中国の法令の名称
はじめに
○○法、○○法実施条例、○○管理規定、○○弁法…などなど、日本の法令の名称に慣れていると、中国の法令の名称はちょっと変わってるなぁと思う方は多いかと思います。
今回の記事では、今後中国の法令に触れることがあった際の参考になればと、法令の名称に関するルールをご紹介したいと思います。
法源ごとのルール
※中国の法源については、以前のエントリーで紹介していますのでこちらをご参照ください。
法律の名称
法律の名称については、非常にシンプルで、
○○法
というのが原則です。これは日本も同じですね。
現行の法律のほとんどは「○○法」という名前ですが、一部、「○○条例」又は「○○条例」という名称も存在しています。
なぜ法律にもかかわらず「条例」という呼称が使われているのかは定かではありませんが、いずれにしても、「条例」の呼称が使われている法律は超少数です。
行政法規
名称
行政法規については、一般的に「条例」(条例)、「規定」(规定)、「弁法」(办法)を付けるものとされています。
また、国務院が全人代及び全人代常務委員会の授権によって制定する行政法規については、「暫定条例」(暂行条例)又は「暫定規定」(暂行规定)を付けるものとされています(行政法規制定プロセス条例(行政法规制定程序条例)第5条第1項)。
他方、国務院の各部門、地方人民政府が制定する規定(规章)については、「条例」を付けてはならないとされています(行政法規制定プロセス条例第5条第2項)。そのため、「条例」と付いているのは、基本的に法律又は行政法規であると考えて差し支えないでしょう。
なお、「暫定条例」、「暫定規定」には「暫定」と付けられていますが、これは、完全、全面的なルールや規定を定めるには、時間がかかることに鑑み、今後更に改善、改定されることを前提とした暫定的なルール、規定であることを意味していると理解されています。
各名称による区別
行政法規には、上記のとおり条例、規定、弁法という異なる名称があることが分かりましたが、これらはどのように区別されるのでしょうか。この点については、概ね以下のとおり理解されています。
種類 | 意義 | 例 |
条例 | 特定の分野の行政業務において制定される、比較的全面的で、体系的な行政法規 | 著作権法実施条例(中华人民共和国著作权法实施条例) |
規定 | 特定の分野の行政業務において制定される部分的な行政法規 | 国際著作権条約実施に関する規定(实施国际著作权条约的规定) |
弁法 | 特定の項目の行政業務において制定される、比較的具体的な行政法規 | 著作権質権登記弁法(著作权质权登记办法) |
規定
名称
規定(规章)については、一般的に「規定」(规定)、「弁法」(办法)を付けるものとし、「条例」(条例)を付けてはならないとされています(規定制定プロセス条例(规章制定程序条例)第7条)。実際には、規定、弁法のほか、「細則」(细则)が使われるものもありますが、規定、弁法の方が数としては多いように思います。
「条例」を使用してはならないという点を除き、規定、弁法は、行政法規と共有ですので、「規定」、「弁法」の付いた法令が行政法規なのか、規定なのかは、制定主体を確認するしかありません。
各名称による区別
規定、弁法の区別は、基本的に行政法規とパラレルに考えて差し支えないと思われます。
地方性法規
なお、地方性法規の名称については、これという法令上のルールが見当たりませんが、例えば上海市に適用される地方性法規の中には、やはり条例、規定、弁法の付いたものが数多く制定されています。
まとめ
以上、中国における法令の名称に関するルールについて、簡単に紹介してきました。
色々な呼称がありますので、あまり慣れない方にとっては混乱してしまうこともあるかもしれませんが、今後、中国の法令に触れた際に頭を整理する参考になれば幸いです。
中国ビジネス関連書籍
はじめに
さて、中国ビジネスに携わるにあたり、中国語が読めなければ中国の法令も判例も読むことができません。高校や大学で中国語を第二外国語として履修していた、あるいは専攻していたような方でなければ、中国語はそれなりに高いハードルです。そのため、英語ならなんとか、という方の中にも中国語はお手上げ、それゆえ中国法にも手を付けられないという方は少なからずいるのではないかと思います。
しかし、実は中国法に関する日本語で書かれた書籍は、それなりに数多く世に出回っており、これらに目を通すことで、中国法の基本的な部分、概要はある程度学習することができます。
今回は、個人的な独断と偏見で、数ある参考書(のうち自分が使用したことのあるもの)についてご紹介したいと思います。
