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外商投資安全審査弁法について

2020年12月19日に、中国において新たな外商投資関連の法令となる外商投資安全審査弁法(外商投资安全审查办法、以下「本弁法」といいます。)が公布されました。施行日は2021年1月18日です。

かつて外資が中国に投資を行うにあたっては、商務部門による認可(批准)が必要とされていたのが、2018年に「外商投資企業設立及び変更届出管理暫定弁法」(外商投资企业设立及变更备案管理暂行办法)が施行されたことに伴い、原則として商務部門への届出のみで足り、認可は不要とされました。

そして、2020年1月に外商投資法が施行され、外商投資企業の設立等においては届出も不要となり、会社の設立登記のほかは外商投資情報報告(外商投资信息报告)をすれば足りることとされ、外商投資企業の設立等が更に開放されました。他方で、外商投資の間口を広げる代わりに、中国の安全に影響を与える、又は影響を与える恐れがある外商投資に対しては安全審査を行うことが外商投資法にて定められました(外商投資法第34条)。

本弁法は外商投資法及び国家安全法に基づいて、外商投資における安全審査に関する事項を定めたものであり、今後の外商投資実務上重要な法令となるものと思われます。

1 本弁法の適用対象

1-1 外商投資の定義

本弁法の適用対象となる「外商投資」は以下のとおり定義されています(本弁法第2条第2項)。

外国投資者が直接又は間接的に中国国内で以下の投資活動を行うこと。

  1. 外国投資者が単独又はその他の投資者と共同で中国国内で新規のプロジェクトに投資し、又は企業を設立すること
  2. 外国投資者がM&Aにより中国国内の持分又は資産を取得すること
  3. 外国投資者がその他の方法により中国国内で投資すること

なお、外商投資法において定められている「外商投資」の定義は以下のとおりです。

外国の自然人、企業又はその他組織が直接又は間接的に中国国内で以下の投資活動を行うこと。

  1. 外国投資者が単独又はその他の投資者と共同で中国国内で外商投資企業を設立すること
  2. 外国投資者が中国国内の株式、持分、財産持分又はその他の権益を取得すること
  3. 外国投資者が単独又はその他の投資者と共同で中国国内で新規のプロジェクトに投資すること
  4. 法律、行政法規又は国務院の規定するその他の方法による投資

本弁法と外商投資法における外商投資の定義、範囲については上記のとおり若干の違いがありますが、実質的な差異はあまりないものと思われます。

1-2 本弁法の適用対象となる外商投資

外商投資のうち、以下の要件を満たすものについては、外国投資者又は中国国内関連者は投資を行うに先立って安全審査業務機関に対して申告をする必要があります(本弁法第4条第1項)。

  1. 軍需産業軍需産業関連等、国防安全に関係する領域への投資及び軍事施設と軍需産業施設周辺地域への投資をする場合
  2. 国家安全に関係する重要な農産物、重要なエネルギー・資源、重大な装備製造、重要なインフラ設備、重要な運輸サービス、重要な文化製品・サービス、重要な情報技術・ネットワーク製品とサービス、重要な金融サービス、重要技術及びその他の重要領域への投資をし、且つ投資した企業の実際のコントロールを取得する場合

そして、上記にいう「実際のコントロール権を取得する」場合とは、以下のいずれかの場合を含むとされています(本弁法第4条第2項)。

  1. 外国投資者が企業の50%以上の持分を取得する場合
  2. 外国投資者の取得する企業の持分が50%未満であるが、その保有する表決権が董事会、株主会又は株主総会の決議に対して重大な影響を有する場合
  3. その他、外国投資者が企業の経営政策、人事、財務、技術等に対して重大な影響を与えることができる場合

安全審査の申告を行う必要がある対象となる外商投資のうち、特に日系企業に関係があると思われるのは第2項目であると思われます。

ただ、本弁法上の規定はかなり抽象的な定めとなっており、何をもって「国家安全に関係する」といえる事業か、また、どのような要件を満たすと「重大」、「重要」な各事業に該当するのかという点については一切基準を示していません。

本弁法上、本弁法に基づき安全申告をすべき外商投資について申告をせずに投資を実行した場合には、工作機制弁工室は投資実施前の状態に戻すことで、国家安全への影響を除去することまで可能とされており(本弁法第16条)、また、信用不良記録が国家信用システムに記録されるほか、処罰を受ける可能性もありますので(本弁法第19条)、曖昧なまま投資を実行した場合のリスクが髙いといえます。そのため、安全審査の申告対象に該当するか不明な場合には、予め工作機制弁工室に対して照会するのが無難と思われます(本弁法第5条)。 

2 審査の実施

2-1 主管部門

まず、外商投資の安全審査については、安全審査工作機制(安全审查工作机制)が主管するとされており、工作機制弁工室は国家発展改革委員会に設置され、発展改革委員会及び商務部が、安全審査の日常業務を司ることとされています(本弁法第3条)。

2-2 審査決定

工作機制弁工室は、当事者から申告を受けた場合、提出書類を受領してから15営業日以内に安全審査を実施する必要があるか否かについて決定し、書面により当事者に対して通知をするものとされています(本弁法第7条第1項)。当該決定がなされるまでの間、当事者は投資の実施をすることはできません。

なお、安全審査は不要と判断された後に、投資方案が変更され、国家安全に影響を与え又は与える可能性がある場合には、改めて申告をする必要があります(本弁法第12条)。

2-3 安全審査

安全審査は、一般審査と特別審査の2種類に分類されます。

2-3-1 一般審査

工作機制弁工室が安全審査を実施することを決定した場合、決定日から30営業日以内に一般審査を完了させるものとされており、審査の結果、当該投資が中国の国家安全に影響を与えないと判断された場合、工作機制弁工室は安全審査通過の決定をすることになります(本弁法第8条)。

2-3-2 特別審査

他方、国家安全に影響を与える、又は影響を与える可能性があると判断された場合、特別審査が開始され(本弁法第8条第2項)、以下にしたがった決定がなされます(本弁法第9条第1項)。

  • 申告された外商投資が国家安全に影響を与えないと判断された場合には、安全審査通過の決定をする
  • 申告された外商投資が国家安全に影響を与えると判断された場合には、投資禁止の決定をする
  • 条件を付加することで国家安全への影響を除去でき、且つ、当事者が書面にて付加条件を承諾する場合、条件付きでの安全審査通過の決定をすることができる

特別審査は、原則として特別審査の決定をした日から60営業日以内に完了するものとされている一方、状況によっては審査期間が延長される可能性もあります(本弁法第9条第2項)。

ただ、一般審査にしても特別審査にしても、国家安全に影響を与えるか否かの判断についてどのような判断基準があるのかは今の時点では不明であり、予測可能性はかなり低いと思われます。今後、詳細な判断基準が更に制定されることも想像されます。

2-3-3 投資方案の変更、撤回

当事者は安全審査機関中、投資を実施することができない一方、投資方案を変更又は撤回することができます。

投資方案を撤回した場合には、安全審査は終了となります。他方、投資方案の変更がなされた場合、投資方案の変更がなされた日から改めて審査期間が計算されることとなります(本弁法第11条)。

2-3-4 安全審査の結果及び効果

安全審査の結果及びそれに対する対応は以下のとおりです(本弁法第12条)。

決定内容 対応
安全審査通過 投資可能
投資禁止 投資不可
既に投資済みのものについては、期限内に持分又は資産の処分及びその他の必要な措置を講じ、投資前の状態に戻し、国家安全への影響を除去する
条件付き安全審査通過 付加された条件に基づいて投資を実施

3 終わりに

以上、新たに施行される外商投資安全審査弁法について概観しました。

本文中でも述べたとおり、安全審査の対象となる外商投資の範囲は必ずしも明らかではなく、また、安全審査にあたっての基準も特に定められておりませんので、今後外商投資を行うにあたっての予測可能性が失われないか若干懸念されるところではあります。

今後、更に詳細な細則や規範が制定される可能性も十分にありますので、引き続き注視することが必要かと思われます。

中国から日本への渡航、そして隔離(東京編)

2020年9月に日本から中国に帰国し、以前のエントリーでは大連までの道のりと大連での隔離生活の様子をご報告しました。

chinalaw.hatenablog.com

そして今回、年末を家族と過ごすべく、常駐先の上海から日本に一時帰国しました。12月28日より外国人一律の日本入国禁止措置が講じられるということもあり、水際措置の変わり目に帰国したことになります。今回は上海から日本に帰国するまでの様子をご紹介し、これから中国から日本に帰国される方のご参考にしてもらえればと思います。なお、今回の帰国は11月30日からスタートした日中間ビジネストラック、レジデンストラックは利用しない通常の帰国になります。

1 浦東空港(出国)

1-1 健康報告

1-1-1 中国税

自宅からタクシーに乗り、約3か月ぶりの浦東空港ターミナル2に到着。全日空のチェックインカウンターへ向かうと思いのほか長蛇の列(写真を取り損ねました)。チェックインの際にスタッフに聞いたところ、本日の全日空のフライトは乗客率はほぼ100%とのこと。

また、思いのほか中国の方の数も少なくありませんでした。これも聞いたところ、ビジネスの方以外に、留学、そして日本居住者の再入国が多いとのことでした。

さて、チェックインを済ませると出国審査をすることになりますが、現在は日本から中国に来る時と同じように、予め中国税関への健康申告をすることが必要となります。QRコードがそこらじゅうに貼ってありますので、それを読み込んで関連情報を入力し、QRコード(健康二维码)を取得し、スクリーンショット保存しておきます。

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事前に自主的にPCR検査を行い、陰性でしたが間違って陽性にチェックしてしまいました。

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健康QRコード

出国審査に入るゲートの手前に、上記の健康QRコードを提示する場所があります。

筆者は、出発3日前に上海のローカル病院で念のためPCR検査を受け陰性でしたが、健康申告にあたって、「結果は陽性でしたか」という質問に対して「是(Yes)」とチェックしてしまいました。その結果、出国審査前に上記QRコードを提示した際に、職員から「陽性だったんですか?」と止められてしまいました。

陰性でしたと説明したところ、健康申告の情報を修正し、改めてQRコードを取得した上で中に進むことができました。

1-1-2 日本厚労省 

国税関への健康報告のほか、今回は厚労省向けの健康報告を予め行うことが必要でした。こちらは出国審査の前でも後でも大丈夫で、私も含め、殆どの人が搭乗ゲートの周りのベンチに座りながら入力していました。

生年月日や日本での滞在先、過去14日の滞在歴など、中国税関向けの健康報告と殆ど同じような内容を入力し、こちらもQRコードを取得します。

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 こちらのQRコードは飛行機への搭乗時及び日本到着時に提示します。

1-2 出国審査通過後

ANAのチェックインカウンターこそ人がいっぱいでしたが、浦東空港ターミナル2の中はがらんとしており、およそ平常時の様子ではありませんでした。

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浦東ターミナル2から出発する便もわずかのみ

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免税店もほとんどゲストは見られない

2 浦東空港⇒成田空港

搭乗したNH920便は、元々13時05分出発の予定でしたが、機内の消毒作業のため13時05分搭乗開始、13時30分出発に。機内は言われていたとおりほぼほぼ満席でした。

ちなみに、日本から大連へ飛ぶ際に搭乗したJAL便の機内食は簡易なランチボックス形式でしたが、今回上海から成田へ飛ぶANA機内食は通常の機内食でした。ただ、これは何もJALがしょぼいという話ではなく、中国行きの機内食については中国政府からのオーダー、すなわち機内でなるべくマスクを外して食事をする環境と時間を作らせるな、という要請が出されているため、やむなく簡易なランチボックスを提供しているのだそうです。なお、一時大連でコロナの感染が拡大した際には、ランチボックスすら提供不可で飴玉しか出せなかったこともあるそうです。

フライト時間約2時間15分、日本時間の16時35分頃には成田に到着しました。

3 成田空港

成田空港に着陸した後、検疫所が混雑しているということで機内にて20分ほど待機する形となりました。そして、その後機内の乗客を3グループ(約60人ごと)に分けて降りてくださいというアナウンスがあり、順次飛行機を降りることに。

飛行機を降りると、検疫所に向かうことになります。

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検疫所に続く行列

その途中で「健康カード」を提示する場所があります。健康カードは機内で渡されるA4のペライチの紙で、自主隔離期間(滞在期間)と自主隔離場所(待機場所)を記入する箇所があります。機内で記入しても良いですし、健康カード提示場所にいる職員に記入してもらうことでも構いません。

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健康カード

記入した健康カード、QRコードとパスポートの3点を準備して、検疫ブースに向かいます。検疫ブースでは、上記の3点を提示し、改めて滞在先と滞在先までの移動手段について口頭で質問されます。特に問題がなければ青い紙を渡されて、検疫ブースでの手続は終わりです。

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個人的には、この後にPCR検査をやるものと思っていましたが、案内された順路にしたがって進んでいくとなんともう入国審査ブース。しかも、日本人は普通に顔認証レーンで通過して良いということで、上記の青紙を入国審査官に見せることもなく、入国。

そして、荷物をピックアップ。荷物は職員が予めずらりと並べてくれていました。

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ずらりと並べられた荷物達

荷物をピックアップすると、次は最後の税関申告です。

 

「あれ、PCR検査は?税関通ったあと?」

 

などとざわつく気持ちを抑えつつ、税関申告を行いゲートを出ると、そこは空港の出迎えエリアでした。

というわけで、

まさかのPCR検査なしの入国!!

