以下のとおり具体的に列挙されています。

2‐1‐1 事業者の市場シェアと関連市場における競争状況

事業者の市場シェアを確定するために、取引金額、取引量、売上高、アクティブユーザー人数、クリックレート、サイトの利用時間その他の指標、及び当該市場シェアを維持する時間を勘案することが可能と明記されました。

また、関連市場における競争状況を分析するにあたっては、プラットフォーム市場の発展状況、既存競争者数とその市場シェア、プラットフォーム競争の特徴、プラットフォームの差異程度、規模の経済、潜在的競争者の状況及びイノベーションと技術変化等を勘案することが可能と明記されました。

2‐1‐2 事業者が市場をコントロールする能力
  • 川上市場・川下市場又はその他関連市場をコントロールする能力や、他の事業者の関連市場への進出を阻害し、又は影響を及ぼす能力

  •  

    関連プラットフォームのビジネスモデル、ネットワーク効果

  •  

    価格、クリックレート又はその他の取引条件を決定し、又は影響を及ぼす能力

2‐1‐3 事業者の資金力と技術力
  • 当該事業者の出資者状況、資産規模、資本金の出所、収益性、融資能力、技術のイノベーションと活用能力、知財保有状況、データ情報の活用能力

  •  

    事業者の資金力と技術力がいかに業務拡張もしくは市場地位の維持を促すか

2‐1‐4 他の事業者の当該事業者に対する取引依存度
  • 他の事業者が当該事業者との取引関係、取引量、取引の継続時間、ロックイン効果、ユーザ依存度
  • 他の事業者が他のプラットフォームへの切り替え可能性及び切り替えコスト
2‐1‐5 他の事業者による関連市場への参入の難易度
  • 市場アクセス、プラットフォームのスケール効果、資金の投入規模、技術の壁及びデータ取得の難易度

  •  

    ユーザが複数のプラットフォームの利用傾向、ユーザのプラットフォーム切り替えコスト、ユーザの習慣

2‐2 支配的地位の濫用の行為類型

ガイドラインでは、プラットフォーム経済における支配的地位の濫用行為について個別の行為類型を定め、各行為類型についてその認定、推定をするにあたっての考慮要素を個別に列挙しています。

2‐2‐1 不公平な価格行為

不公平な価格行為とは、プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、不公平な高価格で商品販売し、又は不公平な低価格で商品を購入する行為をいいます(本ガイドライン第12条)。

同一又は類似する市場条件のもとで不公平な高価格で販売、又は不公平な低価格で購入するのは、不公正な価格行為の一つとして挙げられており、同一又は類似する市場条件であるか否かは、プラットフォームの類型、取引プロセス、原価構成、取引に関する具体的な状況等を勘案して判断されます。

2‐2‐2 廉価販売

廉価販売とは、プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく原価よりも低い価格で商品を販売し、市場競争を排除、制限する行為をいいます(本ガイドライン第13条)。

2‐2‐3 取引の拒絶

取引の拒絶とは、プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく相手方との取引を拒絶し、市場競争を排除、制限する行為をいいます(本ガイドライン第14条)。

プラットフォーム経済分野における必須施設をコントロールする事業者が、取引先に対し合理的な条件での取引を拒絶するのは、取引拒絶の一つとして挙げられており、プラットフォームが必須施設であるか否かは、当該プラットフォームがデータを保有する状況、他のプラットフォームの代替可能性、取引先が当該プラットフォームへの依存度、潜在的利用可能なプラットフォームがあるか否か等を総合的に勘案して判断されるとされました。

2‐2‐4 取引の制限

取引の拒絶とは、プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく相手方との取引を制限し、市場競争を排除、制限する行為をいいます(本ガイドライン第15条)。これは、プラットフォーム事業者が取引先に対し他のプラットフォームでの販売を制限する「二者択一」という冒頭でも説明した行為が該当します。