現代中国法入門(有斐閣)|おすすめ度★★★☆☆
4名の学者によって執筆されている中国法入門書籍。
中国という国の成り立ち、歴史的な背景事情を踏まえながら、中国の法制度を説明したバイブル的な書籍。初版は1998年出版とこの本自身かなりの歴史があり、最新の第8版は2019年12月に出版されたもの。
憲法、民事法、刑事法など、各分野ごとに広く浅く概要が説明されており、概要を理解する上では十分な情報量。もっとも、実務書ではなく、あくまで中国法の概説に徹した書籍のため、中国ビジネス用の参考書としては物足りない。
中国経済六法(日本国際貿易促進協会)|おすすめ度★★★★★
森・濱田松本法律事務所の中国プラクティスグループの翻訳による、中国法版六法全書。日本の六法全書に匹敵する分厚さの中国の数ある法令を、MHMの中国チームが日本語に翻訳した大作。
毎年改定しており(全面改訂版と、最新法令の増補版を隔年で出版)、MHMチームには敬服。中文で書かれた中国の法令を日本語に翻訳したものとして、恐らく中国法に携わっている弁護士にとっては必携の書。中国法令の法文を日本語でクライアントに見せることができるという点でもスグレモノ。
一冊22000円と、日本の六法全書に比べても2倍弱ほどあるが、これが手元にあるとないとでは、かなり違う。
中国ビジネス法体系(日本評論社)|おすすめ度★★★★★
現在、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業に所属されている藤本豪先生(出版当時は西村あさひ法律事務所)が出版した中国ビジネス法務に特化した専門書。
ビジネスの場面ごとに章分けされ、その場面ごとに適用される法令、生じる論点について、非常に簡潔に、かつ必要十分に根拠法令を引用しながら解説している超良書。特に、根拠法令の中文表記もあるため、実際に法令をネットで検索するにも非常に便利。但し、初学者が読んでもさっぱりイメージが沸かない可能性が高く、ある程度中国法務に携わり、多少の経験がある人向けかも。
惜しいのは、2017年に出版されて以降、改版がされておらず、既に内容が大きく変わってしまっている内容もそれなりに出てきてしまっていること。
図解入門ビジネス最新中国ビジネス法務の基本と実務がわかる本(秀和システム)|おすすめ度★★★★★
BLJ法律事務所の遠藤誠先生と、元森・濱田松本法律事務所に所属され、現在は中国大手事務所の中倫法律事務所に所属されている孫彦先生の共著による、秀和システムの出版シリーズから出版された中国ビジネス法務の基本書。
シリーズの特徴である図表を多く使った解説がなされ、ビジュアル的に理解しやすくなっているだけでなく、2019年9月に出版された書籍だけに比較的新しい法令までカバーしており、情報の鮮度としても高い。
カバーしている分野や対象は、中国ビジネス法体系に比べると狭いものの、それでも中国ビジネス法の基礎を学ぶという観点からは十分。欲をいえば、中国ビジネス法体系のように、参照法令の中文表記も入れてほしいところであるものの、おそらく書籍の性質やシリーズのコンセプトからはそれが省略されているのかも。
ただ、この情報量で2000円強という点でコスパは多分最強。
中国法実務教本-進出から撤退まで(商事法務)│おすすめ度★☆☆☆☆
日系法律事務所の中では最も早く中国に進出した大江橋法律事務所による中国法務に関する書籍。トピックごとにQA形式で説明されており、説明の内容はそこそこ分かりやすい。
もっとも、如何せん2014年に出版されたもので、内容については今となっては使えないところがそれなりにたくさんある上、引用されている法令の検索性が悪い。現在、恐らく既に絶版となっており、市中では入手困難かも。
Q&A 中国ビジネス法務の現場(全訂版)(商事法務)│おすすめ度★☆☆☆☆
三菱商事法務部による中国ビジネス解説書という意欲作。ただ、2012年出版のものであるため、上記「中国法実務教本」以上にもはや使い物にならない。今となってはコレクター向け書籍。
中国ビジネス投資Q&A 2017改訂版(チェイス・チャイナ)|おすすめ度★★★★★
多分、日本人の個人として中国ビジネス関連の書籍を一番数多く出しているであろう水野真澄先生による、対中ビジネスの基本的な情報についてQA形式で紹介した良書。
これまで紹介してきた書籍がいずれも法律家によって執筆されたものであるのに対し、水野氏はあくまでコンサルタントの立場から執筆しており、法務に関する事項のほか、会計税務に関する事項もカバーしており、中国ビジネス法務というよりは、まさに中国ビジネスを概括的に理解する観点から読むのに適した本。