が完了してしまいました。

入国者は公共交通機関に乗らないでとは言われていますが、見たところ特に入国者かどうかが本当に確認されているのかはよく分かりませんでした。

また、入国者の位置情報をトレースするためのアプリ等のインストールも特に求められていませんし、入国後の位置情報は多分ですが、特段把握のしようがないのではないかと思います(どっかでトレースされているのかもしれませんが…)。一応、QRコードを取得する際に、所在を確認するために連絡することがあるとして連絡先(電話番号、メールアドレス)を伝えているので、連絡が来るのかもしれませんが、電話やメールでは何とでも言えてしまうのであまり意味はなさそうです。

中国での厳しい入国を3か月前に経験した身としてはあまりのガバガバっぷりに帰国早々大きな衝撃を受けてしまいました。

報道を見ている限り、少なくともイギリスからの帰国者についてはPCR検査を行っているように思いますが、なぜ今回中国からの入国にあたってPCR検査なく入国できてしまったのかは非常に謎です(もしかすると、コロナ感染の疑いがある人についてはPCR検査受けていたのでしょうか…)。

現在中国から日本に渡航する際には、PCR検査の結果が陰性であることの証明等も特に求められていませんので、要するに自己申告だけで検査なく中国から200人あまりの人を入国させてしまっているということになります(逆に、日本から中国に渡航するにあたっては現在、搭乗2日以内のPCR検査の陰性と抗体検査の陰性のダブル陰性であることが必要とされています)。

他の国や地域からの入国者については異なるのかどうか分かりませんが、何にせよ水際対策としては非常に問題なのではないかと思わされました。

中国個人情報保護法草案(意見募集稿)について

前回の記事で中国の個人情報保護法草案(以下「本草」といいます。)が制定された旨を紹介しました。
chinalaw.hatenablog.com

その後、10月21日に本草案の内容が公開され、2020年11月19日までの意見募集にかけられました。今回は前回の記事に続き、本草案の内容を紹介していきたいと思います。

1 概論

1-1 法律の構成

本草案は、前情報通り全8章、70か条の条文によって構成されています。章立てとしては以下のとおりです。

  • 第一章 総則
  • 第二章 個人情報処理規則
     第一節 一般規定
     第二節 センシティブ個人情報処理規則
     第三節 国家機関の個人情報処理に係る特別規定
  • 第三章 個人情報越境提供規則
  • 第四章 個人情報処理活動における個人の権利
  • 第五章 個人情報処理者の義務
  • 第六章 個人情報保護の職責を履行する部門
  • 第七章 法律責任
  • 第八章 附則

1-2 関連事項の定義

個人情報に関連する各種の概念について、本草案で定められている内容を整理すると以下のとおりです。

概念 定義
個人情報(个人信息) 電子又はその他の方式により記録される、識別され又は識別が可能な、自然人の各種情報であり、匿名化処理後の情報を含まない(本草案第4条第1項)
個人情報の処理(处理个人信息) 個人情報の収集、保存、使用、加工、移転、提供、公開等の活動を含む(本草案第4条第2項)
センシティブ個人情報(敏感个人信息) 一旦漏えい又は違法に使用すると、個人が差別を受けるか、人身、財産の安全に重大な危害を被る可能性のある個人情報をいい、種族、民族、宗教・信仰、個人の生体的特徴、医療健康、金融口座、個人の行動歴等の情報を含む(本草案第29条第2項)
個人情報処理者(个人信息处理者) 個人情報の処理事項(処理の目的、処理方式等)を自ら決定する組織、個人をいう(本草案第69条第1号)
自動意思決定(自动化决策) 個人情報を利用し、個人の行為・習慣、関心・嗜好又は経済、健康、信用の状況等について、コンピュータプログラムによって自動的な分析、評価を行ったうえで意思決定を行う活動をいう(本草案第69条第2号)
非識別化(去标识化) 個人情報を処理することで、更なる情報がなければ特定の自然人を識別することができないようにするプロセスをいう(本草案第69条第3号)
匿名化(匿名化) 個人情報を処理することにより、特定の自然人を識別できず、復元できなくするプロセスをいう(本草案第69条第4号)

2 適用対象

2-1 原則

個人情報保護法は、原則として中国国内で自然人の個人情報を処理する活動に対して適用されるとしつつ、以下の場合には、中国国内の自然人の個人情報を中国国外で処理する活動に対しても適用されます(本草案第3条)。

  1. 中国国内の自然人に商品又はサービスを提供することを目的とする場合
  2. 中国国内の自然人の行為を分析、評価する場合
  3. 法律、行政法規に定めるその他の場合

上記のうち第1項目については、例えば越境ECで中国の消費者向けに商品を販売するような場合が典型的な例として想定されます。近時日中間の越境ECが益々活発している状況下においては、越境ECに携わる日本国内の事業者としては中国の個人情報保護法に注意しなければならない状況が増えるかもしれません。

なお、この場合の中国国外における個人情報保護者は、中国国内に専門機関又は指定代表を置き、個人情報保護の関連事務の処理に責任を負わせるとともに、関係機関の名称又は代表の氏名、連絡先情報等を、個人情報保護の職責を履行する機関に提出することが必要です(本草案第52条)。

2-2 例外

但し、自然人が個人又は家庭の事務により個人情報を処理する場合には、個人情報保護法の適用外となることが、附則において規定されています(本草案第68条第1項)。

3 個人情報の処理

3-1 個人情報の処理にあたっての基本原則等

個人情報の処理にあたって遵守すべき基本原則、遵守事項として、以下のようなものが定められています。

信義誠実の原則 個人情報の処理にあたっては適法で正当な方法を採用し、信義誠実の原則を遵守しなければならず、詐欺、誤導等の方式を通じて個人情報を処理してはならない(本草案第5条)
最小範囲の原則 個人情報の処理には明確で合理的な目的がなければならず、且つ、処理の目的を実現できる最小範囲にとどめなければならず、処理の目的と関係のない個人情報を処理してはならない(本草案第6条)
公開透明の原則 個人情報を処理するにあたっては公開、透明の原則を遵守し、個人情報の処理規則を明示しなければならない(本草案第7条)
個人情報の正確性 処理の目的を実現するため、処理する個人情報は正確なものとし、遅滞なく更新されなければならない(本草案第8条)

個人情報安全規範(个人信息安全规范、以下「安全規範」といいます。)においては、最小範囲、公開透明の原則が定められていましたが(安全規範第4条)、本草案ではこれに加えて個人情報の処理にあたっての信義誠実の原則が加えられています。

3-2 個人情報の処理規則

個人情報処理者が個人情報の処理をすることができるのは、以下のいずれかに該当する場合とされています。

  1. 個人の同意を得た場合
  2. 個人を一方の当事者とする契約の締結又は履行に必要な場合
  3. 法定の職責又は法定の義務の履行に必要な場合
  4. 突発的公衆衛生事件への対処又は緊急事態下における自然人の生命・健康や財産の安全の保護に必要な場合
  5. 公共の利益のための報道、世論監督等の行為をするために合理的な範囲内で個人情報を処理する場合
  6. 法律、行政法規に定めるその他の場合

個人情報の処理をするには、個人の同意を得ることを基本としつつも、同意を得ずに個人情報を処理することができる場合について明確にしました。

民法典においては、

  1. 自然人又はその監護者が同意する範囲内で合理的に個人情報を処理する行為
  2. 自然人が自ら公開し又はその他既に適法に公開している個人情報について合理的に処理する行為(自然人が明確に拒絶し又は個人情報を処理するとその重大な利益を侵害する場合を除く)
  3. 公共の利益又は自然人の合法権益を維持するために合理的に実施するその他行為

について、個人情報処理者は民事上の責任を負わないと定められていますが(民法典第1036条)、個人情報保護法は個人情報を適法に処理できる場合について更に拡大し、個人情報を利用した事業、活動を比較的広めに保護したものともいえます。

4 個人情報の処理に対する個人の権利

個人情報の処理に対する個人の権利として、本草案では以下のような権利が定められています。

知情権、決定権 個人はその個人情報の処理について知る権利、決定権を有し、自身の個人情報に対する他人の処理を制限又は拒否する権利を有する(本草案第44条)
閲覧、複製権 個人は個人情報処理者からその個人情報を閲覧し、複写する権利を有し、個人がその個人情報の閲覧、複写を請求した場合、個人情報処理者は速やかに提供しなければならない(本草案第45条)
更生、補正権 個人はその個人情報が不正確又は不完全であることを発見した場合、個人情報処理者に訂正、補足を請求する権利を有し、個人がその個人情報の訂正、補足を請求した場合、個人情報処理者はその個人情報を確認し、速やかに訂正、補足しなければならない(本草案第46条)
削除権 以下にいずれか1つの事由ある場合、個人情報処理者は自主的に、又は個人の請求を受けて、個人情報を削除しなければならない(本草案第47条)
・合意した保存期間が満了したか、処理の目的が実現された場合
・個人情報処理者が商品又はサービスの提供を停止した場合
・個人が同意を撤回した場合
・個人情報処理者が法律、行政法規に違反したか、合意に違反して個人情報を処理した場合
・法律、行政法規に定めるその他の事由
説明権 個人は個人情報処理者に対し、その個人情報処理規則について説明を求める権利を有する(本草案第48条)

 また、個人情報の処理により、個人情報の権益が害された場合には、個人がこれによって被った損害又は個人情報処理者がこれによって得た利益に基づいて(個人情報処理者が)賠償責任を負うこと、個人の損害又は個人情報の利益を確定することが困難な場合には裁判所が実際の状況に基づいて賠償金額を確定できることが定められています(本草案第65条)。

この損害賠償責任については、個人情報処理者が自己の無過失を立証できる場合には責任の減免が認められることになっており、立証責任が個人情報処理者に転換されています。

5 画像採集と個人身分識別等

5-1 画像採集、個人身分識別装置

近時、特に中国においては公共の場所における画像採集や個人の身分を識別する設備が普遍的に設置されるようになっているものの、このような設備を設置することについては特段法令が定められていないのが現状です。

そのような中で2019年2月にAIによる個人身分識別を用いた安全・防犯企業による250万件の個人情報流出事故(流出の疑いのある件数は680万件)が生じたという背景もあり、このような設備に関する法律上の規定を設けることが要請されていました。

本草案においては、公共の場所に画像採集、個人の身分を識別する設備を取り付けるにあたっては、公共の安全を維持・保護するために必要であり、国の関連規定を遵守したうえ、目立つ位置に標識を設置すること、そして、収集した個人の画像、個人の身分特徴情報(个人身份特征信息)は公共の安全を維持・保護する目的のみにしか用いることができず、原則として公開し、又は他人に提供してはならないという規定が置かれました(本草案第27条)。

本草案では上記一か条のみが設けられるのみで、該当する設備について、国家基準の遵守や許認可等に関しては特段明確にはしておらず、また、これらの設備により収集した個人情報の保管、管理等について、特殊な要求があるのかといった点についても特段明確にはされていません。したがって、この点については更なる立法化が待たれるところです。

5-2 自動意思決定

また、近時はビッグデータを利用したターゲティング広告も広く見られるようになったことに伴い、本草案においては、自動意思決定(Automated decision-making)に関しても規定を置きました。

個人情報を利用して自動意思決定を行うにあたっては、意思決定の透明性及び処理結果の公平性、合理性を保証しなければならず、自動意思決定の方式により商業マーケティング、情報プッシュ配信を行うにあたっては、個人の特徴に合わせた情報以外の選択も提供しなければならないとされています(本草案第25条)。

また、個人が自動意思決定によりその権益に重大な影響を受けると認識する場合、個人情報処理者に対して説明を求めることができ、自動意思決定の方法のみによって意思決定を行うことを拒否することができるとして、個人が有する権利についても定めています。

6 個人情報の越境提供

6-1 個人情報の越境提供の要件

個人情報の越境移転、越境提供に関しては、2019年6月に公布された個人情報越境移転弁法(意見募集稿)(个人信息出境办法(征求意见稿)、以下「移転弁法」といいます。)において定められておりましたが、移転弁法が制定される前に、個人情報越境移転について個人情報保護法で新たに定めが置かれることになりそうです。

移転弁法においては、個人情報が越境移転する場合、ネットワーク運営者は、その所在地の省級インターネット情報部門に対して個人情報越境移転に係る安全評価を申請しなければならないとされていました(移転弁法第3条第1項)。

しかし、これに対して本草案は以下の場合に個人情報越境移転ができることを定めています(本草案第38条)。

個人情報処理者が業務等の必要により、確かに中国国外に個人情報を提供しなければならない場合で、以下の少なくとも1つを満たしている場合。

  1. 本法第40 条の規定に基づき、国家インターネット情報機関による安全評価に合格している場合
  2. 国家インターネット情報機関の規定に基づき、専門機関による個人情報保護認証を行っている場合
  3. 国外の受領者と契約を締結する場合、双方の権利及び義務を約定し、且つ、その個人情報処理活動が本法に規定する個人情報保護基準に達するよう監督している場合
  4. 法律、行政法規又は国家インターネット情報機関が定めるその他の条件

インターネット情報部門による安全評価に合格していることは、個人情報の越境提供が可能な場合の一つされていますが、逆に越境提供にあたっての必要条件ではなくなっています。特に上記第3項で個人情報受領者との契約が締結されており、その契約内容が個人情報保護法の満たす保護基準を満たせば個人越境提供ができるということになっていますので、移転弁法に比べると個人情報の越境提供にあたっての条件がかなり緩和されたともいえます。

但し、重要情報インフラ運営者及び処理する個人情報が国家インターネット情報機関の規定数量に達している個人情報処理者は、中国国内で収集し、生じた個人情報を国内で保存しなければならず、確かに国外に提供する必要がある場合は、原則として国家インターネット情報機関による安全評価に合格しなければならないとも定められており(本草案第40条)、この点は留意が必要といえます。

6-2 越境提供に対する同意

個人情報処理者が中国国外に個人情報を提供する場合、個人に対して、国外の受領者の身分、連絡先情報、処理の目的、処理方式、個人情報の種類及び個人が国外の受領者に対して本法規定の権利を行使する方式等の事項を告知したうえ、個人の単独の同意を得ることが必要です(本草案第39条)。

6-3 個人情報保護のための措置

本草案では、以下のとおり中国の個人情報保護を損なうような国外における行為に対し、一定の措置を講じることができることを明らかにしています。

措置を講じる相手 内容
国外の組織、個人 中国国民の個人情報の権益を損なうか、中華人民共和国の国家の安全、公共の利益を脅かすような個人情報処理活動に従事する場合、国家インターネット情報機関はそれを個人情報提供禁止リストに登録することができ、公告したうえ、そのような組織、個人への個人情報の提供を制限又は禁止する等の措置を取る(本草案第42条)
国家又は地域 個人情報の保護に関して中国に対し差別的な禁止、制限又はその他類似の措置を取った場合には、中国は実際の状況に応じて当該国家又は当該地域に対し相応の措置を取ることができる(本草案第43条)

7 個人情報処理者の遵守事項

7-1 個人からの同意取得に関する事項

個人情報処理者が個人情報の処理について同意を取得するにあたっては、以下の事項について遵守する必要があります。

7-1-1 同意の再取得

個人情報の処理の目的、処理方式及び処理する個人情報の種類に変更が生じた場合は、個人の同意を取得し直さなければならない(本草案第14条第2項)

7-1-2 商品等提供拒否の禁止

原則として個人がその個人情報の処理に同意していないか、その個人情報の処理に対する同意を撤回したことを理由に、商品又はサービスの提供を拒否してはならない(本草案第17条)

7-1-3 個人への告知

個人情報の処理をするにあたっては、原則として目立つ方法によって、明快で分かりやすい説明で、以下の事項を個人に告知しなければならない(本草案第18条第1項)

  • 個人情報処理者の身分及び連絡先情報
  • 個人情報の処理の目的、処理方式、処理する個人情報の種類、保存期限
  • 個人が本法に規定する権利を行使する方法及び手続き
  • 法律、行政法規に告知すべきであると定めるその他の事項
7-1-4 個人情報の第三者提供

個人情報処理者が第三者に対してその処理する個人情報を提供する場合、個人に第三者の身分、連絡先情報、処理の目的、処理方式及び個人情報の種類を告知したうえ、個人の単独の同意を取得しなければならず、第三者がもとの処理の目的、処理方式を変更する場合は、改めて個人への告知を行い、同意を取得し直さなければならない(本草案第24条)

7-1-5 公開された個人情報の処理

個人情報処理者がすでに公開されている個人情報を処理するにあたっては、当該個人情報が公開された当時の用途に合致していなければならず、当該用途に関する合理的な範囲を超えた場合、本法の規定により個人に告知したうえその同意を取得しなければならない(本草案第28条第1項)

なお、個人情報が公開された時点で用途不明であった場合、個人情報処理者は合理的かつ慎重に公開された個人情報を処理しなければならず、すでに公開された個人情報を利用して個人に重大な影響を及ぼす活動を行うにあたっては、個人情報保護法の規定により個人に告知したうえその同意を取得しなければならない(本草案第28条第2項)