取引を制限する行為としては、主として以下の二つの類型が想定されています。

  1. 店舗の遮蔽、検索の順位下げ、アクセス数の制限、技術による阻害、保証金の控除等の懲罰的な方法による取引制限。
  2. 割引、補助金、アクセスへの便宜を提供する等、取引先、消費者又は社会に一定のメリットを与えるものの、市場競争を排除、制限することが証明された場合には、取引制限となる。
2‐2‐5 商品の抱き合わせ販売、又は不合理な取引条件の付加

プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく商品の抱き合わせ販売を実施し、又は不合理な取引条件を不可する行為をいいます(本ガイドライン第16条)。

ポップアップ表示等取引相手が選択、変更又は拒絶することのできない方法による商品の抱き合わせ販売、又は必須ではないユーザ情報の強制的な収集等は禁止行為として挙げられています。

2‐2‐6 差別的待遇

プラットフォーム経済分野における事業者がその支配的地位を濫用し、正当な理由なく、取引条件が同等の相手方に対して差別的な待遇をする行為をいいます(本ガイドライン第17条)。これは、事業者が自ら保有するビッグデータ等に基づいて取引相手ごとに異なる取引条件を設定するような行為(例えば、とあるプラットフォームでの取引実績がある者と取引実績がない者との間で、同一の商品について異なる価格を設定する行為)を想定したものです。これは中国語で「大数据杀熟」といい、近年問題視されていた行為です。

ビッグデータアルゴリズムに基づき、取引相手の支払能力、消費傾向又は利用習慣などにより差別的価格、差別的基準・規則、差別的支払条件と取引方式を行うことが、本ガイドライン上差別待遇の一つとして挙げられています。

3 企業結合

ガイドラインは、プラットフォーム経済分野における企業結合の届出基準、国務院独占禁止執行機関による主動的審査、勘案要素及び救済措置について、詳細な規定を定めました。

3‐1 企業結合の届出基準

プラットフォーム経済分野における売上高の計算方式は、業界の習慣、支払い条件、ビジネスモデル、プラットフォームの事業者の役割等により異なることが明記されています。

単なる情報マッチングによる手数料等で稼いでいるプラットフォームの事業者に対しては、プラットフォームが受け取った手数料やその他の収入額により売上高を計算することができ、他方、プラットフォーム事業者がプラットフォーム側の市場競争へ参入し、若しくは主導的役割を果たした場合、プラットフォームで発生した取引金額を計算することもできるとされています(本ガイドライン第18条第1項)。

また、いわゆるVIEスキームによる事業者集中についても、事業者集中の審査対象になることが明記されました(本ガイドライン第18条第2項)。アリババに対して処罰がなされたのは、まさにこれに違反したということになります。VIEスキームについてはまた別の機会にご説明したいと思います。

3‐2 届出基準を満たさない企業結合

届出基準を満たさない企業結合への審査について、企業結合の当事会社にベンチャー企業があり、又は無料か低価格による売上高が低いものの、関連市場の集中度が高く、かつ競争者が少ない場合、届出基準を満たさないにもかかわらず、市場競争を排除又は制限する恐れがある場合、国務院独占禁止執行機関はそれを審査することができるとされました(本ガイドライン第19条第3項)。

したがって、この業界における事業者集中に関しては届出の要否を判断するにあたっては慎重になる必要があるといえます。

3‐3 救済措置

救済措置について、市場競争を排除又は制限する恐れのある企業結合に対し、国務院独占禁止執行機関は、以下の制限を付加することにより禁止しないことができるとされています(本ガイドライン第21条)。

  • 有形資産、知的財産、技術、データ等の無形資産、又は関連収益等を分割すること。
  • ネットワーク、データ又はプラットフォーム等インフラ施設をオープンし、キー技術を利用許諾し、排他協議を終了し、プラットフォーム規則又はアルゴリズムを修正し、互換性を承諾し、若しくは相互運用性を維持すること。
  • 上述2点を組み合わせて運用すること。