こちらも、非常に簡潔に淡々と、なおかつ実務的経験も踏まえた内容となっており、大変参考になる。こちらも2017年改訂版が最新のものとなっており、そろそろ改訂版が出ないかと期待しているところ。
中国・外貨管理マニュアルQ&A 2016改訂版|おすすめ度★★★★☆
引き続き水野先生執筆による書籍のうち、こちらは、中国法務の中でもとりわけ制度が分かりにくく、ごちゃごちゃしている外貨管理、外貨送金関連に特化したもの。本書もやはりQA形式で制度、論点を解説しており、また、記述も簡潔に分かりやすくなされている。
基本的なポイントは概ね書いてあるものの、逆に、記述が簡潔すぎて関連する事項を更に調べなければならない箇所もなくはない。特に外貨管理の部分は、個人的にも非常に苦手(というより、実際に外貨送金等をやってみないとイメージがつかない)なので、もう少し実際のビジュアルを使って解説してもらえるともっとありがたいなぁという印象。
最新中国税務&ビジネス(中央経済社)|おすすめ度★★★★☆
本書は、公認会計士である近藤義雄先生の執筆による中国税務をメインに据えたビジネス書。 近藤先生も、個人として水野先生と同等かそれ以上の中国関連書籍を執筆されており(どっちが多いかまで比較していませんが…)、その中で出版された最新の書籍。
近藤先生の出版される書籍は税・会計に特化しており、弁護士である私が読んでも専門知識がなくよくわからないことが多いのですが、こちらの書籍では中国の税制について、近似のEC取引もカバーしながら、かなり分かりやすく解説されています。
税に関する基本書を超えて、それなりに専門的な内容も含まれていますが、平易に解説されているので、税に詳しくない人でも、読むに堪えるかと思われます。
詳細 新・中国増値税の実務(中央経済社)|おすすめ度★★☆☆☆
デロイトトーマツの税理士によって執筆された、増値税に特化した書籍。
増値税に関して満遍なく説明がされているものの、日頃増値税に疎い自分が読んでもとっつきにくく途中でギブアップ。税に明るい方が読むには非常にためになる書籍と思える一方、初学者が読むには結構厳しいかも。
中国子会社の清算・持分譲渡の実務(税務経理協会)|おすすめ度★★★☆☆
税理士の森村元先生による、中国での清算、持分譲渡による事業撤退に特化した書籍。
撤退のプランニングから、具体的なアクションに向けたフロー、実際の手続きなどが比較的分かりやすく説明されている。特に清算に関するフローの概要を理解するには十分かと。
もっとも、清算手続は、会社の性質や状況、地域によって様々である故、書籍の中で一般論として記載できる範囲には限界があることは理解しつつも、もう少し突っ込んだ具体的な手続の詳細や、関連法令の引用などがあると尚良かったかなという印象。
いずれにしても、2016年に出版されたものであり、内容として既に現行法下では通用しない箇所も少なからずあるので、改訂版の出版を希望。
まとめ
以上、数ある中国法関連の書籍の中から、実際に使ったことのある書籍について、完全に個人的な意見に基づいて評価、紹介させていただきました。
今後、中国法関連書籍を手に取る可能性のある方のご参考になれば幸いです。
立法にあたっての意見募集
前回までご紹介した中国の法体系に関する説明とは若干毛色が異なりますが、今回の記事では、特に、中国の法律、行政法規、規定(规章)の起草にあたっての意見聴取、特にパブリックコメントの募集について、簡単にご紹介したいと思います。
法律、行政法規の立法にあたっての意見募集
中国のイメージからすると、もしかすると想像しにくい(?)かもしれませんが、中国における立法プロセスでは、実は社会公衆からの意見聴取というものが広く行われています。法律、行政法規については、立法法に根拠があります。
法律の草案に対する意見募集
立法法第37条
(全人代)常務委員会会議に上程された法律案については、常務委員会会議の後に法律草案及びその起草、改正の説明等を社会に公表し、意見募集を行なわなければならない。但し、委員長会議で非公表決定したものを除く。社会に公表し、意見募集を行う期間は一般に30日を下回らない。意見募集の状況は社会に向けて通知しなければならない。
意外かもしれませんが(くどい)、法律の制定過程において、法律の草案だけでなく、その起草、改正に関する背景事情の説明などを公表し、意見を募集することで、民意を反映した立法を行うことを、立法法が実は担保しているのです。