7-2 その他の義務

7-2-1 共同での個人情報処理

複数の個人情報処理者が共同で個人情報の処理の目的や処理方式を決定する場合は、各自の権利及び義務を約定しなければならず、個人情報処理者が共同で個人情報を処理し、個人情報の権益を侵害した場合には連帯責任を負う(本草案第21条)

7-2-2 個人情報の処理の委託

個人情報処理者が個人情報の処理を委託する場合、受託者と委託にかかる処理の目的、処理方式、個人情報の種類、保護措置、双方の権利及び義務等について合意したうえ、
受託者の個人情報処理活動を監督しなければならない(本草案第22条第1項)

 7-2-3 セキュリティリスク防止措置

個人情報の処理者は、個人情報の処理の目的、処理方式、個人情報の種類及び個人に対する影響、存在しうるセキュリティリスク等に基づき、以下のような措置を講じることで、個人情報処理活動が法律、行政法規の規定に適合することを保証し、権限を付与されていないアクセス及び個人情報の漏えい又はそれが窃取、改ざん、削除されることを防止する(本草案第50条)

  • 内部管理制度やオペレーション規程の制定
  • 個人情報に対するレベル別分類管理の実行
  • 相応の暗号化、非識別化等のセキュリティ技術措置の採用
  • 個人情報の処理の操作権限を合理的に確定し、定期的に従業員に対し安全に関する教育及び研修を行う
  • 個人情報安全事件の緊急時マニュアルを制定し、実施させる
  • 法律、行政法規に定めるその他の措置
7-2-4 個人情報保護責任者の指定

個人情報の処理が国家インターネット情報機関の規定数量に達した個人情報処理者は、個人情報保護責任者を指定し、個人情報処理活動及び保護措置等の監督をさせなければならず、個人情報処理者は、個人情報保護責任者の氏名、連絡先情報等を公開したうえ、個人情報保護の職責を履行する機関に提出しなければならない(本草案第51条)

7-2-5 個人情報の処理活動に対する監査

個人情報処理者は、定期的にその個人情報処理活動、保護措置等について法令に適合するか否かの監査を行わなければならない(本草案第53条)

7-2-6 事前のリスク評価

個人情報処理者は、以下に掲げる個人情報処理活動を行う前に、リスク評価を行い、処理状況を記録しなければならず、これらは最低3年間保管しなければならない(本草案第54条第1項、第3項)

  • センシティブ個人情報の処理
  • 個人情報を利用した自動意思決定
  • 個人情報処理の委託、第三者への個人情報提供、個人情報の公開
  • 中国国外への個人情報提供
  • その他個人に対し重大な影響のある個人情報処理活動

また、上記のリスク評価には以下の内容が含まれなければならない(本草案第54条第2項)

  • 個人情報の処理の目的、処理方式等が適法、正当、必要か否か
  • 個人への影響及びリスクの程度
  • 最小したセキュリティ保護措置が適法、有効であるかどうか、リスクの程度に相応か否か
7-2-7 個人情報漏洩事故に対する対応

個人情報処理者が個人情報の漏えいを発見した場合、ただちに救済措置を取るとともに、原則として個人情報保護の職責を履行する機関及び個人に対して以下の内容を含む通知をしなければならない(本草案第55条第1項)

  • 個人情報が漏えいした原因
  • 漏えいした個人情報の種類及びこれにより生じる可能性のある危険
  • 既に講じた救済措置
  • 個人が講じることのできる危険の軽減措置
  • 個人情報処理者の連絡先情報

中国個人情報保護法(草案)に関する報道

先日、全人代常務委員会において個人情報保護法の草案について審議が開始されたという報道が出されました。

japanese.cri.cn

中国においては、個人情報の保護に関する体系的な法律は制定されておらず、数多くの法律、国家基準や行政法規によって個別的、非体系的に個人情報保護に関するルールが定められてきました。そのため、個人情報保護法の制定は、これまでも度々全人代の立法計画に掲げられてきたものの、立法に至らないということが繰り返されてきたという経緯があります。

しかし、2017年に施行された民法総則やサイバーセキュリティ法といった法律の中で、個人情報の保護に関する規定が定められた頃から、個人情報保護法の制定に向けた期待と動きが徐々に強まっていったように思われます。

その後、2019年の年末には全人代常務委員会が2020年にはデータセキュリティ法と並んで個人情報保護法を成立させる予定であることを表明しており、2020年5月に公布された民法典でも個人情報保護に関する比較的詳細な規定が定められたこと、7月にはデータセキュリティ法の草案がパブリックコメントの募集を開始したこともあり、個人情報保護法の制定が益々現実的な話となってきていたところ、10月13日に全人代常務委員会が個人情報保護法草案(以下「本草」といいます。)の審議を開始したという報道が出されました。

(データセキュリティ法草案については以下をご参照) 

chinalaw.hatenablog.com

今の時点では、まだ本草案の具体的な条文については公表されていませんが、全8章、70の条文によって構成されているようです。恐らく、内容としてはこれまで既に制定、施行されてきた国家基準、ガイドライン(特に2020年10月1日より施行されている改正個人情報安全規範(个人信息安全规范))を、民法典やサイバーセキュリティ法との整合性を持たせる形で整理したものになると想像されますが、今回は、全人代のウェブサイトに掲載されている本草案に関する概要を、最新情報としてご紹介していきたいと思います(原文はこちら)。

1 個人情報保護法の適用範囲

1-1 個人情報等の定義

全人代のウェブサイトの記載によれば、「個人情報」とは、電子又はその他の方式によって記録される、認識され又は認識が可能な、自然人の各種関連情報と定義されているようです。

もっとも、民法ではより詳細に、電子又はその他の方式によって記録され、単独で又はその他の情報と結合して特定の自然人を識別できる情報(自然人の姓名、生年月日、身分証番号、生物識別情報、住所、電話番号、メールアドレス、健康情報、行動情報等を含む。)と定義されておりますので(民法典第1034条第2項)、実際には民法典と同じような定義になるのではないかと思われます。

また、本草案において、「個人情報の処理」には、個人情報の収集、保存、使用、加工、移転、提供、公開等の活動を含むと定義されているようですが、これは民法典と一致しています(民法典第1035条第2項)。

1-2 域外適用

本草案によれば、個人情報保護法は、中国国内の個人権益を十分に保護するために域外適用がなされることが規定されているとのことです。すなわち、中国国内の自然人に対して商品又はサービスを提供することを目的として、又は中国国内の自然人の行為等の分析評価をするために、中国国外で発生する個人情報処理については、中国個人情報保護法が適用され、尚且つ、中国国外の個人情報処理者に対し、中国国内において専門機関又は指定代表を設置し、個人情報保護関連事務に責任を負わせなければならない旨が定められているようです。

2 個人情報処理に関するルール

2-1 適法、正当な方法による処理

本草案においては、個人情報の処理は、適法、正当な方法によらなければならず、明確で合理的な目的を有すること、目的の実現に最小限度にとどめること、処理規則を公開すること、情報の正確性を保証すること、安全保護措置を講じること、といった原則を、個人情報処理のすべての過程において遵守することが定められているようです。この辺りは、民法典でも一定の定めを置いていますが(民法典第1035条第1項)、これと関連、又は補充する内容の規定になるかもしれません。

中でも、新型コロナウイルスの流行の中において、ビッグデータコロナウイルスの抑え込み、事業の復興等に大きく貢献したことに鑑み、突発的な公共衛生事件又は緊急状況下において自然人の生命健康を保護するための対応は、個人情報処理の適法事由の一つとして定めているという点が一つ特徴になっている、とも言われています。要するに上記のような緊急事態下においては、上記の個人情報処理に関する適用の例外が認められる、ということかと理解されます。他方で、似たような規定は個人情報安全規範においても定められています(個人情報安全規範5.6)。

2-2 告知と同意

また、「告知」と「同意を個人情報処理における中心的な原則として据え、個人情報の処理をするにあたっては、事前に十分な告知をしたうえで個人の同意を得ること、尚且つ個人は同意を撤回することができることを要求しているとのことです。

そのほか、重要事項に変更が発生した場合に改めて個人から同意を取得すること、個人が個人情報の処理に対する同意をしないことを理由として商品、サービスの提供を拒絶してはならないことを定めているようです。

中でも、センシティブ個人情報(敏感个人信息)に対してはより厳格な制限を置き、特定の目的と必要性がある場合に限り、センシティブ個人情報を処理することができ、尚且つ、個人からは単独での同意又は書面での同意を得なければならないということです。ちなみに、「センシティブ個人情報」は、一旦漏洩、違法提供又は乱用されると人身、財産の安全が害され、容易に個人の名誉、心身健康上の損害、又は差別的待遇等が引き起こされる個人情報をいうとされています(個人情報安全規範3.2)。

2-3 国家機関による個人情報処理

なお、本草案においては、国家機関が個人情報処理に関するルールを定め、国家機関が職責を履行していることを保障することと同時に、国家機関が個人情報処理をするにあたっては法律、行政法規の定める権限、プロセスを経ることを要求しているということです。

国家が個人情報を大いに活用する中国において、国家機関が遵守すべき個人情報処理に係るルールがどのようなものになるのか、注目に値する部分かと思われます。

3 個人情報の越境提供

本草案においては、重要情報インフラ運営者及び個人情報の処理数量が国家ネットワーク情報部門の規定する数量に到達する者が、中国国外に個人情報を提供する確かな必要がある場合、国家ネットワーク情報部門による安全評価を受けなければならず、また、越境提供される当該個人情報に対して専門機関による認証等を経なければならないことが定められているとのことです。

個人情報の越境移転にあたっての安全評価については、個人情報越境移転弁法(个人信息出境办法)の意見募集稿においても規定がありますが、個人情報保護法においては関連内容がより具体化、あるいは補充されるのではないかと思われます。

また、個人情報の越境移転にあたっての告知と同意については、更に厳格な要求をしているほか、国際司法上の協力又は行政の法執行上の協力に基づき、個人情報を中国国外に提供する必要がある場合には、関連主管部門の認可を得る必要があること、といったことも定められているようです。

加えて、中国国民の個人情報権益等を害する活動を行う中国国外の組織、個人、及び個人情報保護の場面において中国に対して不合理な措置をとる国家及び地区に対しては、必要な措置を講じることができる、といった内容も定められているとのことです。類似する規定は、データセキュリティ法の草案でも見られ、中国に敵対的な国家による個人情報侵害行為に対して国家の主権を行使することができるというスタンスを明確にしていると理解されます。

4 権利義務の明確化

民法典において、個人情報に対する知情権、決定権、調査権、更生権、削除権などといった権利が定められていますが(民法典第1037条)、個人情報保護法でも同様の権限が認められており、個人情報処理者に対しては、個人が権利行使をするための申請受理と処理に係る仕組みを構築することを要求しているとのことです。

また、個人情報処理者に対しては、内部管理制度、操作制度の構築、安全技術措置の採用をすることや、個人情報処理活動に対する監督を行う責任者の指定をすることが義務付けられるほか、個人情報活動に対する定期的なコンプライアンス監査、センシティブ個人情報の処理、中国国外への個人情報提供といった高リスク処理活動に対する事前のリスク評価の履行、個人情報の漏洩に関する通知や補償義務等の規定が盛り込まれているようです。

5 ネットワーク情報部門による統括

個人情報保護関連の行政上の統括は、国家ネットワーク情報部門が統括を行い、当該部門と国務院の関連部門がそれぞれその職責の範囲内で個人情報保護と監督管理業務を行うこと、といった行政上の権限分掌について定めが置かれているようです。

6 終わりに

以上、現時点で最も確実な情報源である全人代のウェブサイト上の情報を翻訳しつつ整理してみました。恐らく、法律の草案も近々公開され、意見募集がなされるかと予想されますので、草案が出てきた時には改めてご紹介したいと思います。

 

信頼不能実体リスト規定の公布・施行について

2020年9月19日、中国の商務部は「信頼不能実体リスト規定」(中国語は「不可靠实体清单规定」、以下「本規定」という。)を公布し、即日施行しました。

www.nikkei.com

「信頼不能実体リスト」というのは、本規定によって初めて登場した概念ではなく、商務部は2019年5月31日の時点で、信頼不能実体リスト制度を今後構築していく旨の発表をしており、今回の本規定は当該商務部の方針に基づいたものということができます。

もっとも、本規定が公布された前日、同年9月18日にアメリカのthe Department of Commerce が米国内におけるWe Chat、Tik Tokのダウンロードや更新、We Chatを通じた決済サービス(いわゆるWe Chatペイ)を禁止したという時間的関係から見て、アメリカのこれらの措置に対する対抗措置であるとの見方が有力であり(the Department of Commerceによるリリースはこちら)、中国国内ではそのような趣旨であるとの報道もなされています。

本規定に基づく信頼不能実体リストは、現時点ではまだ公表されていませんが、アメリカが国防権限法(National Defense Authorization Act:NDAA)でHuaweiやZTEといったメーカーとの取引を制限したり、今回We ChatやTik Tokのダウンロード等を制限したりと、個別企業について狙い撃ちで規制をかけていることからすれば、近く、そのような米国の個別企業を掲載したリストが公布されることも想定されます。

本規定は、全14条で構成される行政法規ですが、今回は本規定の内容についてご紹介、ご説明したいと思います。

1 信頼不能実体リスト制度の適用対象

本規定によれば、信頼不能実体リスト制度とは、以下のとおり理解されます(本規定第2条第1項)。

外国実体の、国際貿易及び関連する活動における以下のいずれかの行為に対して相応の措置を講ずること 

上記にいう「外国実体」(外国实体)とは、外国企業その他の組織又は個人を含む、と比較的概括的な定義がされています(本規定第2条第2項)。

そして、外国実体による対象行為については、

  • 中国の国家主権、安全、発展利益に危害を加えること
  • 正常な市場取引の原則に違反し、中国企業、その他の組織又は個人との適正な取引を中断し、又は中国企業、その他の組織もしくは個人に対して差別的措置を講じ、中国企業、その他の組織もしくは個人の合法権益を著しく損害すること 

をいうとされています。

なお、本規定では、中国政府は独立的・自主的な対外政策、相互の主権尊重・内政不干渉と平等な相互主義等の国際関係の基本ルールを維持し、一国主義・保護主義に反対すること、そして、他国貿易体制を維持して開放的な世界経済建設を推進することが謳われています(本規定第3条)。

規定の内容及び昨今の情勢からすれば、アメリカを意識していることは、あまり疑いがありませんが、本規定の公布と同時に発表されている本規定の解説では、本規定は特定の国家、特定の主体に対するものではないと述べられています。

2 調査の実施等

信頼不能実体リスト制度は、中央国家機関の関連部門が加入する工作機構により執行され、当該工作機構の弁公室は国務院商務主管部門に設置されることとされています(本規定第4条)。

上記の工作機構は、その職権又は関連方面の提案、通報に基づいて、関連する外国実体の行為に対して調査をするか否かの判断を行うことができ、調査を行う場合には公告することとされています(本規定第5条)。各方面からの提案や通報も調査開始の端緒となるため、間口は広いといえそうです。

そして、工作機構が外国実体に対して調査を行うにあたっては、関係当事者へのインタビュー(询问)、関連する資料の閲覧又はコピー、及びその他必要な方法によって行うことができ、関連する外国実体も調査期間において陳述、弁解をすることができるとされています(本規定第6条第1項)。

工作機構は、実際の状況に基づいて中止又は終了をすることができ、また、もしも調査の中止を決定した前提事実に重大な変化があった場合には調査を再開できるともされています(本規定第6条第2項)。