逆に日本では、「パブリックコメントとは、国の行政機関が政令や省令などの案をあらかじめ公表し、広く国民の皆様から意見や情報を募集する手続です。」と説明されているように*1、パブリックコメントの募集は、行政機関によって行われ、立法機関である国会によるパブリックコメントの募集というものはありません。
これは、立法機関である国会は、国民を代表する国会議員によって組織されていることから(憲法第43条第1項)、国会で行われる立法自体に民意が反映されているという理論的な帰結かと思います。
これに対して、行政機関の行う行政立法については、国会議員が行うわけではなく、そこに必ずしも民意が反映されているわけでもありませんので、パブリックコメントを募集する必要があり、そのことが行政手続法により定められているわけですね(行政手続法第39条)。
若干話が脱線しましたが、2020年1月に施行された、中国でビジネスを行う外資企業にとっては大変重要な「外商投資法」なども、これまで草案レベルで繰り返しパブリックコメントの募集が行われていました*2。
行政法規の草案に対する意見募集
立法法第67条
以前の記事でもご紹介したとおり、行政法規は中国の法体系中で法律に次ぐ法源であり、国民(中国では公民という。)、法人、その他組織の権利義務に対して、大きな影響を与えることから、行政立法の過程においても公衆の意見を反映させ、行政立法にも民意を反映させようというのが、趣旨です。行政法規の起草の段階、そして、草案ができあがった段階のそれぞれで、意見を聴取することが予定されています。
上記で例に挙げた「外商投資法」との絡みでいえば、行政法規である「外商投資法実施条例」についても、パブリックコメントの募集が行われていました*3。
規定の立法にあたっての意見募集
法律、行政法規のほか、規定(地方政府規定、部門規定)についても、その立法過程においては、パブリックコメントの募集が行われていますが。その根拠は、立法法ではなく、規定制定プロセス条例(规章制定程序条例)にあります。
規定制定プロセス条例第15条
- 規定を起草するにあたっては、入念な調査研究を行い、実践経験を総括し、関連期間、組織、公民の意見を広汎に聴取しなければならない。意見聴取は書面、座談会、論証会、聴取会等、多種の形式を採用することができる。
- 規定を起草するにあたっては、法により機密を保持しなければならない場合を除き、規定草案及びその説明等を社会に対して公布し、意見聴取しなければならない。社会に対して公布して意見聴取する期間は、一般は30日を下回らない。
「外商投資法」との絡みでいえば、部門規定として施行されている「外商投資情報報告弁法」(外商投资信息报告办法)についても、パブリックコメントの募集が行われていました*4。
パブリックコメントの募集方法
現在、法律、行政法規、規定のうち部門規定については、「中国政府法制情報ネット」(中国政府法制信息网)においてパブリックコメントの募集がなされています。
このようなパブリックコメントの募集方法についてもきちんと根拠が定められており、法律・行政法規については「法律・行政法規草案公開意見募集暫定弁法」(国务院法制办公室法律法规草案公开征求意见暂行办法)、部門規定については「部門規定の草案を「中国政府法制情報ネット」で公開しパブリックコメントを募集することに関する通知」(关于部门规章草案在“中国政府法制信息网”公开征求意见有关事项的通知)がそれぞれ根拠となっています。
他方、規定のうち、地方政府規定については、中国政府法制情報ネット上でパブリックコメントの募集を行うべきことが法令上定められておらず、地方政府ごとに個別にパブリックコメントの募集が行われています。例えば、上海市であれば、上海市人民政府のウェブサイト上でパブリックコメントの募集がされています。
なお、パブリックコメントの募集期間は原則として30日を下回らないこととされています(立法法第37条、法律・行政法規草案公開意見募集暫定弁法第6条第2項、規定制定プロセス条例第15条第2項)。
まとめ
以上、かなりマニアックなトピックとなりましたが、中国の立法におけるパブリックコメントについて、簡単にご紹介しました。
特に中国ビジネス上重要な法令の草案は、その後の新制度や法改正の概要を掴む上で非常に有益な情報源になりますので、今後重要法令の草案が出された際には、是非これらに目を通してみてください。
中国の法体系その2
前回の記事では、中国における法体系というテーマのもと、憲法以下、法律、行政法規、地方性法規、自治条例、単行条例、規則についてご紹介しましたが、中国における法体系を理解する上では、更にもう一つ、司法解釈と呼ばれる法源も知っておく必要があります。
本稿では、司法解釈について、その概要をご説明したいと思います。
司法解釈とは
司法解釈とは通常、法律の適用の過程における問題、論点に対して、最高司法機関が行った解釈をいうと理解されています。
もう少し具体的に言えば、法律の規定の解釈や適用上の問題につき、他に参考になる規定や下位法令などがない場合や、法律の適用について異なる複数の解釈が可能であり、裁判所間で見解が分かれているような場合に、統一的で権威のある法解釈として、最高司法機関が示す解釈と理解して概ね差し支えないかと思います。
「最高司法機関」の示す解釈、ということですが、ここにいう「最高司法機関」は、最高人民法院(最高裁判所に相当)だけではなく、最高人民検察院(最高検察院に相当)も含まれます。
最高人民法院の示す司法解釈を審判解釈(审判解释)、最高人民検察院の示す司法解釈を検察解釈(检察解释)と呼ぶこともありますが、呼び方についてはあまり区別する大きな実益はないように思います(が、以下では便宜上こちらの呼称を使用して説明します。)。
審判解釈
最高人民法院による司法解釈制定権限は、「最高人民法院の法解釈業務に関する規定」(以下「法院規定」といいます。中国語は“最高人民法院关于司法解释工作的规定”)に求めることができます。
法院規定によると、審判解釈はその性質に応じて、「解釈」(解释)、「規定」(规定)、「批復」(批复)、「決定」(决定)の4つの形式があるとされています(法院規定第6条第1項)。
- 解釈
裁判所の審判業務において、如何に具体的に法律を応用的に適用するのか、又は、とある類型の案件、問題対し如何に法律を応用的に適用するのか、という点に対して制定する司法解釈 - 規定
立法精神に基づいて、審判業務の過程において制定する必要のある規範、意見等に関する司法解釈 - 批復
高級人民法院、人民解放軍軍事法院からの審判業務の過程における、法律の適用問題に関する伺いに対して制定する司法解釈 - 決定
司法解釈の修正又は廃止に関する司法解釈
上記の各形式の中でも、「批復」については、下位の裁判所から特定の法律問題に関する伺いを受けた場合に、これに対して最高人民法院として行う回答としての司法解釈があるというのは、日本の感覚からするとちょっと面白い点かと思います(日本の高等裁判所が最高裁判所に対して、特定の論点、問題に関する法解釈、法適用についてお伺いをたてるということは、裁判所の独立という観点からなかなか想像しにくいところです)。
審判解釈については最高人民法院のウェブサイト上でずらりと並んでいますので気になる方は以下のリンクから見てみてください。
http://www.court.gov.cn/fabu-gengduo-16.html
検察解釈
他方、最高人民検察院による司法解釈制定権限は、「最高人民検察院の法解釈業務に関する規定」(以下「検察院規定」といいます。中国語は“最高人民检察院司法解释工作规定”)に求めることができます。
検察院規定によると、検察解釈はその性質に応じて、「解釈」(解释)、「規則」(规则)、「規定」(规定)、「批復」(批复)、「決定」(决定)などの形式があるとされており(検察院規定第6条第1項)、審判解釈の4形式に加えて「規則」という形式が加わっています。
- 解釈、規則
検察業務において、如何に具体的に法律を応用的に適用するのか、又は、とある類型の案件、問題対し如何に法律を応用的に適用するのか、という点に対して制定する司法解釈 - 規定
検察業務の過程において制定する必要のある案件処理規範、意見等に関する司法解釈 - 批復
省級人民検察院(人民解放軍軍事検察院、新疆生産建設兵団人民検察院を含む)の検察業務の過程における、法律の適用問題に関する伺いに対して制定する司法解釈 - 決定
司法解釈の修正又は廃止に関する司法解釈
基本的には審判解釈とパラレルですね。
検察解釈は性質上刑事法、刑事訴訟法に関連するものが多いですが、行政事件関係のものなども多数存在しています。
検察解釈も最高人民検察院のウェブサイトから閲覧可能ですので、以下のリンクから見てみてください。
共同による司法解釈
司法解釈は、最高人民法院が単独で制定するもの、最高人民検察院が単独で制定するもののほか、両者が共同で制定するものもあります。主には、検察業務と審判業務の双方にかかわる法適用の問題について共同による制定をすることになるものと理解されます(検察院規定第7条第1項)。
司法解釈の効力
法院規定上、最高人民法院の公布する司法解釈は法律としての効力がある旨明記されており(法院規定第5条)、その意味で、審判解釈については法律に準じる法源として扱われるものといえます。