このように見てみると、調査の開始、終了については、工作機構の裁量が認められており、少なくとも本規定上はこれらの具体的な要件は特に定められていません。また、調査の方法としては、インタビュー、資料の閲覧・コピーが具体的に定められており、それ以外はキャッチオール的な定めがされているにとどまり、実際にどのような調査方法まで採ることができるのかは明確にはされていないといえます。

3 調査を踏まえた処分等

3-1 信頼不能実体リストへの追加

工作機構は、調査の結果を踏まえ、以下の事由を総合的に考慮したうえで外国実体を信頼不能実体リストに追加するか否かの決定をし、その旨の公告をするものとされています(本規定第7条)。

  • 中国の国家主権、安全、発展利益に対する危害の程度
  • 中国企業、その他の組織又は個人の合法権益に対する損害の程度
  • 国際的に一般的な経済貿易ルールに適合しているか否か
  • その他考慮すべき事由

また、外国実体による行為の事実が明確である場合、工作機構は上記の事由を総合考慮し、直接信頼不能実体リストに追加する決定をすることができるともされており(本規定第8条)、この場合には、調査のプロセスが省略されるものと理解されます。

一応、考慮要素を明確にしているという点では評価できるものの、評価基準は抽象的な内容にとどまるため、工作機関の裁量は必ずしも限定されていないものと思われます。

なお、信頼不能実体リストへの追加に係る公告において、当該外国実体との取引をするにあたってのリスクを提示することができ、且つ、実際の状況に基づいて外国実体の当該行為の是正期限を設けることができるとされています(本規定第9条)。

3-2 信頼不能実体リストへ追加された外国実体に対する措置 

工作機構は、信頼不能実体リストに追加された外国実体に対して、以下のいずれかの措置を講じることができ、公告するものとされています(本規定第10条第1項)。

  1. 中国と関係のある輸出入活動の制限又は禁止
  2. 中国国内への投資の制限又は禁止
  3. その関連人員、交通運輸ツールの入国の制限又は禁止
  4. 関連人員の中国国内における就業許可、滞留又は居留資格の制限又は取り消し
  5. 情状に応じた過料
  6. その他必要な措置

中国との輸出入の禁止のほか、対中投資、関連人員の入国等も広く禁止、制限されるということで、措置としては比較的強力な内容になっているように思われます。

なお、信頼不能実体リストに追加する旨の公告で是正期間が設けられている場合、その是正期間中は上記措置は講じず、是正期間が経過した後も是正されなかった場合に措置を講じるということで、是正期間中は措置の執行が留保される形となっています(本規定第11条)。

反対に、中国企業、その他の組織又は個人が、中国と関係のある輸出入活動の制限又は禁止をされている外国実体と取引を行う確かな必要性がある場合には、工作機構弁公室に対して申請を行い、許可を得る必要があるとされました(本規定第12条)。

3-3 信頼不能実体リストからの抹消

工作機構は実際の状況に応じて、外国実体を信頼不能実体リストから抹消することができるとされています。また、外国実体が、公告された是正期間内において違法行為の是正を行い、違法行為の効果を抹消した場合にも、工作機構は信頼不能実体リストから抹消することができるとされています(本規定第13条第1項)。

これらは工作機関の方が主導して信頼不能実体リストからの抹消をする場合ですが、他方、外国実体の方からも信頼不能実体リストからの抹消を申し立てることができ、この場合も、工作機関が実際の状況に応じて信頼不能実体リストからの抹消をするか否かを決定することとされています(本規定第13条第2項)。基本的には違法行為の是正がされたような場合にこのような申請ができるものと思われますが、実際にどのような要件が満たされた場合に信頼不能実体リストからの抹消申請をできるかは条文上は明確にされておらず、やはり工作機関の広い判断権限が残されているといえそうです。

4 まとめ

以上、信頼不能実体リスト規定の概要を掻い摘んでご説明しました。今後、具体的な信頼不能実体リストが公布、制定されていくものと思われますので、新しい動向があり次第、また随時ご紹介していきたいと思います。

中国民法典の解説その②~契約編典型契約Ⅰ~

前回は、中国民法典の中でも契約編の総論箇所についてざっと解説をしました。

chinalaw.hatenablog.com

今回はこれに続き、契約編の中で典型契約について概観してみたいと思います。

民法典においては、典型契約として以下の類型の19種類の契約について定めが置かれています。

1

売買契約

11

運輸契約

2

電気、水道、ガス、熱供給契約

12

技術契約

3

贈与契約

13

寄託契約

4

金銭消費貸借契約

14

倉庫保管契約

5

保証契約

15

委任契約

6

賃貸借契約

16

物業サービス契約

7

ファイナンス・リース契約

17

取次契約

8

ファクタリング契約

18

仲介契約

9

請負契約

19

パートナー契約

10

建設工事契約

 

 

上記の典型契約のうち、保証契約は元々担保法に、パートナー契約については民法通則において定められていたのが、民法典では契約編の中に組み込まれました。そのほか、ファクタリング契約物業サービス契約は、今回民法典で新たに追加された典型契約となります。

そこで、上記の各典型契約のうち、実務上重要と思われる典型契約について、その改正点やポイントについて何回かに分けて解説したいと思います。今回は売買契約金銭消費貸借契約保証契約です。

1 売買契約

1-1 他人物売買に関する規定の新設

現行の契約法上、売買の目的物については、売主が所有し、又は権利を有するものでなければならないという規定が置かれていますが(契約法第132条第1項)、これに反した売買契約に係る効力については特段定められていませんでした。

この点、民法典では売主が処分権を取得することができなかったことを理由として目的物の所有権を移転することができない場合、買主は契約の解除並びに売主に対して違約責任を追及することができる旨明記されました(民法典第597条第1項)。

1-2 危険負担

運送人を利用した、売買目的物の移転、引き渡しに伴う危険の移転について、契約法上は、引き渡し場所が不明確である場合に、売主が目的物を第一運送人に引き渡した時点で、目的物に係る危険は買主に移転することが規定されている一方、引き渡し場所が明確になっている場合についての規定は定められていませんでした(契約法第145条)。

この点、民法典では、売主が買主の指定する地点に目的物を輸送し且つ運送人に引き渡した後に、目的物の危険が買主に移転することとされています(民法典第607条第1項)。目的物が、指定された目的地に運送されたことも危険移転の要件に含まれているといえます。

1-3 瑕疵担保責任

売買契約の目的物が品質に係る要求に合致しない場合には、買主は売主に対して違約責任を追及することができますが(契約法第155条、民法典第617条)、瑕疵担保責任の減免に関して契約で合意されることもあります。

この点、契約法上、瑕疵担保責任の減免に関して正面から定めた規定は置かれていませんでしたが、民法典では、上記のような責任の減免を内容とした合意をすることは可能であることを前提としたうえで、売主が故意又は重大な過失により目的物の瑕疵について買主に対して告知をしなかった場合、売主は瑕疵担保責任の減免を主張することができない旨が明記されました(民法典第618条)。

1-4 検収に関する規定の追加

1-4-1 検収の期限

売買目的物の検収について、契約法上は、以下のような規定を置いています(契約法第158条第1項、第2項)。

検収の期限に係る約定の有無

目的物の数量、品質の不適合に関する売主への通知

約定がある場合

検査期間内に、目的物の数量又は品質が契約の定めに合致しない状況を売主に対して通知しなければならない。

約定がない場合

目的物の数量又は品質が契約の定めに適合しないことを発見し、又は発見すべき合理的な期間内に、売主に通知しなければならない。

 

上記の契約法の規定に加え、民法典は検収に関して以下の規定を新たに定めました。

検収の期限に係る約定の有無

目的物の数量、品質の不適合に関する売主への通知

約定がある場合で、約定された期限が短すぎる場合(民法典第622条第1項)

目的物の性質と取引習慣に基づき、買主が検査期間内に全面的な検査を行うことが困難な場合、約定された期限は、買主の目的物の外観の瑕疵に対する異議を述べる期間と見なす。

約定がない場合(民法第623条)

買主が既に受領し署名した出荷票、確認票に目的物の数量、型番、規格等が記載されている場合、原則として、買主は数量、外観の瑕疵に対して検査を行ったものと推定する。

1-4-2 検収基準の齟齬

売主が買主の指示に基づき第三者に目的物を引き渡した場合で、売主と買主との間で約定された検査基準と、買主と第三者との間で約定された検査基準が一致しない場合、売主と買主との間で合意された検査基準を基準とすることが新たに定められました(民法典第624条)。

1-5 分割による代金支払い

契約法上、売買代金の分割支払いの合意がされている場合で、未払となっている代金が代金総額の5分の1に達した場合には、売主は買主に対して代金全額の支払い又は契約解除の請求をすることができると定められています(契約法第167条第1項)。この点について、民法典は、売主から買主に対して代金全額の支払い又は契約解除の請求をするための要件として、買主に対する催告と、催告後合理的な期間内において既に期限の到来している支払いがなされていないことも付け加えた(民法典第634条第1項)。

1-6 所有権留保

1-6-1 第三者に対する対抗

契約法上、売買の当事者間において所有権留保の合意をすることができるという旨の規定が置かれているものの(契約法第134条)、当該所有権留保の合意を第三者に対抗することができるかという点につき法律上は明確にされていませんでした。

この点、民法典は目的物に対する売主の所有権留保は、登記をしなければ善意の第三者に対抗することができない旨が明記されました(契約法第641条第2項)。特に不動産については、従前の実務を明文化したものと理解することができます。他方で、動産に係る所有権留保については、特に登記の要求されない動産に係る所有権留保は、相手方が所有権留保の事実を知らない限りは善意取得され、対抗できないという帰結になるものと考えられます。

1-6-2 所有権留保物件による売主への損害

当事者間で所有権留保の合意をした場合で、目的物の所有権が移転する前の時点において、買主に以下のいずれかの事由があり売主に対して損害を与えたときは、売主は目的物を取り返すことができる旨が新たに規定されました(民法典第642条第1項)。

  1. 合意に基づいた代金の支払いがなされず、催告を経た後合理的な期間内に依然として支払いがなされない場合
  2. 合意に基づく特定の条件が完成していない場合
  3. 目的物の販売、質入れ又はその他不当に処分した場合

もっとも、上記に基づいて売主が目的物を取り返した後であっても、買主が、売主との合意又は売主の指定する合理的な買戻し期間内に、売主による取り戻し原因事由を除去した場合には、目的物の買い戻しを請求することが可能とされています(民法典第643条第1項)。もしも、買主が買戻し期間内に目的物の買い戻しをしない場合、売主は合理的な価格により目的物を第三者に販売することができ、販売価格から買主において未払いとなっている代金及び必要な費用を控除した残りの部分を買主に返還し、もし第三者への販売価格が買主への販売価格に満たない場合は、その差額の部分につき買主は引き続き支払い義務を負うことも合わせて規定されました(民法典第643条第2項)。

2 金銭消費貸借契約

2-1 利息に関する制限

民法典においては、明文により高利貸しを禁止し、金銭消費貸借契約における利息は国家の関連規定に違反してはならない旨が明記されました(民法典第680条第1項)。利息に関する国家の関連規定としては現在、「民間における金銭消費貸借事案の法律適用の若干問題に関する規定」(最高人民法院关于审理民间借贷案件适用法律若干问题的规定)が定めを置いています。

上記規定は従前、年間24%を超えない範囲における利息の合意は有効とする一方、年間36%を超える部分の利息については合意自体が無効としていました。また、遅延損害金についても24%を超えない範囲で定めることができるとされていました。

もっとも、年間24%の利息は高すぎるといった指摘もされていたこともあり、最高人民法院は、2020年8月20日に、上記規定を改正、施行しました。

改正後は契約成立時「1年期貸金市場最優遇貸出利率」(中国語は「一年期贷款市场报价利率」)の4倍を超えない範囲において定めることができるとされました(改正後規定第26条第1項)。

上記にいう「1年期貸金市場最優遇貸出利率」とは、中国人民銀行の授権する全国銀行間貸付センターが2019年8月20日から公布している1年期貸金市場最優遇貸出利率(LPR、ローンプライムレート)のことをいうと定義されています(改正後規定第26条第2項)。

2020年7月20日に公布された上記利率は3.85%であり、これを基に計算すると、年15.4%の利率ということになり、従前認められていた利率と比較してもかなり利率は引き下げられたといえます。

また、契約法においては、利息の定めが不明確な場合にも利息を支払わないものと見なすという規定を置いていましたが(契約法第211条)、民法典においては、利息の定めが不明確な場合で、当事者は補充的な合意に至らなかった場合、当該地域又は当事者の取引方法、取引習慣、市場利率等の要素を勘案し、利息を確定するという内容に変更されています(民法典第680条第3項)。

3 保証契約

冒頭でも触れたとおり、保証契約は従前は担保法において規定が置かれていましたが、民法典では典型契約の一類型として整理されました。

3-1 保証契約の定め

保証契約は、通常の保証と連帯保証の二つの種類に分けられ、保証契約がそのいずれとなるかは原則としては保証契約の定めによって定められます。この点、契約においていずれの保証とするか、定めがない場合又は定めが不明確である場合に、どちらの保証と解するかについて、担保法は連帯保証とする旨定めていたのに対し(担保法第19条)、民法典では通常の保証とする旨定められました(民法典第686条第2項)。

通常の保証人の場合、主債務者に対する債務の履行請求がまだなされていない場合には、原則として保証債務の履行を拒絶することが可能であるのに対し(民法典第687条第1項)、連帯保証人には、補充性がないためこのような拒絶権限は与えられていません(民法典第688条第2項)。

3-2 主債務の変更等

3-2-1 主債務の変更

契約法上、主債務に変更があり、保証人の書面による同意がない場合には、保証人は保証責任を負わないものとされていました(契約法第24条)。この規定によれば、主債務の範囲を縮減するような場合であっても、保証人が書面による同意をしなければ保証人はその責任を免れることができることになってしまい、債権者にとっては不利、不合理な規定であったといえます。

民法典ではこの点について以下のように変更されています(民法典第695条第1項)。

  • 主債務を縮減する変更⇒変更後の債務について保証責任を負う
  • 主債務を加重する変更⇒変更前の保証責任を引き続き負う

また、主債務の履行期間の変更については、保証人の書面による同意がない場合には、当初の保証期間においてのみ保証責任を負うこととされています(民法典第695条第2項)。

3-2-2 主債務の譲渡

契約法上、主債務の全部又は一部が譲渡された場合には、原則として元の保証契約に基づく保証の範囲で責任を負うとされていました(契約法第22条)。

これに対し民法典は、保証人に対して通知がなされていない債権譲渡は保証人との関係で効力を生じないとして、保証人に対する通知を債権譲渡の対抗要件としました(民法典第696条第1項)。また、保証人と債権者との間の保証契約において、債権譲渡禁止の特約を付していた場合に、保証人の書面による同意なく債権譲渡がなされた場合には、保証人は保証責任を負わないものとされました(民法典第696条第2項)。

上記の変更は、保証人の覚知しない債権譲渡から保証人の責任を解放したものとして、保証人保護を趣旨としたものと理解できます。

3-2-3 債務引受

契約法上、債権者が保証人の書面による同意を得ずに第三者への債務引受(中国語は「债务转移」、債務の転移という記載をします。)を許可した場合、保証人は保証責任を負わないものとされていました(契約法第23条)。