他方、検察院規定上、最高人民検察院による司法解釈業務は全人代及び全人代常務委員会による監督を受けること、全人代及び全人代常務委員会が、当該司法解釈が法律の規定に違反すると認定する場合には最高人民検察院は速やかにこれを修正又は廃止しなければならないとされていますが(検察院規定第4条第1項、第2項)、上記の法院規定上の定めは見当たりません。
前回の記事でもご紹介しているとおり、少なくとも立法法上法律の解釈権限は全人代及び全人代常務委員会に帰属するという原則が定められているところ、検察院規定の定めは、その原則に沿うものといえます。他方で、審判解釈については、立法法上の原則に対する例外を認めている、と考えることもできそうです。
日本の最高裁判所の判決も、法解釈に関しては基本的には先例性を有し、一定の最高裁判決が出た後は、同一の法解釈については原則としてその判決に拘束されることになりますので、その点では一定の法規範性があるといえます。しかし、中国の司法解釈は、法律と同様に条文の形で制定されるので、法規範性の所在をより一層明快に認めることができます。
まとめ
冒頭にも記載したとおり、司法解釈には、法律上具体的な定めがない事項について詳細な規定を定めるものも少なからず存在しますので、中国法務を扱うにあたっては、法律、その下位法令と並んで、司法解釈をチェックすることも非常に重要な意味を有しています。
中国の法体系その1
中国といえば、中国共産党による一党独裁国家という点はよく知られていると思いますが、その法体系がどのようになっているかを知っている方は意外と少ないのではないかと思います。そこで、今回の記事では中国の法体系がどのようになっているかを掻い摘んで紹介したいと思います。
1 中国の法源の種類
中国における主要な法源は、中国の憲法及び立法法という法律によって、以下のとおり分類されて定められています(括弧内は中国語)。
1-1 憲法
憲法及び立法法上、全ての法律、行政法規、地方性法規、自治条例、単行条例、規則も憲法に抵触してはならないと規定されており(憲法第5条第3項、立法法第87条)、この点から、憲法が中国における最高法規であることが分かります。
憲法の内容はともかく、この点は日本と(というか他の多くの国と)同じです。
1-2 法律
立法法上、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会のみが、国の立法権を行使することができ、法律を定めることができること(立法法第7条)、そして以下の事項については法律のみでしか規定することができないとされています(立法法第8条)。
1 |
国家主権に係る事項 |
2 |
|
3 |
|
4 |
犯罪及び刑罰 |
5 |
公民の政治的権利の剥奪及び人身の自由の制限に対する強制措置及び処罰 |
6 |
税目の設定、税率の確定及び租税徴収管理等の租税基本制度 |
7 |
非国有財産に対する収用及び強制使用 |
8 |
民事基本制度 |
9 |
基本経済制度並びに財政、税関、金融及び対外貿易の基本制度 |
10 |
訴訟及び仲裁制度 |
11 |
全国人民代表大会及びその常務委員会が必ず法律を制定するべきその他の事項 |
日本の立法機関である国会に相当するのが、憲法上も最高国家権力機関と位置付けられている全国人民代表大会(いわゆる全人代)、及びその常設機関である全人代常務委員会であり、法律の解釈権限については全人代常務委員会に属することとなっています(憲法第57条、立法法第45条)。
これに基づき、法律の規定に更に明確な定義が必要な場合や、法律制定後に生じた状況により、更に明確な法律上の根拠が必要な場合には、全人代常務委員会がその解釈を行うことが可能であるほか、国務院、最高人民法院を含む国家機関や各級の人民代表大会常務委員会も、全人代常務委員会に対して法律上の解釈を要求することができるとされています(立法法第46条)。
日本の最高裁判所にあたる最高人民法院も法律の解釈について全人代常務委員会に対して要求することがされているのですから、この点は、日本の最高裁が法律の最終解釈権限を憲法上保障されていることとは大きく異なり、立法機関が司法機関よりも上位に位置すると捉えることができます(この点において、日本における三権分立とは、そもそも一線を画す国家機関体系になっているといえます)。
もっとも、中国における法律は、制度の大枠のみを定めるにとどまり、細かい内容については行政法規、部門規定に委ねていることが少なくありません。したがって、法律だけでなく、その下位の行政法規等もよくよく調べる必要があることが通常です。