これに対し民法典は、債務引受の類型に応じて異なる取り扱いを定めました(民法典第697条)。

  • 三者が債務に加入する場合⇒保証責任は影響を受けない
  • 保証人の書面による同意を得ずに債務の全部又は一部が譲渡された場合⇒原則として保証責任を負わない

前者は、日本民法でいえば併存的債務引受に相当する場合といえますが、その場合は保証人の免責を特に認める必要はないといえます。他方、後者は、日本民法でいえばいわゆる免責的債務引受に相当する場合といえますが、保証人が覚知しないところで債務が移転した場合には、保証人をその責任から解放するべきという趣旨であると理解できます。

3-2-4 保証人の免責

民法典では、通常の保証人について、主債務の履行期間が満了した後に、債権者に対して債務者の執行可能な財産の状況を提供した場合で、債権者が権利行使を放棄又は怠ったことによって当該財産への執行が不能となった場合、保証人は提供した執行可能財産の価値の範囲において保証責任を免れるという規定が新たに追加されました(民法典第698条)。

これは、日本民法でいえば検索の抗弁に類似するものといえますが、日本と同様、これはあくまで通常の保証人についてのみ認められ、連帯保証人には認められていません。

日本から中国への渡航、そして隔離(大連編)

筆者は、今年の1月の春節前に日本に帰国しておりましたが、その後中国での新型コロナウイルスの爆発的な流行もあり、暫くは中国への帰国を見送っておりました。

しかし、その後中国での流行状況が落ち着き始めるや日本での流行が増加傾向となり、3月には当時有効に保有していた居留許可の効力が停止され、日中間の航空便も大幅に制限されるなどし、中国に帰国することが非常に困難となりました。そして、日本の緊急事態宣言が出されたことを受け、在日中国大使館及び中国ビザセンターも休館となったことで、ビザの発行が停止し、事実上中国に戻ることが不可能となりました。

その後、6月頃に中国ビザセンターが部分的に業務を再開したことを受け、中国国内での招聘状を取得の上、改めてビザの申請を行い、今般9月8日に中国に帰国しました。

現在大連のホテルにて集中隔離中となっておりますが、今回は、帰国当日から今日までの記録を残したいと思います。

これから日本から中国へいらっしゃる方の参考になればと思います。

1 品川⇒成田

これまでであれば当たり前のように羽田から上海に飛ぶ飛行機で行き来をしていましたが、現在、依然として日中間の航空便は大幅な便数制限がなされており、現在、関東の方から中国へ飛ぶ飛行機はいずれも成田発のもののみとなっており、羽田から中国へ飛ぶことはできません。

これまでも成田から中国に帰ることは時折ありましたが、その時には大体1000円での高速バスに乗って成田空港まで行っていました。しかし、現在その1000円バスも軒並み運航を中止しておりバス移動はできません。そのため、今回の空港までの移動は成田エクスプレスに乗らざるを得ませんでした。

9月8日6時47分

品川駅で日本に置いていく家族と泣く泣く別れ、一人成田エクスプレスに乗車。

しかし、見事なまでにガラガラで、私の乗っていた車両には他の乗客は1名ほどしか乗っていませんでした。

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ガラガラの成田エクスプレス

9月8日7時53分

時刻通りに成田空港に到着し、JALのチェックインカウンターに向かうと、同じJAL829便で大連に向かうと思わしき人が20人ほど列を作っていました。

列に並ぼうとすると、JALの職員からスマホに中国税関アプリをダウンロードし、健康情報の記入を求められます。ガラケー派の人ですとこの時点で中国には行けませんね。問答無用でスマホがあることが前提の話となっています。

アプリをインストール、起動し、色々な情報を入力していくわけですが、その内容としては以下のような感じです。

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きちんと座席まで入力する必要があります。

これらの情報を入力し終えて、報告を提出すると以下のようなQRコードが発行されます。

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日本を発っていない間も、チェックイン及び飛行機の搭乗にあたって、当該QRコード画面を提示することが求められるため、この画面はスクリーンショットをしておくことが推奨されます。

チェックインを済ませてあたりを見回してみると、旅客はほとんどいない閑散とした状況でした。

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※なお、私が帰国する際は不要でしたが、9月9日に在日中国大使館が出した通知によると、9月25日以降に日本から中国に直行する飛行機に搭乗する場合にも、予めPCRの陰性結果証明を提示しなければならないことになっていますので、9月25日以降に中国へ渡航される方はご注意ください(詳しくはこちら)。

2 成田⇒大連周水子空港

9月8日9時15分
9時15分搭乗開始ということなので搭乗ゲートへ向かうと、想像を超える人だかり。大多数が中国人の方でしたが、多くの人がマスクに加え、フェイスマスク、手袋も装備していましたし、少なくない人が防護服まで装着していました。

この辺は、さすが中国人と感心してしまいました。

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9月8日10時10分~(以下、中国時間)11時30分
飛行機はほぼ定刻通りに出発し、ほぼ定刻通りに着陸しました。さすがJAL

機内はそれなりの人が乗っていましたが、満席とまではいかず、空席もそれなりにポツポツと見られました(自分の隣の席も幸い空席でした)。

機内食は簡素で、中国の国内線に乗ってると出てきそうな感じのものが提供されました。

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フライト中は映画「JOKER」を見ていましたが、朝も早かったので途中で寝てしまいました。。そうこうしているうちに着陸。大連は、中国に赴任してから1度出張で来て以来で、かなり久々。

着陸後、機内に防護服を着た税関職員が搭乗してきて、一部の座席に座っている人を呼び出して飛行機から下ろしていました。その理由はちょっとよく分かっていませんが、その人達が下ろされた後、全乗客が飛行機から降りることになりました。

機体が着陸してから飛行機を降りるまでは約20分程度で、もっと待たされるのかと思っていたので意外と早く降りれたという印象。

3 大連周水子空港⇒大連昱聖苑国際酒店

9月8日11時47分~12時50分(飛行機降りてからPCR検査完了まで)

飛行機を降りると、健康申告エリアに並ばされます。

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この行列の先に設置されているブースにて、健康状態等を尋ねられます。もっとも、結構ザルで、過去2週間どこにいたか、病院に行ったか、発熱はないか、近しい人でコロナかかった人いるか、などなどの質問を聞かれる程度です。

なお、日本人が搭乗している便ということもあり、職員の中には日本語を喋っている人も複数いたように思います。

ブースでの問診が終わると、次はPCR検査を受けることになります。PCR検査は、鼻に細い綿棒のようなものを突っ込まれ、口内の唾液を採取され、ものの5分程度で終了します。その際に、着用していたマスクを破棄し、N95を着用するように指示されます。そのため、私は前日に買ったばかりのエアリズムマスクの1枚が早々に犠牲となってしまいました…

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そのため、中国に来る際は、(十分なストックがある方を除き)繰り返し利用可能な布マスクではなく、使い捨てマスクを着用することをお勧めします。

なお、PCR検査の結果がいつ頃どのように通知されるかなどといったことは、特に聞かなければ教えられません。私も特にそのようなことは確認していませんでしたが、到着当日の夜にホテルの責任者から教えてもらいました。

9月8日12時50分~13時17分(入国審査からホテル振り分けまで)

PCR検査が終了すると入国審査です。

中国に入国するにあたっては、普通黄色い入国カードに必要情報を記入するのですが、今回はそれに加えて、

  • 隔離期間後、遼寧省を出る予定の有無
  • 北京に行く予定の有無
  • 最終目的地
  • 隔離後の旅程
  • 国内にいる連絡者

などといった事項についても記載することが求められました。税関アプリでも、国内の連絡者の記載が求められましたが、正直言って国内にそのような人は特にいませんので、この辺は適当に書いて済ませました。

入国審査を終えると、消毒のされたスーツケースがずらりと並べられており、そこから自分のものをピックアップし出口へ向かいます。

もっとも、すぐに外に出られるわけではなく、外国人については、別途特設ブースにてパスポートの提示のほか、中国国内の目的地情報等を改めて記入させられることになります。この時にいた外国人はほとんど日本人でしたので、税関の職員も日本語が結構上手でした。

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この手続きが終わった人から順に集中隔離用ホテルに移動させられることになります。

ホテルへの移動は、少人数でのマイクロバスでの移動になります、自分が乗ったマイクロバスには全部で6人の日本人(自分含む)と運転手のみでした。マイクロバスに、スーツケースを持ち込まなければならないというのが面倒ではありましたが、少人数だけに空間に余裕はあり、ソーシャルディスタンスは保たれていました。

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4 大連昱聖苑国際酒店

9月8日14時10分

マイクロバスで約20分強移動し、大連昱聖苑国際酒店に到着。バスから降りた時は午後の暑い時間帯のはずでしたが、涼しい秋風が吹いていて、涼しく感じました。

大連での外国人向けの集中隔離用ホテル現在2件で、自分の宿泊している大連昱聖苑国際酒店大連聖汐湾酒店だそうです。後者は見たところリゾートホテルっぽい感じですね。ちなみに、私と同日で同じホテルに宿泊した外国人は26名とのことでした。

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ロビーには政府指定の隔離用ホテルである旨の張り紙

※以下の内容は、いずれも大連昱聖苑国際酒店に関する情報となりますのでご注意ください。

費用

ホテルに到着するとチェックインすることになり、そこで14日分の宿泊費と隔離期間中の2回の検査(抗体検査とPCR検査)の費用を一括前払いすることになります。自分の宿泊している大連昱聖苑国際酒店は、一応、スイートルームとシングルルームorツインルームが選択できるらしいのですが、生憎当日はツインルームしか空きがないとのこと。

宿泊費は、3食の食費込みで550元/日(約8500円)で(なお、スイートルームは700元/日)、検査費は抗体検査94元PCR検査95元で、合計7,889元を一括前払いしたことになります。

支払いはアリペイ、We Chatペイはもちろん、クレジットカードも使えますので、人民元が足りない方はクレジットカードでの支払いでも大丈夫そうです。

なお、これらの費用を会社精算するにあたっては、領収書(中国語で「発票」)を入手する必要がありますが、宿泊費については、増値税控除のできない普通発票のみ検査費については個人宛の発票しか発行できないということになっているようですので、会社での費用精算をする場合には、事前に経理の方に一言言っておいた方がよいかと思います。

部屋

部屋は、一人で住むには広すぎるくらいの部屋でした。めちゃめちゃ綺麗というわけではありませんが、十分に清潔な部屋でした(但し、14日間一切清掃が入りませんので、その点は考え物です)。

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窓から臨む景色

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WiFiも基本的には問題なく、部屋にこもって仕事をする、家族とWe Chatで通話するなどという面では特に困りませんでした。もっとも、やはり中国、VPNを経由しないとYou TubeAmazon Primeなど見れませんし、VPNを経由しても極端に通信速度が遅くて映画や動画を見るにはイライラします。日本での生活に慣れると、この中国のグレートファイアーウォールは本当に鬱陶しく感じますが、仕方ないですね。

食事

食事は基本的にホテルから配給されるもののみで、大衆点評等の出前アプリを使って出前を頼むことはできません(ただ、We Chatを通じてホテルの責任者に飲み物や食べ物、お酒等を買ってきてもらうことは可能)。

食事は、朝、昼、晩の三食が出て、朝が7時、昼が11時、夜が17時にそれぞれ配給されます。配給されるのはお弁当で、時間になると、部屋の外に置かれた椅子の上にお弁当が置かれています。

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食事は、3食どれもこれもがっつり中華です。

隔離二日目に出た食事はこんな感じ。

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朝食

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昼食

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夕食

続く三日目はこんな感じ。

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朝食

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昼食

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夕食

1日目、2日目くらいまではよかったのですが、3日も過ぎるとさすがに飽きてくる上に、どれもこれも油っぽいので胃がどんどん重くなってきます。なおかつ、基本的に部屋の中にいても一日中座って仕事してるか動画見てるかで、ほとんど動きませんので、3食きっちり食べてると多分、あっという間に太ります。

そのため、中華ウェルカムという方であっても、日本からいらっしゃる際には、何等かインスタント類の食糧を持参して、たまにインスタント類を挟むことをお勧めします。また、お菓子類も基本的に出てきませんし、ホテル経由でしか入手ができませんので、甘いものが嫌いという方以外は、一定程度の量のお菓子を一緒に持ってくることをお勧めします。

また、飲み物については、ホテル到着の翌日にペットボトルの水をどさっと渡される以外は、お弁当にたまについてくるジュース程度しかありません。ただただ水を飲んでるのも飽きるので、麦茶パックやポカリ(粉)等を持ってくるとか、お酒が好きな方はお酒も多少持ってくると良いかもしれません。

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14日分の水

日用品等

到着翌日に、隔離期間中のトイレットペーパーやスリッパ、アメニティがどっさり配給されます。

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が、それ以外には特にありません。

ランドリーサービスもありませんので、隔離期間中の洗濯物は自分でする必要があります。そのため、個包装の洗剤を一定数持参すると良いかと思います。自分は個包装のアタック0を持ってきました。 

また、ずっとホテルのアメニティのシャンプー類を使うのも嫌でしたので、シャンプーやボディソープも持ってこようと思っていましたが、個別に持ってくると重くなるので薬局で見つけたこんなものを持ってきました。最近は色々便利になったものです。 

その他

一応、毎日9時と15時に体温を測って、We Chatでホテルの責任者に報告しなければならないことになっているのですが、そもそも体温計を持っていません。そのため、体温計をよこすようにホテルの責任者に連絡したのですが、全然届きませんでした。

その間、体温測っていないわけですが大丈夫なんですかとWe Chatで聞くと、

「大丈夫、自分的に正常でしょ?」

という、急に雑な感じに。

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こういうなんか雑なところが中国っぽくて好きです。

そして、一応届けられた体温計らしきものがこちら↓

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体温計?

体温計の先端をつまんでも何をしても何の変化も見られず、結果使い方が分からないということで体温を測ることは諦めました…(その後も特に何も言われてませんし)

そんな感じで、厳格さと雑さの入り乱れる中国感を、久々に身をもって体験している状況です。

5 まとめ

そんなこんなで、9月8日から始まった隔離生活は、9月22日の午前9時半まで続くことになります。

まだ折り返しにも到達しておりませんが、今のところ平日は普通に仕事に忙殺されていたり、隙間時間は家族とビデオ通話したり映画を見たりしながら、正気を保ちながらやっております。

今回は、めったに体験できない体験ということで済ませることができそうですが、今後もずっとこの隔離政策が続くとなると、物理的にも気持ち的にも自由な日中間の渡航ができなくなってしまうので、本当に困りますね。一日も早く正常な渡航ができるようになってほしいと思うところです。

(9月26日更新)

中国外交部及び国家移民管理局は、9月23日に、9月28日0時から、中国の商務(工作)、私人事務及び家族訪問の有効な居留許可を有する外国人の入境を許可し、新たな査証申請を不要とすること、居留許可の有効期限が過ぎている場合は、当該居留許可と関連資料により査証を申請できる旨の公告を発表しました(原文はこちら)。

したがって、3月に効力を停止された外国人の居留許可が、その効力を回復したものといえます。他方、効力を停止され、その後期限が過ぎて失効してしまった居留許可についてもビザセンターに資料提出をすればビザを取得できる旨が言及されていますが、具体的な内容については今のところまだ明確にはされていません。

また、中国への渡航に際し、集中隔離を受けなければならないという政策や、中国行きの飛行機に搭乗するにあたってPCR検査陰性証明を取得しなければならないといった政策は引き続き維持されていますので、この点は注意が必要です。

中国民法典の解説その①~契約編総論~

1 はじめに

2020年5月28日、第13期全人代大会第3回会議において、中国民法典が可決、公布され、2021年1月1日より施行されることになりました。

同法典は、従前中国において個別に制定されていた民法総則(民法总则)、物権法(物权法)、担保法(担保法)、契約法(合同法)、不法行為法(侵权责任法)、婚姻法(婚姻法)、相続法(继承法)の7つの民事法を一つの法律として統合、再編したもので、計1260条に渉る超ボリューミーな法律となりました。

上記7つの個別法のうち、民法総則は、それよりも以前に制定されていた民法通則(民法通则)に代わる法律として2017年3月に公布され、同年10月に施行された比較的新しいものであったのに対し、そのほかのものは物権法が2007年10月、担保法が1995年10月、契約法が1999年10月、不法行為法が2010年7月、婚姻法が2001年4月(直近の改正)、相続法が1985年10月にそれぞれ施行されたもので、いずれも既に施行されてから10年程度経過しているにもかかわらず、この間法改正はされておりません。しかし、この10年の間にも実務は次々と新たな変化を見せており、法律の内容が実務運用に追い付いていないという状況が続いていました。

この度、上記の各民事法が民法典として統合され、また、その内容についても最新の改正が加えられたことにより、全体として現在の中国における実務に対応ができるものになったと期待されます。

上記のとおり、民法典は1000条を超える大型の法律であり、これを全て解説、ご紹介することは難しいので、今回の民法典の制定において、修正、変更、追加されたような内容、中国ビジネス上知っておいた方が良いと思われる内容を中心として、複数回にわたって解説、ご紹介していきたいと思います。

初回の今回は、中国ビジネスをするにあたって、一番接点が多いと思われる民法典契約編、その中でも総論に関してです。

2 契約編総論

民法典は全7編で構成されていますが、その中の第三編が「契約」で、その第一分編が「通則」、第二分編が「典型契約」、第三分編が「準契約」となっています。

今回のエントリーでは、このうちの第一分編「通則」におけるポイントを解説していきます。

2-1 一般的規定

2-1-1 通則性の明確化

まず、契約編における規定は、民事関係の契約について適用されますが、従前の契約法上は、婚姻、養子縁組、監護等の身分に関する契約については、その他の法律の規定を適用する、と定めていました(契約法第2条第2項)。

これに対し、民法典においては、上記のような身分に関する契約については原則として身分関係に関する法律を適用するとしつつ、規定がない場合には、民法典契約編の規定を参照することができることを明記しました(民法典第464条第2項)。

これにより、民法典の契約関連規定が、一般民事関係だけでなく、身分法関係においても一定の参照性を持つことが明らかにされたといえます。

2-1-2 契約文言不一致の場合の解釈

契約が二つ以上の言語により作成され、且つ双方が同等の効力を持つと定められている場合に、文言が一致しないものがある場合の解釈について、契約法上は契約の目的をもって解釈すると規定していましたが(契約法第125条第2項)、民法典においては、契約の目的のほか、関連する条項、性質、信義誠実の原則等をもって解釈すると定め、契約解釈にあたっての考慮要素をより詳細にしました(民法典第466条第2項)。これらの考慮要素は、実際の契約解釈実務でも通常考えるべきものといえ、その意味で、契約実務に則した規定になったものといえます。

2-2 契約の成立

2-2-1 契約の形式

書面形式による契約について、契約法は、契約書、書簡及びデータ電文(電報、ファックス、電子データ交換及び電子メールを含む)等、有形的にその記載内容を表示可能な形式をいうと定めていました(契約法第11条)。これに対し民法典は、契約書、書簡、電報、ファックス等、有形的にその記載内容を表示可能な形式をいうとして、データ電文を書面形式からは除外すると同時に、電子データ交換、電子メール等、有形的にその記載内容を表示可能で、且つ、随時収集して使用可能なデータ電文は、書面形式と見なすとしました(民法典第469条)。もともとデータ電文を書面形式ととらえることに多少無理があったことから、データ電文については、書面と同等のものと扱うことを新たに確認し、尚且つ、そのようなデータ電文の要件として更に随時収集して使用可能であることを付け加えました。

2-2-2 申込みの誘引

申し込みの誘引の方法について、契約法は価格表の送付、競売広告、入札募集広告、株式目論見書(招股说明书)、商業広告等を例示していましたが(契約法第15条第1項)、民法典では、これらに加え債券募集要項、ファンド募集説明書、商業用の宣伝もこれに含めました(民法典第473条第1項)。

2-2-3 申込みの取消し

申込みの取り消しについて、契約法は、申込受領者が承諾の通知を発出する前に当該取消の通知が到達しなければならないとしていました(契約法第18条)。これに対し、民法典では、申込取消の意思表示が対話方式でなされた場合、当該意思表示の内容は申込受領者が承諾をする前に知っていなければならず、申込取消の意思表示が非対話方式でなされた場合、当該意思表示は申込受領者が承諾をする前に到達しなければならないとしました(民法典第477条)。

上記の民法典の規定からすると、まず申込取消が意思表示の一つであることが明確にされたといえます。そして、申込取消については、意思表示が対話形式でなされたか非対話形式でなされたかでその方法に違いが設けられ、対話にて取消をする場合には、必ずしも申込取消の通知までする必要はないこととなりました。他方で、申込取消(の通知)は、申込受領者が申し込みの「承諾」をする前に知っている(到達している)ことが必要であり、必ずしも「承諾通知の発出」をする前にしなければならないわけではないことになります。

その意味で、申込みの取り消しをするにも、そのタイミングが契約法に比べて前倒しにされたものといえますが、他方で、承諾をする前に申込取消を知っていた/到達していたことをどのように立証するのか、というのは考えてみるとやや困難があるようにも思われます。

2-2-4 契約の成立時点

契約法上、(申し込みに対する)承諾が効力を生じた時に契約が成立することとされていましたが(契約法第25条)、民法典上は、その例外として、法律に別途の定めがある場合又は当事者に別途の合意がある場合を追加しました(民法典第483条)。実際、契約の効力発生時期については、契約において当事者間が合意によって定めていることが多く、ある意味実務上は当然と考えられる内容ですが、これが法律上明確にされたものといえます。

2-2-5 新たな申込み

申込受領者が承諾期限を超過して発出した承諾について、契約法は、申込者が申込受領者に対して直ちに当該承諾が有効である旨を通知する場合を除き、新たな申込みと見なすとしています(契約法第28条)。他方、民法典については、申込受領者が承諾期限を超過して発出した承諾以外に、承諾期間内に発出した承諾が、通常の状況において直ちに申込者に到達しなかった場合も、新たな申込みと見なすこととしています(民法典第486条)。なお、申込者が申込受領者に対して直ちに当該承諾が有効である旨を通知する場合は除外している点は契約法と同様です。

2-2-6 確認書による契約成立

書簡、データ電文による契約締結をする場合、契約法上、契約成立前に確認書の締結を要求することができ、確認書を締結した時に契約が成立するという規定が置かれていました(契約法第33条)。これに対し民法典では、書簡、データ電文による契約締結をする場合に、当事者が確認書の締結を要求した場合には、確認書の締結をした際に契約が成立する、という内容に改めています(民法典第491条第1項)。内容自体に大きな変更があるわけではありませんが、あくまで当事者が確認書の締結を要求した場合には、確認書の締結により契約が成立する、という論理関係が明確にされたといえます。

これに加え、民法典は、当事者の一方がインターネットなどの情報ネットワークにて発布した商品又はサービスの情報が申込の条件を満たす場合、相手方が当該商品又はサービスを選択し、且つ、発注の提出が成功した場合、当事者間で別途の合意がある場合を除き、その時点で契約が成立することを規定しました(民法典第491条第2項)。この点は、近時EC取引が極めて活発になっている中、インターネット上での取引契約の成立時点に関して明確なルールを置くことを趣旨としたものであり、電子商取引法(电子商务法)第49条第1項の規定を踏襲し、民法レベルでの規範に引き上げたものといえます。

2-2-7 契約成立地点

契約法上、書面による契約締結をする場合には、双方当事者が署名又は押印をした地点が契約成立地点とされていました(契約法第35条)。民法典はこの点を更に詳細化し、最後に署名、押印又は指印を押した場所をもって原則として契約成立地点とする旨規定しました(民法典第493条)。契約法の規定では、各当事者が異なる場所で署名押印をした場合に契約成立地点がどこになるのかが不明であったところ、民法典では、そのような場合でも最後に署名押印等がなされた場所が契約成立地点となることが明確になったといえます。

なお、契約において当事者が合意管轄裁判所を定める場合、契約締結地を管轄する裁判所も管轄裁判所とすることが認められており(民事訴訟法第34条)、この点において、契約締結地を確定する意義があったりします。

2-2-8 国家計画による契約

契約法上、国家が必要に応じて指令的任務又は国家発注任務を命令した場合、関連する法人、その他の組織の間で、関連する法律、行政法規の規定による権利、義務に基づき契約を締結しなければならないとされていました(契約法第38条)。これに対し、民事法は、国家が救急措置、流行病防止又はその他の必要に応じて国家発注任務、指令的任務を命令した場合には、民事主体間で関連する法律、行政法規の規定による権利、義務に基づき契約を締結しなければならないとしました(民法典第494条第1項)。

上記は、今回の新型コロナウイルス流行に伴うマスクや防護服の買い上げなどが想定されていると思われ、将来も類似の流行病が発生した場合や、地震や洪水などといった自然災害が発生したような場合にも、本条に基づいた強制的な契約締結が発動されるものと想定されます。

民法典は、本条の趣旨を徹底する観点から更に、法律、行政法規の定める、申し込みを発出する義務を負う当事者は速やかに合理的な申込みを発出しなければならず、他方、承諾の義務を負う者については相手方の合理的な契約締結の要求を拒絶してはならない旨規定しました(民法典第494条第2項、第3項)。

2-2-9 フォーム約款

契約法上、フォーム約款(当事者が反復して使用するために予め制定し、かつ契約締結時に相手方と協議していない条項)を使用した契約締結について、合理的な方法により相手方に自己の責任を免除又は限定する条項について注意喚起しなければならないほか、相手方の要求に応じて当該条項について説明をしなければならないとされていました(契約法第39条第1項)。これに対し、民法典は自己の責任を免除又は軽減する等、相手方に重大な利害関係を有する条項について、提示をしなければならない、として注意喚起すべき条項の範囲を「相手方に重大な利害関係を有する条項」に拡大する一方、注意喚起ではなく提示をすれば足りるという形でバランスを調整しています(民法典第496条第2項)。

更に、フォーム約款を提供する当事者が、提示又は説明義務を履行しないことにより、相手方が、当該重大な利害関係を有する条項について意識又は理解することができなかった場合、相手方は当該条項が契約内容を構成しない旨主張することができる、という点も規定しました。特に消費者契約における消費者保護が期待されます。

2-3 契約の効力

2-3-1 無権代理による契約

無権代理人が、被代理人の名義で締結した契約で、被代理人が契約の義務を履行した場合又は関連する者の履行を受け入れた場合には、当該契約について追認したものと見なす旨の規定が民法典において新たに追加されました(民法典第503条)。

2-3-2 経営範囲を超えて締結した契約の効力

当事者が経営範囲を超えて締結した契約については、民法典の関連する規定に基づいて確定され、経営範囲を超えたことをもって契約は無効とすることはできない旨の規定が新たに追加されています(民法典505条)。経営範囲を超えた契約の効力をどのように解するかという点はこれまで明確な規定がありませんでした。民法典の規定をもっても、どのような場合に有効/無効と認定されるかという明確なルールが定まっているとはいえませんが、少なくとも、経営範囲を超え、無効であるとして債務を免れることは必ずしもできないことが明確になったといえます。

2-4 契約の履行

2-4-1 目的物の引き渡し時期

インターネット等で締結された電子的契約に基づく目的物の引き渡しで、且つ、クーリエによるものは、受領者がサインして受領した時間をもって引き渡しがなされた時間とすること、また、上記の電子的契約に基づきサービスの提供がなされる場合には電子証憑又は実物の証憑上記載された時間をもってサービス提供時間とし、もしもこれらに記載がない場合又は記載と実際のサービス提供時間とに齟齬がある場合には実際のサービス提供時間を基準とすることが明記されました(民法典第512条第1項)。もっとも、これは原則であり、当事者間で別途の合意がある場合には、それにしたがうことになります(同第3項)。

本規定は、民法典において電子的契約に関する関連規定を整備、拡充されたことに付随して追加された規定といえ、この内容は、電子商取引法第51条の規定を踏襲しています。

2-4-2 金銭債務

金銭の支払いが債務となっている場合の貨幣については、別途法律又は当事者の合意がない限りは、債務者の実際の履行地の法定貨幣をもって請求することができるとされています(民法典第514条)。この規定は、主としてクロスボーダーでの取引契約に関して想定したものと理解されます。

2-4-3 連帯債権、連帯債務等に関する規定

民法典では、新たに連帯債権、連帯債務を含め、債権者/債務者が複数の場合の法律関係に関する規定を定めました。

まず、債権者が複数いる場合で、債権が可分な場合、債権者は割合に応じて債権を保有すること、他方、債務者が複数いる場合で債務が可分な場合、債務者は割合に応じて債務を負担すること、そしてこれらの割合を確定することが困難な場合は同等の割合に応じて債権を保有/債務を負担することが明記されました(民法典第517条)。

これを前提としたうえで、全部又は一部の債権者のいずれもが債務者に対して債務の履行を請求することができるものを連帯債権、債権者が全部又は一部の債務者に対して全部の債務の履行を請求することができるものを連帯債務と定義しました(民法典第518条第1項)。

連帯債権について、債権者間の債権割合を確定させることが困難な場合には、連帯債権者間では同等の割合に基づいて債権を有し、実際に債務の履行を受けた債権者は、債権割合に応じて他の債権者に対して履行を受けた債務を返還するべきこととされています(民法典第521条)。

他方、連帯債務について、債務者間の負担割合を確定させることが困難な場合には、負担割合は同等とすることとされ、負担割合を超えて債務を履行した債務者の一部は、当該超過部分について他の債務者に対して求償でき、また、相応する債権者の権利を享受することが明記されました(民法典第519条第1項、第2項)。もし、求償請求を受けた債務者が当該部分を履行することができない場合には、他の債務者が負担割合に応じてこれに応じることとされています(民法典第519条第3項)。

連帯債権、連帯債務について、概念自体は従前からあったものの、負担割合や求償に関して明確なルールが置かれたといえます。

2-4-4 事情変更による契約変更

契約が成立した後、契約の基本となる条件に、当事者が契約締結当時予見することができなかった、商業リスク以外の重大な変化が生じた場合で、継続して契約を履行することが当事者の一方にとって明らかに不公平な場合、不利な影響を受ける当事者は、相手方との間で改めて協議をすることができ、合理的な期間内に協議が成立しない場合には、当事者は裁判所又は仲裁機関に対し、契約の変更又は解除を求めることができることが新たに規定されました(民法典第533条第1項)。