1-3 行政法規
行政法規とは、憲法及び法律に基づいて国務院が制定する法源であり、
について定めることができるとされています(立法法第65条)。
国務院とは、憲法上最高国家権力機関(である全人代+全人代常務委員会)の執行機関とされており(憲法第85条)、日本でいえば内閣に相当する機関といえます。
このような国務院が制定する行政法規は、法律に基づき制定される法源であり、法律と抵触する場合には、法律が優先されることになります(立法法第88条第1項)。
1-4 地方性法規、自治条例・単行条例、規則
1-4-1 地方性法規
地方性法規とは、省、自治区及び直轄市の人民代表大会及びその常務委員会が、当該行政区域の具体的状況及び実際の必要に基づき、憲法、法律及び行政法規と抵触しないことを前提として定める法源であり、
- 法律又は行政法規の規定を執行するため、当該行政区域の実際の状況に応じて具体的規定をする必要のある事項;
- 地方性事務に属し地方性法規を制定する必要のある事項
について定めることができるとされています(立法法第72条第1項、第73条)。
日本でいえば、地方公共団体の定める条例に類似するといえます(但し、中国において地方自治という概念はそもそも存在しないので、条例と同一とはなかなかいえません)。
地方性法規は、上記の定義にあるとおり、憲法、法律及び行政法規と抵触しない範囲で制定される法源ですので、行政法規よりも下位の法源になります(立法法第88条第2項)。
1-4-2 自治条例・単行条例
立法法上、自治条例及び単行条例とは、当該地の民族の政治、経済及び文化の特徴に基づき民族自治地方の人民代表大会が定める法源と定義されています(立法法第75条第1項)。
自治条例と単行条例の区別については、前者が当該地方で実施する区域自治の組織と活動原則、自治機関の構成、職権等の内容に関する総合的な規範をいうのに対し、後者は当地民族的な政治、経済、文化的な特徴に基づき制定される具体的事項に関する規範をいうと理解されています。
制定に際しては、自治区の自治条例及び単行条例については、全国人民代表大会常務委員会に報告して承認を、自治州及び自治県の自治条例及び単行条例については、省、自治区又は直轄市の人民代表大会常務委員会に報告して承認を受けなければ効力が生じないとされています(立法法第75条第1項)。
自治条例及び単行条例については、法律又は行政法規の基本原則に違背してはならず、かつ、憲法及び民族区域自治法の規定その他の関係する法律及び行政法規がもっぱら民族自治地方についてなした規定に対し柔軟な規定をしてはならないという制限があるものの、当該地の民族の特徴により法律及び行政法規の規定について柔軟な規定をすることができるとされています(立法法第75条第2項)。
条例という語が用いられていますが、あくまで民族自治にかかわるものであり、日本でいう条例とは意味合いが大分異なっています。
また、自治条例、単行条例が法に基づいて法律、行政法規、地方性法規に対して柔軟な規定をしている場合には、当該自治地方においては自治条例、単行条例が適用される、とされていることから、上記の場合においては、法律よりも上位の法源として扱われるものといえます(立法法第90条第1項)。
1-4-3 規定
規定は、その制定主体によって、①部門規定と②地方政府規定の二種類に分けられます。
部門規定は国務院の各部、委員会、中国人民銀行及び会計検査署並びに行政管理職能を有する直属機構が定める規定をいい(立法法第80条第1項)、地方政府規定は省、自治区、直轄市及び区を設ける市及び自治州の人民政府が定める規定をいいます(立法法第82条第1項)。
部門規定、地方性規定で定めることが可能な事項はそれぞれ以下のとおりです。
地方政府規定については、地方性法規が地方政府規定に優位する旨が明記されていますので、地方性法規の下位法源になるといえます(立法法第89条第1項)。
部門規定については、地方政府規定との優劣関係はなく、同等の扱いとなっており、また、異なる部門の定めた部門規定同士も相互に優劣関係がなく、同等の扱いです(立法法第91条)。
地方性法規と部門規定との間で同一の事項に関する不一致が生じた場合、国務院が意見を提出するものとされていることからすると、地方性法規と部門規定は対等であるものと理解されます (立法法第95条第2項)。
他方で、上記のとおり地方性法規は地方政府規定に優位するとされている一方、部門規定と地方政府規定は対等となっていますので、同一の事項について地方性法規、地方政府規定、そして部門規定のすべてが制定されている場合の優劣関係については、あまりはっきりしていないように思われます。