日本でいえば、いわゆる事情変更の法理に相当するものが法文化されたものといえます。上記規定の要件は抽象的なものであり、その適用対象は明確とはいえませんが、少なくとも事情変更による契約変更を要求する権利が認められたという点は、重要な意義を有しているといえます。

2-5 契約の保全

2-5-1 債権者代位権

契約法においては、債権者代位権行使の要件として、①債務者の債権の期限が到来していること、②債権を行使しないことにより、(債務者の)債権者に損害を与えること、③裁判所に対して請求をすること、が必要とされていました(契約法第73条第1項)。他方で、民法典では債権者代位権につき、「債務者がその債権又は当該債権の従たる権利の行使を怠り、債権者の既に期限の到来している債権の実現に影響する場合、債権者は裁判所に対して自己の名義で債務者の、関連する者に対する権利を行使することができる」として、債務者の債権の期限が到来していることは要求しておらず、他方で、債権者の既に期限が到来している債権の実現に影響を与えることを要件としています。また、債権者代位権行使の対象として、債務者の主たる債権のほか、従たる権利も含むことが明らかにされました(民法典第535条第1項)。その上で、関連する者は、債務者に対して有する抗弁を債権者に対して主張することができるという規定が新たに追記されました(同第3項)。

また、債権者の債権の期限が到来する前の時点において、債務者の債権又は当該債権の従たる権利の時効が間もなく満了するか、破産債権の速やかな届出がなされていない等の状況があり、債権者の債権の実現に影響する場合、債権者は関連する者に対し、債務者に履行するよう請求し、又は破産管財人に対して届出その他の必要な行為をすることができるとされています(同第4項)。この規定は、債権者の債権に係る期限が到来していることという債権者代位権行使の原則的要件の例外を認めたものといえます。

2-5-2 債権者取消権

契約法においては、債権者取消権について「債務者が自己の期限が到来した債権を放棄し、又は財産を無償で譲渡したことにより債権者に損害を与えた場合、債権者は、裁判所に対し、債務者の行為の取り消しを請求することができる。債務者が明らかに不合理な低価格で財産を譲渡し、債権者に損害を与え、且つ譲受人が当該状況を知っている場合も、債権者は人民法院に対し、債務者の行為の取り消しを請求することができる」として、詐害行為取消の対象となる行為について、①債権の放棄、②財産の無償譲渡、③明らかに不合理な低価格での財産譲渡の3つに限定し、また、③についてのみ債務者の相手方の悪意を要件としていました(契約法第74条第1項)。

これに対し民法典では、債権者取消権について、その類型を①「債権の放棄、債権担保の放棄、財産の無償譲渡等の方法で財産権益を無償で譲渡し、又は悪意で既に期限の到来している債権の期限を延長し、債権者の債権の実現に影響する」ものと、②「明らかに不合理な低価格で財産を譲渡し、明らかに不合理な価格で財産を譲り受け、又は他人の債務のために担保を提供する」もの、の大きく2種類に分類しています(民法典第538条、第539条)。いずれも、契約法に定める3つの詐害行為の類型を拡充、敷衍化しているものと考えられます。

②の類型については、債務者の相手方が詐害行為の事実について知り、又は知り得る場合に詐害行為取消の対象となっており、契約法に比べると、詐害行為の事実を「知り得る」場合にも取消の対象とされ、詐害行為取消の対象が拡大されたものといえます。

2-6 契約の変更、譲渡

2-6-1 譲渡禁止特約

契約法上、譲渡禁止特約に関する規定は特に置かれていません。これに対し、民法典ではこれに関する規定を置いています。具体的には、非金銭債権に係る譲渡禁止特約は善意の第三者に対抗することができないこと、金銭債権に係る譲渡禁止特約は第三者に対抗することができない、とされました(民法典第545条第2項)。

2-6-2 債権譲渡と相殺

債権譲渡がなされた場合の相殺の抗弁について、契約法上においては、債務者が債権譲渡の通知を受けた時に、債務者が譲渡人に対して有していた債権で、且つ債務者の債権に係る弁済期が、譲渡された債権よりも先に、又は同時に到来する場合には、債務者は相殺を主張することができることが規定されています(契約法第83条)。民法典は、これに加えて、債務者の債権と譲渡された債権が同一の契約に基づいて生じたものである場合も、相殺の主張をすることができるものとしました(民法典第549条第2号)。

2-6-3 併存的債務引受

契約法においては、日本の民法でいう免責的債務引受、又は併存的債務引受という明確な区分は法律の規定上は特にされていない。民法典も特にこのような呼称を定めているわけではないが、いわゆる併存的債務引受に相当する規定が置かれました。

すなわち、第三者が債務者との間で債務に加入することを合意し、且つ債権者に通知した場合、又は第三者が債権者に対して債務に加入することを表示し、債権者が合理的な期間内において明確に拒絶しない限り、債権者は当該第三者が負担することに同意した範囲内において債務者と連帯債務を負うよう請求することができるとされています(民法典第552条)。 

なお、免責的債務引受に相当する内容の規定は特に置かれていません。

2-6-4 継続的取引における解除権

民法典においては、契約の法定解除事由として、新たに継続的取引に係る解除権に関する規定を定めました。すなわち、継続的な債務を内容とする不定期契約については、当事者はいつでも解除をすることができるものの、合理的な期間をもって相手方に事前に通知しなければならないものとされました(民法典第563条第2項)。

2-6-5 解除権の消滅時効

契約法上、契約の解除権の行使期間は法律の定め又は契約の定めによるというのが原則であり、当該期間内に解除権が行使されなかった場合には、解除権は消滅することとなります(契約法第95条第1項)。他方、法律、又は契約で解除権の期限について定めがなかった場合には、相手方が催告後合理的な期間内に解除権を行使しなかった場合には、消滅するとされています(同第2項)。

これに対し、民法典では、法律、契約で解除権の期限について定めがなかった場合について、解除権者が解除事由の存在を知り又は知り得た日から1年内に解除権を行使しなかった場合にも解除権は消滅する旨を新たに追加しました(民法典第564条第2項)。

2-6-6 解除の効力の発生時期

解除権を行使した場合に解除の効力が発生する時点について、契約法は原則として解除の通知が相手方に到達したとき、としています(契約法第96条第1項)。この点について、民法典はこれに加えて、通知において債務者が一定の期間内に債務を履行しなかった場合には自動的に解除される旨記載されており、債務者が当該期間内に債務を履行しなかった場合には、通知に記載された当該期間が満了した時点で解除の効力が生じる旨の規定を新たに追加しました(民法典第565条第1項)。

更に、当事者の一方が相手方に対して通知をせず、直接訴訟、仲裁を申し立てて契約の解除を主張し、裁判所や仲裁機関が解除に理由があると認める場合には、訴状又は仲裁申立書の副本が相手方に到達した時をもって解除の効力が生じる旨も追加しました(民法典第565条第2項)。

2-6-7 損害額の予定

契約法上、当事者は契約において違約金の約定又は手付金(中国語は「定金」)の合意をした場合、違約を受けた当事者は違約金又は手付金のいずれかを選択して損害賠償を請求することができるとされています(契約法第116条)。

これに対し、民法典は、上記の規定に加え、手付金が違約によって被った損害の回復に足りない場合には、手付金を超える部分についても損害賠償請求をすることができる旨を新たに追加しました(民法典第588条第2項)。手付金については、契約における主契約の目的金額の20%を超えてはならず、超過した部分については手付金は効力を生じないとされていることもあり、手付金だけでは損害の回復に足りないことが想定されます。今回の新規定は、そのような手付の損害回復機能を強化するものであると理解できます。

 

 

データセキュリティ法(草案)について

2020年7月3日付けで、全人代常務委員会は、データセキュリティ法(草案)(数据安全法(草案)、以下「本草」)が公布され、パブリックコメントの募集が開始されています。

ネットワーク、データのセキュリティに関しては、先に施行されたサイバーセキュリティ法(网络安全法)でも一部規定が置かれていますが、データセキュリティ法はその名のとおり、データセキュリティに関する責任主体、データセキュリティ保護義務等についてその大枠を制定することを予定したものとなっています。本法は、サイバーセキュリティ法及び、今後制定されることが予想される個人情報保護法と共に、今後の中国におけるデータ保護の基礎となる法律となることが期待されています。

今回は本草案の概要について解説、紹介します。

1 適用対象、域外適用、データ活動監督管理に関する大枠

1-1 適用範囲

 本草案は、中国国内におけるデータ活動に対して適用があることを明確にしていることに加え、中国国外における組織、個人がデータ活動を行い、中国の国家安全、公共利益、個人、組織の権利を侵害した場合には、法に基づき責任を追及することを認めています(本草案第2条)。この意味において、部分的に法律の域外適用も定めているといえます。

 「中国国外における組織、個人がデータ活動を行い、中国の国家安全、公共利益、個人、組織の権利を侵害した場合」という要件が比較的抽象的な要件となっていますので、域外適用のなされる範囲が不明確となる恐れがあると思われます。

1-2 適用対象行為

上記のとおり、本草案はデータ活動に対して適用されますが、データ活動については、「データの収集、保存、加工、使用、提供、取引、公開等の行為」と定義されています(本草案第3条第2項)。

この点、来年より施行される民法典において、個人情報の処理行為につき、「個人情報の収集、保存、使用、加工、移転、提供、公開をすること」と定義しており(民法典第1035条第2項)、概ね一致した内容となっております。いずれについてもデータのライフサイクル全般に対する処理活動をカバーした内容になっていると理解されます。

1-3 データセキュリティ

1-3-1 データセキュリティの意義

本草案は、「データセキュリティ」の具体的な要求を定めており、必要な措置をとり、データが有効な保護と適用な利用の保障を受け、且つ、セキュリティ状態を維持する能力、と定義しています(本草案第3条第3項)。

現状、「GB/T 22239-2019 情報安全技術 ネットワークセキュリティ等級保護基本要求」(GB/T 22239-2019 信息安全技术 网络安全等级保护基本要求)において、「ネットワークセキュリティ」(网络安全)について、「必要な措置をとり、ネットワークへの攻撃、進入、干渉、破壊、不法使用及び事故を防止し、ネットワークを安定した、信頼可能な運営状態とし、ネットワークデータの完全性、秘密性、使用可能性を保障する能力」と定義していますが、上記本草案におけるデータセキュリティの定義は、これを敷衍した、法律レベルにおける定義といえそうです。

1-3-2 データセキュリティの管理監督に関する枠組み

本草案によれば、国家網信部がネットワークデータセキュリティ安全管理措置業務のとりまとめを行い、電信・金融・教育等各業界主管部門が当該業界のデータセキュリティ管理監督に対して責任を負い、公安機関・国家安全機関はそれぞれの職責の範囲内においてデータセキュリティ管理監督業務を行うこととされています。また、各地区、各部門は、当該地区・部門における業務上発生するデータ及びデータセキュリティに対して責任を負うことも明記されています(以上、本草案第7条)。

ただ、本草案の規定によると、業界や地域に応じて、データセキュリティ管理監督にバラつきが生じることも懸念されることから、全国の統一的な管理監督基準を設けるべきであるという意見も見られています。

2 データセキュリティとその利用 

2-1 データセキュリティとデータ利用

本草案上、国家はデータセキュリティとデータ開発利用の促進を併存的な理念として謳っており、また、国家のビッグデータ戦略の実施、データ基礎施設の建設、データの各業界、領域におけるイノベーティブな利用の推進、デジタル経済の促進も、本法の目的として位置付けています(本草案第12条、第13条、第14条)。

データセキュリティと、データを利用した国家レベルでの産業発展を如何にして実現するかという点が大きな課題であり、データセキュリティ法の一つの目標といえるかと思われます。  

2-2 基準化体系の建設

本草案では、国務院の基準化行政主管部門と関連部門が、データ開発利用技術、製品、及びデータセキュリティ関連の基準の制定、改訂を組織することが明記されています(本草案第15条)。

この点、国家基準化委員会が公布している「2020全国基準化業務要点」(2020全国标准化工作要点)においては、ブロックチェーン、IOT、新型クラウドビッグデータ、5G、新世代AI、新型スマートシティ、地理情報等の重点領域について基準体系を建設することが打ち出されており(同要点第55項)、データセキュリティ法の施行も合わせて、今後これらの先端技術に係る国家基準が制定されていくことが予想されます。

2-3 評価、認証等サービスの発展

本草案では、国家はデータセキュリティの評価、認証等サービスの発展の促進、専門機関による活動を奨励することが表明されています(本草案第16条)。

「ネットワーク重要設備とネットワーク安全専用製品安全認証実施細則」(网络关键设备和网络安全专用产品安全认证实施规则)、「モバイルネットワークアプリケーションセキュリティ認証実施細則」(移动互联网应用程序安全认证实施细则)といった現行の認証基準を前提として、データセキュリティの評価、認証を、ネットワークセキュリティとデータ保護評価体系の構成部分とすることが謳われているものと理解されます。

3 データセキュリティ保障制度の設計 

本草案第三章においては、データセキュリティ保障制度の設計(データ分類、等級保護、重要データ保護リスト、データセキュリティリスクアラートシステム、データセキュリティインシデント処理システム、データ活動関連の国家安全審査に係る仕組み等)を中心とした規定が定められています。

3-1 データ分類・等級分類及び重要データ管理

データ分類・等級分類は、データセキュリティ管理業務の基礎となりますが、現行法上は法律上も部門規章等の行政法規上も、データの分類、等級分類に関する具体的な基準は定められていません。

本草案では、データが経済社会の発展において果たす重要度、一旦改ざん、破壊、漏洩、不法取得、不法利用された場合に、国家の安全、公共の利益等に与える危険の程度に応じて、データの分類、等級分類をすることを明確にしています(本草案第19条第1項)。そして、これを前提として、各地区、各部門が、当該地区、部門における重要データの保護リストを作成し、リスト掲載のデータについて重点的に保護すべきものとされています(本草案第19条第2項)。

近年では「工業データ分類・等級分類ガイドライン(試行)」(工业数据分类分级指南(试行))、「個人金融情報保護技術規範」(个人金融信息保护技术规范)といった各部門での指導性規範、業界基準が定められており、特定の分野においては、データ分類・等級分類に関する具体的な基準制定が試みられていますが、今後、法律、行政法規レベルでもデータ分類・等級分類に関するルールが制定されることが期待されます。

なお、サイバーセキュリティ法が施行されて以降、「重要データ」の範囲をどのように理解するかは法令上も明らかとされておらず、曖昧なままとなっています。

本草案上も「重要データ」の概念を使用しているものの、その範囲については特段定めておらず、重要データの範囲を明確にすることが待たれます。

3-2 データセキュリティリスクアラートシステム及びインシデント処理システム

サイバーセキュリティ法及び一部の関連法規、国家基準においては、サイバーセキュリティのモニタリング・アラートシステム、サイバーセキュリティのインシデント対応システム及びサイバーセキュリティ事故報告システム等について定めています。

これに対し本草案では、国家が集中的・統一的なデータセキュリティリスク評価、報告、情報共有、モニタリングアラートシステムを建設し、データセキュリティリスク情報の取得、分析、研究、アラート業務を強化すること、そして、インシデント処理システムを建設することが明記され(本草案第20条、第21条)、今後データセキュリティの方面における下位法令、国家基準が制定されていくものと思われます。

3-3 データ活動の国家安全審査システム

本草案上、国家は、国家の安全に影響する又は影響する恐れのあるデータ活動に対して、国家安全上の審査を行うことを定めています(本草案第22条)。

本草案では、上記の国家安全審査システムについてはこれ以上の内容は定められておらず、審査の対象となるデータ活動の範囲はかなり抽象的なままとなっています。 そのため、例えばデータの越境移転のような場面に限って適用するなど、その適用範囲が具体化されることが必要であると思われます。

3-4 データ活動の保護義務

本草案では、データ活動におけるセキュリティ保護義務について、以下のような具体的な内容を定めています。

  • 健全な全過程におけるデータセキュリティ管理制度の建設、データセキュリティ教育の展開、相応の技術措置及びその他の必要措置を講じることによるデータセキュリティの保障(本草案第25条)
  • リスク検測の強化、速やかな救済措置、データセキュリティ事件発生時のユーザーに対する速やかな告知及び主管部門への 報告(本草案第27条)
  • 適法、正当な方法によるデータ収集、法令の定める目的、範囲内におけるデータ収集(本草案第29条)

これらの保護要求は、サイバーセキュリティ法におけるネットワーク運営者の負うサイバーセキュリティ及び個人情報保護安全義務の範囲を超えるものではなく、また、民法典における個人情報の処理に係る要求と一致したものといえます。 

4 データモニタリングに関する制度

4-1 重要データ保護システム

上記のとおり、本草案上も「重要データ」の意義については、明確にされていませんが、その中で重要データに関して以下のような管理、保護システムについて規定をしています。

  • 重要データの処理者は、データセキュリティ責任者及び管理機関を設立すること(本草案第25条第2項)
  • 重要データの処理者は、そのデータ活動に対して定期的なリスク評価を行い、関連主管部門にリスク評価報告(当該組織の掌握している重要データの種類、数量、データの収集・保存・加工・使用の状況、直面しているデータセキュリティリスク及びその対応措置等を含む)を提出すること(本草案第28条)
  • 国際義務の履行、国家安全に関連する管制事項に関するデータについては、輸出管理をすること(本草案第23条)

重要データのリスク評価及びその報告や輸出管理規制の具体的内容等も共に、今後これらを明確にする立法が待たれるところです。 

4-2 データ取引及びオンラインデータ処理管理システム

本草案においては、国家は健全なデータ取引管理制度を建設し、データ取引行為を規範し、データ取引市場を養成することを定めています(本草案第17条)。

この点2020年3月に施行された「より健全な要素市場化配置システム、制度構築に関する意見」(构建更加完善的要素市场化配置体制机制的意见)においては、「データ」を新たな生産要素、デジタル経済発展における重要な要素として位置付けています(同意見(20)~(22))。

また、民法典においても、データ、ネットワークバーチャル財産を財物として保護することを明確にされています(民法典第127条)。

本草案は、このような近時におけるデータの価値、市場性を踏まえ、今後のデータ取引市場の構築、管理制度について国家がこれを建設していくことを表明したものといえます。

4-3 データの越境移転に対する管理監督

データの越境移転は、中国国内の企業の海外戦略に直接的な影響を与えるものであり、サイバーセキュリティ法が施行されて以降、データの越境移転に関する法制度化は実務上も非常に注目されているところです。本草案においては、データの越境移転については、以下のような関連規定を置いています。

 

  • 国家は積極的にデータ領域の国際交流と提携を展開し、データセキュリティに関連する国際規則と基準の制定に参与し、データの越境セキュリティ、自由な流動を促す(本草案第10条)
  • 如何なる国家又は地区の、データ及びデータ開発利用技術等に関する投資、貿易における中国への禁止的な禁止、制限又は類似的措置について、中国は実際の状況に基づいて、当該国家又は地区に対して相応の措置を講じることができる(本草案第23条)
  • 国外の法執行機関が、中国国内に保存されたデータの取得を要求する場合、関連する組織、個人は、関連する主管部門に報告し、認可を得た上でなければ提供してはならない。中国が締結又は参加している国際条約、協定が国外の法執行機関によるデータ取得について関連する規定を定めている場合には、それに従う(本草案第33条)

上記のほか、前述のとおり本草案上国際義務の履行、国家安全に関連する管制事項に関するデータについては、輸出管理をすることとされています(本草案第23条)。中国においては、「輸出管理法」(出口管制法)の制定が進められているところ、当該本草案の規定は、データ活動についても輸出管理関連法令が適用されることを明らかにしたものといえます。

また、国外の法執行機関によるデータ開示要求への開示対応に関する規定(本草案第33条)は、2018年にアメリカで施行された"Cloud Act"(Clarifying Lawful Overseas Use of. Data Act)に対して、中国の国家安全及びデータに対する主権を維持するための対抗的な規定であると理解されます。

 もっとも、いずれにせよ、本草案のレベルにおいては、いずれの規定もあくまで大綱を定めたのみで、制度の詳細等は、今後の行政法規、部門規章等の下位法令の制定に委ねられているといえ、今後もデータセキュリティ法関連の立法には注目する必要があるといえます。 

香港特別行政区国家安全維持法(草案)について

1 はじめに

2020年5月28日に第13期全人代第3回会議において、「健全な香港特別行政区の国家安全維持に関する法制度と執行システムの制定に関する決定」(全国人民代表大会关于建立健全香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制的决定)(以下「本決定」)が決議され、同日付けで公布、施行されました。本決定においては、全人代常務委委員会に対し、健全な香港の国家の安全を維持する法制度と執行システムの制定に関する法律の制定を授権し、全人代常務委員会はこれに基づいて立法権を行使することが規定されており(本決定第6条)、本決定の施行後、全人代常務委員会による香港国家安全関連法案の制定がなされることが予期されていました。 

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そして今般2020年6月17日、全人代常務委員会委員長は、全人代常務委員会法制工作委員会における法案制定状況に鑑み、これを全人代常務委員会にて審議するのに熟したものとして、「香港特別行政区国家安全維持法(草案)」(中华人民共和国香港特别行政区维护国家安全法(草案))(以下「本草」)が全人代常務委員会での審議にかけられました。

本草案の具体的な条文については、その内容を確認することができませんが、報道によれば、全6章(①総則、②香港国家安全維持に関する職責と機関、③犯罪と処罰、④案件管轄、⑤法適用とプロセス、⑥中央人民政府の駐香港国家安全維持機関、⑦附則)、全66か条で構成されているとのことです。

以下では、全人代のウェブサイトから把握することができる本草案の概要を以下のとおりご紹介します。

2 本草案の概要

全人代のウェブサイトによれば、本草案については、大きく6つのポイントから整理されています。以下では、その6つのポイントにしたがって、本草案の概要をご紹介します。

2-1 中央人民政府の国家安全事務に関する根本責任の明確化と香港の国家安全維持憲制責任

  1. 中央人民政府は香港国家安全事務に対して根本的な責任を負っており、香港は国家安全維持の憲制上の責任を負い、国家安全維持に関する職責を履行しなければならない。香港の行政機関、立法機関、司法機関は関連する法令の規定に基づき、国家の安全を害する行為(以下「国家安全危害行為」)、活動を有効に防止、制止、処罰しなければならない*1
  2. 国家主権の維持、統一、領土保全は、香港人を含む中国国民の共同の義務である。香港における如何なる機関、組織、個人も、本法及び香港の国家安全維持に関するその他の法律を遵守しなければならず、国家の安全を害する活動に従事してはならない。香港居民が公職に立候補又は就任するにあたっては、香港基本法を擁護する旨を確認又は宣誓する文書に署名しなければならず、香港に忠誠を尽くさなければならない。
  3. 香港は香港基本法の規定する国家安全維持立法を早期に完成させ、関連法を整備するものとする。
  4. 香港の法執行機関、司法機関は本法、香港の現行法における国家安全危害行為の防止、制止、処罰に関する規定を遵守し、国家の安全を有効に維持するものとする。
  5. 香港は国家安全維持とテロ活動防止業務を強化するものとする。学校、社会団体等、国家安全事項に及ぶ事項について、香港は必要な措置を講じるものとし、監督管理を強化するものとする。

2-2 香港の国家安全維持における重要法治原則の規格の明確化

  1. 香港の国家安全維持においては、人権を尊重、保障し、香港居民は香港基本法、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」に基づき、香港に適用される関連規定に基づき保持する、言論、新聞、出版の自由、結社、集会、旅行、示威行為の自由を含む権利と自由を保護するものとする。
  2. 国家の安全に危害を加える犯罪の防止、制止、処罰においては、法治原則を堅持するものとする。法律が犯罪行為と規定するものは、法定の罪によって処罰する;法律が犯罪行為と規定していないものは、罪として処罰してはならない。如何なる者も司法機関が有罪と判断するまでは推定無罪とする。犯罪被疑者、被告人、その他訴訟参加者は、法により弁護権その他訴訟上の権利を有する。司法プロセスにより有罪又は無罪が最終確定した如何なる者も、同一の行為について再び審理又は処罰されない。

2-3 健全な国家安全の建設に関する機関及びその職責の建設

  1. 香港は国家安全維持委員会を設立する。当該委員会は香港の国家安全維持に関する事務に対して責任を負い、国家安全の主要な責任を負い、且つ中央人民政府の監督と問責を受ける。
  2. 香港国家安全維持委員会は、行政長官が主席を務め、政務司司長、財政司司長、律政司司長、保安局局長、警務処所長、警務国家安全維持部門責任者、入管事務処処長、税関長官、行政長官弁公室主任を含むメンバーによって構成される。香港国家安全維持委員会には、秘書処を設置し、秘書長がこれを引導する。秘書長は、行政長官により指名され、中央人民政府による任命を受ける。
  3. 香港国家安全維持委員会の職責は、香港国家安全形勢の分析、研究判断を行い、香港国家安全維持政策を制定すること;香港国家安全維持に関する法制度と執行メカニズムの建設を推進すること;香港国家安全維持の重点業務と重大な行動に協力をすること。
  4. 香港国家安全維持委員会は国家安全事務顧問を設立し、中央人民政府がこれを任命する。香港の国家安全委員会の職責履行に関する事務に対して意見を提供する。
  5. 香港警務処(警察)は、国家安全維持部門を設置し、法執行の力量を配備する。
  6. 香港律政司は、専門の国家安全犯罪事案の監督部門を設置し、国家の安全に危害を加える犯罪の監督業務、その他関連する法律事務に対して責任を負う*2

2-4 国家安全を害する犯罪(4類型)の明確化

本草案の第三章は、全部で6節に分かれ、以下の4つの犯罪行為に関する構成要件とその刑事責任、その他処罰規定及び効力の範囲について明確化した(以下()内は中文名)。

  1. 国家分裂罪(分裂国家罪)
  2. 国家政権転覆罪(颠覆国家政权罪)
  3. テロ活動罪(恐怖活动罪)
  4. 外国又は国外勢力と結託して国家の安全に危害を加える罪(勾结外国或者境外势力危害国家安全罪)

2-5 案件管轄、法適用及びプロセスの明確化

  1. 特定の状況がある場合を除き、香港特別行政区が本法の規定する犯罪行為に対して管轄権を行使する。
  2. 香港は、国家の安全に危害を加える犯罪に対する立案、捜査、起訴、審判、刑罰の執行等訴訟手続について管轄を有し、本法と香港現地の法律を適用する。香港の管轄する、国家の安全に危害を加える犯罪は、公訴手続に従うものとする。
  3. 香港警務処国家安全部門が、国家安全危害犯罪事案を処理する場合、香港における現行法が、警察等の法執行部門が重大犯罪の捜査をするにあたって認めている各種措置及び本法の規定する、関連する職権及び措置を講ずることができる。
  4. 香港特別行政区長官は、現職の又は資格を満たす前職の裁判官、区域法院裁判官、高等裁判所原訟法廷裁判官*3、上訴法廷裁判官*4及び終審法院裁判官から若干名の裁判官を指定し、又は暫定委任裁判官(中国語は「暂委法官」)*5、若しくは特別委任裁判官(中国語は「特委法官」)*6から指定し、国家安全危害犯罪事案を処理させることができる。

2-6 中央人民政府の駐香港国家安全維持機関の明確化

  1. 中央人民政府は香港において国家安全公署を設置し、中央人民政府駐香港国家安全維持公署(中国語は「驻港国家安全公署」)は法に基づいて国家安全維持の職責を履行し、関連する権力を行使する。
  2. 駐香港国家安全公署の職責は、①香港国家安全維持形勢の分析、研究判断をし、国家安全維持に関する重大な戦略と重大な政策について意見と提案を提出すること、②香港が国家安全維持の職責を履行することにつき監督、指導、協力、サポートをすること、③国家安全情報の収集分析、④国家の安全を害する犯罪事案の処理とする。
  3. 駐香港国家安全公署は、法に基づいて厳格に職責を履行し、法に基づき監督を受け、如何なる個人、組織の合法的権益を害してはならない。中香港国家安全公署の人員は全国性の法律を遵守しなければならないほか、香港の法律も遵守しなければならない。
  4. 駐香港国家安全公署は、香港国家安全委員会と協力メカニズムを構築し、香港国家安全維持業務の監督、指導を行うものとする。駐香港国家安全公署の業務部門と香港国家安全維持の法執行機関、司法機関は協力メカニズムを構築し、情報共有と行動上の協力を強化する。

上記のほか、本草案においては、駐香港国家安全公署及び国家の関連機関が、特定の状況下における案件管轄とプロセスについて明確な規定が定められていると報道されています。今の時点では、どのような事案に対してそのような権限が行使可能とされているのかは明らかではありませんが、特定の状況下は、極めて限定された国家安全危害犯罪行為にとどまり、中央政府の全面的な管治権の重要な体現が香港における国家安全法執行業務、司法業務に有利となり、香港基本法第18条第4項に定める緊急事態が出現すること又は出現させられるのを避けるのに有利となるような場面に限られると説明されています。

以上、非常に簡潔ですが、本草案の骨子について既存の報道に基づいてご紹介しました。近日中に全人代常務委員会にて可決され、法案が確定するとも言われておりますので、また動向があり次第折を見てご紹介していきたいと思います。

 

*1:憲制とは、中国の特別行政区において、中国憲法基本法の定める特別行政区の制度のことをいい、憲制上の責任とは、憲制における主体が憲法と法律の定める責任を履行し、憲制において確立した政治関係上の秩序を維持し、憲制秩序を破壊する行為を防止、制止、是正することをいうとされています。

*2:律政司とは、政府その他の政策局、部門に対する法律意見を提供、法律プロセスの中における政府の代表、政府条例草案の制定、起訴の決定、法治のプロモーション等を担う、行政政府の法律事務を司る機関をいいます。

*3:高等裁判所原訟法廷(高等法院原讼法庭)は、香港高等裁判所を構成する法廷の一部で、高等裁判所を第一審とする事件を審理する法廷を指します。

*4:上訴法廷(上诉法庭)とは、香港高等裁判所の法廷のうち、上訴事件を取り扱う法廷を指します。

*5:暫定委任裁判官とは、高等裁判所原訟法廷又は区域裁判所の裁判官に空席が生じてしまった場合に、暫定的に任命される裁判官のことをいいます。

*6:特別委任裁判官とは、弁護士資格を持つ者又は法律業務の経験が豊富な者から選出することができ、一般的な案件を専門的に処理する裁判官のことをいいます。