2 法源の種類と法源間の優劣関係のまとめ
以上を整理すると、中国における法源の優劣関係は概ね以下のように整理できます。
例として中国の労働契約法関連の法令を法源の種類ごとに並べてみると、以下のようになっています。
法源の種類 |
名称 |
制定機関 |
法律 |
労働契約法(劳动合同法) |
全人代常務委員会 |
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以上、中国における法体系を法源ごとに掻い摘んでご紹介しましたが、中国法に馴染みのない方、日本の法体系や用語に慣れている方からするとなかなか馴染まない部分もあるかもしれません。
他方、中国法について多少触れたことのある方も、今一度本稿で紹介したような法源ごとに制定部門などに注目しながら法令を見てみると、少し違った発見ができるかもしれません。
中国での言語
さて、あまり中国法務とは関係がありませんが、中国における公用語は何でしょうか。
もちろん、中国語、なのですが、実は中国語というと若干正確ではなく、「普通語」が公用語になります。しかし、「普通語」って何?中国語じゃないの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
中国の国土面積(陸地面積)は約960万平方キロメートル(日本の国土面積は約38万平方キロメートル)と、世界第4位の広さを誇っており、2019年末時点における中国大陸内の中国人の人口は、14億5万人(海外、香港、澳門、台湾の華僑を除く)にのぼっています*1。
そして、現時点で公表されている中国政府の統計によれば、中国国内には56の民族が存在しており、そのために地域、民族ごとに多岐に渡る言語が使用されています。中国政府のウェブサイト上の説明では、①官話語(北方語)、②晋語、③呉語、④徽語、⑤閩語、⑥粤語、⑦客家語、⑧贛語、⑨湘語、⑩平話土話、の合計10の方言が存在しているようです*2。
方言の種類としては7種類と分けられることもあるみたいですが、詳細は以下の記事が詳しいです。
このように、一口に中国と言っても、国土の広さ、人口・民族・言語の種類の多さから、「中国語」とひとくくりにすることができないのです。
そのような中で、中国では、北方語の語音をもって「普通語」の標準音とし、また、北方語をもって「普通語」の基礎方言とすることとされ、これを前提として、憲法及び法律により、「普通語」をもって全国通用語、公用語と定められています(政府の報道官や、国営ニュースのアナウンサーなどが話す中国語は極めて標準的な発音、普通語と言われています)。
他方で、上海の人がしゃべるような上海語(呉語)、香港の人がしゃべるような広東語(粤語)は、普通語とは発音が程遠く、普通語が分かってもこれらの方言で話されると全く何を言っているかわからない、ということもあります(東京弁と大阪弁くらいの違いかと聞かれることがありますが、極端にいってしまえば日本語と韓国語くらいの違いがあると思います)。
北方語以外の方言を母語とする中国人は、学校教育課程において「普通語」を学習する授業を受けることで、「普通語」を身につけるようです。
はじめに
このブログは、2020年6月で中国駐在5年目を迎える日本人弁護士が、これまでの経験などを踏まえて、日本ではなかなか知られていない中国法務に関する豆知識や最新の情報を、所属事務所とは無関係に、個人の立場から発信することを目的としたブログです。
日本には幸いなことに、日本語で書かれた数多くの中国法務関連の書籍がありますが、中国は日本ではあまり想像ができないほど法令の改廃が早いため、書籍の賞味期限が非常に短く、あっという間に使い物にならなくなるという問題点があります。
そのような特性もありますので、ブログで随時最新情報を発信していくことが、きっと中国ビジネスにかかわる方々の何らかのお役に立てるかと思い、過去にも何度か挫折してきたブログ発信を改めて行おうと考えた次第です。
世界は今新型コロナウイルスの流行で大変な状況ではありますが、今後世界が正常化した暁に、もしかすると参照してもらう価値のある情報になるかもしれない情報を発信していくことで、少しでも中国ビジネスに携わる方、中国法に興味のある方のお役に立てればと思います。
なお、私の所属する事務所においては、毎月1回「TMI中国最新法令情報」と題したニュースレターを発行しておりますので、ご興味のある方はこちらからバックナンバーをご参照ください。